小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”漢 トニートニー・チョッパー”



〜Side タクミ〜



「いやぁ、流石にまいったな。まさか見てるだけなんてポジションに俺が陥るとは思わなかった」


革張りの高級ソファーに深々と腰掛け、目の前に用意されたなかなか上等な部類に入るワインを呑みながら、俺は誰に言うでもなく独り言る。

1億2000万ベリーの賞金首という事もあってか、フォクシー海賊団における俺の扱いはVIP待遇と呼んで差支えが無いモノだった。


「おめェ、あんまりふざけた事抜かすなよ!!! ココまでおれを痛めつけておきながらァ!!! どこが見てるだけだァ!!!」


ビビがメチャクチャにしてしまったらしい会場の復旧を待つ間、精々タダ酒でも楽しもうと思っていたんだが、不愉快な割れ頭に邪魔されそうな雰囲気だな。


「オヤビンそりゃないだろ? 俺たちはもう仲間じゃないか!! 過ぎた事は水に流すのが、粋な海賊ってもんだろ?」

「そうだな!! 仲間だからな!! さっきの事は水に流して……って、白々しいわァ!!! 流されたのはウチの子分共だァ!!! 嫁さんに『帰りを待て』なんて言っておきながら、どのツラさげてほざきやがる!!!」


「嫁さんだなんて、確かに確定的な未来としてそういう予定はあるけど、それはまだ先の話だぞ? それよりも占い師としてさっそくオヤビンの事を占ってやるよ!! そうだなぁ……近々オヤビンは、頭が8つに割れて死ぬな」

「何ィ!!? 元々割れてる頭がさらに割れて死ぬ!!? しかも2倍を通り越していきなり4倍の8つに割れるだなんて、おれの身に何が……ってやかましィわァ!!! おれの頭は割れてねェよ!!! こういうヘアースタイルだ!!! キツネっぽく見えるだろうが!!!」


「そんな事はどうでもイイんだけどな、今後は船長は俺って事で問題ないだろ?」

「ああ、5対1でおれに勝ったお前なら、みんな納得だろう……ってそれだけは勘弁してくれ!!! 副船長の地位を用意するから!!!」


「まぁ、こんな一味の船長にも副船長にもなる気は無いんで、そこんとこヨロシク」

「…………おれはもうお前と話したくねェ……酷く疲労する気がする。海賊の仁義に従って、謀反さえ起こさなけりゃ好きにしてイイ。適当に武器なり、直属の部下なり見繕っとけ。直ぐに嫁も連れてきてやるよ」


そう言ってフォクシーは去っていった。なるべく不快感を与えてこの場から立ち去って貰いたかったんだが、案外器のデカい男なのか?

……いや、この場合は打算だろうな。最高の待遇と、この船での本当の仲間ってヤツを俺に与える事で、懐柔するつもりなんだ。

絶対に勝つ自信のあるゲームでの勝利を部下に見せ付ける事でカリスマ性を維持して、敵船とのマジな戦闘は、己を心酔する部下達に丸投げするってのがフォクシーのスタンスとみて間違いない。

確かに親衛隊の四人はかなり強かったし、それなりに怪我も負わされたが、フォクシー本人の実力は大した事なかったからな。俺が扱い易い人間なら親衛隊に加えるつもりだったんだろう。

その程度で俺がロビンと夢を諦めるとでも思ってるのか? 調査不足だな。

だけど、貰えるモノは確り貰っておく事にしよう。

俺はそこらを歩いている船員の中で、それなりに腕のたちそうな男に声を掛ける事にした。

……ダメ……雑魚……惜しい……論外……!?……見つけた!!


「そこのお前!!」

「はァ? 新入りが何を……何でしょうか”銀獅子”の兄貴!!!」


鞘に入れていても解るほど研ぎ澄まされた威圧感を放つ刀を見るに、かなり腕のたつ剣士とみたんだが、間違ってなかったみたいだな。

この金髪着流しの男、俺との実力差も一瞬で理解したみたいだ。


「お前はこの船で、どこかの隊に所属しているのか?」

「”双剣双銃(カドラ)のバラゴ”隊、剣士隊の隊長でございやす!!」


カドラ?……あぁ、アイツか。


「オヤビン親衛隊の一人で、黄色の装飾二丁拳銃と二本のサーベルを使うヤツだろ? ソイツは俺が潰した。殺してはいないが、もう海賊としては生きていけないだろうな」

「なァ!!? バラゴ船長を!!? 船長は6000万ベリーの賞金首ですぜ!!?」


男は所属部隊の隊長が倒された事に驚きが隠せないみたいだな。

咄嗟に船長って呼ぶって事は、奪われる以前からのバラゴの部下って事か。


「1億の壁は厚いって事だ。そこから先の強さは次元が違う。これからお前は俺の隊に入ってもらう……異論は?」

「あ、ありやせん!! しかし、何であっしを?」


「武器の手入れが丁寧な人間は好きなんだ。磨けば光りそうな原石もな……お前の名前は?」

「ミフネと申しやす。この命、”銀獅子”の兄貴の為に!!!」


ミフネは片膝をついて俺への忠誠を誓ったんだが……何もそこまでしなくてイイんだけどなぁ。

どうせ短い付き合いなんだし。


「よせ、堅苦しいのは嫌いなんだ。タクミと名前で呼ぶか、どうしても呼びたいのならただ兄貴とだけ呼べ」

「へいっ!!! 兄貴!!!」


……何か調子狂うな。


「ミフネ、俺は刀が欲しいんだ。お前のモノより上等なモノがあるとは思わないが、武器庫に案内してくれ」

「わかりやした!!! さぁ、兄貴!!! コッチです!!!」


俺はミフネに案内されてセクシーフォクシー号へと向かう。

さぁて、二回戦がどれだけ時間が掛かるか解らないし、さっさと行って来るか。



〜Side ミフネ〜



タクミの兄貴は天下を獲るお方だ。立ち振る舞いをみりゃあ強ェのは一発で解るし、鞘に納めた刀の手入れ具合を見抜くなんてハンパじゃねェ。

おれはフォクシーの野朗に忠誠を誓ってるわけじゃねェ。バラゴ船長に憧れて海賊になったんだ。

その船長がバカみてェなゲームを受けたせいで、こんな一味に仕えることになっちまった。

最初はフォクシーを敵視してたってェのに、船長はココでの待遇が気に入ってすっかり腑抜けちまった。

義理立てする必要もねェ男なんか見限って、おれはこの船から出て行く事を考える毎日だったんだ。


そんなおれにもう一度覇道を見せてくれそうなのが、今おれの隣を歩くタクミの兄貴だ。

腑抜けていたとはいえ、バラゴの実力はおれとそう変わらないモノだったハズだ。

そんなボリスや親衛隊の連中を相手どったってェのに、兄貴には掠り傷一つ見あたらねェってのが、この人の異常さの証明にほかならねェ。

兄貴に付いて行けばきっと、おもしれェ世界が見れるに違ェねェんだ!!


「兄貴!! つきやした!! ココが武器庫です!!」

「広いな……刀はコレだけか?」


兄貴は武器庫を見渡すと、一直線に刀置き場に向かって不満気な顔を浮かべた。


「ココにあるのは敵船から奪ったモノが殆どなんです。刀使いの剣士はそう多くはねェんですよ」

「管理状態が酷すぎる。『ココにあるのは』って事は他にもあるんだろ? ソコに案内してくれ」


一振りの刀を僅かに鞘から出して、直ぐに納めた兄貴は、なかなかムチャな事を言いなさった。


「他の武器ってェのはフォク……オヤビンが観賞用として集めた最高級品ですぜ? 流石に手を出すわけには……」

「関係ない。オヤビンには武器を選ぶ際の基準は明確に聞いてないからな。どれでも好きなのを持っていって構わないって事だろ?」


そう言って振り返った兄貴の顔は、完全な悪人の顔だった。

そうか!!? フォクシーはゲームじゃ負け無しだ。一敗してしまった以上、兄貴がゲームで元の船に帰るのは不可能。

そうなれば兄貴の行動は一つだけ、謀反だ!! 兄貴は最初からフォクシーの野朗に従う気なんかねェんだ!!


「兄貴、お供しやす!!」

「??……ああ、案内は頼む」


おれは戦闘ではまだまだ足手纏いって事か……でも兄貴は『磨けば光る』って言ってくれたじゃねェか!!!


「兄貴、刀が手に入ったら、あっしに稽古をつけておくんなせェ!!」

「……((剣士としてはコイツの方が格上だと思うんだが、試し斬りには丁度イイか))構わない。好きにしろ」


「ありがとうございやす!!!」


おれは高揚した気分を必死で抑えながらフォクシーの秘密武器庫まで、兄貴を案内した。


「コレは凄いな!! 一面が最高品質の武器じゃないか!!」


刀の良し悪しが解るって事は、兄貴は元々剣士なんだろう。多分、ボリス得意の剣折撃ちを食らっちまって愛刀を失ったんだろうな。

ココで大業物でも手に入れれば、兄貴を止められるヤツなんてこの船にいやしねェハズだ!!

……最近入ったカポネって野朗は気になるが、兄貴なら問題ねェよな。


「ちょっと待て…………コイツは何だ!!?」


兄貴は怪訝な表情で一振りの小太刀の前で足を止めた。

守り刀程の長さしかなく、刀身は大き目のナイフよりも短い。

そんな外見とは不釣合いな、禍々しい妖気のようなモノを放つソレは、間違いなく妖刀だろう。

透明なケースに入れられて、その周りには無数の札が貼り付けられている。

直感で解る……アレはヤバい!!!

ケースを素手でぶっ壊して、兄貴はその小太刀を躊躇する事無く手に取る。

すると突然、辺りに不吉な金属音が鳴り響いた。

その反応を見た兄貴は口元を大きく歪め……


「ハハッ!!! ハハハハハハハハハ!!! 勝てる!!! 勝てるぞアイツに!!! コイツの力がホンモノならば、いとも簡単に!!!」


歓喜の叫びと共にその小太刀を引き抜いた。その刀身に走る乱れ刃紋からは、その一つ一つが呪詛の念を呟いているような気配を感じる。

金属音が止んでも、おれはこの場を逃げ出したかった。さっきまで兄貴と歩む未来を想像していた幸福な気持ちは、この小太刀を前にしてどこかに消え去っちまったみてェだ。


「あ、兄貴!!? ソイツはいったい!!?」

「”式刀零毀(ちょくとうれいき)”……だろうな……俺の記憶とは長さがだいぶ違うし、何でこんな所にあるのかは知らんが、あらゆる呪術の粋を結集した最恐の刀だ!! 見ろ!! 鞘は黒檀で出来てるぞ!!」


兄貴はうっとりとその小太刀に見惚れてらっしゃるが、その名前に聞き覚えがあったおれは戦慄した。


「”零毀”!!? 剣士が扱うには危険すぎて、最上大業物候補から除名されたっていうあの!!?」

「最上大業物!!? そいつはイイな。選ばれた使用者が扱えば、あらゆる異能を無効化できるって話だ……そういえば、何でコイツは俺に反応するんだ?……俺に魔術師の素質があるからなのか?」


「魔術師!!? 剣士だと思ってやしたが、まさか兄貴はあのホーキンスと繋がりがあるんですかい!!?」

「……嫌な名前を聞かせるな。アイツは俺の兄貴だ。腹違いだが血の繋がりもある」


……ホーキンスは家族を探して航海してるって話だ。おれは何てバケモノと関わっちまったんだ!!?


「そうだ。稽古をつけて欲しいんだったな。俺もコイツを試したいと思っていたんだ。ミフネは能力者か?」


能力者か確認するって事は、零毀の性能テストをおれの身体でやれるかの確認と同じ。

兄貴はおれを殺すつもりなのか!!!?


「あっしはただの剣士です!!! 稽古も結構です!!!」

「遠慮するな。単純に刀としての性能テストもやっておきたいんだ。その刀は最低でも良業物だろ?……抜け」


「勘弁してくだせェ!!!」

「…………抜けって言ったんだ」


ダメだ!! 聞く耳持っちゃいねェ!! 妖刀に心を持ってかれちまった様子でもねェのに、おれに対して明確な殺意を放ってきてる姿は、さっきまでの兄貴じゃねェ。

コレが海賊”銀獅子”の本来の姿…………覚悟を決めるか。身体能力が高いのは見ただけで解るが、幸い構えは素人のソレだ。ただ右手で持っているだけ。

おれは自慢の愛刀、良業物”紫電(しでん)”を抜く。構えは変則の脇構え。守りは万全、攻め手は無限!!!


「行きやす!!!」


俺の声を聞いて”銀獅子”は構えを変える。いや、最初のは小太刀じゃ斬れねェだろうから突き刺そうだなんて素人考えな構えだと、おれが決め付けただけじゃねェのか?

実は、単におれが構えるのを待っていただけなんじゃ……小太刀を左逆手で握って腰を落とした今の構えはなかなか堂に入って……


「さぁ、パーティーの始まりだ……悪魔と……踊れ!!!」


凄まじい殺気を放って跳び込んできた”銀獅子”が狙っているのは……逆胴!!? 小太刀で鞘ごと叩き斬るつもりなのか!!? 刹那……


「!!!?……素人じゃなかったんですね」


初めて感じるような痛みを胸に覚えて、おれはゆっくりと瞼を閉じる。”銀獅子”の小太刀は確かにおれの胸を貫いたみてェだ。

逆胴を狙っていたハズの剣筋は、おれの刀に接触する直前で霞んで消えて、高速の突きへと変わった。

一瞬見えはしたが、おれには反応する事も出来なかった……完敗だ。


「お前ほどの相手に通用するとは思ってもいなかったんだが、マンガの剣術も役にたつもんだな」


零毀を使われた事は関係ねェな……マンガ流。それがおれを倒した剣の名か。


「……あっしの命は……兄貴の役にたちやしたでしょうか?」


”銀獅子”はいつか必ず天下を獲る……一度は兄貴と呼んだお方だ……この人の剣の中で生きられるなら、おれはこの人生に悔いはねェ。


「はぁ? そんな怪我で死ぬわけないだろ? まさか内臓でも潰れたのか?」


……??……!!!? どういう事だ!!? 何で刀傷が無いんだ!!?

不思議に思って”銀獅子”を見ると、零毀はその鞘に納まっていた。


「黒檀の鞘だからなぁ、流石に痛かったろ? だいぶ加減したつもりだったんだが、テンション上がってたからなぁ、取りあえず船医に見てもらえ。男なら自分で歩けよ……じゃあまたな」


あの一瞬で鞘に納めてからおれの胸を突いたっていうのか!!?

後ろ手で手を振り、”銀獅子”は去っていく……


「あ……あ、兄貴ィ〜〜〜〜〜〜!!!! 疑ってすまねェ!!! あっしはてっきり、零毀の試し斬りに利用されたもんだとばかり思ってやした!!!」

「アホか!!! 部下を斬るヤツがいるか!!!……悪かったな、刀。俺からオヤビンに言っておいてやるから、代わりにあの中から好きなモノ取っとけよ」


抱きつくおれを鬱陶しそうに振り払って、マッチも持ってねェハズなのに煙草に火をつけて、兄貴は今度こそ行ってしまった。


「刀?……悪かった?……兄貴は何の事言ってんだ?……!!?」


部屋に転がる愛刀を見て、おれは凍りついた。

折れて……いや違う、斬れてやがる!!!


「……カハハハハ!!! とんでもねェお人だ。煙草に火をつけたのは魔術に違ェねェ……兄貴!! 一生ついていきやすぜ!!!」


誰もいない船内で、おれは声に出して誓った。



〜Side チョッパー〜

 
 
タクミを取り返す為、ロビンの期待に応える為に、二回戦の会場に走ってきたんだけど、まだ準備中だった。

でも、今はそんな事より気になる事があるんだ。


「……彼、どこに行ったのかしら?」


そうなんだよ!!! おれ達が作戦会議してる間に、タクミがステージからいなくなっちまったんだよ!!!


「船内に連れて行かれて調教でもされてんじゃねェのか?……いや、冗談だよロビンちゃん!? タクミのナイフを握り締めるのはヤメてくれない!?」

「ロビンを刺激しないで!!! また暗黒モードになったらどうすんのよ!!!」

「調教!!? タクミは調教されてんのか!!?……早く助けてやんなきゃ!!!」


調教って鞭とか使うアレだよな……タクミは人間なのに、これからはライオンとして扱われるのかな?


「チョッパーまで信じちゃったじゃないの!!! だいたいサンジ君が調教とか言ったら卑猥なのよ!!!」

「グハッ!!!」

「……アホか」


待ってろよタクミ!!! いつも頼ってばっかりだけど、今回はおれがタクミを助けるんだ!!!


『『躁舵手ビビに破壊された会場は、優秀な船大工達の手で元通り!!! ついでにへし折られたフォクシー海賊団の心も、私イトミミズも元に戻ったよォ!!!』』


おれの決意が固まったタイミングで、二回戦の会場準備が終わったみたいだな。


『『一回戦の場外乱闘で、オヤビン親衛隊を単騎で打ち破った”銀獅子”は、今はフォクシー海賊団の一員!!! 二回戦に出場する事は出来ないよォ!!!』』


それでもむこうのチームは一回戦で、海洋生物を含めた五つの出場枠を使ったんだから、二回戦に出れるのは四人。

ゾロ、サンジ、ビビ、カルー、おれ、人数的にはコッチのチームが有利のハズだ。


『『ここで一発!!! 『フルメタルドッチボール』ルールを説明するよっ!! 金網みに囲まれた外野無しのフィールド!!! 使うボールは鉄球二つのデンジャラスなドッチボールだよォ!!!』』


タクミの予想通り鉄球を使うんだな。金網に囲まれてるなら妨害されることも無いだろうし、ソコは安心だな!!


『『普通のドッチボールと違うのは、どちらかのチームが全員アウトになるまで、アウトになっても出られないって所!!! 一度アウトになった選手も、敵からアウトは獲れるよっ!!! 動ければの話だけどね!!!』』


ドッチボールの説明はさっきサンジから聞いたけど、随分ルールが違うんだな。


『『それじゃあフォクシーチームの選手入場!!! ゴッド・ファ〇ザーのテーマをバックに、”グロッキーモンスターズ”と1億2000万のスーパールーキー、カポネ・”ギャング”ベッジの登場だァ!!! チョイ悪オトコ顔のカポネ!!! とてもルーキーには見えないよォ!!!』』


「!!!!?」

「わー!!! なんじゃありゃ!!!」


ルフィは、敵の船から出てきた出てきたデカい魚人を見て騒いでるけど、赤い絨毯の上を歩いてくる小さな男の方が怖ェ!!!

香水と葉巻の匂いで隠してるみたいだけど、血と火薬……それから飼葉の匂いがする??


「ロビン!! アイツ何なんだ!!?」

「魚人と巨人のハー「そうじゃなくて!!!」……解るのね? あの男はカポネ。1億2000万の懸賞金が懸けられているのに、表立った情報があまり出回っていない謎の多い男よ。元は海賊じゃなくてギャングで、”西の海(ウエストブルー)”の裏世界の顔役だったらしいわ」


ギャングって何なんだ!!? とにかく強ェって事だな。

ロビンの説明を聞いてる間に、他のメンバーの紹介は終わったみたいだ。


「行って来るよ!!! 必ずタクミを取り戻すからな!!!」

「フフ、頑張ってね♪」


おれはロビンに見送られて、ゾロ達と一緒に入場ゲートをくぐった。

ゲートを通る時に直径20cmくらいの鉄球が、先頭を歩くおれに渡された……かなり重たい、当たったらタダじゃすまないな。

おれ達が入って直ぐに、ゲートは閉まってココからの脱出は出来なくなる。

次にゲートが開くのは勝負が終わった時。


「絶対に勝ってココから出ましょうね!!!」

「当たり前だ」

「ビビちゃんはおれが守るからね〜〜♪」

「クェェエエ!!!!」


サンジだけちょっとズレてる気もするけど、みんな気合十分だ!!!


『『さァ〜〜〜〜!!! 第二回戦!!! 『フルメタルドッチボール』!!! 始まるよ〜〜〜!!!』』


これから命がけのゲームが始まるっていうのに、表情一つ変えないカポネってヤツは本当に不気味だ。

他の三人は楽しそうに笑ってるし、そんなにこのゲームに自信があるのか?


「チョッパー!!! ボケッとするな!!! 投げるのは鉄球なんだぞ!!! 当たったらタダじゃすまねェんだ。気合入れろ!!!」

「おう!!!」


ゾロの声を聞いて、おれはランブルボール無しで”腕力強化(アームポイント)”の状態に変形する。

まだランブルありの時より力強さが足りないけど、おれはタクミとの修行で手に入れたこの力で、タクミを助けたいんだ。

ステージに目を向けても、今まで見守ってきてくれたタクミの姿はない……それでも……おれは勝つ!!!


『『試合開始〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!』』


「うおおおおおおお!!!」


開始の合図と同時に、おれは咆哮をあげなら鉄球を振りかぶって、軽く助走を付けた。

狙いは一番小さなあの男!!! タクミなら必ずあの男から仕留めるハズだ!!!

あまり近づき過ぎるのは危険だけど、敵の鉄球は、動きの鈍そうな巨人が持ってる。

これはアウトになっても動けるならゲームに参加し続ける事が出来るルール。

妨害が入らないこの状況なら、可能な限り近づいて、高威力の一撃で戦闘不能にするべきなんだ。


「いけェ!!! チョッパー!!!」


金網に張り付いて大声をあげるルフィにチラリと目をやって、右腕に溜めた力を解放する。


「りゃぁぁああああ!!!」


渾身の力で投げた鉄球は、カポネに真っ直ぐ飛んでいって……!!!?


「う゛っ!!!」

「きゃぁぁあああ!!!」

「クェッ!!!?」

「な!!!? 撃ち落された!!!?」

「妨害なんてどこから!!?……チョッパー!!? 大丈夫かよ!!?」


おれの身体は、砲撃を受けてボロボロだった……砲撃!!? 金網に囲まれたこの空間で、いったい何処から!!?

煙が晴れたその先には、相変わらず無表情なカポネの姿があった。


「真っ先に敵の最大戦力を落とすって考え方は悪くない……だが、おれを狙うのは悪手だったな」


そう言ってカポネはニヤリと笑った。

初めて表情を変えたヤツの身体には……


「!!!? サンジ……アイツ、身体の中にたくさん人がいる……大砲まである……火薬の匂いはアレが原因だったんだ」

「何!!? 本当だ!!? 騒ぎ声が……ってそんなんアリかよ!!! 人数制限無視してんじゃねェか!!!」


『『暴力コック、サンジが訴えてるけど!!! 何も問題ないよっ!!! 競技には参加してないタダのお邪魔軍団だからねっ!!!』』


「そんなヘリクツが通るかァ!!!」


『『ちなみに鉄球が一つ、フォクシーチームの陣地で消失しちゃったから、フォクシーチームに追加の鉄球が与えられるよォ!!!』』


最初からその為に設置されてたみたいな小さな扉が開けられて、敵に鉄球が投げ入れられた。

……コレはヤバい!!!


「サンジさん!!! トニー君を連れてわたしの後ろへ!!! 食い止めるわ!!!」


ビビが敵陣3mくらいの位置で構えをとる横を通り抜けて、おれはサンジに運ばれた……ダメだ、意識が朦朧としてきた。


「チョッパー!!! 確りしろ!!!」

「ビビちゃんが直ぐに取り返してくれる!!! タクミを助けるんだろ!!! またさっきの剛球を投げてみせろよ!!!」

「クエッ!! クェェエ!!」


……ムリだよ、サンジ。自分の身体なんだ……何となく解る。


「鉄球でも砲弾でもかかって来なさい!!! トニー君にあんな事して!!! 許さないわ!!!」


ビビ、内乱のせいで砲撃の音が苦手なのに……おれの為に無理しちゃダメだ。


「それじゃあ遠慮無く行くど!!!」

「ぶっしっし!!!」


デカい二人が同時に振りかぶる。狙いは……コッチだ!!?


「チクショウ!!! 狙いはおれ達だ!!!」

「ビビの能力はネタが割れてんだ!!! 後回しって事だろ!!!」

「……”逆流の滝壺(アプストリームベイスン)”!!!」


二人が全力投球したボールは、ゾロに向かう一球だけがビビの水に止められた。


「こんなもん……お返しじゃあ!!!」

「ぶしっ!!!?……」


『『おーっとォ!!? 暴力コック、サンジが鉄球を蹴り返したよォ!!? 顔面に直撃したビックパンは、クッションルールでアウトっていうか戦闘不能だァ!!! カポネの部下は、カポネしか守ってくれないよっ!!!』』


サンジすげェ〜〜〜〜!!! やっぱ、おれが投げる必要はないんじゃねェのか?


「サンジさんも偶にはやるのね」

「ビビちゃんそりゃあないんじゃない!!? まりもに向かって飛んだ鉄球しか止めなかったし」


「……作戦通りだったわね」

「ソレは絶対に嘘だよね」

「どうでもイイから次の攻撃に「ゾロ!!! 危ねェ!!!」ぐあっ!!?……おれもアウトか」


ルフィの声に反応して咄嗟に頭を庇ったゾロだけど、鉄球は腹に直撃しちまった。


『『お喋りしてたロロノアに!!! ピクルスの投げた鉄球がクリーンヒットォ!!! それでも倒れない剣士ロロノア!!! 恐ろしく頑丈な男だよォ!!!』』


コレ以上鉄球が飛んでくる心配がないから、おれ達は作戦会議をする事にした。


「まりものアウトは大した問題じゃねェ。コレでおれ達が二球とも鉄球を保持出来たって事は、逆にチャンスだ。投げるぶんには問題ねェだろ?」

「ちょっと!! ゾロはもう「構わねェ、一球よこせ。早く治療してやらねェと、チョッパーがもう限界だ」……もう……無理しないでよね」


情けねェ!!! 皆が頑張ってるのに、おれは喋る事も出来ねェなんて!!!


「おいコック。不本意だが呼吸を合わせるぞ、クッションルールが採用されてる以上、不意打ち以外ならデカいのを同時に倒すべきだ。あのチビにはこぼれ球の捕球なんか出来っこねェハズだからな」

「概ね同意だな……いくぞ!!!」


ゾロとサンジの共闘なんて初めて見るけど、大丈夫なのか?


「「うおおおりゃあああああ!!!!」」


ゾロは渾身の力で鉄球を投げる。サンジは鉄球を蹴り飛ばす……ドッチボールでソレはアリなのか?

二人の放った鉄球は一直線に……デカいのに当たった。


『『おーっとォ!!!? 麦わらチームの鉄球は、二つともピクルスに直撃だよォ!!!? ピクルスはアウトなうえにダウンしてるけど、これは打ち合わせミスかなァ??』』


「クソコック!!! お前は左のヤツを狙えよ!!!」

「力量的にデカい方がおれだろうが!!!」


敵チームにボールが渡ってるのに、ゾロとサンジはケンカを始めた……

ビビは頭を抱えて座り込んでるし、かなりマズい状況だな。

中弛みの様な状況を狙い済ましたみてェに、そこに再び怒涛の砲撃音が轟き渡る。


「また!!!?」

「「!!!?」」

「クエッ!!?」


カポネからの突然の砲撃!! さっきの倍は撃たれた砲弾に、ゾロもサンジも倒れて動かなくなった!!!

カルーは……無事みたいだ。


『『ハンバーグの放った二つの鉄球は、躁舵手ビビとコックサンジに直撃だよっ!!! 麦わらチームの生き残りは、超カルガモのカルーだけだァ!!!』』


「!!!?」

「何言ってるのよ!!! わたしもサンジさんも砲弾に当たっただけじゃない!!!」


「いーや、当たったね。鉄球だってそっちの陣地に転がってるじゃねェか」

「そうだぜ!!! おれ達は確り見てたぜ!!」

「弾幕に紛れて直撃だったじゃねェか!!」

「海賊らしくねェぞ!!! 潔く認めろよな!!!」


そんなバカな事があるか!!! サンジはともかく、ビビを通り抜けた鉄球があんなところに転がってるわけがねェ!!!

不当な判定だっていうのに、フォクシーチームのギャラリーが囃し立てる。

ソレを見てニヤニヤと笑うカポネ……最初からそのつもりだったんだな!!?


「…………外道!!! 恥ずかしくないの!!!?」


『『判定を認めない躁舵手ビビ!!! 外道とは酷いこと言うねっ!!!』』


「負けるなビビ!!!」

「ビビ!! もうアンタが二人とも仕留めるしかないのよ!!」

「雨女さん……お願い……彼を助けて!!!」


「そんな……わたしじゃムリよ。防御は出来ても、倒せるような球は投げられない……」


「早く投げろよ!!!」

「時間稼ぎなんてみっともねェぞ!!!」

『『『投ーーげろ!!! 投ーーげろ!!! 投ーーげろ!!!』』』


「……助けてよ……ゾロ」


会場に巻き起こる”投げろコール”に、ビビはついに泣き出しちまった。

ビビはあんなに強いのに……悔しいだろうな。

……おれが……おれが何とかしなくちゃ!!!


「…………お゛でが……投げる!!!」


身体中がバラバラになるような痛みを感じながら、おれは何とか立ち上がった。


「トニー君!!!? ムリよ!!! そんな体で動いちゃダメ!!! 心配かけてゴメンなさい……わたしが何とかするから!!!」


ビビの制止を振り切って、おれは無言で鉄球を拾いあげた……足が震えてる。目が霞む。二球まとめては……ムリかな。


「……あのコ、ひょっとしてもう意識がないんじゃ!!?」

「そんな!!? チョッパー!! お願い!! ムリしないで!!」


聞こえてるよ。ロビン、ナミ、心配してくれてありがとう。

おれは右腕に集中して”腕力強化(アームポイント)”の変形をかけた。

今回は肩まで強化出来てるからさっきより威力は増すハズ。


「いけェーーーチョッパー!!! ぶっ放せェ!!!」


ハハッ!! ルフィらしいや。おれ頑張るよ。

ウソップは何も言わないけど、おれを信じてくれてるのかな。

満身創痍の体に鞭を打って、おれは大きく振りかぶる。

狙いはやっぱりカポネ。アイツは許さない!!!

圧倒的なスピードで投げれば、砲撃なんか関係ない…………弾幕をぶち抜いてやる!!!

”生命帰還”を使って体を限界以上に捻って力を溜め……投げた。


「ダクミをがえ゛せェェえええええ!!!!」


おれはそのまま倒れちゃったけど、ちゃんとカポネを倒せたかな……

今の投球、タクミに見てて欲しかったな。
 
 
 

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