”VS ノラ”
〜Side ロビン〜
「このメンバーが揃ってると……敵も流石に躊躇してるんだろうな」
私たち探索チームが森に入って20分は経ったハズなんだけど、全く敵との遭遇が無いわ。
「静か過ぎて気味が悪ィな……不意打ちでも仕掛けてくるつもりか?」
剣士さんの言葉には私も概ね同意だけど、嫌いじゃないわ……こういうスリルがあるのも。
でも、タクミは気づいてないのかしら? 私たちは空島では別に知られてないし、敵が襲ってこないのはただの偶然だと思うんだけど……彼ってちょっと自信過剰っていうか、自意識過剰なとこがあるわよね。
「何かおもしれェことでもおきねェかなァ……タクミ!! 敵の方角を占ってくれよ!!」
船長さんは自分からアクシデントに巻き込まれたいのかしら?
……でも……
「「おもしろそうね」」
思わず口にした私の言葉は、雨女さんと綺麗にハモッた。
何か意外だわ。彼女はそういうタイプじゃないと思ってたんだけど。
「五人中、三人か。俺も退屈だし異論は無いが、ゾロはどう思う?」
「敵の方角と目的地が同じ方角なら戦うのは当然だが、無用な戦いをわざわざ追い求める必要はねェだろ」
それは当然の意見だけど、この状況でソレを言うなんて……
「ノリが悪いわね」
「つまんねェ考え方だなァ。そんな冒険楽しくねェだろ?」
「わたしはゾロの活躍するところが見たいんだけどな〜」
「ほっとけ!! おれの意見が正論だ!!」
当然のように賛成派からの批判を受けるわよね。
でも、雨女さんのは批判って言うより、お願いかしら?
「そこまで明らさまに好意を示せるなんて羨ましいわ」
「……(お前には言われたくねェと思うぞ?)」
……? 剣士さんは呆れた様子で私の手を見て、雨女さんに聞こえないくらいの小声で話しかけてきたけど……
「手を繋いでちゃいけないの?」
「あーもう!! 勝手にしろ……何もかもだ」
「ロビンって実は天然だよな」
そう言ってタクミは私の手を離すと、タロットカードを取り出して、マットの上で掻き混ぜだした……天然って何かしら?
「私の体に人工物は何も入っていないわよ?」
「ハハハハハ!! そういう意味じゃないんだけど、そこがまた天然というか……まぁ、説明が難しいから忘れてくれ」
タクミは笑いながらカードをカットしていて、私の質問にはマジメに答えるつもりがないみたい。
「雨女さん、タクミが言うには、私は天然らしいんだけど、天然って何が天然なの?」
隠されて余計に気になった私は、取りあえず雨女さんに聞いてみたんだけど、なんか様子がおかしいわね。
「タクミさんったら、そんな事まで見通してるなんて……えぇ!! アナタのは天然モノよ!! わたしが今後いくら努力してソレを手に入れたところで、所詮は紛いモノ!! でもね!! 彼の為に努力する事がそんなに可笑しいかしら!!? 自分が天然だからって、普通ソレをわたしに聞く!!? この……この……天然ダイナマイト女〜〜〜!!! うわぁ〜〜〜〜ん!!!」
あ、雨女さんは泣きながら森の奥へと走り去ってしまった…………意味が解らないわ。天然って結局なんなの? ダイナマイト女って何? 私の渾名のつもりかしら? 爆発物にはあまり詳しくないのだけれど…………疑問が増えてしまったわね。
「おいビビ!! 待て!! 一人で行動するんじゃねェ!!……ったく、おれはビビを探してくるから。お前らココを動くなよ」
剣士さんは雨女さんを追いかけながら、私たちの方を一度振り返り、雨女さんが向かったルートから45度くらいズレた方向に走りだしていった。
「”迷子の相”……かなり厄介な呪いのようね。底なし沼に飛び込んだりしないかしら?」
「あー、ありゃゾロもビビも戻ってこねェな。ま、アイツらはアイツらで何とかするだろ!! で?? 敵はどこにいるんだ??」
船長さんは二人を信頼してるんだか、二人の事がどうでもイイのか解らないけど、とにかく敵と遭遇したいみたいね。
「あのな、今頃になって気づいたんだけどさ、ウソップにカードを一枚貸してしまったから、タロット使えないんだよ」
「え〜!!? ホントかよ〜」
船長さんはもの凄く残念そうにしてるけど、タクミは妙に嬉しそうだわ。
「どうかしたの?」
「”占う必要は無いかもなぁ”と思ってな」
彼は表情筋が緩むのを抑えきれないって感じね。何処かで見た事がある表情だけど、何処だったかしら?
「どういう意味?」
「……後ろから、何か聞こえないか?」
「「後ろ?」」
私と船長さんはタクミの言葉を聞いて、すぐに振り返ってみたのだけれど……
「誰もいねェじゃねェか」
「そうね。ただの壁があるだけ……壁!!?」
おかしいわよ!! そこはさっき私たちが通ってきた道のハズ。しかもこの壁……
「壁が動いてるわ!!?」
「すっげェ〜〜!! 何だありゃあ!!?」
私たちの慌てる様子が余程おもしろいのか、タクミはタロットカードをしまって、笑いながら立ち上がった。
「アレは壁じゃない……巨大な……大蛇だよ……久々に血が騒ぐ程の大物だ!! ルフィ!! 手出し無用だからな!! 先に遺跡に行ってろ!! アイツを仕留めてすぐに追いつく!!」
「ちぇ〜、楽しいのはタクミだけじゃねェか……まぁイイや。じゃあおれは先に行くからなァ!! よ〜し、南へ真っ直ぐだ!!」
船長さんは勢い良く、西へと走り去った……呪いは伝染するとでもいうの?
剣士さんに次ぐ船長さんのかなりの迷子っぷりには一切触れずに、タクミは私を抱きかかえて、木の枝の比較的頑丈そうな部分まで空を駆け上がった。
「ロビンは極力動かないでくれよ? 必ず守るから」
私をそこに座らせてから告げられた彼の言葉に、少しも迷うことなく答えを返す。
「えぇ、アナタの勇士でも見ているわ♪」
見えている胴体だけでも大蛇が相当な大きさだっていう事が解るけど、私は何も心配していなかった。
彼が、必ず守ると言ってくれたから。彼が、必ず守ってくれると信じているから。
随分と危機回避能力が落ちてしまった気がするけれど、今は……今だけは……彼が保障してくれる幸せと安寧に浸っていたい。
〜Side タクミ〜
久々の大物だ!! 毒々しい模様からして、間違いなく毒蛇。未だに胴体が動き続けているところを見ると、この間見た毒海蛇よりさらに大きいに違いない。
この世界の蛇はピット器官だけじゃなくて、眼と耳も優れている。さっきあれだけルフィが大騒ぎしたんだから、コチラの位置は捕捉されていると考えていた方がイイだろうな。
俺は人獣形態になり、念のために全身に「鉄塊 剛」を掛けた状態で開けた場所に立った。
その状態で、意識は全てロビンを座らせた大木に向ける。
大蛇の毒に「鉄塊 剛」の効果があるかはしょうじき不安だが、ロビンが襲われるよりはマシだ。
それにこの”死”ってヤツは意外と便利で、俺の死に目は確実に今日じゃないって事が解るんだよな。
何が起ころうが、俺は今日死なない。それは”死”が見えていないロビンにも同じ事が言えるんだが、心配なもんは心配なんだ。
「ジュララララ」
俺の右斜め後ろから、蛇の這いずる音と、奇妙な鳴き声が聞こえてくる。
気配を消す気もないのか? 俺はロビンから視線を外して振り返り、木の陰から顔を出した大蛇を、正面から見据える。
「何て大きさなの!!?」
後ろからは、流石に驚嘆を隠せない様子のロビンの声が聞こえてくるが……無理もないな。
コイツは常識を超えたデカさだ。その全身を拝む事は、コイツが生きてる間は遠慮したいもんだな。
牙から滴り落ちる毒液は、地面に張り巡らされた数百年は生きたであろう大木の根を易々と溶かす。
毒っていうよりは、胃液か何かの成分を凝縮した強烈な酸性の液体ってとこか……噛まれれば、俺でも命は無いだろう。
だが、どんなに厄介な相手だろうと、コイツをここで逃がすわけにはいかない。
俺以外にコイツを仕留められるとは到底思えないからな。ハンターとしての好奇心も大きいが、一味の危険をココで取り除く為にも、俺はコイツと戦わなくちゃならない。
こんなバケモノと戦って無事で済むのは、たぶんマゼランかシーザーくらいだな。
「奇襲を仕掛けて来ないのは王者の余裕ってヤツか?? 教えてやるよ。お前らみたいなバケモノを狩るバケモノ、ハンターの存在をな!!!」
ロビンを守る為ならば、仲間を守る為ならば、俺は喜んで冷酷なハンターになろう。
正面から突っ込んでいく俺に向かい、大蛇も口を大きく開けて対抗しようとしているが、鎌首を擡げていない蛇のスピードなんて高が知れてる。
数回のフェイントを入れたにも関わらずコチラの動きを捉えて襲い掛かってきた大蛇の動きに多少驚きはしたが、俺は「剃刀」でその牙を難なく避け、首の下に入り込んで「嵐脚 極線」を放つ。
腹が柔らかいのは爬虫類の基本だ。この一撃で勝負は決まるかと思っていたのだが……
「ジュララ〜〜〜〜!!」
「な!!?」
そんなバカな!!? いくら何でも無傷ってことはありえないだろ!!?
「このバケモノが!!……」
俺は両腕の前腕筋を集中的に強化……
「……「獅咬 指銃」!!!」
普段の人獣形態の約三倍の握力を発揮した上に両手で放ったその一撃は、確かに大蛇の咽喉元を捉えた。
「ジュララララララァ〜〜〜〜!!!!」
……ありえん。鱗が剥がれただけかよ……怒らせる程度の効果しかなかったみたいだな。
今の手応えからして、現在修行中の大技を使えばある程度の損傷を与える事は出来そうだが、溜めが長くて隙が大きい上に……
「物量的にムリがあるな。スマートに仕留めるには、コレしかない!!」
俺はメイド・イン・ウソップの特殊ガスボンベを二本取り出し、炎の刃を顕在化させる。
新兵器S・A・Bは、最大出力で使用すると、使用時間が一分程度しかもたないが、カマキリが使っていた”燃焼剣”とはレベルが違う。
作って貰ったばかりでウソップには申し訳ないが、コイツを腹の中に放り込めば流石の大蛇でも悶絶するか、そのまま死ぬかのどちらかだろうな。
「ジュララララァァアア!!!」
鎌首を擡げて攻撃態勢をとっている大蛇は、おそらく次の一撃で俺を仕留めるつもりなんだろう。
だがそれは俺だって同じだ。俺は爛々と輝く大蛇の金色の瞳をを見据えて、強敵に別れの言葉を告げる。
「卑怯な手で悪いけど、コレで最後だ!! 敬意を込めてお前をこう呼ぶ事にするよ……じゃあな!! ”空の主”!!!」
口を開けさせる為に、俺は敢えて正面から”空の主”に突撃をかけ……”空の主”? どっかで聞いた事があるような……!!!?
「お前”ノラ”か!!!?」
「ジュラ?」
その首に溜め込んだパワーを一気に解き放とうとしていた大蛇は、俺の言葉を聞いてその動きを止めた。
「そうか!! そうだったな!! ”ノラ”は”空の主”、お前の名前だったな!! ノートには名前と非殺って文字だけが書いてたから思い出せなかったよ!!」
「ジュラララ??」
大蛇に言葉が通じるとは思えないのだが、”ノラ”という自分につけられた名前の響きには覚えがあるようで首を捻っている。
どこまでが首なのか微妙なとこだが、その仕種はけっこう可愛い……かな?
「ノラ!!! お前の名前は”ノラ”だ!!! モンブラン・ノーランドを覚えてるか? 俺はその子孫からこの島に送り届けてもらったんだ!! その人に返せない恩を、ノーランドがかわいがっていたお前に返そう!! ”大鐘楼”まで案内してやるよ!!」
「ジュラ!!?……ジュララ??」
んー、カルーと違ってイマイチ意思疎通が出来ないな。自分の名前やノーランドの名前の響きに反応はしているみたいなんだが……
「もしかして、”大鐘楼”じゃわからないのか? ”シャンドラの灯”だ!! ”シャンドラの灯”のところまで案内してやる!!」
「ジュラララ〜〜〜ラ〜ララ〜〜〜♪」
おお〜!! めちゃくちゃ喜んでる!! 伝わったのか? 案外言葉自体を理解してるのかもな。
「ノラ!! 案内してやるからお前の頭にでも乗せてくれ!!」
「ジュ〜ララ〜♪」
ご機嫌な様子のノラは、俺が乗り易いように頭を低くしてくれた。
俺はノラの眉間の辺りに飛び乗り、適当に撫でながら話しかける。
「よ〜し、よしよし、コレで俺たちは友達だ。まずはあそこの木に向かってくれ。”シャンドラの灯”まで案内が出来るハズの美女がいるから、一緒に乗せてくれよ」
「ジュララ」
了解って事かな? ノラが俺の指示に従ってロビンが待っている大木まで這って行くと、ロビンが固まっていた。
「ロビン?? コイツと友達になったんだ。遺跡まで乗せてってくれるらしいからさ、ロビンもおいで」
「……まさか蛇と話が出来るうえに、あろう事か友達になるなんて……流石に予想外だわ……大丈夫なのよね?」
ロビンは少しだけ不安そうな表情でノラの鼻先に足を乗せてから、駆け足で俺の胸に飛び込んできた。
「蛇に乗って移動することなんて、二度と出来ない体験かもしれないわ」
強がってはいるが、ロビンの顔はまだ引きつっている。
「ノラはノーランドの可愛がっていた蛇らしいから、そんなに緊張しなくてイイと思うけど?」
「蛇……ノラに聞いたの?」
ロビンが蛇って言うたびにノラがチラッと眼を向けるもんだから、ロビンもノラと呼ぶことにしたみたいだな。
「まぁ、そんなとこだ。案外話が通じるヤツだから!! よし、ノラ!! 真っ直ぐ南……あっちだ!! あっちに向かってくれ!!」
「ジュララ」
「……フフフ……」
指示通りに進み始めたノラの上で、ロビンは急に笑い出した。緊張が一周してハイになったのか?
「ロビン?」
「……ホント……アナタといると退屈しないわ♪」
「褒め言葉として受け取っておくよ。これからも退屈させるつもりはないから、ずっと傍にいてくれよな」
「痛っ!!!「ごめん!!! そんなに力を入れたつもりは」……気にしないで。もう大丈夫だから」
俺はロビンを抱きしめる腕の力を少しだけ強めたつもりだったんだが、人獣形態のままだったし、ちょっと強すぎたかな?
本来の姿に戻って座り込んだ俺の隣に、ロビンはピッタリと体を寄せる。
「アレくらいで落ち込まないでよ……ちゃんと傍にいるわ」
ビビにはヘタレとか言われそうだけど、ゆっくりと進むノラの上で、俺は目的地までただロビンの肩を抱いて過ごした。
〜おまけ〜
「タクミ……視線が気になるんだけど……」
「…………ノラ!! こっち見んな!!! 俺達を石にでもするつもりか!!!」
「ジュララァ〜〜♪(青春ねぇ〜〜♪)」
「五月蝿い!!! 青春って年でもねぇんだよ!!!」
「ジュジュララ〜〜(まぁテレなさんな)」
「テレてねぇよ!!! お前は近所のおばちゃんか!!!」
「……((なんかナチュラルに蛇と会話してるわね。彼の言葉からして、この蛇はメスなのかしら?))」
ロビンはタクミの出鱈目っぷりに慣れてしまっていた。
一味の常識が崩壊する日は近い。
〜Fin〜