”後悔”
〜Side カルー〜
「は〜、こんな状況だっていうのにアンタはのん気なもんね」
変なエビに船ごと連れ去られて、台の上に置いてかれたっていうのに、姫は鼻歌を歌っている。
「そりゃあ当然さ!! ”騎士”が居るんだからな!! 心配なんて必要ないさ!! さあ、ナミさん!! 不安で堪らないのなら、おれが抱きしめてあげちゃうよ〜〜♪」
「うっさい!!!」
グルグルがオレンジに殴られて、鮫がウヨウヨ泳いでいる雲の海へと飛んでいった……一味がこんなアホばっかりだから……
「良く考えたらビビはあの時、一人で簡単に逃げ出せたんじゃないの? まさか、わたし達を守る為にワザと捕まったとか!!?」
「わたしはゾロが必ず助けに来てくれるって信じてるから、ココで大人しく待ってればイイのよ♪」
……姫までアホになってしまったんだ……この状況、どうしたらイイんだ?
「はいはい、お姫様はマリモの国の王子様に助けられたくてココにいるのね……ねえカルー、カルガモなんだから泳いで助けを呼びに行って来てよ。場所が解らないんじゃアイツらだって助けに来ようがないわ」
「クエーッ!!(ムチャ言うなァ!!)クエッ、クエッ、クエッ、チョークエクエェェ!!! クオッ!!(おれはカルガモと言ってもアラバスタの誇る超カルガモだぞ!!! 泳げてたまるかァ!!)クエェェ!! クエクエ、クックエー、クエ、クエクエェェエ!!!(だいたいな!! タクミなら放っといても占いでココまでやってくるし、そこら中に鮫がいるだろーが!!!)」
「・・・今、”超”って言わなかった!!? チョッパー、カルーは何て??」
「『バカな事いうな!! 超カルガモはカルガモとは違うのだよ!!! カルガモよりダチョウに近いんだ!! お前はアホか!! タクミなら占いでココなら探すし、鮫がいるのに行けるって言うならお前が行け!!!』だってさ」
「クエッ!!?(チョッパー!!?)クエクエ、クークエクエッ!!?(おれはそこまでケンカを売ってないぞ!!?)」
チョッパーの翻訳はニュアンスだけ聞き取って、自分の言葉で話すからこんな事が過去にも数回あった。
最近は姫や皆が構ってくれないし、ニュアンスだけならタクミも理解してくれるからタクミの傍にいることが多くて、チョッパーに翻訳を頼むこともなかったのに……
「へー、アホ?? わたしの事そんな風に思ってたんだ? このか弱いわたしに鮫の中に飛び込めって言うのね?……覚悟はできてんでしょうねェ!! トリィィイイ!!!」
「グエ゛ェェェエエエエ!!!(ギャァァァアアアア!!!)」
おれがグルグルと同じめに遭ってるのに、姫は妄想中だ……おれはもう二度と喋りたくない。
〜Side ロビン〜
長鼻くんに頼んでいたタトゥーを、今日はラインだけ彫ってもらったんだけど、背中がヒリヒリするわね。
彫ってる間は、リズム良く彫り進める彼の腕の良さもあってか何とか耐えられたんだけど、身体のラインにフィットした私の服じゃ、常に背中に不快感を感じてしまうわ。
長鼻くんの話では完全に瘡蓋が出来るまで約一週間、その間は一日に最低二回は消毒をしないといけないらしい。
『毎日その背中を見てるのはおれの理性が耐え切れねェよ。消毒はナミかビビに頼んでくれ。瘡蓋が自然に剥げたら色を入れるからその時は教えてくれよな』って長鼻くんが言ってたけど、タクミだけじゃなくて航海士さん達にも知られたくないし、鏡を使えば私の能力でそれくらい出来るわよね。
背中の痛みは苦痛だけど、タクミと離れてもコレで私は大丈夫。
そんな事を考えながら後ろを歩く彼に視線を送ると、ずっと私を見ていたのであろう彼と眼が合った。
些細な事だけど、そんな必然に、彼の愛を感じて、私は背中の痛みを少しだけ心地よく感じてしまう。
そういえば長鼻くんは施術の前に、タクミの事が本心で好きなのか? とか、タクミから愛を感じるか? とか、恥ずかしい事を聞いてきたけど、どういうつもりだったのかしら?
タトゥーを彫る意味も聞かれたけど……言えないもの。このタトゥーが完成したらコレを背負って船を降りるつもりだなんて。
根っからの技術者の彼は、そんな事には興味が無いと思ってたんだけど、そういえば、長鼻くんは故郷のお嬢様とイイ感じだってタクミが話してたわね。
女性の気持ちを知りたかったって事? 悪い事したわね。恥ずかしかったから適当に濁してしまったわ。
……そういえば……
「何となく先頭を歩いてしまってたけれど、どこに向かえばイイの?」
「長ェよ!!! 今さら言うなよな!!!」
剣士さんにツッこまれてしまったわね。黙ってついて来ていた皆も同罪だと思うんだけど……
「ロビンも”ファンタジスタ”にだけは言われたくなかっただろうな」
「意味わからねェこと言ってんじゃねェよ!!!」
「残念ながらお前には”迷子の相”が出てる。しかも、これからどんどん悪化していくからな。最早病気と呼べるレベルだ」
「未来の事で人をバカにすんな!!!」
剣士さんは憤慨しているけれど、タクミがそう言うのなら彼は本当に迷子になり易いんでしょうね。
「あー、何れ証明されるから、そんなにがなるなよ。ラブリー通りを西に抜けたら船着場があるから、そこから”生贄の祭壇”に行けるよ。偶然だけどこの道で「”生贄の祭壇”ってのは何だよ」……ウソップは部屋に篭ってて聞いてなかったのか? ”超特急エビ”に連れ去られたんなら行き先は”生贄の祭壇”だけだってパガヤさんが言ってただろ?」
当然のように語るタクミに、今度は剣士さんが怪訝な表情を浮かべる。
「ちょっと待て……あのおっさんやコニスって女は、お前と一緒に出て行ったっきり戻ってきてねェぞ??」
……どういう事?? 剣士さんが嘘を付いてるようには見えないけど。
「お前の”予知”は一部外れたって事じゃねェのか? ナミ達が攫われるのは解ってた。どこに攫われたかはおっさんが説明するハズだったのに、その”予知”は外れちまった……違うか??」
長鼻くんの言葉は自信に満ちていて、それを聞いた私たちの空気は少し冷たいモノに変わった。
でも、タクミは気にした様子も無く説明を始める。
「そういう事か。ロビンが言っただろ? 俺の”予知夢”は外れる事もあるって。今回はワザと外れるように仕向けたんだけど、避けきれなかったんだよ」
「どういう意味だ?」
「俺の”予知夢”では入国の時にナミが金を払うのを渋って、俺たちは不法入国者のレッテルを張られたんだ。それで、”天の裁き”とやらを受けさせられるって未来だったんだが、どうやら理由がなくても裁かれる運命だったって事だな。”天の裁き”の説明はパガヤさんがしてくれるハズだったし、攫われるメンバーも俺の”予知夢”とは違うんだよ」
そうよね。彼が、仲間を攫われる未来をそのままにするなんてあり得ないもの。
「……ったく、お前は言葉が足りねェってこの前言ったよな?? 回避できる未来の危険を言う必要がなかったってのは解るけどよ、そういうことはちゃんと言え。危険を回避できたと思って油断して、買い物してる間に仲間が攫われえてたんじゃ意味ねェだろ」
剣士さんは完全に呆れてるわね、無理もないわ。タクミは何でも一人で背負い過ぎなのよ。
「梅干のばあさんが金払ったのに舌打ちしたのは、おれ達を裁く理由がなくなるからか?」
「……おー!! ルフィにしては冴えてるじゃないか!! その通りだよ。金を払うのが「法律」だって言っておきながら、払わなくても通るのを止めないってのが神の戯れだ」
「もういいだろ? さっさとアイツらを助けに行こう。船着場に行こうじゃねェか」
「……剣士さん?……そっちは今きた道よ??」
偶に外れる事があったとしても、やっぱりタクミの占いは信頼できるわね。
〜Side タクミ〜
バタフライ効果怖っ!! まさかパガヤが説明してないとは思わなかった。
今回は落ち着いて説明出来たから大丈夫だろうけど、今後は不用意に原作知識を出すのは止めておいた方がイイな。
「タクミ!! 絶対「玉」だよな?? ゾロが「鉄」に行きてェってうるせェんだよ」
イロイロとゴタゴタはあったが、俺たちはレンタル船で”試練”の門の前までやってきた。
……「玉」ってアレか。『ほほーい』とか言うヤツのとこだよな。アレって玉が多すぎてロビンが危ないんじゃないのか?
「鉄」は最強の神官がいてトラップだらけのハズだし、問題外だな。
「どっちもダメだ……「紐」にしとけ。多分雑魚がいるから」
「えー!!? 「玉」の方が楽しそうじゃんか……よし! 「玉」に行くぞ!!」
「聞く気ねぇのかよ!!!」
俺の意見は却下されて「玉の試練」に行くことになるのかと思えば……
「おい!! ウソップ!? 「玉」だって「玉」!!! もっと右だよ!! 早くしねェとぁぁぁあああ……「玉」……」
曲がりきれずに「紐」の試練に入って行った。
「悪ィなルフィ!! まだ操縦になれてなくてよ。イイじゃねェか「紐」でも!!」
そう言ってウソップはこっちをチラッと見てきた。さっき疑ったお詫びって事で、ワザと「紐」にしてくれたんだろう。
「みんな衝撃にそなえるんだ!! いきなり落下するかもしれないからな。あくまで可能性の話だが」
「な!!? お前な!! 先に言えとは言ったけど、無駄に不安を煽るんじゃねェよ!!!」
「落ちるのか!!? 「紐」ってバンジージャンプの事かよ!!! それなら「紐」も楽しそうだな!!」
騒いでるゾロとルフィは放っといて、俺は万全を期す為に、いつものようにロビンを抱きかかえようとしたんだが……
「っ!!……大丈夫よ。能力で身体を船に固定しておくから」
軽く抱きしめた瞬間に拒否されて、ロビンは俺から離れてしまった。
何で!!? そこで”引く”なの!!? そんな事されたら俺の決意が折れるよ!!?
ビビの言ってた話は本当なのか!!?
「…………落下しねェじゃねェか。バンジーだって言うから納得「うるさいな!! 「玉」は確実に落下ルートだったんだよ!! コードレスバンジーがしたいんなら一人で引き返せ!!」……そんなに怒らなくても」
ルフィに大人気ない八つ当たりをしていると、鳥の羽ばたく音と共に、耳障りな笑い声が聞こえてきた。
「カハハハハ!!! おれの試練を選んでくれるとは嬉しいな。青海の盗賊諸君!! ここは”束縛の森”生存率3%……”紐の試練”!!!」
「”束縛の森”??……てめェは誰だ!!」
鳥に乗ってやってきた偉そうな男に対して、ゾロは警戒心剥き出しだな。でもコイツは”神官”のクセに雑魚だったハズだぞ? 誰にやられたかは覚えてないが、サバイバルで真っ先にやられてたヤツだ……ただ、乗ってる鳥は嫌いじゃないな、なかなかカッコイイ見た目をしている。
ライダー風の格好をしたガン〇ムみたいなヒゲの男は、俺たちを観察するように見渡して、ロビンのところで眼を止めてニヤニヤしている……死にたいのか? 雑魚キャラの分際で!!!
「おれの名は「シュラ」!! ”全能なる神・エネル”に仕える”神官”の一人だ!!! この試練はただの一本道、無事に通り抜ければ”生贄の祭壇”へと辿り着けよう」
「それで? 素直に通らせちゃくれねェんだろ?」
なんかウソップがいちいちカッコイイんだけど、このテンションがエネルまでもつのか甚だ疑問だ。
「そうだな。ここで船ごと沈めてやってもイイが、それではオモシロくない。五分間……逃げてみるか? おれはココから動かない」
ニヤニヤ笑いながら(特にロビンを見て)提案してくるエロヒゲ、じゃなくてシュラ……コイツ本当に性格悪いな。
「その必要はないな、五分間逃げてる間に「紐」が絡まって身動き取れなくなるんだろ?」
そこらに薄っすらと見えている”紐雲”をサバイバルナイフで切りながら告げる俺を、シュラは驚愕の表情で見ている。
「初見で”紐雲”を看破したヤツは始めてだ……お前の相手は少々骨が折れそうだな」
「ウソップ、気合入ってるとこ悪いんだが、コイツは俺が潰す……ヒゲぇ!!! ロビンを変な眼で見てんじゃねぇ!!!」
俺は正面からシュラに六発の銃弾を放ったが、シュラはコレを見切った。
いくら雑魚でもコレくらいは避けるのか……いや、シュラじゃなくてあの鳥の力か? 機動力が半端じゃない。
「凄まじい弾速だな。青海の!!? ック!!……」
会話の暇なんか与えるつもりの無い俺は、素早く人獣形態になり「剃刀」で背後を取る。そのまま「咬 指銃」を首に放つが、コレも見切られた。
「……「心網」か!!?」
そういえば”神官”も使えるんだったな。まあ、予測しても反応出来ないスピードで攻撃すればイイだけの事だ。大した問題じゃない。
「知っていたのかっ!!?……って喋ってる最中ばかり狙うとは卑怯なヤツだな!!!」
「心網」の説明でもしてくれるつもりだったのか一瞬だけ隙が出来たシュラに、真上からの「嵐脚 乱」を放ってみたんだが、コレでもダメか。こうなったら手は一つだな。
「空中じゃそこまでスピードが出なくてな。悪いな……」
俺の二丁拳銃がシュラの乗る鳥に狙いをつけると、ヤツは途端に慌てだした。
「よ、止せ!!! ヤメロ!!!」
当然ながら鳥が「心網」を使えるわけでもないし、デカい鳥への狙いを避けるには、今までより2テンポは早く指示を出さなければならないハズだ。
今までの紙一重の避け方を見れば、シュラにその余裕は無い。
「……心配するな。ただの麻酔弾だから体が痺れても死ぬ事はないさ……その鳥はな」
シュラはこの場からの一時離脱を試みているみたいだが、直線的な動きなら補足するのも追いかけるのも容易い。
背後から一直線にシュラに近づき狙いを定める。身体にまとわりつく”紐雲”が気になるが、コレくらいの本数なら問題ないだろう。今ならシュラを直接狙っても当てる事もできそうだが、それじゃ俺の気が収まらないんだよ。
「”麻痺弾”!!」
完全に追いついて、真上からシュラを掠めるように射ち込まれた銃弾は、鳥の巨大な両翼の付け根に命中した。
被弾した鳥は、最後の抵抗に口を大きく開いて……炎!!? ”炎貝”を仕込んでやがったのか!!?
突如として眼前に迫り来る炎を、俺は寸前のところでかわして、鳥の背中を「嵐脚」で袈裟に切りつける。
一声だけ細く鳴いて、鳥は力尽きたように大地へと落下していった。
「フザ!!! クソッ!!! おれの友を傷つけるとは、覚悟は出来ているのであろうな!!!」
フザ(それが鳥の名前なんだろう)の隣に着地したシュラは、可笑しなことを言ってくる。
自分が当たらないように、フザに当たるのを承知で斬撃を避けたり、口の中に”炎貝”を仕込んでたくせに友を語るとは、呆れたヤツだ。
「弔い死合ってか??「フザはまだ死んでなどいない!!」…… 構わないぞ……第二ラウンドだ!! 今度はその自前のチンケな羽で飛んでみろよ!!!……悪魔と……踊れ!!!」
渾身の「剃」で背後に回り、背中に生えた羽を両手の「咬 指銃」で根元から肉塊ごと抉り抜いた。
先ほどとは桁が違う、大地を駆ける俺の脚力の前に、シュラは振り返る事すらかなわなかった。
「ゴフッ!!!……」
「アクセサリーかと思っていたんだが、本当に生えてるんだな」
背中と口から、明らかに致死量を超える量の血を噴き出したシュラは、もうその眼を開ける事は無かった。久々にこの技を使ったが、心臓まで達していたのか?
その傍らで、徐々に精気が失われていく主を見て、フザは力なく首だけを動かし、俺に炎を吐こうとしてきた。
”麻痺弾”を2発も撃ち込まれていながら、まだ動けるのか!!?
あんな扱いをされていたのに主人の敵を討とうとしているのだろう……コイツは死なせてはいけないな。
「止めろ!! お前の主人は死んだんだ!! 半日もすれば動けるようになるから、お前は自由に生きろ!!」
俺はフザに語りかけ、その炎を、嘴を掴んで防ごうとしたのだが、それに構わず無理やり炎を吐こうとしてくる。
鼻腔から僅かな煙を出し、自らに仕込まれた炎にその身を内から焼かれ、最後の力を振り絞るようにしてシュラの死体に首を預けて、フザは永遠の眠りについた。
「どうしてそこまでするんだ!!? 俺はお前を殺すつもりは無かったんだぞ!!?」
動物を狩ることなんか、俺にとっては日常の事なのに……
最後まで主人に仕えようとしたフザの死に様に、俺は珍獣島で俺に懐いていた動物達の事を思い出して、やりきれない気持ちになった。
「タクミでも後悔したりするんだな」
「後悔?……」
後ろから不意にかけられた声に振り向くと、声の主であるルフィと、ウソップが立っていた。
「……先に進んでたんじゃなかったのか?」
「お前の戦いが気になったからおれ達は残ったんだ。一本道だし船にはゆっくり進んでもらってるから、簡単に追いつける」
ウソップは淡々とした口調で俺の疑問に答える。いつもと雰囲気が違うな。
「そうか。俺は、後悔なんかしていない。仲間を、守る為には……仕方なかったんだ」
「そんな自分に言い聞かすみてェに言ったってどうしようもねェよ。お前、泣いてんじゃねェか」
ルフィの言葉に驚いて眼を擦ると、俺は確かに泣いていた。
「ははっ、情けないな。”殺す覚悟”なんてモノを偉そうに語っておきながら……」
シュラにはあっただろう、”殺される覚悟”が……でも……
「その鳥にだってあったと思うぞ。死んでもソイツを守るんだって覚悟が。お前はその鳥の覚悟を、ずっと忘れないでやればイイんだ」
「っ!!?…………そうだな。お前に教えられる事があるとは思わなかったよ……ありがとう……ルフィ」
「気にすんな!! おれは船長だからな!! 一味を背負う覚悟があるんだ!!」
原作よりもちょっと早いルフィの成長に…………いや、おれはいつまでルフィを”キャラ”として見てるつもりだ。
ルフィだけじゃない…………皆、一人の人間なんだ。
自分の気に入ったヤツの事は人間として扱うクセに、それ以外のヤツや敵の事を、俺はずっと”キャラ”として見ていた。
敵を殺す時には、原作に影響が出るか出ないかだけを判断基準にしていたんだ。
シュラにフザがいたみたいに、俺が殺してきたヤツにも、ソイツを大切に思う誰かがいたかもしれない。
そんなヤツらを、技の実験なんてくだらない理由や、単なる八つ当たりで…………俺は殺した。
…………”海賊なら殺される覚悟があるハズだ”そんな言い訳を用意して…………俺は殺した。
考え出したら後悔しか浮かんでこない。ルフィはこんな俺の薄っぺらい言葉を真剣に受け止めて、自分なりに理解して、俺を励ましてくれている。
それが当然のことのように、ルフィは一味の全てを背負おうとしているんだ。
「ルフィは強いな…………俺は最低の人間だ」
ようやく絞り出した俺の言葉に、二人は何も答えなかった。