”終焉”
〜Side ゾロ〜
「剣士の相手はゾロに任せろ。ルフィはそうだな……玉の試練の担当がまだ残ってるはずだから、ビビに探してもらって二人で潰してきてくれ」
遺跡で無事に合流を果たしたおれ達の前に突然現れた敵を前にして、いつもより張り切った様子で戦いに臨もうとしたルフィを、タクミは制止しておれに任せろと言ってくれた。
正直今回は全く活躍してなかったしありがてェんだが、ルフィは不満そうな様子だ。
「しょうがねェなァ。アイツ強そうなのによ……ビビ、行くぞ!!」
「ちょっと!! わたしはゾロの戦いを観戦しなくちゃいけないのに!! 待って!! 引き摺らないで!!」
不満はあるようだが、自分にも敵が用意されていることに納得したルフィは、ビビを引き摺って森へと歩いて行った。
「ゾロ〜〜!!! 頑張ってね〜〜!!!」
「あぁ」
引き摺られながらもおれに声を掛けてくるビビに短く返事をして、おれは眼前の敵を見据える。
グラサンを掛けた屈強な男は、何か独り言を言いながら涙を流していた。何なんだいったい??
「タクミ、アレは斬ってイイのか?」
「泣き止むまで待ってやれよ。それなりに強いハズだから、ちょうどイイ修行になるだろ。泣き止んだらサクッと倒してきてくれ。」
「それなりに強いハズなのに『サクッと』って、強ェんだか弱ェんだかわかんねェ言い方だな」
「俺の力は万能じゃないって言ってるだろ? 正確な力量は測りかねるよ。俺はチョッパーと二人で沼のヤツを狩りに行くから、ついでにロビンも任せるからな」
は!? コイツがロビンをおれに任せる!!? 何考えてやがるんだ!!?
「アラ、私は置いてけぼりかしら?」
ロビンは不満を口にしてはいるが、不安はなさそうな様子でタクミに笑いかけている。
「”ロビンを守りながら”って条件でも付けなきゃ、アイツは今のゾロの相手には役不足なんだよ。神官の中では一番強いだろうけど、ロビンなら瞬殺出来るような相手だしな。手出し無用でゾロに任せておけよ」
「そ」
ロビンは説明なんかされなくても初めからタクミの意図は解ってたみてェだな。
チョッパーを連れて歩いて行くタクミを、小さく手を振りながら見送って、おれの傍に寄って来た。
「私はノラの上で待ってるから、剣士さんは頑張ってね♪」
ロビンはおれに激励の言葉をかけると、タクミが戦闘の末にペットにしたっていうウワバミの方へと歩いて行った。
確かにあんなのと戦うのに比べたら、神官一の兵との戦闘なんて難易度は低いだろうな。
ロビンはタクミの判断を絶対的に信用してる。タクミはおれがあの敵を倒せると信用してくれたんだ。
無様な戦いは出来ねェ、一太刀も浴びることなく斃してやる!!!
「−−−−みんな死んだらいい……」
グラサンは最後の一言だけをハッキリと呟いて、漸くおれを見据えた。意味わかんねェヤツだな。
「時世の句でも詠んでたのか? 戦う覚悟が出来たんならさっさと始めようぜ」
「お前がおれと戦うのか?……全能なる神・エネルに代わって、お前を救ってやろう」
「生憎おれは神に祈った事はねェんだよ。それにお前らの神はウチの狙撃手が潰したらしいぞ?」
「何!!? エネル様の声が聴こえなくなったと思えば、貴様の仲間の仕業だと!!?……俄かに信じがたいが、貴様を倒した後、ゆっくりと調べればイイ事だ……いくぞ!!!」
おそらく特殊な雲で出来てるであろう白い刀身の剣を抜き、グラサンはその位置から動く事無く剣を振るってきた。
遠距離からの斬撃、というよりは刀身が伸びただけだな。グラサンの剣士としての力量は無刀流のタクミ以下でしかねェ。
唸りをあげて迫る白い刀身を雪走の剣先で逸らし、真っ直ぐに敵へと突っ込む。
「甘い!!!」
グラサンの声に反応して、逸れたはずの刀身が背中から回り込んでくるが……
「想定内なんだよ!!」
一つの可能性として考慮していたからな。おれはそれを鬼徹で強引に弾き飛ばして更に接近する。
回り込む斬撃は、タクミも最近実用段階に入ったみてェだし、修行を覗いておいて正解だった。
「マズい!! ホーリー!!! 出て来い!!!」
伸ばしきった刀身の回収が間に合わねェと踏んだグラサンは、慌てた様子で援軍を呼んだんだが、遺跡の影から飛び出してきたのは……
「ワン!!!」
……犬? 何で犬が二足歩行なんだ? 何でおれに対してファイティングポーズを取ってやがるんだ?
関係ねェな。あの犬もまとめて叩っ斬るだけだ!!
「恨むなら、戦場に駆り出した飼い主を恨むんだな!!!……二刀流……”鷹”……”波”!!!」
な!!!? 上半身を仰け反ってかわした!!!? まるでボクサーみてェな動きだ!!!
「ホーリー!!! お手!!!」
「ワ゛ァン!!!!」
犬は撓る竹みてェに、仰け反ったパワーをそのまま拳にのせて放ってきやがった!!!
マズイ!!! あの一撃を食らっちまったら隙が出来ちまう!!!
でも飛び込んで斬りかかったおれは空中で身動きがとれねェ状態だし……覚悟を決めるか。
「必殺!!!……”螺旋鉛星”!!!」
おれは一発食らう覚悟を決めていたんだが……
「ワォーーーーン……ガゥ……」
「ホーリー!!? 大丈夫か!!?」
「戦士の戦いは、一騎打ちって決まってんだ。犬っころが横槍入れるんじゃねェよ!!」
突如現れたウソップの狙撃で、両膝を打ち抜かれたボクサー犬は一声鳴いて崩れ落ちた。
「助かったウソップ!!!」
「気にすんな、さっさとキメちまえ!!!」
「あぁ……一世 三十六煩悩……」
まさかウソップに助けられる日が来るとはな、アイツ本当に頼りがいが出てきたな。おれも負けてられねェ!!!
「……二世 七十二煩悩……」
おれは最後の刀、和道一文字を口に銜えてグラサンを睨みつけた。
「貴様ァ!!! よくもホーリーを!!! 切りキザんでやる!!!!」
タクミが言うようにこの技は溜めが長ェから、グラサンのヤツも刀身を引き戻して迎え撃つ準備が出来たみてェだが、この技の威力の前では関係ねェんだよ!!!
「……三世…………百八煩悩……三刀流……”百八煩悩鳳”!!!!」
「!!!!?」
おれが放った三本の飛ぶ斬撃は、グラサンの雲の剣を弾き飛ばし、その体に致命傷となり得る傷を与えた。
「曲芸剣士じゃおれには勝てねェよグラサン……名前くらいは聞いてやるべきだったな」
「トドメは刺さねェのか?」
倒れたグラサンに背を向けてロビンの所に向かおうとするおれに、ウソップが話しかけてくる。
「タクミの覚悟とおれの覚悟は違う……それに、今のアイツなら、こうするんじゃねェか?」
おれは落ちていたグラサンの剣を拾い上げて、戦利品として反対の腰に挿した。
「ハハッ!!! 武人みてェに見えてたけどよ、考えてみりゃアイツが一番海賊らしい事してんな!!」
「違ェねェな」
おれとウソップは顔を見合わせて笑いあいながら、ロビンのもとに向かった。
今はまだ、剣を持っていないタクミと剣士として戦っても、おれは勝てる気がしねェ。
最初の頃は『動物系が武器を持つのは邪道だ』とか言って武器を戦闘に使わなかったタクミも、今では自ら銃を手にする決意をした。
それはきっとロビンを守ると固く誓ったからだろう。おそらく切欠はチョッパーの故郷。寒さで動けないで女を守れなかったなんて冗談にもなんねェからな。
己の信念を曲げてまで強さを追い求め続けるタクミは、いつか剣もその手にする時が来るハズだ。
鍛え抜いた体だけで、おれ以上の斬撃を繰り出すタクミが、名刀を手にしたらと思うと、正直恐ろしくも感じる。
それでも……そうなった時に、一味で一番の剣士はおれでありたいし、おれでなくちゃならねェんだ……くいなとの誓いを果たす為にも、それだけは譲れねェ。
ウソップが敵の大将を斃せるほどの武器を作り上げたのも、銃を使い出したタクミに狙撃手として負けたくなかったからだろう。
それでもウソップは、タクミの武器の開発にも全力で協力している。最高のライバルが船内にいるって認識なんだろうな。
ライバルに手を貸して、それでも自分が上に立とうとしているんだ。
その姿勢はおれも見習わなきゃいけねェし、実際のところ狙撃手としての腕はウソップの方が上みてェだ。
「さっきは本当に助かった。お前はきっと最高の狙撃手になれるぞ」
「は? いきなり何なんだよ? 犬っころのパンチが掠りでもしたのか?」
本心から出た言葉だったんだが、お世辞にでも聞こえたのかウソップは怪訝な顔をしている。
……そりゃそうか。おれがこんな事を言うなんて滅多にねェからな。
「おれは剣士なのに、剣を持ってないタクミにすら剣士として勝てねェ。おれは狙撃手としてタクミより上にいるお前が、純粋にスゲェと思っただけだよ」
ウソップ相手に何言ってんだおれは……どうも昨日から感情をそのまま口にしちまってる感じだな。精神修行が足りねェんじゃねェのか? タクミみてェに瞑想でもしてみるか。
「おれが急速に手に入れた技術力なんて碌なもんじゃねェよ……」
ウソップは何故か自嘲気味に返事をしてウワバミを手招きした。
「タクミが原案を出したからって自分の力じゃねェとでも思ってんのか?」
「そうじゃねェけどよ。でも確かにタクミは何でも出来るよな。あの完璧超人に弱点なんかあんのか?」
話を逸らそうとするウソップにおれは声を掛けようとしたんだが……
「彼の弱点?」
ウワバミの頭の上で本を読んでいたロビンに遮られちまった。
「私は知ってるわよ?」
「は? アイツに弱点なんかねェだろ?……まさか、暑さとか寒さとか言うんじゃねェだろうな」
それを言っちまったら、銃を手にしたアイツの覚悟の全否定だ。
首を傾げるウソップに、ロビンは笑いながら自分を指差した……??
「彼の唯一の弱点は、私なんじゃないかしら♪」
「「……なるほど」」
おれもウソップも納得の回答だったな。
〜Side サンジ〜
「…………ん??」
ここは何処だ?? やたら騒がしいみてェだが……陸地? アッパーヤードの上なのか?
おれは確かファンキースタイルのヘンタイを船から追い出そうとして…………!!!?
「ナミさん!!!? ナミさんは無事なのか!!!?」
軽く飛んでいた記憶が戻って、おれは跳ね起きたんだが、何だこの騒ぎは??
コニスちゃんやパガヤのおっさん、軍服を着た奴らに、船を襲ったゲリラみてェな連中まで集まって、キャンプファイヤーの前で呑んで踊っての大騒ぎだ。
騒ぎの中心では、ルフィとウソップがバカでけェ蛇に乗って歌を歌ってやがるし、急拵えのステージの上では、始めて聴くようなアップテンポの曲を、タクミがベースで演奏して、他の連中がそれに合わせて踊っている。
「お? お主もようやく目が覚めたか。航海士の娘なら無事である。今は国をあげての宴会の最中ぞ」
「空の騎士?? 何で爺さんがココに!? 宴会って事は、神の軍勢は全員倒したのか!!? おれ以外の負傷者は!!? 何でゲリラがココにいる!!!? 黄金はどうなった!!?」
ナミさんが無事なのは解ったが、気になる事がいくつもあったおれは、爺さんに矢継ぎ早に質問を浴びせた。
「一度にたくさん訊くでない。ワシは航海士の娘さんに船の護衛を頼まれての。その最中に戦いの終結の報告を聞いて、そのまま宴会に参加しておるだけじゃ。後の事は船医の彼にでも訊くがよい」
そう言って爺さんはチョッパーを呼びに行った。戦いは終わった? おれは何にもしてねェぞ?
「サンジ!!! 目が覚めたんだなバイタルチェックをするからちょっと待ってろ!!!」
テキパキと計器を使っておれの体を診察するチョッパーから、今回の戦闘の結果を聞かされた。
ナミさんは爺さんと協力して神官の弟の双子を見事撃破。
ロビンちゃんはペアのタクミが殆ど戦ったから神兵2人しか倒していないけど、”大鐘楼”を発見。
ビビちゃんの戦果は凄まじく、神兵26人と神兵長とかいうヤツを一人で潰して、神官の一人をルフィと共闘して撃破。
ルフィは神兵1人と神官一人を撃破。
タクミは神兵6人を倒して、あの巨大蛇(ノラって名前らしい)と戦って手懐けたらしい。しかも昨日は神官を一人で倒している。
ゾロは最強の神官を一騎打ちで撃破。
チョッパーが神兵7人と神官一人を撃破。
MVPはウソップで、神兵8人に神官のパートナー1匹。そして一騎打ちで神を倒して、莫大な黄金まで発見。
「おれ、何の役にもたってねェな」
マジで役にたってねェのはおれだけって状況に、メチャクチャへコんだ。
「そんな事ねェぞ!!! サンジが真っ先にナミを守る為にエネルに喧嘩を売ったから、ウソップはエネルの能力を確信出来たって言ってたぞ? ウソップの切り札は一発限りだったから、助かったとも言ってたからな!!」
「……そうか」
チョッパーはメンタルケアにまで手を出し始めたのか、気休めかもしれねェがちょっとは気が楽になったな。
おれが心の中でチョッパーに感謝していると、大量の酒瓶を船から運んでいたゾロが通りかかった。
「お? 何の役にもたたなかった野朗がようやく起きたか。起きたんならさっさとツマミでも作れ。お前に出来ることはそれくらいだ」
「…………あンだと、このまりも頭がァ!!!!」
おれはこのクソムカつくまりもを蹴り砕いてやろうかと勢い良く立ち上がったんだが……
「あ!! サンジ君!! 起きたんなら甘めのカクテルに合うおつまみ作ってよ!! ココナッツリキュールが本当においしいのよね♪」
「……はぁ〜い!! ナ〜ミすぁ〜〜〜〜ん!!!」
おれの中での上位命令に従う事にした。
「……(一生やってろ素敵マユゲ)」
小声だったが確り聞こえたからなァ!!! お前のツマミにはデスソースでも仕込んでやる!!!
ふとステージに目を向けると、ロビンちゃんやビビちゃんまでタクミ主催のダンスパーティーに参加していて、ロビンちゃんに声をかけた男を、タクミがベースでぶん殴ろうとしていた。
どこのピスト〇ズだよ…………空島での宴会は長くなりそうだな。