”栗”
〜Side サンジ〜
「”うそつきノーランド”!? へー、懐かしいな。ガキの頃よく読んだよ」
「あれ? サンジも”北の海”の出身なのか?」
おれはクリケットの家で懐かしい絵本を見つけたんだが、それよりもその後のタクミの一言が驚きだった。
「は? お前も”北”かよ!? 何処の出身なんだ?」
「いやー、そこまでは覚えてないな」
そういやコイツは子供の頃の記憶が殆どないんだったな。
「タクミとサンジ君が、北の海出身だったなんて初耳だわ」
ナミさんとは仲がよさそうだったのに、あんまり深い話はしてねェのか?
「育ちは”東”だけどな。そういやァお前らには話した事なかったな」
「……俺は最近思い出したばっかりだからな」
タクミは何か言い難そうにしてんな。ノーランドの説明はおれがしてやるか。
「むかしむかしのものがたり、それは今から400年も昔のお話……」
おれは”うそつきノーランド”の話を皆に聴かせてやろうと思ったんだが、ナミさんが朗読し始めたから黙って聴くことにした。
「……あわれウソつきは死んでしまいました「おれを見んなァ!!! 」……”勇敢なる海の戦士”に、なれも……せずに……」
「切ない文章を勝手に足すなァ!!」
「そうだよな。ウソップはノーランドじゃなく「ピノ〇オでもねェよ!!!」先読みツッこみとは……腕を上げたな!?」
最近のウソップは新兵器の開発にかかりっきりになってやがるけど、やっぱタクミにツッこんでる時が一番生き生きしてんな。
「こんだけ”テンドン”されりゃあ誰だって出来るようになるわァ!! だいたいな「ルフィーー!!! 水難の相が出てるからあんまり水辺に近づくなよ!!」「栗があんだよ、栗っ!!」……聞けェーーー!!!」
相変わらずマイペースなヤツだな。それともウソップをワザとからかってんのか?
「ぎゃああああ〜〜〜〜〜っ!!!」
「ほら、言わんこっちゃない。ウソップ、ルフィを助けてやれよ」
「お、おう」
タクミの忠告を無視したルフィは海に落ちた……何かもうアイツの占いは怖ェな。占いの方から当たりにいってるみてェに的中しやがる……全部アイツが黒幕なんじゃねェか? その方がしっくりきそうだ。
「てめェら誰だ!!!……」
慌ててルフィを助けに行ったウソップの前に、頭に栗が乗ったおっさんが立ち塞がった。
海の中から突然現れたみてェだな。ルフィは落ちたんじゃなくて引きずり込まれたのか?
「……人の家で勝手におくつろぎとはイイ度胸、ここらの海はおれのナワバリだ……狙いは”金”だな……死ぬがイイ」
栗のおっさんは一番近くにいたタクミに鋭い蹴りを放った。ありゃかなりのキレだな。
「おっと!!、やっ、ほいっ……」
タクミは栗のおっさんの攻撃を三回で見切って、それ以降はわざと紙一重でかわしている。おっさんはピストルまで出してタクミに攻撃を加えるけど一発も掠りもしねェ。
タクミは避けるのが面倒になってきたのか、髪の毛で攻撃を弾きはじめたんだが、それから数回の攻防の後におっさんは倒れた。
「……おいっ!! アンタがクリケットなんだろ!?……!!? チョッパー、コイツ潜水病だぞ。見てやれよ」
栗のおっさんはチョッパーに担がれて家の方に運ばれて行った。
皆がその後を追い、チョッパーから病気の説明をされたんだが、要はおっさんはとんでもねェ無理をしてるって事だな。
皆で看病をしていると、不意にタクミが口を開いた。
「なあ、このおっさんのフルネームはモンブラン・クリケットなんだよな?」
「確かにそう聞いたけど、それがどうか……なるほど、そういう事ね」
ロビンちゃんはタクミの言いたい事がわかったみてェだけど、何だ? また二人の世界なのか!?
「何だよ? お前らばっかりわかってるなんてズルいぞ!! ひし形のおっさんがどうしたんだよ!!」
ルフィもわかんねェみたいだな。ん? モンブラン……クリケット?……
「そうか!! モンブラン・ノーランドの子孫か!!!」
「おそらくな。あの頭の栗がなんともソレっぽいだろ?」
「……言われてみれば、そうとしか思えねェ頭だな」
「だから何なんだよ?」
ルフィはナミさんがせっかく読んでくれた「うそつきノーランド」を聞いてなかったらしくて、再度朗読会が開かれた。
〜Side タクミ〜
「「おやっさァん!!! 大丈夫かァ!!!?」」
ナミがルフィとゾロの為に「うそつきノーランド」の再朗読をしていたらマシラとショウジョウが部屋に飛び込んできた。
ショウジョウとは初対面だが……うん、見事なまでにオランウータンだな。冗談抜きで親の顔が見てみたい。
クリケットの看病をしていたビビとチョッパーを含め、全員の視線が二匹に集中する。
「クリケットさんなら大丈夫だ。俺たちが会いに来たら潜水病の症状が出たから、今は看病してるところだよ。そう言えばお前、クリケットさんの知り合いだったのか? 相変わらずさるあがりだな〜。隣のヤツも紹介してくれよ」
「タクミ!! 相手は野生だぞ!! 話なんか聞かねェって!! ココはおれ様新開発の特殊弾で確実に「「イイ〜〜〜〜奴らだなあ」」って聞くんかィ!!!!」
ウソップはマシラ達にはツッこむ勇気がないのか、棚に向かって思いっきりツッこんだ。いや、今のはズッこけたのか? 体張ってるなぁ。
ルフィと意気投合したマシラ達を放置して、俺はウソップを助け起こした。
「もう新しい特殊弾ができたのか!? ウソップは仕事が速いな。そんなことより、今のツッこみはかなりの「特殊弾は!!? おれの開発裏話とかを聞きたくねェのかよ!!」……すごーい、どんなとくしゅだんなんだー?」
「どーでもイイのか!!? アラバスタで遊びもせずに開発したおれの苦労をもっと労えよ!!! まぁイイ、今回の特殊弾はだな!! 一発当たればどんな敵だろうと−−−−」
長くなりそうだからウソップは放っとこう。後で説明書を読めば問題ないハズだ。
そうこうしているとクリケットが意識を取り戻したみたいだな。
「……うっ、おれはまた倒れてたのか……おめェらが助けてくれたのか?」
「あんまりムチャするなよな。アンタは俺たちが空島に行く為の唯一の希望なんだ。協力してくれないか? ノーランドの子孫のクリケットさん」
クリケットは怪訝な表情を浮かべている。俺なんかしたか?
「おめェら空島に行きてェのか……おれをノーランドの子孫だと知った上でその希望を託すって言うのか?」
そういう事か。嘘つきの一族って事で今までイロイロあったんだろうな。
「”積帝雲”の上に空島があるのまではわかってるんだ。だけど、そこまで行く術を俺たちは知らない。俺の占いでは、クリケットさんがその方法を知ってるハズなんだよ」
クリケットは一瞬驚いた顔をしたが、タバコに火をつけると突然笑い出した。
「ウワッハッハッハッハッハッハ!!!! そうか!! 占いか!! そんなアホみてェな理由で命を賭けるヤツは始めてみた!!!」
占いと聞いてバカ笑いするクリケットにビビが憤慨して詰め寄った。
「タクミさんの占いは百発百中なのよ!!! そんなに笑う事ないじゃない!!!」
このままでは能力が暴走すると思い、俺は慌てて十手を取りに行こうとしたのだが、ビビの剣幕に圧されてたじろいだクリケットは笑うのを止めた。
「……悪かった。予想の斜め上をいく返事だったもんでついな。それにしても本気で空島に行くつもりなのか?」
「本気さ。ココに来るまでは、何でクリケットさんに会う必要があるのかわからなかったけど、今は空島に行ける確証もある」
「どういう事!?」
空島に対して一番懐疑的だったナミが驚きと疑問の声をあげる。
「おそらく、ナミが聞いた”突き上げる海流”ってヤツに乗って”積帝雲”に突入するのが、空島に行く方法なんだろ。そしてココら一帯をナワバリにしているサル達のボスがクリケットさんって事は、この人はパターンを掴んでるんじゃないか? ”積帝雲”と”突き上げる海流”が重なるタイミングのな」
俺の言葉を聞いてクリケットに視線が集まった。
「ウワッハッハッハ!!! 頭もキレるみてェだな!! そうだ、空島に行く方法はその一つだけだ。確証もねェのに、占いだけを頼りにココまで来るとは……おめェらみたいなバカは嫌いじゃねェ……この航海日誌を読んでみろ」
クリケットはおれに航海日誌を渡すと外に出て行った。マシラ達に俺たちのことを話しに行ったんだろうな。
俺は受け取った航海日誌を数ページ捲り、ナミに手渡した。
「当時のノーランドの航海日誌だ。空島について何か書いてるんじゃないか?」
「本当に!? 本人のモノなの!!?」
食らいつくように航海日誌を読むナミの周りに、皆が集まって騒いでいる。俺がその様子を笑いながら見ているとロビンがやってきた……どうしよう。何かさっきからロビンと気まずくなってるんだけど。
「今回もアナタの占いは当たりみたいね……ねぇ、私の未来……私はアナタの傍にいるんでしょ?……その時アナタは笑ってる?」
何で突然そんな事を聞くんだ? 世界を敵に回すって発言がやっぱりマズかったんだろうか? 俺の事も心配してくれてるんだろうな。
「俺はロビンが幸せなら、何があったって笑ってられるよ。ロビンは”真の歴史の本文”を探すんだろ?空島のヤツがそうだとイイな」
ロビンのテンションが上がるかと思って空島の”歴史の本文”の話をしたのに、ロビンは俯いてしまった。
「…………そうね。空島、行けるとイイわね」
ロビンは明らかに無理をした笑顔を俺に向けて、一人で外に出て行った。
……何!? 何がいけないんだ!!? ロビンの事がさっぱりわからない。ビビでも使って様子を探らせてみるか?
俺が一人で悩んでいると突如としてウソップが飛んできた。
……空中で見事なまでに回転して、俺に強烈な一撃を放つウソップ……???
「−−−−おれの話を聞けェ!!!!!」
「…………まだ喋ってたのかよ」
げんなりした俺は考える事を止めた。