小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ビビの課題”



〜Side タクミ〜



ゴーイング・メリー号は現在”ジャヤ”という島の西海岸に停泊中。最近は半分ほどのスペースがウソップ工場と化した男部屋で、俺はハンティングに使う道具の手入れ中だ。

この島にいるクリケットってオヤジが空島に行く為の重要人物だってことは覚えていたんだが、クリケットが島の何処に済んでるのかは知識になかったので、ルフィ、ゾロ、ナミ、サンジが情報収集に行っている。

まぁ、知識になかったっていうか、忘れてるんだろうな。ジャヤに行かなければならないって事も、ロビンがマシラから奪った”永久指針(エターナルポース)”を出すまで思い出せなかったし。

いよいよ危機感を感じた俺は、前々から計画していた”原作知識書き残し計画”を発動させたのだが、大筋を覚えてはいるものの、大事な部分に例の靄がかかっている気がした。

これまでの経験から推理すると、この世界での俺の過去を思い出すたびに靄が増えていってるようなのだが、どういう理屈でそうなっているのかはサッパリわからない。

ただ、兄貴に遭遇するのが危険だという事はハッキリしてるので、シャボンディ諸島では十分に注意を払うつもりだ。

現状の”靄”って現象は、直前になったら思い出せたり、何かのきっかけで思い出すこともあるみたいなんだが、完全に過去の知識を取り戻したりなんかしたら、今度は”消失”しかねないからな。

……あまり兄貴の事は考えないようにしないと。アレは個性が強烈すぎて、考えてるだけでイロイロ思い出してしまいそうだ。

俺は心を無にして銛を研ぐ、道具の手入れは大切だ。


「タクミーー!!! ビビがまた暴走したぞ!!!」


……はぁ、俺に安息は無いのか? コレで三回目だ。この船には現在、俺、ウソップ、ビビ、チョッパーの4人しかいない。ビビとチョッパーは修行の為、俺は船番、ウソップは兵器開発の為だ。

ちなみにロビンは『あの子たちだけじゃ不安だから、別行動で私も情報を集めてくるわ』ってわけでカルーを連れて行ってしまった。


「……いま行くよ」

「お前も大変だな……頑張れよ」


ウソップの哀れむような視線を受けながら、俺は重たい腰を上げ、ビビの下へ向かった。自然系の制御方法なんか俺は知らないので、ビビにも「生命帰還」をベースに教えているのだが、自然系というだけあってか、自然への同調はすぐにモノにしてしまった。

一度目こそ身体中から水が溢れる異常事態が発生したものの、それ以降は雨人間と通常時の切り替えはスムーズに出来るようになった。


「タクミさん!! 止まらないの!! 溢れちゃう!!」

「は〜い、大丈夫だよ〜痛くないからねぇ」


「あっ!!……あはぁ〜……」


…………誤解しないで欲しいのだが、ただ十手で腰の辺りを軽く突いただけだ。ビビがこんな反応するもんだから、サンジは身が持たないって事で、ルフィ達について行ったんだけどな。ちなみに今後一切、サンジはビビの修行中には近づかないと誓っていた。


「で? 今回は何処で失敗したんだ?」

「元の状態で水鉄砲を出しても勢いが無かったから、全身水の状態で試してみたの」


”水鉄砲”って、仮名だとしても、もうちょっとまともな技名にすればいいのに。

ちなみに二回目の暴走は”水鉄砲”のあまりのしょぼさにチョッパーが爆笑して、悪夢の豪雨災害が再び発生していたりする。


「それがあの消火作業みたいな勢いの水ってわけか。ビビ、それはまだ先だって言わなかったか?」

「ごめんなさい。何だか悔しくって」


ビビは今のところ水を出せるが止められない。しかも感情が高ぶると豪雨をもたらすっていう最悪の災害能力者だ。

指先からチョロチョロと水を出しながら、豪雨の中で慌てふためくビビはなかなかオモシロかったのだが、このままでは命の危険があると考えた俺は、水鉄砲(仮)を止められるようにする訓練から始める事にしたわけだ。

チョッパーにまた笑われるのが嫌で、威力不明の技を使ってしまったのだろうが……ルフィ以上の問題児だな。


「身体を水の状態にしたほうが威力が出そうって発想は悪くないんだが、まずは”水を出す”、”水を止める”の感覚を身体に覚えこませる事が最優先だ。暴走する能力者なんて、危なっかしくて一緒に戦闘出来ないぞ。身体を水から切り離すイメージで、『わたしは水じゃない!!』とか思えば成功するんじゃないか?」

「……それって、「生命帰還」と矛盾してないかしら? それに、自分が水じゃないって意識してる時に攻撃されたら、ダメージを受けちゃいそうだけど」


知るか!!! 少しは自分で考えろよ!! 自然系の制御なんか知らねぇって言ってんだろ!!!……って言ってやりたい。


「……そこ等へんは臨機応変に」

「……かなり難しいわね」

「タクミでもわかんねェ事があるんだな」


チョッパー、どれだけ俺を万能だと思ってるんだ……わからない事だらけだよ。自然系について、エネルが特別授業とかしてくれないかな? まあ、無理だろうけど。


「とにかく!! さっき言った能力の制御訓練をしっかりやること。それと同時に筋トレも平行してやっといてくれ」

「自然系なのに?」


はぁ、コレだから自然系は……こうやって能力に溺れたバカが出来上がっていくのか。


「ビビは雨人間なんだぞ? 能力が制御出来ない間は水の拳で戦えばいいんだよ。普通の人間は自分が傷つくのを怖れて100%の力で戦う事は出来ないけど、全身を水にしてしまえばビビには痛める身体が無いんだ。相手の攻撃は受けないで一方的に殴れるんだから、身体は鍛えておいた方がイイ」

「拳で戦うって……雨人間っぽくない戦い方ね」


ビビは嫌がってるみていだけど、覇気使い以外との戦闘なら無双が出来るハズだ。俺が自然系を食ってたら確実にそういう鍛え方をする。

発想しだいだけど、雨人間って、能力者以外との戦闘で能力依存の戦いをするには、かなりエグい使い方をする必要があるし、それも繊細な制御力が大前提だ。


「あのなぁ、もしかして、さっきのちょっと勢いのある水鉄砲程度が攻撃に使えるとでも思ってるのか? あんなスピードじゃ雑魚にしか当たらないぞ? 解決方法は取りあえず三つだ!! 一つ目、制御を高めて技のスピードを上げる。技のスピードを上げるには、まずは止められるようになることだ。ビビの水鉄砲は出し続けるとだんだん威力が無くなるみたいだからな。二つ目、移動砲台になったビビが当てに行く。この為に身体を鍛えるって意味もあるんだ。三つ目、スピードなんか関係ないくらいの圧倒的な水量で波でも発生させる。戦闘では理想形かもしれないけど、これには長期間の訓練が必要になるハズだ」

「やることが多すぎるわよ……わたしにできるのかしら」

「おれの特訓と違って厳しいんだな」


自然系は確かに最強の可能性を秘めてはいるけど、食ったら最強になれるなんてモノじゃない。同じだけ身体を鍛え、同じ技術を習得した所で、初めて悪魔の実そのモノの優劣が発生するんだ。

メラメラがマグマグに勝てない? 笑わせるな!!! って感じだな。発生させられる最大熱量で言えば炎はマグマを圧倒してるんだから、あの敗北は完全にエースの鍛錬不足だし、覇気を纏って超速戦闘すればよかっただけの話。

エース……生き残ってくれないかな……ルフィが悲しむのは…………!!!? 何を考えてるんだ俺は!!!?


「タクミ? どうしたんだ?」


黙って考え事をしていた俺を、チョッパーが心配そうに見上げてくる。そうだ。俺には自分以外の事に構ってる余裕なんかない。

手を広げるにしても、精々この一味までだ。エースの死は必要な事なんだから…………今はビビの事だけ考えよう。


「何でもない……チョッパーは基礎が出来てるからな。今は「生命帰還」をモノにする事だけを考えてればイイ。ビビだって一つずつ出来るようになればイイんだ。難しい事じゃないだろ? 今は水を止められるようになる事と、身体を鍛える事、それだけを考えてればイイんだよ」

「そうね!! まずは水鉄砲を止められるようになるわ!!」


ビビは両手をキョンシーのように前に突き出して構えている。水鉄砲の10連射でもするつもりか?


「よし、ならついでにチョッパー目がけて連続で撃ってみろ。命中力向上の特訓にもなって一石二鳥だ。チョッパー、ちょっと逃げ回ってくれ」

「いいぞ〜〜!! やーいビビ〜〜!! おれに当ててみろ〜〜!!」


チョッパーはアッカンベーからのお尻ぺんぺんをしながら走り回っている。さっき少し褒めたせいで調子にノッてるな。


「トニー君ったら……そんなに走り回ったら、わたしの弱々しい水鉄砲じゃ当たらないわよ……もっと近くで!! もっとゆっくり!!……逃げ回ってくれる?」

「別にいいぞ!! 兄弟子として少しはハンデをやらねェとな!!」


ん?……ビビの構えが変わってる?……嫌な予感しかしないな。


「チョッパー、そんな言い方はよくな「”激流葬(トレントフューノロー)”!!!!」「ぎゃぁあぁあぁあぶぶぶぶっ……」……ほらな」


ビビが重ねて突き出した掌から発生した激流は、チョッパーを呑み込み、モックタウンの中心部あたりまで運んでいった。


「やったわタクミさん!! スピードと水量を同時にUPさせたうえに、ちゃんと止められたわよ!!」

「一回に発生させられる水の限界を超えたから止まっただけじゃないのか? 止められたんならチョッパーがあそこまで流れる前に止めてくれ」


「やりすぎちゃった☆」


”テヘペロ”をキメてるビビはおいといて、チョッパーを回収しにいくか……巻き添えをくらったヤツら(かなりの数)に睨まれたがスルーだ。


「じゃあ、さっきのをもう一回やってみせてくれないか?」


息を吹き返したチョッパーが俺の後ろで首を横に振っている……猛烈な勢いで。さっきの一撃が軽くトラウマになったみたいだな。


「……今度は海に向かってな」


「任せて!! ”激流葬(トレントフューノロー)”!!……??「はい、止めて〜」……はい」


ビビの掌からは、水鉄砲が出て……やっぱり止まらなかった。


「それ止められるまで続けといてくれ……ビビはサンジと同じタイプ「それは嫌!!!」……良く出来たな」


怒りでヒートアップするタイプだと言いたかったんだが、止まったならイイか。にしてもいつのまにサンジはビビに嫌われたんだ?


「じゃあ能力制御は今日はココまでにして、筋トレでもするか」


ビビは露骨に嫌そうな顔になった。戦闘力を上げる意識はあるっぽいんだけどなぁ。あれだけ説明したのに筋トレは嫌なのか?


「ミス・マンデーみたいにはなりたくないわ」

「そういう事か。「生命帰還」を極めれば……こんな事も出来るぞ」


俺はビビの不安を取り除く為に人間形態で「紙絵武身」を発動させる。人獣形態にならなくても筋肉のせいで102kgの体重がある俺の身体が、かなりスリムになったのを見てビビは驚いている。


「こうやって身体操作をすれば「ロビンさんの様になれるのね!!」…………はい?」


ビビの眼は決意に燃えている。けど意味が解らん!?


「わたし頑張るわ!! 必ず「生命帰還」を極めてみせる!!」


何でそっちから極めようとするわけ? 身体鍛えない自然系なんて死亡フラグがたっても知らないぞ!?


「ビビ? まずは筋トレから「タクミさん!! 少し静かにしてくれないかしら♪」……もう勝手にしてくれ」


既に瞑想に入ろうとしていたビビに、笑顔で脅しをかけられた。変なところで似てきてる気がするのだが、ビビはロビンに憧れてるのか?


俺は不安で一杯で、心の雨はまだ止まない。
 
 
 

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