”ホンモノの覚悟”
〜Side ビビ〜
「それじゃあ、今日のチーム編成を発表する」
空島二日目の昼、前日深夜まで敵地で大騒ぎしていたわたし達は、ついさっき全員が起床した(ゾロとタクミさんとロビンさんはとっくに起きてたみたい)。
今日は黄金探索チームとアッパーヤード脱出チームの2チームに分かれての行動なんだけど、ちゃんとゾロと同じチームになれるかしら??
ルフィさんからチーム分けを任されたタクミさんが皆の前に立って、今まさに発表の瞬間。タクミさんならわたしの気持ちをちゃんと汲んでくれるわよね!!
それにしても、タクミさんったら昨日よりさらに顔色が優れないみたいだけど、大丈夫かしら?
まさか!? メリー号がいつの間にか修理されていたのは、タクミさんが徹夜で修理したから? でも、皆にそれを隠す意味はないし……ミステリーね。
「探索チーム『ルフィ、ゾロ、ロビン、ビビ』「よしっ!!!」……それと俺だ。残りは脱出チームな」
ゾロと同じチーム!!! タクミさんわかってる〜♪
「ちょっと待って? なんかそっちのチームに戦力が集中しすぎじゃない?」
「ナミさん!!? このおれが居るのにヒドくない!? むしろおれとナミさんの二人っていうのがベスト脱出チームだよ?」
そういえばナミさんの言うとおりね。賞金首が全員こっちのチームじゃないの。まあ、ゾロと一緒ならわたしはどうでもイイけど。
「賞金首の偏りだけで言ったら、ナミの言うとおりだな。だが、コレがベストなチーム編成だと俺は思ってる」
「ベスト?……コレが?」
ナミさんは、全力で納得がいかないみたい。『ちゃんと説明出来るんでしょうね?』って目が言ってる。
「まず、ナミは黄金は欲しいけど危険は嫌だから、比較的危険の少ない脱出チームで決定……異論は?」
「ないわね」
ナ、ナミさんはどこまでも欲望に忠実ね。それを完全に見透かしてるタクミさんはやっぱり流石だわ。
「今回の敵の最大戦力は、間違いなく神・エネルだ。エネルに攻撃可能なのは、ルフィとウソップの二人だけ。ということで、こちらの持つジョーカーの二人を別チームに振り分けさせて貰った。冒険王ルフィを探索チームにしないと暴れかねないから、ココの人選はしょうがないだろ?」
「ウソップさんがジョーカー?? 何かの冗談??」
「おいこらビビ!!! お前さりげに酷いこと言ってんぞ!!?」
だってウソップさんだもん。ジョーカー(失笑)って感じだわ。
「まあ、それはおいといて「おくなァ!!!」……サンジには懸賞金は懸かってないけど、サンジとゾロの実力は、俺は五分だと思ってる「「はぁ!!? おれとコイツが五分!!? 何の冗談だ!!?」」……息もピッタリだな「「んなわけ……」」よってこの二人を別チームに振り分けた」
「……そこまではイイわ。それで?」
「遺跡の文字の解読が可能なロビンは、探索チームに必須。よって俺もこっちのチームだ」
「……後半の理由が果てしなく私情だけど、それはしょうがないわね。で? 自然系の能力者で、戦力的には上位に数えていいハズのビビまで、どうしてそっちのチームなわけ?」
うぅ、ナミさんの言い分はもっともだわ。タクミさんはわたしをワザとゾロの傍に配置してくれたんだろうけど、うまく誤魔化して!!
「エネルは雷の能力者だぞ? そっちにエネルが現れた時に、ビビが暴走したらどうすんだ? 誰がビビを止める? 全員まとめて感電死したいのか?」
そんな理由!!? もう暴走なんかしないわよ!!! 失礼しちゃうわ!!! でも、ゾロと一緒のチームでいたいから、ココは余計な事を言わない方が賢明ね。
「……わかったわ。じゃあせめて、ゾロとサンジ君を交換して!!! 「ナミさん!!? それはあんまりだ!!! あんなまりごぱぁ!!?」お願い!!! 何となくゾロの方が頼りになりそうだわ!!! それか二人ともこっちのチームってのはどう?」
流石にサンジさんが不憫だけど、わからなくもないわね。
「ゾロをそっちにやってもイイんだが「「おれはソイツと一緒は絶対に嫌だ!!」」……というわけだ。ていうかサンジとゾロの実力は五分だって言っただろ? それに、ナミを守る時に限定すれば、間違いなくサンジの方が頼りになる。だろ?」
タクミさんはサンジさんに向かって、とても優しい笑顔で笑いかけている。何だか昨日からタクミさんのキャラがおかしくなってるわね。
「タクミ、お前ってヤツは……わかってるじゃねェか!!! そうとも!! ナミさんの守護神たるこのおれの戦闘力は、そこのまりも100人分に値するんだぜ!!!」
「(そこまで評価してるわけじゃないんだが)……その意気だ。しっかりとナミを守ってくれ」
「おれにィ、任せとけェ!!!」
タクミさんの呟きも聞こえてないみたいで気合十分(空回り気味)なサンジさんを見て、ナミさんも諦めたみたいね。
ゾロはまりも発言に青筋を立てているけど、なんとか堪えきったみたい。
でも、今度は今まで黙っていたトニー君が、モジモジしながら何かを言いたそうにしてるわね。
「ん? どうしたチョッパー?」
タクミさんもその様子に気づいたみたいで、目線を合わせて優しくトニー君に問いかける。
「おれは、タクミとロビンと一緒がイイ……ダメか?」
ト、トニー君かわいい!!! 二人と仲良しだものね!! パパとママと一緒がイイのよね!!
タクミさんはトニー君の態度にちょっと吹きだしてから、帽子の上から大きな手でトニー君を撫で回した。
「そっちの船にはカルーだっているんだ。 ウソップはエネルの警戒に集中しなくちゃならない。サンジはナミを守らなくちゃいけない。カルーを守ってやれるのはお前だけなんだぞ? どうしても心細いならそのホイッスルを首から提げておけ。ソイツを思い切り吹けば、空の騎士と、ついでに俺が駆けつける。チョッパーは俺の一番弟子だろ? できるよな?」
「おれやるよ!! できるよ!! 笛は!!……なるべく吹かねェ」
「頼りにしてる。カルーを頼んだぞ」
…………っは!!? 思わず見蕩れてたわ!!? 美しい親子愛ね!!! いつかわたしとゾロにも……フフ……フフフフフ」
「雨女さん?? いきなり笑い出してどうしたの??……ちょっと気持ち悪いわ」
いけない、いけない、いつの間にか声を出して笑っていたみたいね。気をつけなくちゃ。
……ていうか気持ち悪いはあんまりじゃない? わたしよりちょっとスタイルがイイからって、ちょっと頼りがいがある彼氏がいるからって……何かムカついてきた!!
こうなったら!!…………落ち着け!! 落ち着くのよわたし!!! ロビンさんに「1」悪戯をすれば、タクミさんに「100」お仕置きをされてしまうわ!!
ニッコリ、笑顔で答えるのよ!!
「何でもないわ♪」
「そ、そう。ならイイんだけど」
ロビンさんは若干引き気味に答えて、逃げるようにタクミさんのもとへ行ってしまった。
スマイル100%で答えたのに、その反応はちょっと傷つくから止めて欲しい。
「他に質問が無ければ、すぐに行動開始だ。早朝に出発予定だったのに既に遅れてるんだからな!!…………よし、各チーム出発だ!!」
タクミさんの指示でみんな一斉に動き出す。今、暗にこれ以上質問するなって言われた気がしたのは、わたしだけじゃないハズ。
「ウソップ!!!!……」
それぞれ動き出していたわたし達は、指示を出した本人の大声で、その動きを一旦止める。
「な、何だよ?」
突然名前を呼ばれたウソップさんは困惑している。わたし達だってそうだ。
タクミさんがあんな大声を出したのを、わたしは初めて聞いたわ。
「…………お前さ…………やっぱエネルとは戦うな」
先ほどとは違い、今度は絞り出すように声を出したタクミさんに、みんなわけがわからないって表情だった。
〜Side タクミ〜
「はァ?? 今さら何言ってんだ??」
……だよな。そうなるよな。でも……
「……お前に”死相”が見える。このままエネルと戦えば……お前は死ぬかもしれない」
「”死相”って、ゾロに言ってた”迷子の相”なんてもんとはワケが違うぞ!!? 意味わかって言ってんのか!!?」
そんな事言われても、見えるもんは見えるんだ。赤い眼の白馬に乗った、黒い甲冑を着た骸骨。薄っすらと見えるソイツが、ウソップの横にピッタリ寄り添ってやがる!!
何なんだ”アレ”は!?……いや、現実逃避しても仕方ない……ライダーウェイト版タロットの?13”The Death”に酷似したあの外見…………どうみても死神だ。
どうしてあんなモノが急に見えるようになったんだ? そういえば兄貴も”死相”を見る事が出来たハズだよな。俺にも元々素質はあったってことか。
考えられる要因としては……”死”を真剣に見つめるようになったから?
俺はそこまで腐ってたのか!! あれだけの命を奪い、たくさんの”死”に触れていながら、”ソレ”を自分とは別の世界の出来事だと切り離して考えていた!!
仲間に”死”の危険が迫って、初めて”死”に気づくだなんて…………1億2000万ベリーか…………安い!! 安すぎる!! 俺みたいなクズは、大将クラスにでも狙われてしまえばイイんだ!!!
そんな事を考えながらふと自分の隣を見て見ると……
「……フハハッ!! ハハハハハハハハハ!!!」
何だ……ちゃんといるじゃないか。ウソップに憑いてるヤツよりハッキリとした輪郭を持った……”死”……
神様は見てるんだ。そうか、俺は死ぬのか……
「タクミ? お前ェ何笑ってんだ? それに、また泣いてんのか?」
ルフィに言われて…………二日続けて情けないところを見られるとはな……
もうすぐ死ぬっていうのに、ココまで一味を引っ張ってきて、最後はコレかよ。
ロビンはどうなるんだ? 俺が守ってやらなくて大丈夫なのか? バタフライ効果とかいうヤツで死んでしまったりしないのか?
俺が守るって決めたのに、何をしてでも守るって決めたのに、ココで終わりなのか?
ルフィは、俺が死ぬ原因になったヤツに喧嘩売ったりしないかな?……きっと真っ先に突っ込んでいくんだろうな。
俺を殺すヤツなんて、相手はおかんかな、それとも兄貴かな……ルフィも死んじまうかもな。
ゾロは負担が増えるんだろうな。ビビで手一杯かもしれないけど、ロビンを守ってくれないかな。
どんだけ負担をかけるつもりなんだよ……秘蔵の酒の隠し場所でも教えておくか。
ナミ……出会った頃とだいぶ性格変わってるからなぁ。
俺がついてると思って好き勝手に金を使いやがって、あんな調子じゃすぐに金欠になっちまうぞ。
ウソップは心配いらないな。アイツ本当に凄いヤツになったもんな。
”勇敢なる海の戦士”なんかヤメて、科学者になればイイのに……そういやアイツにも”死”が憑いてんのか。縛ってでも戦わないようにさせないと。
サンジはナミに一途になれば想いは届くと思うんだけど。
ロビンに手出ししたら……ロビンが幸せならそれでもイイか…………やっぱイヤだな。
ビビはゾロにベタ惚れみたいだけど、叶うとイイな。
でも、頼むから体を鍛えてくれないかな。ゾロが守ってくれないと、新世界で即死亡だよ。
チョッパーは俺に懐いてたな。俺が死んだら泣くだろうな。
ロビンにも懐いてたし、まだちょっと頼りないけど、ロビンを守ってもらうのはチョッパーでもイイかもな。
カルーは最近ロビンが飼い主みたいな感じで、ビビに放置されてるけど、アイツって結局なんなんだろう?
本当にカルガモなのか? 何か謎のままっていうのも悔しいな。
何を考えてんだ俺は? まだ死ぬって決まったわけでもないのに、これじゃあ遺言みたいだ。
昨日まで見えなかった”死”が、どれだけ信用できるっていうんだ……でも、多分あの兄貴と同じ才能が見せているもんだから……きっと俺はこのままでは死ぬんだろう。
”死”を回避する方法を占いで探ってみるか。でも、4歳から7歳までの3年間だけしか教わってないし……あれ? おかんに2年間連れまわされてたって事は、俺の今の年齢って27歳だったのか。
ロビンと一つしか違わなかったんだな。何気に気にしてたみたいだし、ロビンに教えてやらないと。
今さら……じゃないな……せっかく俺を好きになってくれたのに、俺はまだロビンに何もしてやれてないじゃないか。
世界の闇から救ってやるんじゃなかったのか? サウロに会わせてやるんじゃなかったのか? 一緒に”真の歴史の本文”を探してやるんじゃなかったのか?
まだ話したい事がたくさんあるのに、一緒に行きたいところだってたくさんあるのに。
「……まだ……死にたくねぇな」
思わず呟いた俺の言葉に、一味の皆が怪訝な顔を浮かべる中、ゾロが俺の前に立った。
「自分にも見えたんだろ?……”死相”ってヤツが」
「っ!!!? どうして!!!?」
「昨日の話は、お前が寝てる間にロビンに聞いた。お前ほどのヤツが死ぬなんてありえねェことだが、敵と戦う事に迷ってる今のお前じゃな!! 死んで当然だ!!」
「お、俺は「”殺す覚悟”!! ”殺される覚悟”!! それを俺に教えたのはお前だろ!! 目的を見失うな!!! お前は全力で戦った結果として敵を殺してきた。それは仲間の命を守る為じゃねェのかよ!!!」……違う。俺は「お前が違うと思っていようがな!!! お前に助けられたと思ってるヤツはいるんだよ!!!」……そうか」
ゾロのあまりの剣幕に、俺は言い返すことが出来なかった。
「お前がフラフラしてたらな、お前の考えを正面から受け止めたおれはどうすりゃイイんだ……お前は何でも背負いすぎなんだよ。だから戦わないきゃいけねェ敵も多い。全部投げ出しちまえとは言わねェけどな、ちょっとはおれ達を頼れ。お前が戦う事に迷ってる間は、代わりにおれが戦ってやる。その結果として、相手を殺してしまっても、おれは構わねェ……仲間を守る為なんだからな」
俺が語った薄っぺらい覚悟は…………ゾロにしっかりと受け止められて、ホンモノの覚悟になっていた。
……涙はもう止まった……今度は俺の番みたいだな。
「ありがとう、ゾロ。ゾロの覚悟はちゃんと受け取ったよ。俺は何があってもロビンを守る……仲間を守る……俺はもう迷わない!!」
「ロビンだけ守るくれェがちょうどイイんじゃねェか? まぁ、迷いが消えたんならそれでイイ……”死相”は……まだ見えるのか?」
俺の隣には、まだ”死”がいたけれど、その輪郭はウソップの”死”よりもぼやけていて、霞のように見えた。
「まだ微妙に見えるけど、こんなヤツに俺は負けない」
「そうか」
ゾロはあまり似合わない優しげな笑みを俺に向けて、短い返事をした。
「まぁ、タクミが”死相”に打ち勝つってんなら、おれ様も軽〜くエネルをブチのめしてこねェとな」
ウソップは場を和ますような、本当に軽い仕種でメリー号に歩いていく。
止めても無駄なんだろうな。冷静になった今なら感覚的に解る。あの”死”は、今日はウソップに襲い掛からない。
「ウソップ!!……」
内心ビビッてるクセに、俺のためにムリをしているであろうウソップに、俺は一枚のカードを投げた。
「うお!?……何だコレ?」
ウソップは振り向いてそのカードを指先でキャッチする。何か昨日からいちいちカッコイイなコイツ。
「……”The Chariot”。ラッキーセブン、戦車のカードだ。お守りとしての意味は”常勝・勇気100倍アン〇ンマン”ってとこだ。気休め程度だが持っていけ。大事なカードだから失くすなよ!!」
「また意味わかんねェこと言いやがって……ありがとな!! 黒コゲにならねェように精々気をつけるわ!!」
ウソップはカードを少しだけ眺めてがまぐちに入れた。
「カードだけじゃなくてお前もな!!」
「おれがメインだっつうの!!! カードは二の次じゃァ!!!」
変わらぬツッこみをかまして去っていくウソップの”死”は、ほんの少しだけ薄くなっていた。お守りが効いたんなら嬉しいな。
「さあ!! グズグズしている時間は無い!! さっさと出発だ!!」
”お前が言うな!!”と言いたくなるような事を言った俺の言葉に苦笑いしながら、一味の皆はそれぞれ動き出す。
遺跡に向かう俺たちのチームで、当然のようにロビンは俺の隣を歩く。
「泣いてるアナタは、ちょっと可愛かったわよ?」
からかい気味に話しかけてきてるけど、俺の気分を明るくする為だろうな。
気持ちはありがたいのだが、俺は可愛いと言われて喜ぶタイプじゃない。
「……あんまりガキ扱いするなよ? さっき思い出したんだけど、俺の歳は27だからな」
「結局年下じゃない♪」
ロビンは楽しそうに手を伸ばして、俺の頭を撫でてくる……身長だけでもギリ上で良かった。
「年の差を気にしてたんじゃなかったのか?」
「タクミなら何歳でもイイわよ」
そう言ってロビンは俺の手をとって、恥ずかしげも無く皆のところに引っ張って行く。
そんな俺たちを見て、ゾロとビビは笑っていた。
この幸せがいつまでも続くように、俺は全力で足掻いてやろうと思う。