小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ヘラクレス”



〜Side ビビ〜



”ドンキホーテ・ドフラミンゴ”……タクミさんの口からその名前が出たときには背筋が凍ったわ。

クロコダイルと同じ”王下七武海”の一角だからって、ルフィさんは簡単に倒せるとでも思っているのかしら?

元の懸賞金は3億4000万ベリーの正真正銘のバケモノなのよ? タクミさんはルフィさんの覚悟を確かめて……行ってしまった……

何でこうなるのよ〜〜!! 傘下の海賊に手を出すって事は、ドフラミンゴに喧嘩を売ったのと一緒じゃない!!

能力も謎の”王下七武海”に狙われるかもしれない……さっさと空島に逃げなくちゃ!!

それにしても……


「ナミさん? どうしてみんなこんなに落ち着いてられるの?」


そう、一味の皆は、ショウジョウさんの部下を中心としたチームと一緒に、船の修繕・強化を手伝っている。ルフィさん達の事や今後の事を心配しているのは私だけみたい。

わたしは雨人間になったおかげでそう簡単にはやられる事もなさそうだけど、それでも不安は大きい……皆には不安は無いのかしら?


「あの二人が揃ったら敵なんかいないわよ。戦う相手が気の毒になるわ」


ナミさんは当然のように答えると、真剣な顔をしてロビンさんの所に向かった。ロビンさんに何か相談でもあるのかしら?

……もしかして、わたしにはああ言ったけど、ナミさんも心配してるって事?

皆はわたしが不安にならないように振舞ってくれてるだけなのかもしれないわね。確かにあの二人がそう簡単に負けるとは思わないけれど、相手が悪すぎるもの。

わたしは子供扱いされてるんだろうな……一味の重大な決定には関われない立場……こんなんじゃダメだ!! もっと強くならなくちゃ!!

だいたい、森でのルフィさんの一言がなければ、わたしはもっとシャンとしてたハズ!! ゾロがわたしをウザがってるなんて…………デタラメに決まってるわ!!

何だか七武海なんてどうでもよくなってきたわね。待ってるだけっていうのも暇だし、タクミさんに頼まれた情報収集でも……別にイイか。

どうせただの痴話喧嘩でしょうし、あの二人の関係はそう簡単に崩れたりしないわよね。タクミさんには適当に報告しておけば問題無いハズ……ってオモシロい事を思いついたわ!!

でも、流石にマズいかしら? いえ、ロビンさんだってきっと待ってるハズ!! 空島の幻想的(妄想)な景色の中でそんな事になれば、仲直りは確実よ!!

感謝こそされど、恨まれる事は無いわ!! わたしって本当に二人のキューピッドよね♪

それじゃあ、タクミさんに報告するのは、空島についてからって事で、ゾロの手伝いでもしてきましょ。


「何か手伝える事はあるかしら?」


修繕用の板を運んでいた彼に、満面の笑顔で尋ねてみた。少しだけ顔が紅潮してしまってる気がするけど、夜だからバレ無いわよね。

彼はわたしを見て少しの間だけ考えるような素振を見せて、視線を外してから口を開いた。


「……何か、この島に来たあたりからおかしいぞ? お前。手伝いはイイからどっか行け。邪魔だから休んでろ」


きゃーーーーー!!! 心配してくれてるのね!! そんな素っ気無い対応しか出来ない不器用なところもカッコいいかも!!

でも、わたしの顔が赤いのをこの月明かりの中で見抜いてくれたのは嬉しいんだけど、体調不良だと思われてるみたいね。

周りの事にはすぐに気がつくのに、自分に向けられている好意には気づかないだなんて、随分と都合のいい鈍感力だわ。

彼との仲が進展する見込みが薄いのを感じて、わたしは溜息を一つ吐いてナミさん達のもとに向かった。



〜Side ゾロ〜



「何やってんのよアイツら!! 海流に乗れなくなるじゃないの!!! タクミがついててどうしてこうなるのよ!!!!」


出航予定時刻から46分オーバー、ナミがカリカリすんのもしょうがねェな。

船の修繕・強化もとっくに終わってんのに、あの程度の相手になにやってんだか……まさか、バックについてるっていう”七武海”のヤツが出てきたんじゃねェだろうな!?

ロビンはタクミが心配みてェでそわそわしてるし、ビビはもう不安でおかしくなってやがる。

おっさんの前に座って溜息を吐きながら、身体のいたるところから水漏れを起こしてるけど、もう誰もツッこまねェ。

おそらくタクミと一緒に修行していたビビは不吉な占いでも聞いてたんだろうな。それとも森の中で言ってたタクミとロビンの事でも心配してんのか?

タクミを心配してアイツのタバコの箱なんか握ってるあのロビンの様子を見れば、二人の仲を心配する事はは不要だってわかるだろうに……今のビビに周りを見る余裕なんかありゃしねェか。


「おーーーーーい!!!」


仕方ねェからビビに声をかけてやろうと思ってたら、ルフィの声が聞こえた。笑顔で麻袋を担いでるって事は金塊は取り戻したみてェだな。

後ろを走ってるタクミはサーキースって野朗が持っていたバカでけェナイフを抜き身で担いでいる。アイツは戦利品として相手の武器を奪う趣味でもあんのか?


「コレ見ろ!!!……」


よく見るとルフィは麻袋を担いでるのとは反対の手に、ネットで出来た小さめの袋を持っている。

袋はゴソゴソ動いてるみてェだが……ありゃ何だ??


「……ヘラクレス〜〜〜〜〜〜!!!」

「「「何しとったんじゃーーーーーーー!!!」」」


久々のユニゾンツッこみだったな。ていうか、カブトムシを捕まえてて遅れるって……


「タクミがついていったのに何でこんな事になってんのよ!!!」


ルフィはそのまま強化されたメリー号を見に行ったけど、タクミはナミに捕まった。


「いやー、ベラミーとかいうヤツは普通だったんだけど、副船長のサーキースが結構手強くてな」


タクミが手こずる程の男だったのか!!? クソッ!! それならおれが戦ってみたかった!!

でも、それはカブトムシ捕まえてた理由にはなってねェんじゃ……


「……モックタウンまでタクミの脚でどれくらいかかったの?」


当然ナミは誤魔化されねェよな。おれでも底冷えするような声でタクミを問い詰めようとしている。


「……10分くらいだな「ベラミーには?」……1分かな。ルフィが倒した「サーキースは?」…………5分くらい」


タクミは居心地悪そうにナミから目線を逸らしている……当たり前か。


「じゃあ三時間以上もカブトムシを追いかけてたのね?」


そういう事だもんな。


「ナ、ナミ?? そろそろ出航しないと時間が「誰のせいで遅くなってんのよ!!!」……すまん。たくさん捕まえて戦わせるんだってルフィが言うから、一緒になって捕まえてたら、ついつい俺も楽しくなって「バッカじゃないの!!?」……申し訳ない!!」


はあ、そういやァタクミもそういうヤツだったな。普段はしっかりしてるけど、生き物関連で興奮して我を忘れるところはルフィと同レベルだ。


「……もうイイわ。ロビンにキツイ態度とられて、気分転換でもしたかったんでしょうし、今回だけよ」


ん? ナミはロビンと二人で話をしてたみてェだったが、事情をしってんのか?


「いや、ロビンは別に「いいから!! 早く船に乗る!!」……了解だ」


タクミは渋々といった感じで船に乗り込んで行ったけど……なーんか面倒くせェことになりそうだな。


「ゾロも早くして!!」

「へいへい」


おれも船に乗り込み、おっさんとの別れを済ませると、ショウジョウ達の先導でおれ達は船を進め始めた。
 
 
 

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