小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”大ポカ”



〜Side タクミ〜



「浮かない顔ね。アナタもお祭りとか好きなんじゃないの? 船長さん達みたいに楽しんできたら?」


フォクシー海賊団の驚異的な会場設営速度で展開された出店やらなんかで、この島の一角はお祭り騒ぎだ。

確かにこういう雰囲気は嫌いじゃないんだが……”デービーバックファイト”って、確かアニメではロビンが奪われたりするんだよな。


「無理だよロビン。この状況じゃナミの反応が唯一まともな反応だって。なぁ、俺は別に海賊の誇りとかどうでもイイし、ゲームじゃなくて単純に殲滅してきたらダメか?」

「それは無粋なんじゃないかしら? わたあめでも食べて元気だして♪」


俺はロビンに渡されたわたあめを一口齧ってチョッパーに上げた。チョッパーのヤツ、何かやたら喜んでたな……そっか”わたあめ大好きチョッパー”って手配されるんだよな。

それは置いといて、理想としては原作なんかぶち壊して3タテにしてやりたいんだけど、コレ以上イレギュラーを増やす訳にもいかないし、悩みどころだ。

お色気船大工とかいうキャラがいたけど、万が一誰かを選ぶなら音楽家がイイな。

海賊旗と音楽家二人を奪えばブルックと俺を入れてカルテットが組めるし……何を現実逃避してるんだ俺は。

そうこうしている間に両船長の誓いが終わり、フォクシーの手によって3枚のコインが海へと投げ込まれる。


「ホールデムルールによる”3コインゲーム”をデービー・ジョーンズに報告!!! 開戦だァ!!!」


…………ある程度予想していた事とはいえ、ルールからして違うのかよ。

ホールデムルール? ”テキサスホールデム”の事か? 手札と場の共有カードで役を成立させるポーカーの事だけど、デービーバックファイトに置き換えるとなると、見当もつかないな。


「サンジ、ホールデムルールって何だ?」


原作でオーソドックスルールを知ってたサンジなら、このルールも知ってるかと思って訊いてみたんだが、なんか驚いた様な表情だな。


「お前でも知らない事ってあるんだな!! ホールデムルールってのは、出場者10人の中に、必ず二匹以上の動物がいなきゃいけねェルールだよ。で、その動物は最終戦のコンバット以外なら何回出場してもイイんだ」

「動物? カルーは問題無いとして俺とチョッパーはどうなるんだ? チョッパーは元がトナカイで人間の能力者だし、俺は人間だがライオンの能力者だぞ?」


「動物系は動物としてカウントしてイイ事になってる。お前はコンバットで一勝するより二回出場したほうが得だな」


なるほど、動物を共通カードに見立ててホールデムルールって呼ばれてる訳か。究極を言えば、動物系を9人揃えてしまえばかなり有利って事だな。

フォクシーはアホか? 俺の賞金額をしっていながらこんなルールを提示してくるなんて、それとも動物系の強力な能力者が大勢いるのか?


「種目はどうなってるんだ?」

「ほれ」


ゾロに渡された選手登録表、第一種目『ドーナツレース』、第二種目『フルメタルドッチボール』、第三種目『コンバット』。

……フルメタルドッチボール? 鉄球でも投げ合うのか? ドッチボールなんだからココに人数を割くべきなんだろうが、絶対にナミとロビンは出場させられないな。


「ルフィ、今回も人選は俺が決めてイイのか?」

「俺をコンバットに回してくれりゃあ何でもイイよ」


ルフィ、もう考える気は微塵もないみたいだな。やり易いと言えばやり易いんだが、船長ってそんなんでイイのか?


「了解だ…………『ドーナツレース』出場者はロビン、ナミ、ウソップ、チョッパー、カルーだ」

「ちょっと待って!? タクミは出てくれないの!!?」


俺の発言にナミがメチャクチャ驚いているが、コレは当然の策だ。


「コレは海賊競技なんだぞ? 俺は陸上からの敵の妨害行為を止めるのに専念した方が得策だ。レースに使う船はカルーとチョッパーが走るのを動力にしたパドルシップが最適だろうな。手漕ぎ用のオールを大量に作って、ロビンがそれを補助。ナミが指示を出して、ウソップが敵船に狙撃を加える。相手が鮫とか魚人とかを出してきても、この布陣ならそう簡単には負けないハズだ」

「使える材料は空樽五個とオールが四本だけよ? 回転動力のパドルシップなんて短時間で作れるの?」


ナミは不安げな表情だが、何の問題も無い。


「今のウソップならなんとかなるだろ? 余った材料でオールの追加も何とかしてくれ」

「相変わらずムチャを言いやがんなお前は、おれを過労死させたいのか?」


…………否定は出来ないな。だが、ウソップ以外には任せられない。


「……ったく、解ったよ今から図面を引く。作るのは皆手伝えよ? 時間制限があるらしいし」


無言の圧力が効いたみたいで、ウソップは折れてくれた。何か最近頼りっぱなしだな。


「次に行こう『フルメタルドッチボール』出場者はゾロ、サンジ、ビビ、チョッパー、カルー、そして俺だ」

「クエェ!!?」

「おれは二回も出るのか!!?」


チョッパーとカルーの驚き方が半端じゃないけど、しょうがないだろ。


「ルールは確り利用しないとな。多分鉄球を使ったドッチボールだと思うが、当たらなけりゃイイんだよ」

「鉄球を投げ合う競技に女の子を出場させるの!!?」

「てめェ、ビビちゃんが当たっても平気だからってソレはねェんじゃねェのか!!?」

「ぎゃぁぁああ!! 鉄球!!?……そういえばドッチボールって何だ?」

「クェ……」


何か騒がしいがスルーだな。どうしてゾロみたいにドシっと構えていられないんだか。


「で、最終戦『コンバット』がルフィだ。特に文句も無いみたいだからコレで提出してくるからな」

「おう、イイぞ」

「ちょっと待て!! 意義ありだっつてんだろ!?」

「……諦めましょう。どうせタクミさんは聞き入れてくれないわ」

「誰かドッチボールを説明してくれェ!!! おれは何をやらされるんだァ!!!」


俺はサンジの抗議の蹴りを「獅子鉄塊」でガードしながら選手登録用紙に記入を済ませて、勝手に提出した。


その後は一味総出で『ライオネル親方号』(ゾロ命名)を作成して、いざドーナツレース!!!

ピンチになれば、ウソップがマクシムからかっぱらった”噴風貝(ジェットダイアル)”を使ってなんとかするだろ。

麦わらチームの紹介が終わり、フォクシーチームの紹介。突如として海中から現れた巨大な生物に、俺は唖然とした。


『『フォクシーチーム代表は我らのアイドル、ポルチェちゃん!!! 率いるはカジキの魚人カポーティ!! ホシザメのモンダ!! パンサメのパルサー!! そしてメガロドンのギャリングだァ!!! 乗るボートは『キューティワゴン号』〜〜〜〜〜!!!』』


「……やられた。まさかそうくるとは思わなかった」


ホールデムルールにしたのは、制限人数を増やして三匹の鮫と魚人で確実に最初の一勝をもぎ取る為だったんだ。ていうか、古代生物メガロドンなんてどこから連れてきたんだよ。

和名は”ムカシオオホホジロザメ”全長40m学説はとっくに否定されたハズなんだが、あの個体は50mを超えてるぞ?

鮫じゃ二種目出場は無理だろうが、原作以上にコンバットに自信を持っているであろうフォクシーならではの戦略、でも一回のゲームで一人しか船員を奪えないようなチーム編成にするとは思えないし、ドッチボールでも何か仕掛けてくるって事か?


「おいタクミ、何だよあのバカでけェサメは!!? こりゃあ妨害とか関係なく勝ち目は薄いんじゃねェか?」


敵の戦力を見て(ていうかメガロドンを見て)サンジはかなり不安そうだ。


「多分あのメガロドンが船を引いてっていうか船を載せて進んで、残りの鮫と魚人が妨害に対する迎撃隊、もしくはロビン達の船を沈めにかかる遊撃隊って所だろうな。あの女は只のマスコット、もしくは指揮官なんじゃないか?」

「冷静に分析した結果として、おれ達の勝率はどんなもんなんだ?」


流石のゾロも表情を曇らせて俺に訊いてきたんだが、気休めは言わない方がイイだろうな。


「知識としては知ってるんだが、メガロドンはとっくに絶滅したハズの古代生物だ。遊泳速度がどれ程のものなのか不明なんでなんとも言えないんだが、もしもあの巨体で並の鮫と同程度の機動力があるとすれば、ウチのチームが機動力をうまく生かして、妨害を俺たちが完封したとして……勝率二割ってとこだ」


沈黙する俺たちと、大盛り焼きソバに夢中のルフィを見ながらビビは首を捻っている。


「どうしたビビ?」

「えーと、何をそんなに悩んでいるのかと思って」

「……ビビちゃん? 見れば解ると思うんだけど、かなりヤバイ状況なんだよ?」


最近はサンジもビビの事をアホのコ扱いしだしたな。


「海賊競技なんでしょ? ルール無用ならコッチも妨害攻撃をすればイイじゃない。海でやる競技ならわたしの”大津波(タイダルウェーブ)”も真価を発揮できるわ。あんな大きな的なんか沖合いまで押し流してあげるわよ」


”タイダルウェーブ”? 津波の事か? いつの間にそんな大技が出来るようになったんだよ!!?

それよりも、何で俺はコッチから攻撃する事を全く考えていなかったんだ?

あのメガロドンだってEb&Ivで、鮫の急所である鼻の辺りをメッタ撃ちにすれば流石に堪えるだろ。まあ、今回はビビに任せるか。


「そうだな俺の考えが浅かった。じゃあその役目は頼んだぞ。ビビが妨害係りで、残りは敵の妨害を止める係りだ。ついでに予想されるビビへの妨害はゾロが完封しろ。ビビの言う通りコレは海賊競技なんだ、かなり手荒になって構わん」


ルフィはまだ焼きソバを食ってるが、手荒で構わないと聞いたゾロは悪人の顔になってるし、サンジはナミとロビンを守る為に気合十分、ビビは新技を早く試したくてウズウズしてるって感じだな。

俺はフォクシーの動向にだけ注意する事にしよう。”ノロノロビーム”さえ撃たせなければ勝機はまだあるハズだ!!!


「…………ってあのキツネ野朗は何処に行きやがった!!!?」


クソッ!!! また俺が後手に回らされたって事かよ!!!


「ココは任せた!!! 俺はフォクシーを探す!! アイツの能力で妨害されるのが一番厄介だ!!!」


俺は「剃刀」で空へと駆け上がり、フォクシーを探すべくその場を後にした。



〜Side ビビ〜



「ロビンが出場してるだけあって、アイツも余裕がねェな。妨害は任せたぞ。おれとサンジはお前のサポートに徹する、今回の主役はお前だ。ルフィの手を煩わせるまでもねェ」


タクミさんがこの場を離れた直後、珍しくゾロから話しかけてくれたわ!!


「がんばるわ!! すべてを無に帰すような大波で、一瞬でかたをつけてみせる!!」


ゾロに期待されるなんて状況はメッタに無いハズ!! 彼に似合う強い女になるって目標を達成するには最高のアピールポイントよね!!


「気合入れるのはイイが、やり過ぎんなよ」


そう言ってゾロは、わたしと背中合わせの位置で刀に手を掛けて、レースの開始を静かに待つ。

〜〜〜〜〜〜〜っ!!! どうしてこんなにイチイチカッコいいのかしら!!! さり気無くゾロをわたしの護衛に指名してくれたタクミさんには感謝しなくちゃ♪


『『位置について!!!』』


拡声器から聞こえる甲高い声を聞きながら、わたしは目の前の海水に手を入れる。

わたしは最近になってようやく自分の能力の本質を理解出来てきた。

わたしは身体を水に変えたり、生み出した水を操れるだけの能力者じゃない。

本質として雨人間なわたしは、雨を降らせるのに必要な上昇気流を起こす事が出来る……らしい。

ナミさんが言ってたから多分そうなんだろうけど、雨を降らせるのは感覚的に覚えてしまったから、上昇気流っていうのは良く解らないのよね。

事実として雨を降らせる事が出来る以上、最低でも上昇気流限定で風が操れてるって事になるらしいわ。

この力に関してはまだ自分では扱えないんだけど、問題はもう一つの力。

自分が生み出した水以外でも、直接手を触れれば操作が可能って事なのよね。

空島のシャワーの水圧が強すぎた時に、慌てて手で遮ろうとしたらお湯が一つの水球になっていった時は驚いたわ。

実戦ではまだ使った事は無いけど、水量不足で只の感知技になっていた”大津波(タイダルウェーブ)”も、海水を直接操作すれば本来想定していた威力を発揮出来るハズ。


『『レディ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜イ』』


さあ!! 一撃で決めるわよ!! 最大出力で沖合いまで押し流してあげるわ!! ちょっとウチのチームが巻き込まれても、ソレはご愛嬌ってヤツよね♪

わたしは今操れる限界の量の海水に力を行き渡ら……せ……て……????


『『ド ――― ナツ!!!』』


……実況の声と同時に、凄まじいまでの砲撃音が轟いて……ってそれどころじゃなくて……ってそれどころなんだけど!!!


『『両チーム一斉にスタート!! と同時にフォクシー海賊団お邪魔攻撃ィ!!!』』


……????????


「おい!! ビビ!! 何やってんだ!!! サンジ一人じゃあの人数は抑えきれねェぞ!!!」


後ろからゾロの必死な声が聞こえてくるんだけど……


『『ライオネル親方号は狙撃手ウソップと考古学者ロビンが必死の抵抗!!! 飛んできた砲弾を打ち落としたり受け止めたりと大奮闘だけど、コレじゃあ何時になっても先へ進めないよォ!!! キューティワゴン号はその隙にギャリングに載って悠々発進!!! コレじゃあギャリング号だね!!! 周りを回遊するモンダとパルサーの姿はさながら魚雷!!! 守りも万全だァ!!!』』


「ビビ!! 早くしろ!! コレじゃあ誰もお前を狙ってこねェし、おれもサンジの加勢に回った方がマシだぞ!!!」

「……ゴメンなさい……海水は操作出来ないみたいなのォ!!! どうしよう!!? ロビンさんが砲撃を受けてるし!!! このままじゃタクミさんに抹殺されるわ!!!」


予想外だったわ!!! 水は水じゃない!!! 海なんて大きな水溜りみたいなモノでしょ!!? 違うの!!? なんて融通の利かない能力なのよ!!!


「アホかァ!!! 新技の事前テストくらいちゃんとやっとけ!!!……過ぎた事は仕方ねェ。タクミにはおれから何とか説明してやるから、せめて他の敵からの妨害だけでも阻止して、少しでも汚名返上しろ」

「……期待に応えられなくてゴメンなさい」


「何時までもウジウジすんな!!! さっさと行くぞ!!!」


そう言ってゾロはわたしを置いて飛び出して行って、ロビンさん達に向かって投げられた大岩を賽の目斬りにしてしまったわ。

……情けないわね。こんなんじゃ何時まで経っても彼と並んで戦う事なんて出来ないじゃないの。

彼の言う通りだわ!! 悔やんでいても何も変わらない!! 今わたしに出来るのは少しでも早く妨害を鎮圧して、ロビンさん達が先へ進めるようにする事だけ!!


「ゾロ!! ソコを退いて!!」


ゴメンなさいタクミさん!! ロビンさんは怪我した訳じゃないみたいだし、コレで許して……くれるわよね。

今度こそ!! コレが、今のわたしの最大出力!!!


「”蛙鯉地獄(ドゥードルバッグ)”!!!!」


わたしの両手から放出される大量の水は、中心の一点を目指して、大きな円を描きながら徐々に加速していく。


「な!!? 何だこの水の壁は!!?」


逃げ出そうとしても無駄。その円の中に入ってしまったからには逃げ出す術はほぼ無いわ。

妨害攻撃はもう完封したも同然だけど、この状態を何時までもキープ出来る程、わたしの能力は完成していないし、トドメを刺させて貰わなくちゃね。


「だんだん迫ってきてるぞ!!?」
「何とか出れねェのかよ!!?」
「ムリだ!!! 流れが急過ぎる!!!」


わたしが出せる水の量にも限りがあるから、徐々にその円周を小さくしてはいるけれど、ソレは捕らえた獲物を中心へと集めるだけで、この技の欠点なんかじゃないわ。


「ビビ!! もうちょっと早く声を掛けやがれ!!! 危うく巻き込まれる所だったじゃねェか!!」


びしょ濡れの状態で現れたゾロに、視線だけで謝っておく。コレの制御には神経使うのよね。


「だずげてくれェ!!!」
「ガバボゴボボベ……」
「ごんなヤヅがいるなんでぎいでねェよ!!!」

「おいおいマジかよ!!? ココは陸地だぞ!!? どう見たってこりゃあ……」


落ち着いたゾロは振り返り、阿鼻叫喚の地獄絵図と化したフォクシーお邪魔団の陣地を眺めている。

その目に映るのは巨大な大渦。アラバスタの巨大アリジゴクをイメージして作った大規模制圧技なんだけど、水で再現したらこうなったわ。

”泉の袋小路(オアシス・デッドロック)”の対多人数版って感じね。

大渦は中心に向かって集まっていって、そこで乱回転する水球なるって仕組みよ。

だんだんと水球が大きくなっていって、全員が水球に呑まれてしまったのか、もう叫び声は聞こえなくなったわ。

わたしはもう少しだけ水量に余力があるのを感じながら、能力を解除した。


「……とんでもねェ技だな。自力で抜け出せるのは魚人くれェじゃねェのか?」

「ふぅー、不用意に水に触ったりしないで、最初に囲われた時点で水の壁を飛び越えれば攻略出来るわよ。ゾロもそうやって脱出したんでしょ?」


わたしの説明を聞いても、制御を失ってそこら中に飛び散った水を浴びながら、ゾロは呆然としてるわね。


「……ああ、ちょっと掠って呑み込まれそうになったけどな……!!!? ルフィ!!?」

「…………あ」


一面に転がる水死体……いえ、多分みんな死んではいない……ハズよね。

その中の一人がルフィさんだって事に気づいたゾロは、急いで助けに行ったわ。

効果範囲を広くしすぎたせいで、屋台なんかも全部巻き込んでしまったんだけど、まだ焼きソバを食べてたなんて……


「コレで後はロビンさん達のがんばり次第って事ね!!!」


イロイロと無かった事にしたくて大きな声で言ってみたんだけど、辺りに転がる水死体(仮)は何も答えてくれなかったわ。

……やりすぎちゃったのは事実だし、人工呼吸以外の救命措置くらいはしてあげてもイイわよね。



〜Side ロビン〜



『『勝者!!! キューティワゴン号!!!』』


実況が勝利チームを宣言しても、会場はイマイチ盛り上がりに欠ける様子だわ。

辺りを見渡すと、フォクシー海賊団の大半はびしょ濡れで、精魂尽き果てた様な表情になってるわね。

雨女さんの新技、チラッと見えたけどとんでもない技だったわ。陸地で渦潮を発生させるだなんて常識外れよ。


「相手がメガロドンなんか出してきたんだ。負けても仕方ない」


陸に上がった私たちを、タクミは責めたりはしなかった。

でも、敗戦チームは船員を奪われるこのゲームの最中とあっては、集まった一味の空気は重い。

確かにあの巨大鮫は反則級だったわ。でも、魚人と残りの鮫は倒したし、長鼻くんが持っていた”噴風貝(ジェットダイアル)”を使って、後一歩の所まで追いついたのに……悔しいわね。


「すまねェ。チョッパーもカルーも、もちろんロビンも頑張ってくれたんだけどよ……おれがもっと早く”噴風貝(ジェットダイアル)”に気づいてたら……」


レース終盤まで”噴風貝(ジェットダイアル)”の存在を忘れていた長鼻くんは、かなり責任を感じているみたいね。


「ちょっとわたしは!!? 海流の迷路に嵌らなかったのはわたしの活躍でしょ!!? 一人だけ何もしなかったみたいな言い方はヤメてよね!!!」


航海士さんは言葉では怒っているけど、自分が一番役に立ってないのは自覚してるみたいで、妙に歯切れが悪い。


「ナミ、ムリに雰囲気を変えようとしなくてイイんだ。それじゃあ、ただの嫌なヤツみたいだぞ? 誰が取られても必ず俺たちが取り返してやる。心配するな」

「ゴ、ゴメンなさい……でも、わたし……何も出来なかった!!!」


泣き出しそうな顔の航海士さんを、タクミは優しく抱きしめて、頭を撫でて宥めている…………妬いてなんかいないわ。

それにしても、航海士さんの言葉にはそういう意図があったのね。

彼は何時でも一味全体を良く見てるし、皆が一味の為に動いている。

素敵な一味ね……最初から、私なんかが関わってイイ人達じゃなかったんだわ。


「それにな、最終戦のコンバットは万に一つの負けも無くなった。場外戦としては、ちょっとやりすぎたかもな」

「場外戦??……あ!!? ちょっと!!? あっちの船長ボロボロじゃない!!?」


航海士さんの視線の先には、身体中が穴だらけになってたくさんの船医に囲まれているフォクシーの姿があった。

おそらく彼の「獅子針銃(シシシンガン)」にやられたのね。


「お前らの邪魔をする為に待ち伏せしてやがったからな。ちょっと痛い目にあって貰ったんだ。少しは気が晴れたか?」


そう言ってタクミに頭を撫でられた航海士さんは、少しだけ笑っていたけどまだ表情は晴れない……彼女も気づいたのね。

タクミの服装が、スタートの時と違ってる事に。というより、彼があのロングジャケットを脱いだところなんて、数える程しか見たことないわ。

相手は2億の賞金首、いくら彼といえども無傷で一方的に倒せるハズが無い。

真紅のコートのその下には、きっとたくさんの傷があるハズだわ。

最初の地点を除けば、敵からの妨害は皆無だった。そこまでお膳立てをして貰ったのに、私たちは勝てなかったのよね。


「落ち込んでたってどうしようもねェよ。お前らは全力でやったんだろ? 信じられねェ大ポカをやらかしたヤツもいるんだから気にすんな」


剣士さんが慰めてくれたんだけど、大ポカ? 誰の事かしら? ソコに転がっているコックさんの事?


『『さァさァ!! では待望の戦利品!! 相手方の船員1名!! 指名してもらうよっ!! オヤビンはグロッキーみたいだけど、大丈夫かな!?』』


そうこうしている間に指名タイムになったみたいね。実況に急かされて、フォクシーは船医を伴わずに一人で壇上に上がった。


「フェ、フェ……大丈夫に決まってんだろうが」


かなりムリしてるみたいだけど……誰を選ぶつもりかしら。


「まずは一人目、おれが欲しいのは…………!!! お前だァ!!! 占い師ィ!!! ”銀獅子のタクミ”!!!」


…………!!!!?


「ハァ!!? 俺!!?……クソッ!!! そういう事か!!!」

「………………」

「ちょっとタクミ!!! 一人で納得してないで説明してよ!!! ロビンがフリーズしてるじゃない!!!」


「俺を”占い師”だと知ってて、初めから狙ってたんだよ。コレだけの大所帯でも”占い師”なんて人間はいないんだろうな」

「そんなもんはついでだ。 ”銀獅子”なんて二つ名のヤツが活躍しやがったら”銀ギツネ”のおれが目立たねェだろ?」

「「「さー早くこっちへ来い〜〜〜っ!!!」」」


「「「タクミ!!!」」」
「お兄ちゃん!!!」
「タクミさん!!!」
「タクミ〜!! おで、いやだ〜〜〜!!!」
「タクミはおれのだぞ!!!」
「………………」


「はぁ、直ぐに取り返してくれよ?……チョッパー泣くな、ロビンを頼んだぞ」

「フェ〜〜〜〜ッフェッフェッフェッ!!! ウチの船員をメチャクチャにしてくれたあの洪水娘を先に引き抜くべきか悩んだがな、やっぱりお前が先だ!! 後はカポネが何とかするからな!!」

「ロビン? 大丈夫か? タクミに任されたからな!! おれはもう泣かないぞ!! ロビンも元気を出して……ロビン?」

「フフ……フフフフフ、そんなくだらない理由で、私から彼を引き離すのね?」


「ロビンさん? 笑顔がとても怖いわ。タクミさんならわたしが責任を持って連れ戻すから」

「残り少ない彼との時間を……ひどい事するわ……」


「あの野朗は必ず連れ戻す!! 不本意だが約束する!! 時間はまだまだあるから!! お願いだからいつものロビンちゃんに戻ってくれ!!」

「クフッ…………許さない!! 彼は私が取り返す!!」


「ロビンはもう出場できないわよ!! そういうルールなの!! 落ち着いて、サンジ君達を信じましょう?」

「ルールなんて関係ないわ!!! 私を二回戦に出しなさい!! 全員の背骨をへし折ってあげるわ!!」


『『おーっとォ!!? 麦わらの一味、考古学者ロビン!!! どうやら”銀獅子”とは恋仲のようだよ〜〜〜!!! 男を取られた恨みから!!! クールな大人の女の仮面を脱ぎ捨てたァ!!!』』

「五月蝿い!!!」


『『グハッ!!!』』

「ロビン!!! 落ち着け!!! タクミが見てるぞ!!! ちょっと引いてるっぽいしヤメロ!!!」


…………は!!!? 私ったらなんて醜態を晒してしまったのかしら!!? 思わず実況を撃墜してしまったわ!!?

剣士さんに言われて、急いで彼の様子を確認してみたんだけど、フォクシー海賊団の特設ステージ上の彼は、私を見ていつも通りの微笑を浮かべていた。

……剣士さんに担がれたみたいね。


「ロビ〜〜〜ン!!! ありがとなぁ〜〜〜!!! 俺とロビンは離れられない運命なんだ!!! 俺の占いを信じるなら!!! ゾロ達の事も信じて、俺の帰りを待っててくれ!!!」


さっきまで敵だったタクミの言葉なのに、会場はかなり盛り上がってるわね。

彼の言葉を聞いた私は、心配そうに見上げてくる船医さんを抱き上げて、航海士さんの隣に座った。


「……もう平気か?二回戦にはおれもまた出るんだけど、そんなに頼りないならこのまま抱き枕にでもなってるよ」

「チョッパー……」


船医さんは、彼に任されたのに私を止められなかった事で、随分と自信を喪失してしまったみたいね。

航海士さんは今度は船医さんの事が心配みたい。私は船医さんを放して、コチラを向かせた。私のせいだし、元気付けてあげなくちゃね。


「そんな事ないわ。頑張って彼を取り返してきてちょうだい。頼りにしてるわ……チョッパー♪」

「!!!? は、初めて名前で呼んでくれたのか?」

「多分タクミ以外では、一味の中で初よ!! よかったわね!! チョッパー!!」


「うおーーーー!!! おれ頑張るぞ!!!」


……船医さんは大型化して、そのまま走り去ってしまったわ……ココまで効果があるとは予想外ね。


「あそこまで取り乱したロビンは初めてみたわ♪ もう大丈夫みたいね」


二回戦の会場に向かおうとしていたら、追いかけてきた航海士さんに話しかけられたんだけど、ニヤニヤしすぎよ。


「からかわないでちょうだい!! もう大丈夫、彼を信じるわ」

「はいはい、ちょっとは他の皆の事も信じてあげてよね」


航海士さんは笑いながら私を置いて走っていく。

……そうね。タクミだけじゃなくて皆を信頼してもイイわよね。

こんなに、素敵な一味なんだもの。



残り少ない一味での暮らしを、私はタクミ以外とも過ごしてみようと思う……悔いは、残したくないから。




 
〜おまけ〜



「この水はビビちゃん!!? 何でおれまで巻き込んで……おいおいマズくねェか!!? どうやら脱出不能みてェだし!!? ビビちゃ〜〜〜ん!!! おれもこの中にいるよ〜〜〜!!! 出してくれ〜〜〜!!!……ダメか……!!!? もしかしてこのまま呑み込まれちまえば、女性陣の誰かからの、人工呼吸とかが待ってるんじゃねェのか!!? ヤッホ〜〜〜イ!!! おれは今すぐ飛び込むぜ!!! 荒れ狂う恋の大渦へ!!!」


…………五分後。


「サンジ!!? コイツも渦に呑まれてたのかよ!!?……何でこんなに幸せそうな顔してやがんだ?……取りあえず踏みつけて水でも吐かせるか」



〜Fin〜
 
 
 

-94-
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