小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”崩壊への序曲”



〜Side ウソップ〜



”生贄の祭壇”に連れ去られていた人質組と合流したおれ達は、この島が”ジャヤ”の片割れであり、かつての黄金都市は、この片割れの島にあるって事をナミから説明された。

満場一致で黄金探しをする事は決まったんだが、夜に敵陣で動くのは危険だというタクミの判断に皆が従って、おれ達は祭壇近くの湖畔でキャンプの準備をする事になった。

夕食後にキャンプファイヤーがしたいってルフィの要望に応える為に、タクミは気乗りしない様子で組み木を用意している。

そんな様子を確認したおれは、一人でシチューを作っていたサンジに、タクミに対する自分の考えをある程度話してみた。


「……いや、それはいくらなんでもお前の考えすぎだろ。アイツはそこまで腐っちゃいねェし、少なくともロビンちゃんとタクミの関係は、クソムカつくけどホンモノだと思うぜ?」


……サンジもダメか。あの時のロビンの説明に納得いってないみたいだったから、賛同するようなら仲間に引き込もうと思ったんだけどな。

コイツは”タクミが占いでわかっている小さな不吉を、直前まで教えずに楽しんでる”って程度の事しか考えてなかったみてェだし、タクミを毛嫌いする理由は、単なる嫉妬っつーか逆恨みみてェなもんだろうな。

実際タクミとサンジは仲間になって早々にナミを理由に喧嘩(サンジが一方的に突っかかっただけ)してたけど、戦闘や専門分野(狩りと料理)では信頼関係が出来ている。

一度仲間だと思った相手を根っこから疑えってのは、やっぱり難しいのかもしれねェな。おれが一人でケリをつけるしかねェのか……


「おいウソップ、顔が怖ェよ!!……お前なァ?? さっきのはマジで言ってんのか!!?」

「……確かにおれの考えすぎかもな。どうもおれは深く考え出すとネガティブになりすぎていけねェ、忘れてくれ!!」


「ウソップ?? どこ行くんだ?? おい、もうすぐシチューが出来るからな!! すぐに戻ってこいよ!!」

「すぐに戻るから先に食っててくれ!! 期待してるぜーー!! 空島シチュー!!」


おれは困惑気味なサンジをいつもの態度で誤魔化して、一味の皆から離れた場所に腰かけ、もう一度自分の考えを検証していくことにした。



タクミが最近まで隠していた”予知夢”。コレの説明はロビンの話でおそらく間違いねェ。あそこで嘘を吐くのはリスクが高すぎるからな。

タクミはあの時、自分が戦うつもりの敵についての情報をロビンが答えてしまうのを恐れてたんだ。ってことは、ロビンはタクミの敵に対する正しい情報を知っているって事になる。

ロビンが仲間になった瞬間、おれは気絶していて、起き抜けにタクミに説明された言葉は、『俺の目的の為にずっと探していた女』だ。

おれの予想では、おそらくタクミの目的とロビンの目的は近いところにある。じゃないと、事前調査をしていたタクミと違って、殆ど相手の人物像すら掴めていなかったハズのロビンが、あっさりタクミを信用して仲間になる訳がねェんだ。



二人は出会って一週間程度で恋人同士になったわけだが、コレも妙だ。

明らかにタクミを示している、”銀髪の獅子とジプシーの踊り子”のタトゥーなんてモノを、背中に彫って欲しいと言ってきたロビンの愛はホンモノだ。好意を示し始めたのもロビンが先だったし、疑う余地すらねェ。

念の為に、彫る前にいくつか確認をしてみたけど、ロビンはタクミの事を本気で愛し、信じきっていた。

タクミはロビンのその気持ちを利用しているに違いねェ。目的を叶える為の道具として、自分に縛り付ける為に!! 表面上あんなにイチャついていながら、いつまで経ってもロビンに手を出さねェのがイイ証拠だ。

彫ってる間、声一つ上げないで痛みに耐えて、彫り終えたラインを鏡で見て嬉しそうにしているロビンを見た時、おれは無性にやるせない気持ちになった。



利用されてるハズのロビンが、敵の正しい情報を知ってるって事は、以前からその敵を互いに知っていた可能性が高い。

思い当たる敵はいねェが、あのタクミがあれ程の武装をしてまで敵視する相手だ。おれの想像もつかねェような、正真正銘のバケモノが相手なんだろう。

そしてタクミは、そのバケモノはアイツの夢の前に必ず立ちはだかると考えてる。だからこそ準備を怠らない。



いつか一味がその相手と遭遇した時のタクミの対応は、決まってる。出来る限りの抵抗をして、それでもアイツが敵わなかった場合、一味を囮にしてでもアイツは生き延びる道を必ず選ぶ。

タクミは自分を愛してくれる女まで利用するようなヤツだ。アイツが自分に危険が無い範囲内で一味に貢献しようとしているのは、その時の為の地盤固めに過ぎねェ。

仲間を思っての行動と見せかけて仲間の修行を手伝い、自分が敗北した場合の逃走成功確率を高めるのが、仲間を鍛える一番の目的。

ゾロが言うには、クロコダイルを倒したルフィに、戦闘力が倍化する新戦術を指導したのはタクミらしい。

だけどそれは、ルフィの命を削るようなイカレタ戦術。ゾロは自分にもそんな新戦術を教えて欲しいもんだって話していた……もはや洗脳レベルだな。

雑魚を相手にして自分の強さを仲間に見せつけて、その後に強くなるアドバイスを、強さを望むヤツに与える。たとえ危険な方法だとしても、タクミへの憧れから、アドバイスを受けたヤツはそれを実践するだろう。

一人が成功すればそのアドバイスの信憑性はさらに高まり、後は勝手に弟子が……いや、タクミを守る”守護者(ガーディアン)”が出来上がっていくってシナリオだ。



……おれ達は……タクミの兵隊じゃねェ……けど、他のヤツらはもう手遅れだ。

幸いな事に、タクミはおれの事を技術者として扱ってる。おれが警戒心をあらわにしても、対策としてやってくる行為はあんな三問芝居だけ。

まぁ、あっさり信じたフリをしてやった。『お前もようやく相手の事を考えられるようになったんだな!! さっきは疑って悪かった!!』ってな。

ていうかアイツも意外とバカだよな。”仲間の命を軽く見てる”って疑われたのに、”敵の命の重さに気づいた”って芝居じゃ説得力がイマイチだし、今まで散々と敵を引き千切っておいて、そりゃあ無理があるだろ。

だが、コレでタクミのおれに対する警戒は無くなったハズだ。おれも今後は出来るだけ普段通りに振舞っていれば、おれの意図には誰も気づかない。



サンジにはココまでは話さなかったけど…………おれはタクミを…………潰す。

タクミはこの一味に危険をもたらすだけの存在だ……でも、アイツはこの一味において、既に絶対的な信頼を得ている。

あんなデタラメな言い訳がまかり通るくらいだ。今さらおれが何を言ったって……おれの言葉は、一味に響かない。

事故に見せかけて、タクミを潰す。おれ達と今後の航海が出来ないような怪我を与えてやればイイんだ。



一味をアイツの私物にされて、割りに合わない危険に晒されるなんてたまったもんじゃねェ!! コレがベストな選択だ。

タクミがエボニー&アイボリーの設計段階から欲していた特殊弾。コイツはタクミの切り札なんだろう。

試作品はたったの二発。一発の弾丸の価値が半端じゃねェうえに、時間が無くて仕込みは一発だけだけど、問題の強敵に使う前に、タクミは必ずコイツを試す。

二発しかねェんだし、試すなら混乱渦巻く実戦の中。いや、おれがそうなるように仕向ければイイんだ。

誰もおれがワザと細工した事になんか気づかねェ。そこで起きるのは不慮の事故。だが、その時が海賊”銀獅子のタクミ”の最後だ!!

そうなればきっとロビンは、タクミなんかの為に一緒に船を降りるハズ。アイツの余生は、自分を心から愛してくれる女と共に生きていく平穏な日常になるんだ。

おれは甘いな……ちょっとしたハッピーエンドじゃねェか。



おれは決意を胸に、ロビンと二人で仲良さげにシチューを食べているタクミの元に向かう。


「タクミ、ご注文の品の試作品が、ついに完成したぜ!! この天才の技術に不備はねェと思うが、試作品は二発だけだ!! ぜひとも実戦で使ってみてくれ!!」


自信満々に試作品を渡すおれに、タクミは少しだけ浮かない表情を見せる。”敵の命の重さに気づいた”芝居は、まだ継続中なのか?? くだらねェ。


「……この弾頭……完成したのか……ホローポイント弾」


先端が凹んだ奇妙な形の弾丸を確かめて、タクミは重々しく口を開く。


「ああ、先端が準天才タクミによるホローポイント設計。それに繋がる部分が、海軍使用の高純度の”海楼石”製だ!! 自然系の身体に”海楼石”の部分が接触した瞬間に、目標の身体が実体化、先端が体内に直接着弾してキノコ状に変形する」

「”海楼石”の部分を含めて弾丸は貫通せずに体内に残り、摘出することも困難、自然系といえども能力を封じられて、その実体を無防備に曝け出すことになる……だったな。自然系以外の多くの能力者にも有効だろう……自分で考案しておいてなんだが、コイツは能力者殺しのとんでもない弾だぞ」


おれの説明を途中から引き継いぐくらい食いついてんのに、掌に乗る弾丸を忌避するような態度を取るタクミが、あまりに白々しくて、少しだけ表情が崩れそうになった。


「名づけて”能殺弾(スキルブレット)”だ!!!」

「凄いわね!! 長鼻くんはどうやって”海楼石”を加工したの??」


タクミの演技に疑問を持たず、おれの演技には気づく事すらないロビンは、海楼石の部分を触って、その効果を体感してるみてェだ。


「そりゃあ苦労したんだぜ!! まあ、聞いてくれ!! ”海楼石”はダイヤモンドより固いって言うけどよ、ダイヤモンドだって靭性がそこまで大きいわけじゃねェから、瞬時に与えられる力には弱ェんだ。小さいダイヤを金槌で思いっきり叩けば粉々になるくれェだからな」


おれの説明にロビンは興味深々って感じだ。ちょっと気分が良くなってきたな。


「だから”海楼石”にも、一般的には知られてねェ弱点が必ずあると考えたおれは、あらゆる可能性を試した。結果として”海楼石”は、摂氏3300℃以上の熱で切断加工できるって事がわかったんだよ」

「摂氏3300℃以上の熱って……まさかアレも完成してるのか!!?」


演技も忘れて驚愕の表情を浮かべるタクミに、おれはニヤリと笑って答える。


「おうともよ!! 超高圧(S)・アセチレンガスバーナー(A)・ブレード(B)!! 通称”S・A・B(サッブ)”だ!! 相手の剣を受け止める事はできねェが、摂氏3330℃の炎の刃は、大抵のモノを両断できるぜ!!」


おれは巨大がまぐちから二つの小型ガスボンベを取り出し、タクミに渡した。

これ以上タクミが強くなられても困るから、アレは渡さねェつもりだったのに、つい調子にノッちまったな。


「空想の産物を実現させてしまうとは……ウソップは”ベガパンク”の才能を超えてるんじゃないか?」

「政府の天才科学者”Dr.ベガパンク”??」


聞きなれない名前だけど、ロビンは知ってるみてェだな。


「ああ、ウソップの才能はとんでもないレベルだ……ウソップ……試しにビームライフルとか「できるかァ!!! んな”あったらイイな”を現実に出来るなら、おれは今頃大金持ちだァ!!!」……お前なら一から創れそうだけどなぁ」


コイツはどこまで本気なんだ!? 思わず普通にツッこんじまったじゃねェか!!!


「取りあえず渡したからな。その弾の加工には神経使うんだ。補充は一週間は見といてくれよ」


コレ以上タクミといると、決意が鈍っちまいそうだったから、おれはその場を後にしようとする。


「一週間……(間に合いそうにも無いな)」


銃弾を握り締めて呟くタクミの声をおれは無視した。アイツは一週間以内にエネル以外の自然系と戦う未来が見えているんだ。

おれを急かさないところをみると、ソイツはタクミが見据える強敵ではない。

自然系殺しの新兵器があるのはおれだって一緒だ。エネルはおれが倒す!! そして、タクミが撃ち逃すハズの自然系も、ついでだからおれが倒してやるよ。



近いうちに訪れるであろうタクミとの別れを思いながら、空島で見上げた月は、ルフィのミドルネームと同じ「D」の形をしていた。
 
 
 

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