小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 
 
 
”ビックナイフ・サーキース”



〜Side タクミ〜



いやー、ジャヤの森には面白い昆虫がたくさん居て大興奮だったな。ロビンに避けられてる事でメチャクチャ落ち込んでいたけど、森を駆け回ってる間はロビンの事を考えるのはヤメにした。

昆虫のデータを取った後は、みかんみたいなナミの匂いを辿って戻ってきたのだが、すでに一味が集まっていた。ロビンもサウスバードを捕まえるのに成功したみたいだな。


「サウスバード、ロビンも捕まえたんだな。流石は俺のパートナーだ」

「えぇ、視界に入りさえすれば、戦闘能力の低い生物の捕獲は簡単だわ。アナタみたいに経験と知識を基にした狩りが出来る訳じゃないけれどね」


ロビンの対応はさっきに比べたらマシになってるけど、俺の傍にいる事を躊躇している様に見えるのは何故だ? ビビにそれとなく探るように頼んではいるけど、さっき俺が自らロビンとビビを別のチームにしたせいで話は進んでないだろうな。

ビビからの報告があるまでロビンを無理に構うのは止めておくべきだろうか?……ていうかビビが再起不能なレベルで落ち込んでいる意味も良く解らんし、サンジの敵意ある眼差しと、ナミの哀れみの眼差しが非常に不愉快だ。

誰か状況の説明を……してくれるわけないな。俺が一人で悩んでいると、今回の調査資料をルフィ、ウソップ、チョッパーが勝手に漁っていた。


「うほーっ!!! タクミはヘラクレス見つけてたのか!!? 何で獲ってきてくれなかったんだよ!! 味見するのは一匹だけだろ!?」

「タクミ……コイツら全部……食ったのか?」

「タクミは虫も食うのかーーー!!!?」


……バカばっかりだ。流石に虫は食べない。偏見かもしれないが最初から不味いと解っている生き物を、殺してまで食べようとは思わないからな。

俺はルフィとウソップを完全に無視して、森で採取した薬草っぽいモノをチョッパーに渡すと、さっさと森を後にした。



=================================



サウスバードを捕らえた俺たちはクリケットの家に戻ってきていたのだが、そこで目にした惨状は酷いありさまだった。

メリー号は真っ二つになっており、竜骨が折れているみたいだ…………何れこうなる事は解っていた。

フランキー、そしてサニー号との出会いの為には、メリー号が壊れる事は運命なのかもしれないけれど……複雑な気分だな。

クリケットの家も半壊しており、金塊が奪われていた。猿山連合軍の怪我もかなり酷い。ショウジョウの怪我はそう深くない様だが、クリケットとマシラ、特にマシラの怪我が酷い。

刀傷とは違う切り口で、どんな武器でつけられた傷なのか見当もつかない。


「……朝までには戻る」


ん? 金塊を奪った相手を、ルフィは知ってるのか? クリケットの家の壁にあるマークを見てナミが騒いでいたけど、あのマーク……どこかでみたような……!!!?

ドンキホーテ・ドフラミンゴ!!!? 間違いない!! あのスマイルマークはジョーカーの掲げるシンボルだ!!

……どうするべきだ?? 本人がこんなとこに居る訳ないし、おそらくは傘下の海賊がマークを使ったんだろう。

ルフィの戦闘力はかなり向上しているし、大丈夫だとは思うけれど、おそらく相手は相当の使い手だ。斬撃を使う能力者の可能性もあるから、ルフィ一人で行かせるのは危険だよな。

…………仕方ないか……


「待て!! ルフィ、俺も行く」

「一人でイイよ。真っ直ぐだから迷わねェし」


「そういう問題じゃない。そのマークは七武海の一人、ドンキホーテ・ドフラミンゴのマークだぞ!!? 元の懸賞金は3億ベリーを超えてる……覚悟は出来てるのか!?」

「そんなもん知るか!! 俺はベラミーをぶっ飛ばして金塊を取り戻すだけだ!!!」


……ベラミー?? 誰だソレ??……取りあえず本人じゃなくて、傘下の海賊が相手ってことだな。


「お前には敵わないな。それなら早く向かうぞ、乗れ!!」


俺は獣形態になり、ルフィを乗せてやることにした。いざとなったら全力で逃げないと、マジで死ぬからな。


「はっはっは!! その格好は初めてあった時以来だな!! わかった、二人で行こう!!!」


ルフィが飛び乗ったのを確認して、俺は全速力で走り出した。この姿での「剃」はスピードは抜群なんだが、持続力は人獣形態よりさらに劣る。

まぁ、最高速度が上がっているから移動距離に大差は無いのだが、誰かを抱えて走るよりは効率的だという事に最近になって気づいた。

回り込むのは面倒なので「剃刀」で海を渡り、五分程でモックタウンに到着。スピードに慣れているルフィは、ウソップみたいに騒いだりする事はなかった。

ベラミーとかいうヤツの居場所をどうやって特定するつもりなのかを聴いてみると、何ともルフィらしい答えが返ってきた。


「高いところからアイツを呼んでみる。あの塔に登ってくれ!!」

「了解、船長!!」


ルフィの指示で塔の上まで駆け上がると同時にルフィが叫びをあげる。


「ベラミィ〜〜〜!!! どこだァアア〜〜!!!!」


ルフィの呼びかけに応じて一人の男が出てきたが……イマイチ記憶に残らない顔だな。小物臭が漂っている。

あんなモブ顔には覚えが無いし、ひょっとしたら原作には無い流れなのかもしれない。


「ハハッハハハ!! ライオンに乗って登場とは勇ましいな。今お前の噂をしてたトコさ・・・おれに用か!!?」

「そうだ。ひし形のおっさんの金塊を返せ!!!」

「ルフィ、時間がもったいない。さっさと仕留めるぞ!!」


「!!? 危ねェライオンだな!? 喋るって事はお前も能力者か?」


俺は塔から一直線にベラミーに突っ込んだのだが、「剃刀」を使わない体当たりくらいはギリギリで避けれるみたいだな。

ルフィを降ろして人獣形態になった俺は軽く名乗りを上げておく事にした。


「俺の名「あ〜〜っ!!! コイツも賞金首だ!! 一味の副船長”銀獅子”のタクミ!! 1億2000万ベリーの超大型ルーキーだぞ!!」…………は?」

「8000万の剣士はきてねェみたいだけど、1億5000万ベリーの船長と副船長が来てるんじゃベラミーに勝ち目はねェよ!!!」


……意味が解らん。ゾロの初頭手配額って6000万ベリーじゃなかったか? 俺が加入した影響で一味全体の危険度が上がったってことか?……マズいな。スモーカーとか海軍をおちょくり過ぎたせいじゃなければイイんだけど。

手配書を放り捨て、慌てて逃げていく野次馬の隣に、特徴的な武器を持った男を見つけて、俺はようやくベラミー海賊団の事を思い出した。


「……ビックナイフ・サーキースか。確か3800万ベリーの副船長だったっけ? お前みたいな小物に興味は無いんだが、そのナイフはイイな……くれよ」


鬣をざわつかせて威嚇しながら、俺はゆっくりとサーキースに近づいて行く。後ろからは重たい打撃音が一発聞こえてきたが、おそらくルフィがベラミーを一撃で仕留めた音だろうな。


「くっ!!?……わかった。やるよ」


ベラミーのあっけない敗北を目の当たりにして戦意喪失したのか、サーキースは素直に巨大なグルカナイフを渡そうとしてきた。


「何か悪いな!! 海王類を捌くのとかに使わせてもらうよ」

「死ねェ!!!」


ナイフを受け取ろうと近づき、俺が手を伸ばした瞬間に、サーキースの体が一瞬霞んで、右斜め後方に現れた。

なかなかのスピードに驚いたが、叫ばなければ不意をつけたかもしれない状況だったのにバカなのか?

俺は「獅子鉄塊」で受け止める用意をして、念のために頭から肩にかけて「鉄塊」を発動させた。

避けるよりも、髪なんかに受け止められた方が精神的にキツいだろうと考えての判断だったのだが……


「っ痛!! やるじゃん小悪党!!」


失敗だった。サーキースのナイフは「獅子鉄塊」を切り裂き、「鉄塊」が中途半端に掛かっていた首を少し切りつけた。

動脈を切られて血が噴出したのだが、「生命帰還」で素早く治療を施す。鬣も元の長さに戻してサーキースを見据える。

サーキース……黒ひげに一撃でやられていたから弱いのかと思っていたが、クロよりは手強そうだな。


「てめェ!! おれは確実に動脈を掻っ切ったハズだぞ!? どんな体してんだ!?」

「俺の髪を切れるそのナイフの切れ味の方がよっぽど異常だよ。ますます欲しくなった……」


俺はエボニー&アイボリーを構えて「獅子針銃(シシシンガン)」を収束態で10本用意したが……


「……「嵐脚 極線(ゴクセン)」!!!!」


形態変化させた刃状の脚から、全力の「嵐脚」を放った。上半身に注意を集めておいての不意打ちの「嵐脚」、「獅子針銃(シシシンガン)」を地面に刺して身体を安定させたその一撃は、凄まじいスピードで地面を割りながらサーキースに直撃した。

……ハズなんだが……


「バケモノが!! 何の能力者だ!? そんなライオンがいるわけねェ!!!」


何故かわせるんだ!!? ネズミ大佐と戦った時の「嵐脚 獅終(シシマイ)」を遥かに超えるスピードだぞ!!?


「……お前……強いな。舐めて悪かった。全力で相手をするよ……悪魔と……踊れ!!!」


俺は「剃刀」で後ろを取り、サーキースの背に四発の銃弾を放つ。


「危なねェな!! 何だその銃は!!?」


それすら避けるサーキースだが、それくらいの事は想定済みだ。壁を粉砕する”炸裂弾(バーストブレット)”の威力に驚くサーキースの眼前まで距離を詰め、10本の「獅子針銃(シシシンガン)」で追撃を加える。


「クッ!! おれのナイフと打ち合えるヤツなんか滅多にいねェってのに、髪で戦うなんてふざけた野郎だ!!!」

「イヤイヤ、高速で襲い掛かる10本の槍の刺突を、ナイフ一本で捌いてるお前の方がおかしいからな!!」


単一的な攻撃では埒が明かないので、三本を刃状に、二本を鈍器状に変形させて、攻撃のバリエーションを増やしてみたのだが、それでも一発も通らない。

緩急をつけた動きがトップスピードをより速く見せ、好機と見てのコチラの攻撃も、ギリギリで見切ったり、ナイフであしらわれたりと変幻自在の対応をしてくる。


「おもしれェ能力だが、だんだん慣れてきたな……そろそろ終わりにしてやる。因みに何を勘違いしてんのかしらねェが、おれの賞金額は8000万ベリーだ!!! ベラミーにまぐれで勝ったあの小僧も、おれが仕留めてやるよ!!」


距離をとったサーキースの体が、初撃の時の様に霞んで、複数の残像を残しながら近づいてくる。

あまりに流麗なその動きに目を奪われていると、背後からの風斬り音。

慌てて「獅子鉄塊 剛」での防御体勢を背面に整えるも、サーキースはいつの間にか懐に入っていた。


「チッ!!!」


刃状を保っていた右脚でナイフを弾き返すと、サーキースは苦々しく舌打ちをしてきた。

ヤバイぞ!! コイツはマジで強い!! 武器とか服のセンスとか、割と好きなキャラではあったけど、ココまで強いっていうのは予想外だ!!?


「船長に迷惑をかけるわけにはいかないな……コレで終わりだ!!!」


「変形(トランス) 獅子鉄塊」(いま命名)での攻撃を続けながら二発の銃弾を放つが、サーキースは当然のようにコレをかわす。


「へへ、当たらなきゃ意味ねェんだガハッ……な、何をした!!?」


サーキースは背中に二発の銃弾を受け、崩れ落ちる。俺はすぐさま武器を奪い取り、己を倒した技の名前を教えてやった。


「”反射弾(リフレクショット)”この灰色の特殊弾頭は、跳弾しやすい合金で出来ていてな、ある程度の固さのモノに当たると跳ね返るんだよ。もっとも、人間の身体に当たれば当然食い込むけどな」

「最初の爆発する弾は、この為の仕込みか!!? 跳ね返る弾を命中させるとはな…………おれの負けだ」


サーキースはそう言うと、笑みを浮かべて満足そうに目を閉じた。


「ビリヤードは得意なんだよ……そこのアンタ!! リリーだっけ? この弾は人体に有害な合金で出来てるから、さっさと医者にみせてやれよ」

「わ、わかったわ」


リリーは俺の言葉に驚いてはいたが、仲間と一緒にサーキースを連れて去っていった……ベラミーは放っといてイイのか?


「アイツ強かったな!! 金塊も取り返したし、さっさと帰ろう!!!」


俺の戦いを見物していたルフィから見ても、サーキースは強かったって事か……どうなってんだ!!?……クロ、ネズミ、サーキース俺が原作で好きだったキャラクターが、軒並み原作より強くなってる気がするんだが……そういえば、ウソップの技術力もちょっと異常だし、ナミの初期装備も強化されてたよな? この流れでいくと、ドフラミンゴやホーキンスに会うのが怖いな。


「ああ、帰るか。このナイフもあるし、帰りはルフィも走ってくれ」

「それならヘラクレス捕まえてから帰ろう!!」


「……わかった。時間に余裕もあるし森に寄っていくか」


また悩みが増えてしまったが、能天気なルフィを見ていると少し気が楽になった。そういえば、ルフィのこの性格には何度も助けられてる気がするな。

俺はケースを貰うのを忘れたナイフを担いで、ルフィと一緒に走り出した。
 
 
 

-77-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ワンピース DXフィギュア〜THE GRANDLINE LADY〜SPECIAL★しらほし姫
新品 \1800
中古 \1600
(参考価格:\)