小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”強襲”



〜Side ウソップ〜



チョッパーが渾身の力で投げた鉄球は、タクミが銛を撃つ時みてェな破裂音をさせて、カポネを金網に叩きつけた。

あまりの光景にハンバーグとかいうヤツは呆然としてるな。


『『な、なんとーーーーーっ!!! 船医チョッパーの投げた鉄球は、カポネの部下からの砲撃をものともせず!!! カポネを吹き飛ばしたよォ!!!』』


当たり前だ、速度は”重さ”。タクミ並の人外の速度で投げたチョッパーの鉄球が、ちゃちな砲撃なんかで止められるわけがねェ。

さっきの一投に余力の全てを注ぎ込んだチョッパーは、今は倒れてビビに介抱されてる……頑張ったな、チョッパー。


「さァて、おれ様の出番はココかな?」

「長鼻くん??……仕掛けるのね?」


おれはロビンに小さく頷き、用意していた丸めたメモを、こっそりチョッパーに向かって撃ち出した。

金網の網目を通す事なんて、おれにとっちゃ造作もねェ事だ。

次いで、痺れ薬が塗られた”極細仙人掌星”をパチンコに番えて、ハンバーグに狙いをつける。


「??……!!!? ウソップさん!!?」


チョッパーに当たった紙弾を不思議に思ったであろうビビが、その内容を確認してコチラを振り返る。

おれはパチンコを見せてニヤリと笑いながらアイコンタクトをとった。我ながら悪どい笑みになってるだろうな。


「わかったわ!!!……重っ!!!?……歯を、食いしばれェェええええ!!!!」


肘から水を噴射して加速をつけたビビの投球は、ゾロに劣る程度の威力しかありそうもねェが、それで十分。

ビビの投球より僅かに早く、おれが放った無数の針がハンバーグを襲う。


「!!!?……ぷ!!?……動けね!!!!? ぷぷ……」


『『なァ!!!? 躁舵手ビビの放った鉄球がハンバーグの顔面に直撃ィ!!!? ハンバーグは避ける素振も見せなかったよォ!!!?』』


なんかしらんが、カポネ以外全員顔に当たったな。普通のドッチボールなら顔面セーフなんだが……憐れな連中だ。


『『という事はっ!!!? フォクシーチーム全滅だァ!!! デービーバックファイト二回戦!!! ゲームを制したのはな〜〜〜〜〜んと!!! 麦わらチ〜〜〜ム!!! 大勝利〜〜〜〜っ!!!』』


おれ達のチームが勝ったってェのに、会場はえれェ盛り上がり方だ。基本的にコイツらは祭りごとが好きなんだろうな。

戦いが終わり扉が開かれ、おれ達はフィールドの中に参加したメンバーを迎えに行く。

何せ三人も戦闘不能になってるからな。ゾロとサンジはルフィに任せて、残りの仲間はチョッパーとビビに駆け寄った。


「ウソップさんありがとう!!! わたし一人じゃどうしてイイのか解らなかったわ!!!」

「雨女さんも頑張ってたわよ♪」

「え? ウソップって何かしたの?」

「おれは何にもしてねェよ。おれが使った痺れ薬は、チョッパーがタクミの狩りの為に調合したもんだ。タクミを取り返したのはチョッパーだよ」


「そう……ありがとう。チョッパー」


おれの言葉を聞いたロビンは、傷ついたチョッパーを優しく抱き上げ、感謝の言葉を口にした。


「結局チョッパーが決めたのか?」

「漢あげたじゃねェか!!」


サンジとゾロは脅威の回復力で持ち直したのか、自力で歩いてコッチに合流してきた。

合流したおれ達は、金網から出てさっきまでいた観客席に戻る。

チョッパーの治療はロビンとナミが2人でやってるみてェだな。


「タクミーー!!! 帰って来ォい!!!」


戻って暫くして、2回戦勝利チームの指名タイムになったんだが……


「タクミーーーー!!! どーーーこだーーーー!!!」


ルフィが迷う事無く指名しても、とうのタクミは未だにステージにいなかった。


「まさか!!? 本当に調教されてるんじゃ……クフッ、抹殺……抹殺よ!!!!」

「ロビン!!! もうそれはヤメテ!!! 暗黒モードはイヤァァアア!!!」

「その通りだ!!! もうあの姿は見たくねェ!!! 落ち着いてくれ!!!」


まあ、当然の様にロビンが錯乱し、ナミとサンジが軽くトラウマを思い出し……


「止めないでちょうだい!!! あの割れ頭を8つに割ってやるのよ!!!」

「ぎゃぁぁぁあああ!!!! アイツの占いは冗談じゃなかったってのかァ!!!?」


予想外にフォクシーが取り乱し……


「……うっ……ロビン? まさか!!? おれ達は負けたのか!!? うっ、うっ、うおおおおおお!!!」

「違うのよトニー君!!! トニー君の頑張りでちゃんと勝ったから!!!」


「じゃあ何でタクミがいねェんだァァあああ!!! ロビンがああなったんだァァあああ!!! うおおおおおお!!!」


ついでに目を覚ましたチョッパーが号泣して……


「ゲームのルールすら守れねェってんなら……コッチにも考えがある」

「わたしも行くわ!!! タクミさんにはまだ生命帰還(スタイルアップ)の全てを教わって無いもの!!!」

「アイツらタクミを隠してんのか!!!? ふざけんな!!! 返せェェええ!!!」


脳筋三人組が強攻策に出ようとした頃になって……


「騒がしいな。二回戦はもう終わったのか? 当然俺たちのチームが勝ったんだろ? もう戻ってイイよな?」


……ようやくタクミが姿を現した。


「「「「「タクミ〜〜〜〜〜!!!!」」」」」

「おー、熱烈な歓迎だな。オヤビン、奪った訳じゃなくて、フォクシー海賊団の一員だった間に貰ったんだから、この小太刀はもう俺の私物だろ?」

「ちょっと待て!!! ソイツはおれのコレクションで一番高価なヤツじゃねェか!!! ふざけんのも大概にしろ!!!」


「…………アディオス!!! アミーゴ!!!」

「そうだおれ達はアミーゴだ!!! ってクラァ!!! 待てやァ!!! この海賊がァ!!! 常識ってもんがてめェにゃでぶ!!?……」


タクミは笑いながらフォクシーをぶん殴ってコッチに歩いてくる。

どうやら武器の補給を口実に、お宝をかっぱらって来たみてェだな。

軽く心配して損したぜ……アイツは根っからの海賊だ。

一味の歓迎を軽く流して、タクミはまずボロボロのチョッパーのところへと向かう。


「タクミ!!! おれ頑張ったぞ!!!」


横になった状態からムリに体を起こそうとするチョッパーを制止して、タクミはその頭を撫でながら話しかける。


「ありがとな、チョッパー。ソニックブームが敵船の中まで聞こえてきたけど、チョッパーがやったのか?」

「ソニックブームって何だ??」


「物体が音の速さを超えたときに出る音だよ。一発の威力なら、全盛期はともかく今のガープを超えたかもな」


ガープ!!!? 海軍の英雄の名前じゃねェか!!?……何でソレが今ココで出てくるんだ?


「音に速さなんてあるんだな!! でも、ガープって誰なんだ?」

「あぁ、チョッパーは知らないか。ガープっていうのは伝説の海兵の名前でな、素手で大砲を撃つバケモノみたいに強い爺さんだ」


そういう事か。ガープが素手で大砲を撃つなんて話は聞いた事ねェけど、タクミが言うならそうなんだろうな。

話を聞いたチョッパーはさらに顔色が悪くなっちまってる。バケモノと同列にするのは禁句だったんじゃねェか?


「素手で大砲!!? 絶対に会いたくないぞ!!」

「イロイロと調べたら面白い事が解ってな、確定な未来じゃないけど、そのうち会う事になると思うぞ?」


!!!? マジかよ!!!?……って事は……タクミが戦う予定なのは、”拳骨のガープ”!!!?

それなら全部説明がつくじゃねェか!!? ロビンはガープに追われてるんだ!!!

海賊やってる以上、海軍に追われるのはロビンのせいでも、ましてやタクミのせいでもねェ。

だけど、海軍の英雄を相手にするとなると、今のおれ達にその覚悟が出来るかは疑問だとタクミは思ったんだ。

だからアイツは一人で戦おうとしてる。

万が一ロビンを置いて逃げるようなヤツが一味にいたら、ロビンはもう立ち直れなくなっちまうからだ。

……じゃあ何でチョッパーに話した?


「会うのか!!!? 怖ェよ!!!」


チョッパーの返事を聞いてタクミは何とも言えない表情で苦笑いをした。


「……大丈夫だ。戦う事はないから安心しろ。今はゆっくり休め」


タクミはそう言ってもう一度チョッパーの頭を撫でて笑ってるが……嘘だな。

チョッパーの予想外の実力を知って、一緒に戦ってもらおうかと考えたんだ。

でもチョッパーがビビったからヤメた……バカにすんなよ!!!

おれ達も!!! チョッパーも!!! ロビンの為なら命を懸けるくらいの覚悟はあるんだ!!!


まだ話したそうにしているチョッパーを寝かしつけて、タクミはようやくロビンのもとに向かう。

ずっと待たされてた事に、ロビンは別に不満は無いみてェで、笑顔でタクミの胸に飛び込んで行った。


「ロビン、ただいま」

「……心配させないでよ……おかえりなさい」


他の連中は三回戦のフィールドを決めるとかで、ソッチのイベントに向かったんだけど、黙って残っていたゾロがタクミに近づいて行く。


「感動のご対面の最中で悪ィんだが……その妖刀は何だ」

「……空気が読めないヤツだな。まぁイイや、コイツは”式刀零毀”!!! あらゆる呪術の粋を結集した呪術媒介の小太刀……のハズだ。その結果として妖刀になってしまったみたいだけどな。それでも最上大業物12工の最終候補まで残っていた刀らしい。ロビン、ちょっとイイか?」


そう言ってロビンを放したタクミは、刀を抜いてゾロに見せている。

その顔は、新しいおもちゃを見せびらかす子供みてェに誇らしげだ……おれもちょっと気になるな。


「妖刀ってのはおれには良く解んねェけどよ、綺麗な刃だな」

「だろ!!! この乱れ刃紋はな、人を一人殺す度に増えていくそうだ。時を経た武器っていうのはそれだけで美しい!!! ゾロも良く見ろ!!!」


タクミはゾロの目の前に刀を突きつけた。


「アホ!! そんなもんいきなりコッチ向けんな!!!…………不気味な刀だな。”鬼徹”の比じゃねェぞ」

「えー、ソコがイイのに!! ゾロなら解ってくれると思ったんだけどなぁ……しかも!!! あらゆる異能の力を無効にするんだぞ!!! コレならどうだ!!!」


「そんな力説されようが、気味悪ィもんは気味悪ィんだよ……もうイイ」


ゾロはよっぽどあの刀が気に入らねェのか、そのまま去っていった。


「つまらんヤツだな。まだイロイロと自慢するとこがあったのに」


ゾロの後姿を眺めながら、タクミは不満気に呟いている。

刀に夢中なタクミに放置されたロビンは、タクミよりさらに不満気だが、それはこの際おいとこう。

今はそれよりも聞きたい事がある。


「その刀は海楼石で出来てんのか?」

「いや、良く解らない。別の呪術的な力が働いてる可能性が高いとは思うんだが、お前に調べてもらうには危険すぎるし、だいいち使い手が振るわないと効果が無いらしいからな。性能テストは近いうちにできる予定だし、今は愛でるだけにしておこうかと思う」


「タクミはその”使い手”ってヤツなんだな?」

「そうだ!! 何でかしらんが触った瞬間に反応を示してたからな!! まさに俺が使う為の武器って事だ!!」


よし!! コレでタクミが”能殺弾(スキルブレッド)”を使う可能性は万に一つも無くなった!!

今のタクミは、おれがエボニー&アイボリーを渡した時以上のハシャギっぷりだ。

この状況で自然系に試すとしたらコッチが先に決まってるからな。


「新しい武器に現を抜かすなとは言わねェけどよ、そろそろルフィの出番じゃねェのか? 移動しようぜ」


肩の荷が下りたおれは、話題を変えようと思って言ったんだけど……


「え? もう試合? セコンドウソップは?……いや、今のお前じゃブラザー魂(ソウル)を理解出来るか微妙だ…………おーぃ!!! そこのお前!!! ルフィのセコンドは俺がやるから案内してくれ!!!」


意味不明な事を言いながらフォクシー海賊団の船員に声をかけて、そのまま行ってしまった。


「…………ちょっと私の扱いが適当すぎないかしら?」

「アイツもイロイロあるんだろうよ」


その後おれは、チョッパーを抱きかかえながら歩くロビンの、タクミに対するちょっとした愚痴を聞かされながら試合会場に向かった。



〜Side ルフィ〜



「こんな所で何やってんだルフィ!! 試合前から戦いはもう始まってるんだぞ!!」


イキナリやってきたタクミにそんな事を言われても……


「何言ってんだよ。おれは今、このタコヤキとの戦いの真っ最中なんだぞ?」


屋台で山盛りタコヤキを食べていたおれはこう返すしかなかった。

だいたいビビに溺死させられかけた時に、ゾロが腹を思い切り踏んだから焼きソバが出てきちまったんだ。食わなきゃ力が出ねェ。


「そんな事で一流のボクサーになれるとでも思ってるのか!! 甘えるんじゃない!!」


タクミはそう言っておれを引き摺りだしてしまった。


「タコヤキが!! タコヤキがこぼれる!!」

「そんなもんはこうだ!!」


おれが名前を付けるとしたら”ガオガオのバクバク”!!!

そんな技でおれのタコヤキは一瞬でタクミの胃袋に納められちまった!!!


「おれのタコヤキがァ!!?」

「……意外なまでに美味いな……行くぞ!!!」


……半泣きのおれを、タクミは割れ頭の船までそのまま引き摺って連れてきた……鬼だ、悪魔だ。


「ルフィ、顔を上げろ」

「……ん? うおーー!!! こりゃ何だ!?」


そこには大量のオモシログッズが並べられていた!! おれの機嫌は一気に直った!!


「ココは選手控え室、兼衣装部屋。今からお前は、普段の自分を脱ぎ捨て、階級無視の最強ボクサー、”モハメ・D・ルフィ”へと変身するんだ」

「変身!!? ”モハメ・D・ルフィ”って何かカッコイイな!!!」


「気に入って貰ってなによりだ。俺の推奨するスタイルはグッシースタイルなんだが、戦士スタイルという手もある」

「おれは戦士スタイルがイイぞ!!!」


どんなのか知らねェけど、男なら戦士に変身したいと思うのが当然だ!!


「そうか……」


タクミはカツラ置き場から一つの金髪のカツラを手に取って、おれに被せてきたんだけど……


「……コレだ」

「バカにしてんのかァ!!! 何だこのツインテールは!!! 可愛い髪留めまで付けやがって!!!」


「セーラ〇ムーンは好みじゃないか。まぁ、確かに選ぶならジュピタ〇だよな……それにしても、ツインテールなんてよく知ってたな」

「どうでもイイからグッシースタイルってヤツを出してくれ!!」


タクミは何も言わずに次のカツラを手に……


「ソレは!!?」

「フ、コレを被ってしまえば、フォクシーの勝機はさらに無くなる。知ってたかルフィ? この髪型にするとパンチ力が増すんだ」


「本当か!!!?」

「コイツは男の野生を呼び覚ます。その理論は俺にも上手くは説明出来んがな……だが、忘れるなルフィ。心はHotに、戦いはCoolにだ。蝶の様に舞い、蜂の様に刺せ!!!」


そう言ってタクミはおれの頭にアフロを載せた……何だか知らねェけど、言われてみれば……力が溢れてくるぞ!!!

タクミの言う事は難しい事が多いけど、ためになる事も多い。

”蝶の様に舞い、蜂の様に刺す”きっとタクミの戦闘時のモットーなんだろうけど、おれに出来るか?


その後は『顔にペイントを入れてタイ〇ンの力も借りよう』とか言い出したタクミに落書きをされて、今のおれはダークヒーローって感じだ。

扉の前に立ちフォクシーの紹介が終わるのを待つ間、タクミはイロイロとアドバイスをくれた。


『『さァそして対するは、”東の海(イーストブルー)”出身!! 少数派海賊団のリーダー!!』』


「行くぞルフィ!! 今のお前に敵などいない!!」

「ア――イエー!!!」


『『懸賞金1億5000万ベリーの男!!! ライトコーナーより入場!!』』


勢いよくタクミが蹴破った扉から、おれ達は入場する。

降り注ぐ大量の視線が気持ちイイ。


『『通称”麦わら”!!! モンキー・D〜〜〜〜〜〜!! ルフィ〜〜〜〜〜〜〜!!!』』


「うがァーーーーーっ!!!」


入場と同時におれは雄叫びを上げる。

コレもタクミの作戦、『ビビってくれたら儲けもん』らしい。


『『デービーバックファイト運命の最終戦!!! 『コンバット』始まるよ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!』』


「俺の役目はココまでだ。ギア2(セカンド)は、ゴングの瞬間にかけろよ」


飛び去っていくタクミの言葉を聞いて、おれはゴングの音だけに集中する。

周りの喧騒も、実況やフォクシーの言葉も、もう聞こえない。

一味の船長として……一瞬で決めてやる!!!

運命のゴングと共に、フォクシーが動き出す。


「いくぜィ!!!」

「ギア……”2(セカンド)”!!!」


初動はちょっとだけフォクシーが早ェ。

けど、今のおれには関係ねェ!!!


「ゴムゴムの……」

「フェフェッ、来ないんならコッチからいくぜ!!! ”ノロノロビ〜〜〜〜〜ム”!!? はァ!!?」


おれは”ソル”でビームをかわして、フォクシーの後ろを取る。


「……”JET””銃乱打(ガトリング)”!!!!」


最初の二、三発で船の際まで追い詰められたフォクシーは、そのまま船の一部ごとぶっ飛んでいった。


『『なァ!!? なんとオヤビンが一瞬でぶっ飛ばされたァ!!? 落下地点は……どこまで飛んでいくんだァ!!? とにかく戦場(フィールド)の外ォ!!!』』


……”バズーカ”で十分だったか? でも、ワニの時に”JET””バズーカ”は使ったし、ちょっと成長を見せたかったんだけど……なんかゴメン。


『『デービーバックファイト最終戦!!! オヤビン332戦無敗の伝説はここに敗れ、ゲームを制したのはなんと……!!!』』


ん? 『軽く1000連勝くらいしてるようなヤツだから、思いっきりいけ』ってタクミは言ってたハズだけど……ま、イイか。


『『麦わらの!!!…………ルフィ〜〜〜〜〜〜!!!』』



〜Side タクミ〜



「……ふざけてるのかと思ったけど……圧倒的ね」


試合が始まる直前まで、俺のプロデュースしたルフィに、拳で(俺に)文句を言っていたナミも、ルフィの魅せたフォクシー瞬殺劇には驚きを隠せないみたいだな。


「まあ、相手が2億の男とはいえ、ちょっとオーバーキル気味だったな。俺のアドバイスは間違いなく不要だった」

「アフロまで装備されちゃあ、フォクシーは手も足も出ねェよ」

「そりゃあアフロだからな」

「確かにアフロはやり過ぎよね」


サンジはモチロンのこと、ウソップもちゃんとブラザー魂(ソウル)が理解出来てるみたいだな。

コレならセコンドを任せても良かったかもしれないなぁ、俺のプロデュースじゃボディーペイントとかがイマイチ納得いく出来じゃなかったし。

ビビは……もうツッこむのはヤメよう。


「なんでみんな当たり前の様にアフロをパワーUpとして認識しているの!!? ねェ、ロビン、そうなの!!? アフロってそうなの!!?」


自分の常識を取り戻したいナミは、必死になって常識人のロビンに確認を取ってる。

こういうのはノリが大事だっていうのにな……口答えしたら”格闘女ナミ”に変身するから俺は何も言わない。

余談だが先ほど、ナミの拳はついに俺の「鉄塊」の強度を超えた。

今まではナミが怪我をすると思ってあえてそのまま食らっていたんだが、凄まじい拳のプレッシャーに負けて、ついに「鉄塊」を使ってしまったんだ……無視するかのような打撃力だったな。

「鉄塊 剛」なら何とか防げるレベルだとは思うが、正直アイツに武器なんかいらんと思う。

基礎体力を鍛えなおそうかと真剣に考えさせられてしまったよ…………閑話休題。


「素敵なヘアスタイルだもの。そんな効果もあるんじゃないかしら?」

「すげェな!!! おれ知らなかったぞ!!! 医学的なアプローチで検証できるかな?」

「……やっぱそうなんだ。わたしの常識はココでは役にたたないのね」


ロビンの言葉を聞いてナミは項垂れているけど、ロビンのいつもの冗談だぞ?

ていうか、チョッパーの回復力が異常だ。全身に無数の砲弾を受けたって話だったけど、今ではロビンの膝の上で元気そうにしてる。

「生命帰還」を利用してるんだろうけど、俺が長年かけて築き上げてきたモノを、こうも簡単に習得するとは、野性の力は凄いな。


「はぁ……ナミ、訊く相手を間違ってんだよ。ソイツを含めて一味の大半は”タクミ教”の信者だ。”タクミの言う事は絶対”を教義としてる新興宗教だな。一味の常識人は最早おれだけだから、これからはおれに訊け。取りあえずアフロでパワーUpはしねェから安心しろ」

「ナニイッテルノ? タクミガイウンダカラ、キットソウナノヨ」


自分で常識人とか言ってる迷子王子の言葉に、ナミは虚ろな瞳で返事をしている。


「ナミが壊れた!!? おいタクミ!! 笑ってねェで何とかしろよ!! お前の冗談が一味を崩壊させかけてるぞ!!」

「オモシロいからしばらく放っとこう。そろそろルフィが戻ってくるから、出迎えの準備だ!!」


俺たちは観客席から降りて、ルフィと一緒にメリー号の前でプチ宴会を開く。

コレで青キジのところに一人で行き易くなったな。

ウソップの”死”の予告日は間違いなく今日だ。頼りになるヤツではあるんだが、連れて行く訳にはいかないからな。

俺には”零毀”と”能殺弾(スキルブレッド)”があるんだ……クザンにはココで退場してもらう。

もう原作なんか知らん!! サカズキに負けてから重要な役で再登場してた気はするんだが、どっちにしろ覚えてないしな。


「オヤビン!!」

「まだ動かねェ方が!!」


声のした方を見れば、俺たちの宴会会場に、フォクシーが確りとした足取りで向かってきている。

あの技を食らったら俺でもマズい事になりそうだってのに……アイツ打たれ強さだけは本当に2億クラスだな。


「おい麦わらァ……てめェよくもおれの無敗伝説にドロをぬってくれたな……天晴だ……ブラザー」


そう言ってフォクシーはルフィに握手を求めて手を差し出した……こんなヤツだったっけ?

予想外のフォクシーの行動に俺が戸惑っていると……


「タクミ!!! 危ねェ!!!」

「!!!!?」


突如として俺に向かって放たれた集中砲火を……


「ウソップ!!!? おい!!! 確りしろ!!! 何で!!? 何でだよ!!!?」


意味が解らない!!? 何でこのタイミングで砲撃が!!? 何でウソップが俺を庇うんだよ!!?

砲撃くらいで俺は死なないだろうけど……


「おい……冗談だろ?……息をしろよ!!! ウソップ!!!……チョッパー!!! ウソップを助けろ!!!!」

「わ、わかった!!!……コレは…………ナミ!! ロビン!! 手伝ってくれ!!!」


ウソップの状態を確認したチョッパーが、ナミとロビンを伴ってメリー号に走っていく。

誰だ?…………誰がやった?


「不意打ちは失敗か……だが、茶番はもう終わりだ」


白煙の中から聞こえる声に、俺は今まで感じたことの無い様な殺意を覚えた。
 
 
 

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