小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”苦労人”



〜Side ゾロ〜



「ルフィさん達、ちょっと遅くないかしら?」


”神官”と戦うタクミと、タクミが心配(本当の理由はおそらくただの野次馬)で残った二人を置いて、おれとロビンは”生贄の祭壇”に先行したんだが、おれ達が”生贄の祭壇”に到着して10分以上経っても、タクミ達はまだ帰ってこない。いくらなんでも遅すぎやしねェか??

ロビンの見た目や服装なんかのせいで、ある程度は男としてしょうがねェとはいえ、あの”神官”のロビンを見る眼は、おれでも嫌悪感を感じるほどだった。

それをおれ以上に感じ取ったであろうタクミは、完全にぶちキレていたからな。それはあの”神官”の死亡確定通知だったハズだ。

タクミに相手を嬲るような趣味はねェから、おれの見立てでは戦闘は長くて三分程で終結したハズなんだ。

……何か不足の事態が発生したのか?? あのタクミを止めるような異常な事態が……敵はそこまでのヤツには見えなかったんだが……


「ゾロ〜〜?? 聞いてる??」

「ああ、確かに遅ェな……ロビン!! タクミ達を迎えに戻らねェか?……」


てっきりタクミを心配して、また可笑しな行動でもとってると思っていたロビンが、チョッパーを抱えながら祭壇を観察するのに夢中になっているのを見て、おれは拍子抜けした。


「え??……どうしてかしら??」


振り返ったロビンは、意味がわからないって表情で、おれに聞き返してくる。


「『どうして』って、遅すぎんだろ? 何かあったのかもしれねェじゃねェか」


ロビンはいつも通りの微笑を浮かべ、ちょっと小バカにするような口調で返してきた。


「剣士さんって、意外と心配性なのね。毎晩仲よさそうに呑んでるし、彼のこと狙ってるの?」

「えーーー!? ゾロってそうなの!!? 嘘よね!!!?」


……ビビは若干ホンキで受け止めているように見えた。


「アホかァ!!! おれはおめェが心配してると思って、付いてってやろうかと思っただけだァ!!!」

「知ってるわ♪」


……この女……いつか泣かす!!!

タクミに知れたら命のやり取りが発生しそうな事を考えていたら、ロビンは楽しそうに話し始める。


「タクミは私の為ならきっとなんだってするし、なんだって出来るわ。心配する必要なんてないの。むしろ、危ないところに戻ろうとなんかしたら、彼から怒られるでしょうしね。彼を信じてココで待つ、それが今の私の努めなのよ♪」


ただのノロケにも聞こえるが、そこにあるのはタクミへの絶対的な信頼……おれはタクミの言葉を疑ったって事か。

そういやロビンは、ルフィ達が船から飛び降りたときも、少しも心配した様子がなかったな。

いつの間にかおれとタクミの絆より、タクミとロビンの結びつきの方が強いモノになってたんだ。

少しだけ寂しいような気もするが、ここまで自分を信じてくれるロビンを、好きになったタクミの気持ちがわかった。


「……イイ女だな、お前」

「フフ、ありがとう」


思わず口にした滅多に言わねェおれの言葉に、ロビンはサンジに返すみてェな平常運転で祭壇の調査に戻った。

タクミ以外の言葉は全て同じって事だ。多分タクミも、他の女に対しては似たような対応になるんだろうな。

盲目的とすら言えるような相手への想い……おれはそういう関係を少しだけ羨ましく思った。


「なっ!!? ゾロってそういうこと言うようなタイプじゃ……まさか本気!!? いや、でも、ロビンさんが相手って……勝ち目が……ココはタクミさんを更に嗾けて、さっさと……」


……聞こえてるぞ?? おれじゃタクミ相手に勝ち目がねェから、二人の仲をさらに進展させてさっさと諦めさせようってか??

最初からそんなこと考えてねェってのに、コイツはお節介が好きだな。


「おい、思考がダダ漏れだぞ。何を勘違いしてんのか知らねェけどな、おれはロビンを好きだなんて一言も言ってねェからな。他人のお節介ばっか焼いてねェで、ちったァ自分の修行でもしろ」

「わ、わかったわ」


安心したような(?)表情で、ビビはおれから離れて行ったんだが……


「……顔は好みじゃないって事?……ならわたしにもまだチャンスが……「生命帰還」……早急に極めて……そうすればきっと……」


……だから聞こえてるって…………!!!? は? 今の独り言の内容からして、ビビはおれの事が好きなのか!!?

後半は正直いって意味不明だったが、そういう事なんだろうな。そういや最近になってやけに話しかけてくるようになったし……おれもタクミのこと言えねェくらい鈍いな。

大剣豪になる夢を果たすまで、くいなに義理立てするわけじゃねェけど、おれはそういう事は考えねェつもりなんだけどな……タクミとロビンが羨ましいとか考えといて、今さらな気もする……まぁ、ゆっくり考えてみるか。


「おーい!!!」


自然と微笑しながらそんな事を考えていると、ロビンの言葉を証明するかのような、明るいルフィの声が届いた。

獣形態のタクミがルフィとウソップを乗せて、こちらに向かって空を駆けてくる。


「ね。心配する必要なかったでしょ?」

「あぁ、そうだな。その信頼関係が羨ましいよ」


後ろからロビンに声をかけられて、おれは素直な気持ちを返した……今日のおれはらしくねェな。


「フフ、またまたありがとう」


笑顔を浮かべたロビンは、タクミが降り立つであろう階段の方に、意味深な言葉を呟きながら歩いていく。


「……(もうすぐ壊れる関係だけどね)……」


……だから……聞こえてんだよ!!!

何だ!? どういう意味だ!? タクミ(あのバカ)は破局する事まで占って律儀に伝えやがったのか!?

……んなわけねェよな。はぁ、独り言なら周りの人間に聞こえないように言えよ。ビビよりはマシだったけど、小声で言おうが聞こえるもんは聞こえるんだ。

相談されりゃあ話は聞くけどよ、こんな形で聞かされて、おれにどうしろってんだ。


「何だ? ゾロも悩み事か!? よーし、船長のおれに話してみろ!!」


おれが頭を抱えているとルフィがやってきたんだが、その能天気すぎる聞き方には、話す気が欠片も起きねェ。


「お前に話して解決するんならな、この世に悩みは存在しねェよ」

「しっけいだな!! おれはタクミの悩みだって、さっきボンヤリと解決したんだぞ!!!」


ルフィは憤慨したようにおれに反論してきたんだが……タクミの悩み? それが遅くなった原因なのか?

ボンヤリと解決したってのはいったい……そういう事か。タクミのヤツ、ロビンが出迎えてくれたのに何か煮え切らねェ表情だ。

おれはルフィを放置して、話をしている二人のもとへと向かう。


「何で遅くなったんだ?」


おれの質問に、タクミはロビンとの会話を止めて、僅かに視線を落として答える。


「墓をな……作ってたんだ」

「墓ァ??? なんでまた?? あの鳥は食うんじゃねェのか?」


コイツが”神官”の墓を作ったとは思えねェから、最初から鳥の墓だとあたりをつけて質問してみた。


「あの鳥……フザは戦士だった。最後まで主に仕えようとしたフザを、おれは獲物として扱う事は出来なかったからな。シュラと一緒に埋めてきたよ」


タクミはまるで、殺してしまったことを後悔しているかのように、拳を握り締めて下を向いてしまった。


「そうか」


予想外のタクミの落ち込みように、おれはかける言葉が見つからず、短い返事を返して、後はロビンに任せる事にした。

あの場合はロビンに任せるのが得策なんだろうが、どうしても気になったからその場にいたウソップに聞いてみた。


「ウソップ、”神官”との戦いでタクミに何かあったのか?」

「……ゾロもあっさり騙されやがって……アレがタクミの手なんだよ。ったく……」


ウソップは呆れたような表情で、わけのわからない事を言いながら去っていった。

……は? 何なんだ今日は!!? おれの脳をパンクさせてェのか!!?

タクミの手?? ウソップは何が言いてェんだよ!?……ロビンに構って貰いたくて落ち込んだフリをしている?

違うな。タクミはそこまでアホじゃねェし、ウソップの表情には呆れ以外にも僅かな嫌悪感が見て取れた。

だとしたら…………皆目見当もつかねェな。


「はぁ……不幸だ」


一味に流れる不協和音を感じたおれはひとり溜息を吐く。

コレだけ人を悩ませておきながら、おれの呟きを聞いたヤツは多分誰もいない。
 
 
 

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