”辿り着いた真実”
ノラに乗って遺跡までやってきた俺とロビンは、遺跡探索を終えてルフィ達の到着を待っているのだが……
「誰も来ないわね」
そう、誰一人として到着する気配が無いのだ。ノラに呑み込まれなかった影響で、ルフィがココに辿り着けないというのは解るが、ゾロは放っておいてもココに来るんじゃなかったか?
だいたいワイパーどころかシャンディアの連中を一人も見かけてないっていうのが意味不明だ。
「取りあえず上に戻ってみるか? ノラにビビって近づけないだけかもしれないし」
ノラは遺跡について来るには大きすぎるという理由で、ロビンから島雲の上での待機を命じられてる。
『羽の無い人間には攻撃するなよ』と言い聞かせているから、一味の人間が襲われる心配は無いんだが、ノラは見た目がちょっとアレだからな。
「そうね。探索も終わったし、大鐘楼の位置にも見当がついたから、ココには用がないもの……それにしても、黄金は運び出された後だったなんて、航海士さんが知ったらさぞかし悲しむでしょうね」
…………ソレが問題なんだよな。遺跡には黄金なんて一欠けらも残って無かったんだ。
麦わらの一味が空島で得る黄金の金額は確か三億ベリー。諦めるにはあまりに惜しい額だからなぁ……いったい何処で入手出来るんだ?
「なあロビン。やっぱさ、大鐘楼を掻っ攫うっていうのは「ダ・メ・よ♪」……はい」
クソーーー!!! 大鐘楼を丸ごと持ち帰ればきっと、数十億か数百億の価値があるっていうのに!!!
ロビン曰く、”歴史的価値があるモノは、その地にあってこそ意味があるモノ”らしく、大鐘楼だけは、発見しても持ち出し不可と念を押されてしまった。
しかも空島の”歴史の本文”はソレに刻まれている可能性が高いというのが、遺跡を探索したロビンの見解だからな…………諦めるか。
でも……このままじゃ…………俺はナミに消される!!!!
「おー、タクミとロビンじゃねェか!! そんなとこから出てくるって事は、遺跡は下にも続いてんのか? ひょっとして、そこにもまだ黄金があんのか!!?」
憂鬱になりながら遺跡上層に戻ると、何故かウソップがいた。しかも、ノラの首にロープをつけて巨大ブランコにして遊んでやがる。
”死”は……やっぱいるな。案の定エネルとは戦わなかったみたいだ。
「脱出チームのお前がなんでこんなとこにいるんだ?…………ていうか黄金を見つけたのか!!!?」
「やっぱ遺跡にはもう黄金はなかったんだな。それがよ、エネルのヤツが脱出チームの方を襲ってきて、おれが倒したとこまでは良かったんだけどな「本当に倒したのか!!!?」……まぁ、聞けって。船を停泊させて待っててくれてると思ってたら、アイツらおれを置いていきやがったんだ」
マジでエネルを倒したのか……コイツとんでもない成長をしてるな。しかもソレを自慢しないとか、もうコイツはウソップじゃないだろ。
「それで行き先を見失った長鼻くんは、私たち探索チームの目的地まで来たってことね」
「ああ、途中で神兵とかいうヤツらに襲われたりして道に迷ってたら、黄金で出来た船があったんだよ。多分ココにあった黄金ってのは、あの船の材料にされちまったんじゃねェか?」
「黄金の船!!? でも、そんなもん沈むんじゃないのか?」
「全部が黄金ってわけじゃねェよ。そもそも、中を見てきた限りじゃ、エネルの雷の力を動力源にして、空を飛ぶ仕組みっぽかったな……”予知”してねェのか?」
ウソップは怪訝な顔をして俺を見ているが、エネルがそんなバカげたモノを作れるなんて……空飛ぶ船……”箱舟マクシム”か。
「知ってたらこの遺跡を目指そうなんて言わないさ。黄金製かどうかは知らないが、俺の”予知”では貝の力で飛ぶ巨大な船は見たんだけどな」
「あー、多分ソレと同じもんだ。すげェ高出力の”風貝”が大量に取り付けられてたからな。電力切れに対しての備えじゃねェか?」
”噴風貝”だったっけ? そうかそれで飛ぶシーンだけを覚えていたからこんな事になったんだ。
「という事は黄金は確かにあるんだな!!?」
「全部は持って行けねェだろうけどよ、S・A・Bで切り出して運んじまおうぜ!!」
その言葉を聞いた俺は、空島MVPのウソップに思わず抱きつき、その背中をバシバシ叩いた。
「よっしゃー!!! 内心焦ってたんだよ!! 遺跡に黄金があるってナミを唆したのに、手ぶらで帰ったりなんかしたら、どんな酷い目にあわされるか…………考えただけでも恐ろしいからな。本当に助かったよ!!!」
「そ、そうか。そりゃあ良かったな」
俺のあまりの喜びように、ロビンは呆れ気味、ウソップはドン引きって感じだが、心底ほっとしてるのは事実だ。
最近ウソップのチート化に目がいきがちだが、ナミの拳の威力が地味に上がっていってるのを忘れてはならない!!
あのまま成長し続ければいずれ「鉄塊」を貫く威力に達しそうだからな……恐ろしい。”格闘女ナミ”とかシャレにもならん。
いかん、ナミにビビってる場合じゃなかった。今の一番の問題はウソップの横に見える”死”だろ。
今日襲ってくる事はないモノだって思い込んでたから、あの時は一旦スルーしたけど、少し薄くなってる事を考えれば、エネルと戦う事も一部の要因だったって事だ。
複数の要因が複雑に絡み合って、ウソップの”死”は形成されてると考えるべきだから、予告日を完全に当てにしない方がイイだろう。
「そういやウソップ、エネルを倒したんだよな?……まだ”死相”が見えるんだけど、怒らせる程度で倒しきれてないとかいう事はないか?」
「は!!? まだ見えてんのかよ!!? エネルはキッチリ倒したぞ!!?……お前こそ冗談じゃねェだろうな」
ウソップは目に見えて動揺してるけど……
「冗談でこんなこと言うわけないだろ。俺の”予知”だと、今後お前に降りかかる危険は回避可能なモノだし、だいいち命に関わるようなモノじゃないハズなんだ」
こんな時は本当の事を言っとかないとな。仲間が死ぬのは何が何でも阻止してやる!!
「……お前に見えてんのはどうなったんだよ」
「俺の? そんなモノはどうだってイイ。自分の危険には自分で対処するだけだ。それにお前の”死相”の方が、今となっては数倍濃いからな。何か心当たりはないか? 危険な実験とかしてないだろうな?」
「……特にはねェな」
じゃあ何だ?? アレ? ちょっとだけウソップの”死相”が薄くなったような……俺のも?
????? 俺とウソップに見えてる”死相”はリンクしてるってことか? 死に瀕したウソップを守ろうとして俺にも危険が及ぶとか?
原作をメチャクチャにしてるからなぁ、どんな展開になるのか予測不能だ。
「そうだウソップ、取りあえずカードを返してくれ。ちょっと占ってみたい事が「もう少し貸しておいてくれ!!!……”死相”が消えるまででイイ」……そこまで言うなら構わないけど、大丈夫か? 顔が悪いぞ?」
「大丈夫だ。ただ”死相”ってヤツにちぃっとばかしビビっちまってるみてェだからよ、このカードは貸りとくわ。結構心強いんだぜ?」
ウソップがツッこまないだと!!!?……相当まいってるな。
「まあ、そんなに心配するなよ。”死相”が薄っすら出てる俺が言うのもなんだが、ウソップがピンチの時は俺が助けてやるから」
安心させる為になるべく笑顔で話しかけたんだが……
「!!?……ありがとな……そうだ!! ルフィ達が来るまで、俺も遺跡の下の方でも見てくるわ!!」
思いっきり驚かれたうえに、とってつけた様な理由でウソップは俺たちから離れていった。
「長鼻くん、様子がおかしかったわね」
「やっぱそう見えたか?」
傍観していたロビンも、ウソップの態度には思うところがあるみたいだ。
「彼が遺跡に興味を持つとは思えないもの。この場から離れたかったから言っただけに見えたわ」
ロビンの指摘は、俺が感じていた違和感と概ね同じだった。だけど、それだけじゃないんだよなぁ……上手く説明は出来ないんだが……
深刻そうな表情で遺跡下層部に降りていくウソップを見て、俺は言いようのない不安を感じた。
〜Side ウソップ〜
どうなってんだ!!? さっきのタクミの態度は、とてもじゃねェが演技には見えなかったぞ!!? おれ以外の人間があんな、息をするみたいに自然に嘘を吐けるハズがねェ!!
アイツが”死相”が見えるって突然言い出したのは、仲間からの同情を買って、殺しを再び正当化させる目的と、おれに揺さぶりをかける為だと思ってたのに、さっきの様子じゃ心底おれを心配して、励ましてるように見えた。
カード占いの話しが出たあたりから動揺して”虚構の蜘蛛”が機能してなかった気がするけど、それでもタクミは強引にカードを取り返して占うような事はしなかった。
……おれの為……だよな。あんなもん、裏工作がバレるのを避ける為に咄嗟に吐いた嘘だってェのに。
…………!!!? そもそも”予知”でおれの計画がバレたりしてねェのか!!? あんなに自然に……いや、タクミは本当に決意を持って特殊弾を受け取ったって事か?
どんな決意だ? 決まってる!! 暴発するのを覚悟でアレを使おうとするわけがねェだろ!! ロビンを……仲間を守る為に、自然系殺しのあの弾を受け取ったんだ。敵を殺す事を真剣に悩んでいた状況で!!?
何でおれの計画にタクミは気づかない!!?……タクミは仲間を信じきってるから?……仲間が裏切るなんて考えてもいない?
”予知夢”とただの”夢”の区別がつかないってんなら筋は通る。仮におれの裏切りを夢で見ていたとしても、それは”予知夢”じゃなくてただの”悪い夢”だと考えるかもしれない。
ダメだ……矛盾点が見えてこねェ…………そもそも何でおれはタクミを疑ったんだ???
そうだ。アイツの占いが、占いなんて域を超えてるって事に動揺して、その後のタクミの態度が全部怪しく思えて…………タクミが戦おうとしてる敵は、ロビンの敵って可能性はねェか!!!?
それなら大概の事に説明がつくじゃねェか!!! ロビンをこの船に乗せたのはタクミだ。ロビンの敵がどんな強敵かも解っていて、それを隠してでも仲間に引き入れた責任を、アイツは一人で背負い込むつもりなんだ!!!
ロビンに未だに手をださねェのは、本当に大事にしてるからで、目立つ事を避けているのも、ロビンの敵の目がおれ達の船に不用意に向けられない為、だから何も言わなかった!! 何も言えなかった!! 一人で戦って、敵を倒してから俺たちに話すつもりなんだ。
それでも、どうしても敵わなかった時の為に、誰かがロビンを守ってくれると信じて、アイツは仲間を鍛えた。
ひょっとして、タクミから新戦術を聞き出したのは、ルフィからなんじゃねェのか? 悪意を持って自分から教えたんなら、ワザワザ危険性の説明をする意味が解らねェだろ!!!
…………全部おれの邪推だったっていうのか?
……何やってんだよ……おれ。
…………”死相”ってマジなんだよな。
弾が暴発して、目に破片がとんだりして……ソレが脳にまで達したり……下手すりゃタクミは死ぬよな。
可能性が低いからタクミの”死相”は薄い……じゃあおれは? おれには何で”死相”が見えるんだ?
…………何で考えなかったんだ……当然バレるんだ……おれがやったって……ワザとやったって。
いや、たとえバレなくても、製作者のおれを、ロビンが許すハズがない。
早いとこあの弾を回収しねェと、タクミが致命的な怪我を負っちまう。
それが原因で、多分おれはロビンに……いや、一味の誰かに制裁を加えられるんだ。
タクミはそれくらい一味に慕われてる。『おれの言葉は届かねェ』? そりゃそうだろ。全部おれの被害妄想じゃねェか。
でも……謝るのは……怖ェな。
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後書き
どうも作者の羽毛蛇です。
ウソップ・スーパーネガティブタイムは、ココで一先ず了となります。根本からネガティブなので、ここから先も無駄に悩んだりしますが、タクミに敵対心を持ったりする事はありません。
ウソップの成長を書きたかったというのが大前提なんですが、占いを言い訳にしている以上、これだけ的確に言い当て続ければ、誰か一人は敵対レベルで疑う人間がいないと不自然だと思って考えたストーリーでもありました。
シリアス多目の進行に疲れた反動とでも言えばイイのか、この次の91話は、私の全力を尽くしてふざけ倒しています。加筆修正してさらにふざけようかと思っていますので、次話で和んでくださいね。
これからも『百獣の王』をよろしくお願いします。