小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”Depareture”



〜Side タクミ〜



「俺の事を話すのは構わないんだが、お前らと海に出る事を、世話になった人に報告しに行かなきゃいけないんだ。しばらくココで待っていてもらえるか?」


 無事に麦わらの一味に加入することが出来た俺は、ガイモンに船出の挨拶をしに行こうかと思ったんだが、ルフィはさっさと出航したいかもしれないな。


「よーし!! おれも船長として一言いってやらねェとな!!」

「アンタ、それじゃ喧嘩売りに行くみたいじゃない」

「ハハハッ!! イイぞ喧嘩売ってやれよ。俺と言いあってたから口は達者になったからな」


 結局二人も同行する事になり、道すがら、俺の事をイロイロと話しながら三人で、森の奥にあるガイモンの畑に向ったんだが、俺の事を話せと言った張本人のルフィは、俺の話そっちのけで珍獣達に大興奮だった。

 まぁ、イイけどね。ルフィがこういうヤツなのは分かってたし、微妙な表情でルフィを見る俺を気遣ってか、ナミは質問までしながら熱心に聞いてくれてるから。

 そうこうしている間に畑に着いたんだが、ガイモンは一度こっちを見たクセに、スルーしやがった。

 ガイモン、この十八年で俺のスルースキルを完全にモノにしたな?


「ココがさっき話したガイモンの畑だ。で、あそこでクワを振ってるのが「タワシ!!!? おい!! タワシがクワ振ってんぞ!!!?」……ルフィ、一ミリも話を聞いてなかったんだな?」

「お世話になった人は、宝箱から生えたタワシみたいな人だって言ってたじゃない」

「そっか、ありゃ人なんだな?」

「てめェコラ!!! どういう紹介のしかたしてやがんだ!!! もっとあんだろ!! こう……マリモとかよ」


 あまりの言いように思わずスルーを忘れてツッこんだみたいだが、ガイモン、マリモならよかったのか?

 残念ながら本家マリモヘッドが小船で寝ている事だし、その提案は却下させてもらおう。


「マリモは却下だ先約がいるからな。それよりガイモン、やっと出会えたみたいだ。一緒に夢を追いかけられそうな仲間と」

「ようタワシのおっさん!!「誰がタワシじゃコラァ!!!」もうそれはイイからよ、おれは船長として、タクミを貰い受ける挨拶に来たんだ」


 貰い受けるって、俺はお前に嫁入りでもするのかよ。


「そうか……まぁ、座れ。別れの盃だ。ついでに、おれのバカ息子が乗る船の船長ってヤツがどんな野朗か確かめねェとな」

「いつ俺がお前の息子になったんだ?」

「アンタ空気読みなさいよ!!!」


 俺のセリフにショックを受けたガイモンを見たナミに、強めにツッこまれたが、お前も空気を読んでくれ……照れ隠しだ。

 その後は俺とガイモンが酒を酌み交わすのを見ながら、ルフィはガイモンに興味津々な様子だった。

 さっきは聞いてなかったみたいだからガイモンをからかう意味も込めて、この島に俺が漂着してからのエピソードを語ってやったんだが、聞き終えたルフィの感想は、簡潔だった。


「タクミは珍獣のおっさんも守ってたんだな!!」

「ブッころすぞ!!」


 そんなこんなで喧嘩寸前のやり取りもあったんだが、その後に別れの挨拶をする時は、ルフィは笑ってた。ナミも笑ってた。俺とガイモンもやっぱり笑っていた。

 漫画で読んでたときには、ガイモンのことなんか表紙連載で樽娘と一緒に出てくるまですっかり忘れてたんだが…………今は、ガイモンのことを本当の親父だと思ってる。

 名前も覚えてない元の世界の親父、名前どころか顔も覚えてないこの世界の親父、生きてんのかなぁ? 何となく二人とも生きてる気がする。

 でも、俺の親父はガイモン。これまでも、これからも。

 だから、さよならは言わない。弁当を持って浜辺に出かけるときみたいに、振り向かないで、でもいつもより心を込めて、



「ガイモン゛……いっできます」



「あぁ……いっでこい゛、タクミ」



 ……またね…………親父。



〜Side ガイモン〜



 いつもなら昼の休憩が終わって、また訓練でも始めてる時間なのに、タクミが突然畑にやってきた。

 後ろからついてくる二人を見て、とうとうこの時が来たのだという事をおれは悟った。

 コイツ、タクミが世話になった人に挨拶をしたいなんて殊勝な事を言ってきやがったかと思えば、人のことを珍獣呼ばわりしやがって!!

 長い間待ち望んでただろうに、ふざけた船長の船を、タクミは選んだもんだ。おまけにタクミまで腹抱えて笑ってやがる。ライオンとのあいの子みてェなタクミのほうがよっぽど珍獣だ。

 まぁ、あれは俺のせいか、それなのにタクミは俺を攻めなかった。それどころか俺と今まで一緒に居てくれた。

 タクミは侵入者対策の罠の位置を注意したり、薬草の煎じ方なんかを紙に書いていたものを渡してくれたりと、最後まで俺の世話を焼こうとしていたが、伝える事がなくなったのか笑顔のまま歩き出す。

 だから俺も笑顔を返す。タクミは毎朝浜辺に出かけるときみたいに自然に、振り向きもしないで後ろ手で俺に手を振る。



「ガイモン゛……いっできます」



「あぁ……いっでこい゛、タクミ」



 ……泣いてんじゃねぇよ…………馬鹿息子。
 
 
 

-8-
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