小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”銀髪の獅子とジプシーの踊り子”



〜Side ロビン〜



「タクミと喧嘩でもしたの?」


コックさんから休んでいるように言われてイスに座っていると、航海士さんに突然話しかけられた。

……私がタクミと距離を置こうとしているのは一目瞭然よね。皆に心配をかけてしまってるみたいだし、もう少し自然に振舞おうかしら。


「タクミが何かしたの!?」


私が黙っていると航海士さんは少しキツイ口調で問いただしてきた。彼が航海士さんに責められるのは筋違いだし、フォローを入れておかなくちゃね。


「喧嘩なんてしてないわ。私が一方的に彼を避けていただけだから、落ち着いてきたしもうあんな態度はとらないわよ」

「……どうしてタクミを避けてたの?」


航海士さんの口調から、私は自分の間違いに気づいた。航海士さんから感じる雰囲気が、以前のような暗いモノに変わっているのに気づかないなんて……


「タクミが何かをしたっていうなら、ロビンを説得して、許してあげるように言うつもりだったけど、タクミは悪くないんでしょ?? どうして避けていたのかちゃんと話して!!」


航海士さんの眼…………コレは逃げられそうにも無いわね。


「航海士さんには話してなかったと思うけど、私は7900万ベリーの賞金首なの。それは私の強さに懸けられた額じゃない……世界政府から見た、当時8歳だった私の危険度に対して懸けられた額なのよ」


私が一旦言葉を切っても、航海士さんは何も言ってこないで、ただその眼で続きを催促している。


「8歳で賞金首になって20年間、私は政府から逃げ回ってきた……生き残る為にどんな事でもやってきたわ。何度も裏切られた分、何度も裏切った!! 何度も殺されかけた分、何人も殺した!! そんな私を全部知ってるのに、彼は世界を敵に回してでも私を守るって言ってくれたの!!! だから…………」


私はもう言葉が出なかった。理由も解らずに溢れてきそうになる涙を堪えるのに必死だった。


「……バカね」


航海士さんはアラバスタでタクミがやったみたいに、私を抱きしめた。座っている私の頭を、彼女の胸に押し付けられて少し息苦しさを感じたから、間に手を挟んで少しだけ距離を取る。


「……いつかわたし達を裏切るかもしれないから、タクミと距離を取ってたのね。そんな辛そうな顔して、アンタがタクミを裏切れる訳ないじゃない」

「彼が世界政府と戦うって事は、一味を巻き込むって事なのよ!? 私一人が敵を引き付けて逃げ出せば、アナタ達は利用されただけの海賊でいられる!! だから「うるさいわよ!! それだけ仲間の事を思えるんなら、タクミやわたし達が、そんな場面でどう動くかなんてわかってるでしょ!!」……??」


訳がわからず彼女を見上げると、不敵な笑みを浮かべて信じられない事を口にした。


「一味揃って、世界政府に宣戦布告よ!!!」


ダメだ……このコは本気で言ってる。世界政府の巨大さも、怖さも、闇も、何もわかっていない。

……私は、このコ達を……タクミを巻き込みたくない!!

だって気づいてしまったから……こんな私を受け入れてくれた、この一味が好きだって!!

……こんな私を愛してくれる…………彼の事が好きだって!!

空島の”歴史の本文(ポーネグリフ)”を確認して、次に大きな町に立ち寄ったら…………私はこの船を降りよう。

そう決意したら、堪えていた涙が止まらなくて、私は航海士さんの胸で暫く泣いた。



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「完成だーー!! ゴーイング・メリー号!! フライングモデルだーーー!!」


長鼻くんの大声と、大勢の歓声に私は少し驚いた。いつの間にか航海士さんはいなくなり、朝を迎えている。

……私ったら、泣きつかれて眠ってしまってたみたいね。フフ、子供みたい。

船の修繕・強化は終わったみたいで、男性陣は長鼻くんを中心に肩を組んで喜び合っている。

タクミと船長さんはまだ戻ってきていないみたいだけど……雨女さんはどうして水漏れしてるのかしら?……カルガモさんが飲んでるわよ?

航海士さんが話しかけても上の空みたいで、完全に自分の世界に浸りきってるその表情は……ちょっと気持ち悪いわね。

そういえば、気がついたら彼の煙草を握り締めていたんだけど、どうしてかしら?

”ジプシーの踊り子”が描かれたブルーのパッケージ。彼と一緒にいる間に見慣れたソレは、今は少し潰れてしまっていたけれど、私は箱を開けて、なんとなくその匂いをかいでみた。

鼻腔を刺激するその香りは、相変わらず奇妙なモノだけど、彼が傍にいるみたいで少しだけ安心できる……変わったわね……私。


「あら、もうお目覚め? 王子様のキスがまだなのに、気が早いわね♪ 一本くらい吸ってみたら?」


雨女さんに見切りをつけた航海士さんが、私をからかいながらマッチを渡してくる。どうやら彼の煙草を持たせたのは彼女みたいね。以前から気にはなってはいたから、一本だけ吸ってみる事にしたんだけど……


「……酷い味ね」

「アハハハハ!! タクミのキスもそんな味じゃないの?」


…………航海士さんの一言に、私はフリーズした。知識としてはあるけれど、自分がそんな事をするなんて考えた事も無かったわね。


「まさか!? あんだけベタベタしててまだなの!!?……呆れた……お兄ちゃんはヘタレだったのね」


彼を好きなんだって自覚したのは、本当はついさっき何だけど、航海士さんからすれば、私達は付き合ってしばらく経ってるのに、そんな事もしてないって印象なのよね。


「……大事にしてくれてるんだと思うわ」

「はいはい、タクミが戻ってきたら普通に接してあげなさいよ」


航海士さんは後ろ手で手を振りながら、皆のところに戻って行った。長い間誤解していたけれど、彼女は本当に優しい人だわ。

この船を降りる前に、航海士さんみたいにタトゥーを入れてみようかしら? 器用な長鼻くんなら、タトゥーも彫れそうよね。

いつでも彼を感じていられるように…………モチーフは”銀髪の獅子”と”ジプシーの踊り子”

背中に彼の証を背負って、この煙草と夢があれば、きっと私は一人でも生きていける。



〜Side タクミ〜



「タクミさん♪ 調査報告に来ました!!」


”突き上げる海流(ノックアップストリーム)”の発生ポイントまでの航海途中、ビビから思いがけない言葉をかけられた。

モックタウンから戻ると、ロビンは今まで通りの態度に戻っていたし、ビビに頼んでいた事なんてすっかり忘れていたんだけど、もしかしてビビが解決してくれたのか?


「ロビンとは仲直り出来たみたいなんだけど、ビビが何とかしてくれたのか?」

「え、ええ!! モチロンよ!! ロビンさんは、なかなか進展しない二人の仲を何とかする為に、”押してだめなら引いてみろ作戦”を実行してたみたいよ?」


「そうだったのか!!?……でも、何で疑問系なんだ??」

「気にしたら負けよ!! とにかく!! その作戦はタクミさんには逆効果だって言っておいたから。また同じ事をされたくなかったら、空島のロマンチックな雰囲気に任せて攻めにでるのよ!!!」


「せ、攻めって言われても「じゃあそういう事だから!!!」おーい……って聞いてないな」


何かビビに乗せられてるような気がするんだが、気のせいか?

空島ではサクッと神の連中を倒して、時間一杯”貝(ダイアル)”と黄金を掻き集めようと思ってたんだが、ロビンの様子を見ながらちょっとは頑張ってみるか。

そういえば、ロビンはウソップに用があるとかで、さっき船室に行ってしまったけど、どんな用事なんだ?

あの二人はそんなに仲がイイようには見えなかったけど……ロビンも新兵器が欲しいのか? ロビンにはデリンジャーとかが似合いそうだな!! ウソップに提案しておこう。

ウソップの異常な技術力なら何でも作れそうだけど……本人は神殺しの新兵器を創れたのだろうか? 相手が雷だってことくらいは教えてやるべきか?

そんな事を考えていると急に辺りが慌しくなった。”積帝雲”が見えたみたいだな。

…………この大渦は流石にヤバイな。原作通りの出航のタイミングを覚えていてよかった。一歩間違えば転覆してただろうな。


「ぎゃああああああああああああ!! あああああああああああ……あ?」

「何!!? 何で消えたんだ!!?」

「何が起きた!!?」

「お前ら落ち着け!! 爆発の前兆だ……来るぞ、”突き上げる海流(ノックアップストリーム)”!!」


俺の言葉で皆が緊張する中、ヤツの声が聞こえた。


「待ァてェ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「あ!!……おいゾロ、サンジ「「あ!?」」……アレ」


一味の視線が黒ひげ一味に集まる。”黒ひげ”マーシャル・D・ティーチ、”音越”ヴァン・オーガー、”チャンピオン”ジーザス・バージェス、”死神”ドクQ…………もう一人は誰だ?

プラチナブロンドの輝きを放つロングヘアーを、サイドテールに纏めている妙齢の美女。黒ひげ海賊団の中で異彩を放つその女は、間違ってもカタリーナ・デボンでは無い……???


「ゼハハハハハハハハハハ!!! 追いついたぞ!! 麦わらのルフィ!!! てめェの一億五千の首を貰いにきた!!! 観念しろやァ!!!」

「俺の首!!? ”一億五千”って何だ!?−−−−」


ティーチとルフィの会話も、俺の耳には届かなくなってきた……黒ひげ海賊団は確かにこの時点で五人だが、ラフィットはマリージョアに行ってるハズだし、何より女な訳が無い。

俺の介入のせいで起こったイレギュラーと見て間違いないだろうけど……あの女、どこか見覚えがあるんだよな……


「−−−−おい!! タクミ!! 何かあの女が呼んでるぞ!!」

「リング!!! アンタ何やってンだわさ!!? 突然いなくなったと思えば今頃ンなって、偽名なんか使って海賊になってるなンて!!!」


……”リング”?? 俺のことなのか?? さっぱりわからん。


「誰だお前はーーー!!! 俺はお前の事なんか知らないぞーーー!!!」


何かプルプル震えて怒りを堪えてるみたいだが、過去の俺にとってそんなに重要人物なのか??


「……わたしはバジル・ジキタリス、アンタ……バジル・リングローズの母親だわさ!!! 20年経ったからって母親の顔を忘れるとは……覚悟は出来てンだろうねェ!!!」


俺の母親を名乗ったジキタリスは、顔を怒りに歪め、その姿を変化させていく…………翡翠色の翼を持った、巨大な白ヘビ!!? 今にもコチラに飛んでこようとしているその姿、そして俺と同じ灰色の瞳を見た瞬間、俺の頭に一気に記憶が流れ込んできた。


「……おかんっ!!?……ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイヤバ過ぎる!!!」

「どうしたタクミ!!? アレはお前のかあちゃんなんだろ!!? 何がヤバイんだ??」


動揺しまくりの俺にルフィが話しかけてくるが、ビビって当たり前だ!!


「とにかくヤバイんだ!! ウチのおかんは加減を知らない!! 全員殺されるぞ!!! クソッ!!! ”突き上げる海流(ノックアップストリーム)”はまだか!!?」


そうこうしてると白蛇が大きく羽ばたき、その翼を美しい翡翠色から紅蓮に染めあげた!! 俺は呆然としているロビンを抱きかかえて、ビビに叫ぶ。


「ビビ!! 水だ!! 大量の水を出してくれ!!」

「そんなこと言われても急には無理よ!!」


「いいから早く!! 無いよりはマシだから!!!」


ビビは両手を構えて”激流葬(トレントフューノロー)”を発射する用意をするが……


「お仕置きだわさ!!!」


翼から放たれた、辺り一帯を覆いつくすような炎の風を前にして固まってしまった……終わった……もうダメだ…………ソレはお仕置きのレベルじゃないだろ。

昔ならまだしも、”悪魔の実”を食べてしまった俺には、海に逃げるという選択肢すらない。俺が全てを諦めかけ、それでもロビンだけは守ろうと姿勢を低くしたその時……


「「「ギャァァアアアァアアアァ!!!!」」」


奇跡的なタイミングで ”突き上げる海流(ノックアップストリーム)”が発生して、俺たちは救われた…………生きた心地がしなかった。

俺はロビンをしっかりと胸に抱いたまま、ゆっくりと意識を手放した。
 
 
 


〜おまけ〜



「……えーっと、この状況は何? ロビンさんが泣き出すほど絶望的な状況なの?」

「ビビは心配しなくてイイから。ロビンが落ち着くように、何かタクミの持ち物でも持ってきて」


「煙草とか?」

「そんなんでイイから。とにかくロビンに持たせておいて」


「わ、わかったわ(コレはプランを早める必要がありそうね)」

「何か言った?」


「何でもないわ♪(絶好のポジションをGETして見物しなくちゃ!!)」

「??……あのコ変わったわね」


ビビの暴走は、留まるところを知らない!!!



〜Fin〜
 
 
 

-79-
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