小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ネガッ鼻”



〜Side ウソップ〜



「”予言者”って……それは大げさすぎだろ?」


”占い”の一言で済ますにはムリがある予知? 予言? みたいな事をやっておきながらタクミは平然としている。

けど、おれは見逃してねェ。タクミは一瞬だけ下唇を噛んで視線を下に外した。コイツがあんな仕種をしたのは副船長に指名された時以来だ。

あの時にはタクミの事がいまいち読めなかったけど、今なら解る……”ヤリ過ぎた”って顔だ。

嘘吐きのおれも大げさ過ぎる嘘を吐いて”こりゃあ流石にバレルかな?”って時には、あの仕種をやっちまってるっていうのを、ナミに指摘された事がある。

コレは予想外の事や後ろ暗い事がある時に、人間が自然にやってしまう仕種らしい。


タクミは一味で一番強い癖に、自分に利益が無い時は最前線に立たず、裏方に徹している節がある。

海賊の癖に高額の懸賞金が懸けられても喜ばねェのは、その理由と関係しているんだと、おれは思ってんだよな。

きっとタクミはできるだけ政府に目をつけられねェように立ち回りたいんだ。

だからタクミは、あれだけ強ェのに自分で海賊団を結成する気もなく、副船長なんかになるつもりもなかったんだ。

(キャプテン)・クロの時は、海軍と裏取引をする事が決まっていたから、クロと直接対決したんだろうけど、裏切られて結局は賞金首になったってのが真相だろう。


タクミの力は”占い”なんてシロモノじゃねェ。コイツはアラバスタで”お前は神に喧嘩を売るのか?”っておれに言ったんだ。

タクミは一味が空島に来る事を知っていた……そして爺さんが話していた”神(エネル)”ってヤツとこれから戦う事になるのを知ってると考えるのが妥当だ。

それは決して”占い”なんてモノで解るような事じゃねェ。


そんな力を持ってるタクミが、金に糸目もつけずに次々とおれに武器を作らせてる……未来を知った上で、タクミは何と戦おうとしているんだ??

……母親?……違うな。タクミが母親と会った時の驚き方はホンモノだった。母親の事をさっきまで忘れていたのは本当なんだろう。


「……タクミ……お前はいったい何と戦うつもりなんだ?」

「!!!?……何の話だ?」


タクミは今度はあからさまに動揺している。


「おれ達に何を隠してるのかって聞いてるんだよ」


核心にせまるおれの発言に、タクミは沈黙で返した……おれ達の事は利用するだけで、何も話すつもりが無いってェのかァ!!?


「隠すような事でもないんだし、皆に話してしまえばいいんじゃないの?」

「ロビン!!!…………まだ早いだろ」


タクミがロビンに声を荒げるなんて始めて見た……ロビンは真実を知ってるんだ。

そりゃそうだろうな。タクミがおれ達を本当の仲間として見てねェとしても、恋人のロビンは別って事だ。

いや、ロビンだけは本当に必要な、外せない駒なのかもしれねェ……ダメだ!! 疑い出したらキリがねェ!!


「ココまで楽しく航海してきたじゃねェか!!! おれはお前を疑いたくねェんだよ!!!……頼むから本当の事を言ってくれ」


重苦しい沈黙、タクミは何も語らない。

それでイイのかよ!!! おれが考える最悪の結末が、お前には見えてんのかよ!!!


「……じれったいわね。言ってしまえばイイじゃないの。長鼻くんの言う通りだって」

「どういう意味だい??」


ロビンに問いかけるサンジの声は、女に話しかけるときのいつもの口調だけど、ワントーン低い。アイツもタクミを疑ってるんだろうな。

ロビンはタクミに視線を送るが、タクミは小さく首を横に振るだけで何も答えない。そんなタクミに呆れたみてェで、ロビンはおれ達に視線を向けて話し出した。


「タクミはただの”占い師”じゃないわ。かなり的中率の高い”予知夢”を度々みているのよ。”占い”と違って外れる事も多いから、皆には黙っていたの。”占い”で確証を得られていないのに、”予知夢”の情報だけで進言した事が何度かあるから、後ろめたく感じていたってだけ」

「”予知夢”?? あんなに正確な??」


「そう。皆も気にしないでしょ? 実際タクミはその情報でこの船を導いてきたんだから。だから長鼻くんの言うとおり”予言者”って呼び名は間違っていないわ」

「なるほどな。それなら今までの事がイロイロと納得がいく」

「そうよね!! ”占い”にしてはまるでその場を見ているかのような言い方が気にはなってたのよ」

「ええ、わたしがこの船に乗るって未来は見えてなかったみたいだし”予知夢”が正確じゃないから隠してたのも解るわ」

「タクミは完璧主義ってことだな!!」

「タクミがいい加減な事言うわけねェだろ? おれが選んだ副船長なんだ!! タクミに任せときゃいいんだよ」


ロビンの説明で皆があっさりと受け入れてくれて、タクミは安心したような表情になった……って皆には見えるんだろうな。

誤魔化されねェよ。タクミはロビンが話し終わる前に安堵の表情を浮かべてた。アレはロビンが余計な事を言わなくて良かったて反応だ。

ロビンはおれの質問に全部は答えてねェって、ナミやゾロなら気づくハズなのに…………タクミがナミに優しかったり、ゾロと毎晩仲良く酒を呑んでるのはこの為??

一味の中で鋭い二人を懐柔して、疑われにくくするのが目的…………考えるな!! ポジティブに考えれば、タクミは未来の戦いにおれ達を巻き込まない為に黙ってるって考えもできる。

ロビンにまだ早いって言ったのはいつか言うつもりだって事だ……それがおれ達に見切りをつける時の事なのか、それともおれ達に決意が出来た時の事なのか、今はまだ解らねェ。

サンジはロビンの説明で納得いってない感じだから、おれとサンジが最後の砦だ……おれは、タクミと戦いたくはねェ……けど、いざって時にタクミをなんとか出来るのは、一味の中で多分おれだけだろうな。

タクミの武器に仕込みをすれば一発だ……準備だけはしておく……タクミ……おれにソイツを使わせないでくれよな。



〜Side タクミ〜



……焦ったぁぁあああ!!! 俺がロビンの為に世界政府と戦うつもりだってバレるかと思った!! ルフィやゾロはともかく、ウソップみたいなビビリにはまだ早いっての!!

そういえばロビンには”予知夢”なんてあんなデタラメな説明した事があったな。全く心臓に悪いったらないぞ。

ウソップはおそらく、俺のアラバスタでの発言を”予言者”としての言葉として受け取って、不安になってるんだろうな。

皆は”予言”ってとこに衝撃を受けてただけだから、今は和やかな雰囲気で空の海を航海してるけど、ウソップは今も浮かない表情だ……フォローしとくか。


「ウソップ、本当に”神(エネル)”と戦うのか? 相手は雷人間なんだから、ゴムのルフィに任せた方が「おれがやる……黙って見ててくれ」……わかった。そこまでの決意ならもう止めない。直前になってピノ〇オっぷりを発揮したり……おーい、ウソップ??」


ウソップはツッこみもせずに船内に入ってしまった。空の海に興奮する事もないなんて、相当切羽詰ってんな。まぁ、天才ウソップは神殺しの兵器開発で忙しいんだろうし、放っとくか。

ガン・フォールの話では向こうに見える滝の所に、”スカイピア”への入り口があるらしいんだが、


「舵をとるのが面倒だな。皆退いてくれ!! ゾロ、俺が右の雲を斬るから、ゾロは左を頼む」

「はあ? 何言ってんだ? だいたい斬るったってまだ距離があるぞ?」


「面倒だから両サイドの雲をぶった斬って直進するんだよ。ゾロも、もう使えるんだろ? 飛ぶ斬撃」


俺の発言にゾロは一瞬驚いた表情をしたが、小さく笑った。


「予言者様の前ではプライバシーなんかありゃしねェな。見せてやるよ。おれの飛ぶ斬撃を」


そう言ってゾロは船首の右側に立つ……せめて右と左は判別出来る様になってくれ。

ツッこむのも面倒なので、俺が左の雲を担当する事にした。俺が位置についたのを確認してゾロが構えをとる。


「一刀流……”三十六”……!!! ”煩悩鳳(ポンドほう)”!!!!」

「……「嵐脚 極線(ゴクセン)」!!!」


俺とゾロの斬撃は見事に雲を斬り崩し……完全に道を塞いだ……斬り崩しても沈みはしない訳ね。


「……ゾロ、その技は溜めが長すぎてまだまだ実践向きじゃないな」

「……ああ、もっと素早く放てるようにならねェとな」


「「…………はぁ」」


二人して溜息を吐いた俺とゾロの後頭部を強烈な衝撃が襲った!!!


「『はぁ』じゃないわよ!!! アンタ達なに余計な事してくれてんのよ!!!」


……ウソップ不在だとナミがツッこみなのか……戻ってきてくれウソップ!!! ナミのツッこみは強烈すぎる!!

久しぶりに食らったが尋常じゃないぞ!!?……ゾロは大丈夫なのか? 頭が”バキャッ!!!!”ってなってたけど……何とかしないと、そのうち死人が出るな。


「悪かったよ。銛を射ち込んで移動させるから、ちょっと待っててくれ」


俺は斬り崩した雲を移動させて、そのままナビゲーターになった。”天国の門”には無事に着いたけど、余計に時間が掛かっただけだったな。

”天国の門”に到着すると直ぐに、梅干みたいな婆さんが出てきた……勝手に写真を撮るなよな。


「観光かい? それとも……戦争かい? どっちでも構わない。上層に行くんなら入国料一人10億エクストルおいていきなさい……それが「法律」」

「90万ベリーか。ガン・フォールさんの言ってた通りだな。払っとけよ……取りあえず」

「全く!! 入国するだけでこんなにお金を取るなんて!! はい90万ベリー!!! コレでいいんでしょ!!! 払った分しっかり観光させて貰うわ!!!」


ナミは本当に渋々といった感じで梅干の婆さんに金を払った。


「チッ!!…………観光を楽しみな」

「何なのその態度!!? お金払って舌打ちされるなんて!!!」


梅干の婆さんに掴みかかろうとするナミを何とかなだめて……


「「特急エビ」……9名様ごあんな〜い」


全くやる気の無い梅干ババァの声を合図に、俺たちの船は雲の滝を登り始めた。
 
 
 


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後書き



どうも、作者の羽毛蛇です。

『百獣の王』、楽しんでいただけておりますでしょうか?

今さらな説明なんですが、()で囲んでいる部分は直前の言葉にルビを振っていると思って下さい。
『ONE PIECE』ではルビが多用されているのですが、使えないという事なので、苦肉の策です。
読み難いかもしれませんが、ご了承下さい。

話は変わりますが、ココから10話の間、移転元で大変な顰蹙を買った”ウソップ・スーパーネガティブタイム”が発生します。
移転を機に、全面改訂してしまおうかとも考えたのですが、私なりに懸命に練ったストーリー展開でしたので、部分修正はしますが、大筋はそのままでいく事にしました。

一つの山場として用意してあるシーンもありますので、広いお心でお付き合い下されば幸いです。

コメント・評価、お待ちしております。
 
 
 

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