小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”銀ギツネのフォクシー”



〜Side ナミ〜



「……そう、それは大変ね……ねェ、そろそろ一眠りしない? ゾロはとっくに潰れてるわよ?」


空島での宴会三日目……いえ、もう四日目になったわね。

ウソップから『タクミを酔い潰させてくれ!! 頼む!!』って必死な感じでお願いされたから、宴会初日からかなりの量を呑ませてるんだけど……まさか丸三日間眠らずに呑み続けるとは思わなかったわ。


「そもそも空島で何日騒いでたか覚えてないんだよなぁ、青キジから逃げられないのは解ってるんだけどさぁ、フォクシーは只のウザキャラだから関わりたくないんだよ……どうしたらイイと思う?」


ダメだ。わたしの話なんか聞いちゃいない。

半日前くらいから、タクミの言ってる事が意味不明になってきて、会話が成立してないんだけど、見た感じは普通なのよね。

普段より良く喋るから、ちょっとはお酒の効果が出てるみたいだけど……わたしは何時までタクミに付き合えばイイのかしら?


「取りあえず”青キジ”と”フォクシー”ってヤツをわたしは知らないから、ソコから説明してくれる?」

「青キジを知らない?……ナミ、お前は海賊としての自覚が足りないようだな。最初から説明してやろう。この世界の海には三大勢力と呼ばれている組織があってだな−−−−」


始まった。何かもう”1”訊ねたら”20”答えてくれるって感じで、ひたすらタクミの話を聴かされるのよね。

最初の内はマジメに聴いてたんだけど、頼んだ本人のウソップが普通に8時間睡眠の生活をしてるのを見てたらバカらしくなっちゃって、”適当に質問をする”→”タクミが長々と答える”→”グラスが空いたらお酒を注ぐ”→”話が終わったら適当に返事をする”っていうのがパターン化されてきたわ。

ロビンが起きてる間は楽なんだけど、今は明け方前で、起きてるのはわたしとタクミの二人だけ。

”金塊山分けウソップ分の三割”っていう報酬に乗せられた初日のわたしを、全力でブン殴ってやりたい気分だわ。


「−−−−だから青キジは、一味全体の敵として考えておかないといけないってことだ」

「……そう、それは大変ね……ねェ、いい加減寝ましょうよ。もう四日目の朝よ?」


わたしはダメ元で、半ばルーティーンワークになった提案を繰り返す。どうせ……


「……そうだな」


……嘘!!? やった!! ついに苦労が報われるわ!! お酒で潰れたっていうよりは、そろそろ眠る必要が出てきたってだけみたいだけど、そんなの関係ない!!

後はタクミが眠るのを見届けて、ウソップを起こせばミッションコンプリートよ!!


「何時までもココにいたってしょうがないし、そろそろ出航するか。よし、皆を起こして出航だ!!」

「ちょっと待って!!!? 航海士のわたしが三貫徹の状態で出航するのは無理よ!!」


抗議するわたしを無視して、タクミはルフィを起こしに向ってる。でも、ルフィなら……


「おい!! ルフィ!! 起きろ!! そろそろ出航するぞ!!」

「なんだよ、まだイイじゃねェか。あんなにいっぱい黄金が手に入ったんだぞ? もうちょっと騒いでいこう!!」


期待通りの反応ね。これでタクミも一旦眠るハズだわ。


「どれだけでっかい黄金も、換金しなけりゃ只の輝く岩だろ? そうだ!! 船長を称える銅像でも注文したらどうだ?」

「銅像!!? デカいヤツも作れるか!!?」


ん? 何だか話がマズい方向に……


「あれだけの黄金だぞ? そんなもんルフィの取り分の1/10も使わずに作れるハズだ。船が沈まない範囲でなら好きにすりゃイイ」

「よーし、さっさと換金して銅像買いに行くぞ!!! お前ら!! いつまで寝てんだ!! さっさと出航するぞ!!」


……終わった…………わたしの、丸三日の苦労が水の泡だわ。


「グハッ!!」

「ギャァァアア!!」

「ボヘッ!!」

「痛ッ!!」

「ってェなァ!! おれは起きてただろうが!!!」

「グェェエエ!!!」


興奮したルフィは、皆を文字通り叩き起こして回ってるけど、スヤスヤと眠っているロビンを回避する辺り案外冷静ね。

ビビには容赦無く拳骨を落としてたけど、ロビンにそんなことしたらタクミが……考えただけでも恐ろしいわ。

ていうか、ビビって普通に殴れるのね。わたしの拳もルフィに効いたりするし、悪魔の実の力も万能ではないのかしら?


「ロビン、出航するよ。起きるんだ」

「……ん、おはよう……もう出航するのね」


ロビンはタクミに優しく揺り起こされて、ちょっと眠そうだけど目を覚ましたみたい。


「ねえ、ちょっとはわたしの体調も考えて欲しいんだけど。せめて昼まで寝かせてくれない?」


ダメ元でもう一度タクミに直訴してみたんだけど……


「ダメだ!! お前とタクミは好きで呑んだくれてたんだぞ!! ワガママ言うなよな!!」


ルフィから怒られたわ……呑んだくれてたのは、わたしの意志じゃないのに。


「ナミはまだ若いんだから、太陽四日目くらいで根をあげちゃダメだぞ?」


お兄ちゃん? アナタの体がイロイロとおかしいのよ? わたしは普通の18歳の女の子なの。


「あら、私はもう若くないから誘われなかったのかしら?」


ロビンが不満気ね。イイわよロビン、やってしまいなさい!! タクミは、わたしを丸三日間も付き合わせた報いを受けるがイイわ!!


「睡眠不足は年齢問わずにお肌の大敵だよ? ロビンはいつも綺麗でいてくれなきゃいけないんだから、徹夜なんかしちゃダメだ」

「そうね、アナタの為に綺麗でいるわ♪」


ロビンの頬を撫でながら語りかけるタクミに、ロビンも笑顔で返す……このバカップルが!!!


「あのねェ!! わたしのお肌は「どうでもイイからさっさと行くぞ!! 野朗ども!! 出航だァ!!!」……はぁ、了解よ船長(キャプテン)


下の海に降りたら、またデタラメな天候や海流が待ってるんでしょうね……わたしは何時になったら眠れるのかしら。



〜Side タクミ〜



「下の海じゃあ”白雪(しらゆき)”は使えねェのか……残念だ」


空島から帰還後、シーモンキーとかいう不思議生物の襲撃を乗り切って(もちろん一匹は仕留めた)一息吐いてる俺たちなんだが、ゾロはグラサンから奪った雲の剣が使えなくなった事に落胆してるみたいだな。


「ゾロにそんな剣は似合わないだろ? だいたい”白雪(しらゆき)”なんて名前をつけるのはゾロらしくないからヤメろ」

「……『駄洒落みたいな命名センスはヤメろ』ってお前が言ったんじゃねェか」


俺はそんな事を言ったのか? どうも少々酔っ払ってたみたいで一日前くらいからの記憶が曖昧なんだよな。

気づけば超フリーフォールの最中だったんだ。アレには流石にビビった。


「酔ってた俺の言った事なんか気にするな。ゾロはその独自のネーミングセンスを貫き通せばイイ。そうだな……”白舞(はくまい)”なんてどうだ?」

「お!! なかなかイイじゃねェか!!……でも”白舞(はくまい)”はもう使えねェんだよな」


そんなに使いたかったのか? 何か意外だな。あのグラサンは、最後まで俺が名前を思い出さなかったような、謂わば半モブみたいなもんだぞ?

宴会の時に撓る斬撃を楽しげに披露していたし、ゾロはかなり気に入ってたって事か。


「天才開発者のウソップにでも頼んでみたらどうだ? 何とか使えるようにしてくれるかもしれないぞ?」

「そうだな。頼んでみっか」


実際ウソップなら何とかするだろうな。アイツちょっと異常だから。


「誰が天才だ? まぁ当然ながらおれ様の事だろうが、ソイツの解析にはちょっと時間が掛かると思うぞ? それよりも問題発生だ。この間お前に渡した”能殺弾(スキルブレッド)”なんだけどよ、どうも納得いくホローポイント性能を発揮しない可能性が高いんだ。悪ィけど一旦返してくれねェか?」


俺とゾロの会話を聞きつけてウソップがやってきたんだが、マジか!!?

青キジとの接触が近いのにそれはマズい……ウソップの”死”がマジで濃くなってきてるし、不足の事態が起こるのは確実なんだよな。


「一週間以内に完全版の追加があるんだろ? コイツを使うのはまだ先なんだ。俺がお前に渡したカードみたいにさ、お守りとして持っておきたいんだけど、ダメか?」


ウソップ困ってるな。自分でもかなり無理のある理由だと思うし当然か。


「…………わかった。なるべく早く補充をするからよ、絶対にその弾は撃つなよ!! あくまでもお守りだからな!!」


悩んだ末にウソップはかなり強めの口調で俺に念押ししてきた。

粗悪品を使わせるわけにはいかないって事か、プロフェッショナルだな。


「わかった。絶対に使わない。どんな能力者にでも勝てる気がして、持ってるだけで心強いんだ。頼りにしてるよ」

「ハッ!! ソイツは自然系以外にも有効だからな。貫通力を増した通常弾も開発してるから、ソッチも早く渡せるようにする」


そう言ってウソップは足早に船内に入って行った。多分急いで完全版”能殺弾(スキルブレッド)”を作ってくれるつもりなんだろう。

本当に頼りになるヤツだな。でも悪いな、多分この弾は今日の内に使う事になる。

ホローポイントが発動しないでも、弾丸を至近距離から発射すれば、実体化した瞬間を次弾が捉えられるだろうし、心臓を撃ち抜けば関係無いからな。

問題は俺の射撃の腕が大した事ないって所なんだよなぁ。サーキースの時にはうまくいったけど、ぶっちゃけあの精度の射撃はもう出来る気がしない。

まぁ青キジは典型的な能力依存型の自然系だし、俺の攻撃なんか避けもしないだろ。

氷結人間だから、もしかしたらS・A・B(サッブ)も有効かもしれないしな。

念の為にスモーカーの十手も装備しておけば、一方的に負ける事は無いハズだ。

待ってろよ青キジ!! 親友のサウロにロビンの事を頼まれたってのに、勝手にロビンが死にたがってるなんて決め付けたお前の正義は、俺がぶっ潰してやる!!



〜Side ロビン〜



「何もね〜〜〜っ!!! ココじゃ黄金の換金は無理だな」


船長さんの言う通り、記録(ログ)を辿って到着した次の島は、見渡す限りの大草原で何も無いわ。

次の街でこの一味から抜けようと思っていたけれど、ココじゃ流石に無理ね。

長鼻くんに彫ってもらってる刺青にもまだ色が入ってないし、アレが完成してから考える事にしましょう。

それよりも、タクミはどうしたのかしら? こんな未開の地に着いたら、真っ先に生物調査に飛び出して行きそうなのに、海を眺めて何か考え事をしてるみたいね。


「ルフィ!! 言っても無駄なのは解ってるんだがな、”デービーバックファイト”は受けるなよ!!」


真っ先に上陸した船長さんを見て、タクミは突然思い立ったように声をかけたんだけど、どうして今”デービーバックファイト”なのかしら?


「何だソレ? 戦い(ファイト)? 俺はどんな戦いからも逃げたりしねェぞ? お〜い、ウソップ!! チョッパー!! 待てよ!!」


船長さんは彼の言葉を軽く流して、引き止められてる間に行ってしまった船医さんを追いかけて行った。

私は、溜息を吐いて彼らを見送っているタクミの傍に近づく。


「どうして今”デービーバックファイト”の話なんかしたの?」


ちょっと疑問に思ったから聞いてみたんだけど、彼は凄く驚いた顔をしたわ。


「ロビンなら気がついてると思ってたよ。さっき擦れ違った、帆を掲げていないまとまりの無い船があっただろ? 船員がやたらガラが悪かった事から考えるに、アレはおそらく”デービーバックファイト”で一切合財奪われた海賊船だ」


なるほど、そういう事だったのね。いつもながらタクミの観察眼には驚かされるわ。

彼の真骨頂は占いなんかじゃなくて、この冷静な判断力でしょうね。


「そして船が来た方向から察するに、あの船に”デービーバックファイト”を仕掛けた海賊船は、まだ近くにいる可能性が高いって事ね」

「そういう事」


彼は手馴れた仕種で煙草に火をつけ、深く吸い込んだ後に紫煙を吐き出す……”92.45%”


「この島に敵船が来る確率?」

「いーや、俺の忠告を無視してルフィが”デービーバックファイト”を受ける確率だよ」


そう言って次に彼が吐き出した煙は……長鼻くん並に鼻の長い、頭が割れた様な男の顔になった!?

今回の敵って事!?……コレは厄介ね。


「……”銀ギツネのフォクシー”、コンバット無敗の海賊……彼が今回の敵なのね?」

「ロビンはコイツを知ってるのか!?」


「当然よ。”デービーバックファイト”から海賊が逃げない事と、自分の能力を利用して、高額賞金首を次々と配下に付けてのしあがった男。大所帯の一味を纏めるカリスマ性が危険視されて、確か本人の懸賞金は2億ベリーじゃなかったかしら?」

「はぁ!!!? あのワレ頭が2億!!? マジかよ!!? 俺アイツの事は好きじゃないんだけどなぁ……まぁ、能力の厄介さから考えたら順当な金額なのか?」


銀ギツネの懸賞金を聞いて、タクミは酷く驚いた様子だわ。予知夢で能力や存在は知ってたけど、そこまでの海賊とは思ってなかったって事かしら?


「アナタの好き嫌いは関係ないんじゃない? とにかくあの銀ギツネが相手となると相当厄介ね。最近の記事でいったら”西の海(ウエストブルー)”出身のファイアタンク海賊団が丸ごと吸収されたそうよ。船長の”カポネ”は1億2000万ベリーの大型ルーキーだったハズだわ」

「カポネ?……知らない名だな。俺と同じ手配額か……まぁ、それくらいならなんとかなるだろ。強さだけで評価するなら、俺もルフィもゾロも2億は固いハズだからな。サンジだって1億くらい掛かってても不思議じゃない強さだし、危険度で言えばウソップはとんでもない事になるだろうからな」


随分と自身有り気ね? 長鼻くんの件を話す時なんか笑いを堪えてるみたいだったわ。


「それなら、さっきは何を心配していたの?」


タクミはさっき以上に驚いた表情を一瞬浮かべた後、苦笑いをした。


「ロビンに隠し事は出来そうも無いな。でも、今は何も訊かないでくれ。ロビンは何も心配しないでイイ」


私は明らかに無理をして微笑んでいる彼に、自然な微笑を返しながら答える。


「わかったわ。今は何も訊かない……アナタを信じるわ」


コレは今の私の偽りの無い気持ち。ココまで盲目的に相手を信じるなんて、少し前の私じゃ考えられない事ね。

タクミも今度は自然な笑みを浮かべて、私を抱きしめてきた。

背中の痛みはもう引いているけれど、剣士さんと雨女さんがマジマジと見つめている前でされるのは、ちょっと恥ずかしいわね。


「……ありがとう。ロビンは必ず俺が守る……どんな手を使ってでも」


彼が語るのは悲壮な決意……彼はいったい何から私を守ろうとしているの?

『今は何も訊かない』って言ったばかりだし、流石に訊き辛いわね。でも……


「ねぇ……」


私が口を開いた瞬間、二発の発砲音が島の方から聞こえてきた。


「あーぁ、やっぱり受けたか。えらく展開が急だな。まだ敵船も現れてないっていうのに……”デービーバックファイト”か、何か波乱が起きそうだな」


……訊こうと思ったのに開戦の合図に邪魔されてしまったわね。

でも、一日に連戦って事は無いでしょうし、今日の夜の祝勝会の時にでも訊けばイイわね。


「”銀ギツネ”に勝つ自信があるんでしょ? 面白そうじゃない? アナタの活躍を楽しみにしてるわ♪」

「”銀獅子”VS”銀ギツネ”ってのも面白そうだけどな、流石にソレは船長のルフィに譲るよ。俺はそのカポネってヤツでも潰させてもらうさ」


1億2000万の大型ルーキーを暇潰しの相手の様に話すタクミが、どんな敵を見据えているのかは気になるけれど、今はこの戦いに集中した方が良さそうね。

もっとも、彼が私をメンバーに入れるとは思えないけれど。



 
  
〜おまけ〜



「ゾロ、『牛鬼 勇爪』って『ぎゅうぎゅう詰め』ってことだよな」

「な!!? 何でまだ見せた事もねェ技を!!?……お前にそう言うツッこみは野暮だったな。それがどうかしたか?」


「……アレは流石に無いわ。相手が『盆踊り』とか言わなかったら読んでてキレそうだったからな」

「……すまん。意味が解らねェんだが、結局は何が言いてェんだ?」


「駄洒落みたいな命名センスはヤメろ」

「おれのアイデンティティーが否定された!!?」



〜Fin〜
 
 
 

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