小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”終わりと始まり”



〜Side ゾロ〜



突然の事だった。

ルフィとフォクシーが握手をするっていう冗談みてェな状況で、叫び声を上げたウソップが凶弾に倒れた。

白煙の中から届いた底冷えするような声に、一味の誰もが動揺する中で、さっきまで取り乱していたタクミだけが、酷く冷静に言葉を発する。


「お前がやったんだな……カポネだったか」


徐々に晴れていく煙の、只一点を見据えているタクミは、どこか虚ろな目をしていて……マズいな、コイツ全然冷静なんかじゃねェぞ。


「おいおいカポネ!!? てめェ何勝手なことやってんだ!!? おれと”麦わら”の勝負でこのゲームにはケリがついてんだぞ!!?」


現れた男は、確かにおれ達を二回戦で苦しめたカポネ”ギャング”ベッジ。

おれ達と戦った時と同じ気味の悪ィ笑みを浮かべてやがる……やっぱフォクシーの下につくようなヤツじゃなかったか。

フォクシーの動揺っぷりからして、砲撃はコイツの独断での行動だろうな。


「”式刀零毀”……まさかお前が見つけ出してくれるとは思わなかったが、そのまま持っていかれるのは困るな。次弾の装填は終わっている。ソイツをコッチに渡せ」


カポネは”零毀”を狙ってフォクシーに従うフリをしてたって事か。

最上大業物の候補だっただけあってあの小太刀は半端じゃねェからな。

ソイツをタクミが見つけちまったから狙われた。

そのせいでウソップは……クズが!!!


「てめェ覚悟は出来てんだろうなァ!!! コレはゲームじゃねェんだぞ!!!」

「二流剣士ごときがおれに話しかけるな。おれは銀獅子に話してるんだ……銀獅子? 聞こえてないのか? そんなにあの長鼻が大事だったか……お前ら、今の内に囲め」


カポネの号令で、ヤツの腹から出てきた騎馬隊や銃士隊がおれ達を取り囲み始める。舐めやがって、数は関係ねェんだよ!!

両膝をついたまま動かないタクミにかわって、おれは抜刀の体勢に入る。


「二流とは言ってくれるじゃねェか。全員まとめて「ゾロ!!!……待て」はァ? 何を眠てェこと言ってんだ」

「タクミ……お前がやるんだろ?」

「ああ……止めるなよ」


今まで黙って見守っていたルフィに促され、タクミはようやく立ち上がったんだが、


「おいルフィ!! 今のソイツは普通じゃねェ!! おれ達が動くべきだ!!」

「今回ばかりはソイツに同意だな。タクミは戦わせねェ方がイイ」

「こんな所で”雑魚散らし”なんか使わせたらわたし達まで巻き込まれるわよ」


おれの意見にサンジもビビも賛成、コレでルフィもタクミを止めるしかねェだろ。


「自分を庇ったせいで仲間が傷ついて、お前ら我慢出来んのか?」


的を得たルフィの言葉に、おれ達は反論出来なかった。


「ありがとなルフィ……ビビ、心配しないでも今回は”雑魚散らし”なんか使わない」


タクミはそう言ったが、ビビは浮かない顔をしてる。

そりゃそうだろうな、ウイスキーピークでのタクミの動きを見てれば、アレは無差別攻撃にしか見えねェスピードだ。


「あんな適当に痛めつけたりなんかしないさ。確実に、凄惨に、無慈悲に……皆殺しだ」


無表情のまま形態変化した次の瞬間……タクミは消えた。

かろうじて視認出来ていた今までのスピードなんかじゃなく、文字通り消えた。


「!!?……どこに消えやがった!!? お前ら「頭目(ファーザー)!!!」どうしたルチアーノ……なァ!!!?」


カポネが振り返った先で、一人だけコートを羽織っていた、ヤツの腹心であろう部下の首が飛んだ。

宙を舞う生首はカポネの足元に落ち、数回転がってヤツを見上げた状態で動きを止める。


「ルチアーノ!!! どうしてお前程のヤツが……ヒィ!!?」


タクミの姿が見えないまま、カポネの足元には次々と部下達の首が投げつけられていく。


「頭目(ファーザー)!!! 敵が捕捉出来ません!!!」

「チクショウ!!! どこから狙ってやがるんだ!!?」

「おいおい冗談じゃねェ!!! この首捻じ切られてるぞ!!?」

「おれ達はいったい何と戦ってんだよ!!?」


次々と頭部を失った死体に変わっていく仲間と、目に見えない敵に怯えて、カポネの部下達はパニック状態だ。

首を失った主を乗せた騎馬隊の馬達も暴れだして、パッと見はデュラハンが反乱を起こしたみてェなカオスな光景……止める……のは無理だな。


「…………全員撤退だ!!! ”零毀”なんぞどうでもイイ!!! 生き残る事だけ考えろ!!!」


カポネの苦渋の決断を聞き、部下達はカポネに駆け寄ろうとするが、たくさんの仲間の首が転がる光景に足を止めてしまうヤツが殆どだ。


「うっ……もうダメ」


あまりの光景にビビは顔を背けて嗚咽を漏らしてやがる……当然か。

ルフィは目を逸らさずに静観してるが、おれもサンジもコレはキツイ。

次第にスーツを着た人間で動くヤツは少なくなっていき…………残りはカポネだけになった。

飛んでくる最後の部下の首を眺めて呆然とするカポネの前に、ようやくタクミが姿を現す。


「”陰翳博物館(デッドリーミュージアム)”…………最後の展示品は、お前の首だ」


巨大化した両腕に血を滴らせて近寄るタクミに、カポネは後ずさる事しか出来ない。


「クソ!!!……今だ!!! 撃……??……」


腹の中に残っていた部下達に砲撃の指示を出そうとしたカポネの首はタクミの手で引き千切られ、その体には大量の銃弾と針が撃ちこまれた。

理解出来ないナニカを見てしまったような表情で固定されているカポネの首……中に残ってたヤツも全滅だろうな。


「フォクシー、お前らも死ぬか?」


手に持ったソレを中央に放り捨てて、タクミは傍観していたフォクシーに声をかける。


「いや、部下の不始末を部外者にさせちまってすまねェ。虫のイイ話だが、その小太刀で手打ちにしてくれねェか」

「…………行け」


流石にコレくらいの事は弁えてるらしく、フォクシーは大人しく引き下がって船へと戻って行った。


「タクミ、大丈夫か?」

「悪い。ウソップの様子を見てくる」


おれの言葉には答えずに、タクミはメリー号に向かって行った。


「さっきのタクミさんは……流石に怖かったかも」

「確かに、あんなにキレたタクミは見たことねェな」


残されたおれ達の空気は重い。

正直……ココまで凄惨な事をやる必要は無かった気がする。

ウチの一味に砲撃なんぞでくたばるようなヤツはいねェから、ウソップは無事なハズだ。

でも、おれじゃタクミを止める事なんか出来なかった……アイツは、またこの件で一人で悩むんだろうな。

おれとタクミの間には、いったいどれだけの差があるんだ?……おれは、アイツの暴走を止める事すら出来ねェ。


「おれ達も行くぞ」


ルフィが皆に声を掛けて、おれ達は微妙な空気のまま歩き出した。


「あららら、ファイアタンク海賊団、全滅じゃないの。埋葬くらいしてやんなよ」

「!!? 誰だてめェ!!?」


今まで誰もいなかったハズの後ろから声を掛けられて振り向くと、ソコには額にアイマスクを着けた長身の男が立っていた。


「ま、海賊にそんなもん求めてもしょうがねェな」


男は中心に据えられたカポネの首を眺めながら、心底どうでも良さそうに語り、コチラを向いた。


「ところで……お前らの一味に、ニコ・ロビンって女はいるか?」


一難去ったと思えば……また面倒な事になりそうだ。



〜Side タクミ〜



「何とか峠は越えた……と思う」


船に戻ってウソップの容態を訊ねたが、チョッパーの返答は何とも曖昧なモノだった。


「そうか。何とか助けてやってくれよ……頼む」


チョッパーの頭を軽く撫で、おれは船室の前に座り込んだ。

今回の件は……完全に俺のせいだ。

俺が”零毀”を持ち出さなければ、ウソップが俺を庇って撃たれる事も無かった。

原作には無いカポネってイレギュラーを、俺が甘く見た結果がコレ……情けないな。


「おい!! 最後の指名が済んでねェんだが、麦わらは何処だァ!!」


フォクシーが船の上から声を張り上げてやがるが……


「どうでもイイよ。船員より医薬品とかくれないか?」

「お前じゃなくて船長が決めるんだよ!!! イイから「兄貴ィーーーーー!!!! あっしを連れてってくれるんじゃねェんですかァーーーーー!!?」ミフネ!!? てめェいつの間に銀獅子の子分になったんだ!!?」


??……あ、忘れてた。

そういえば、ミフネに何も言わないでコッチに戻ってたな。


「船長に聞いてくれ。俺の一存じゃ決められない」

「そんな殺生なァ!!? 命を預けた仲じゃねェですか!!!」


……迷惑だ。

何か騒がしいが、ルフィが戻ってくるまで放っておこう。


「ウソップさんの容態はどう?」


煙草を吸っているとビビが戻ってきて……


「チョッパーが言うには峠は越えたらしい。まだ、ロビンとナミも付きっ切りだけどな」

「そっか……(それならわたし達はトンジットさんの引越しを手伝ってても大丈夫ね)」


ブツブツ言いながら直ぐに出かけて行った。

あのコは最近よく解らないな。



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「おーい、タクミィ!!!」


ルフィのヤツ、ようやく戻って来たか……仕方ない。


「何かタクミと「まあ、それは置いといてだな」……は?」


一刻も早くあのバカを黙らせないと、五月蝿くて敵わん。


「最後の指名権を使ってあのミフネってヤツを自由にしてやってくれ。獲られてる間に世話になったんだ」


ルフィは状況を把握しないままミフネを指名してくれた。

あらためて考えると、この一味俺の発言力高いな。

フォクシー海賊団はミフネに手漕ぎボートを一艘渡して、さっさとこの場を去っていった。


「兄貴ィ!!! 選んでくれると信じて「ミフネ、お前はこれから修行の旅へ出ろ」……へ?」


ミフネはポカンとした表情で俺を見上げている。

面倒なヤツだなぁ、今ので理解しろよ。


「”鷹の目”みたいに一人で海を流離いながら、片っ端から決闘を仕掛けていけ。相手を選ばず1000人斬りするまで戻ってくるな」

「今のあっしじゃこの一味の足手纏いって事ですかィ!!?」


「残念ながらな。この修行を乗り越えた時、始めてお前は”麦わらの一味”を名乗る資格が生まれる……生きて帰ってこいよ」

「兄貴!! あっしは頑張りやす!!! 兄貴に頂いたこの大業物”紫雨”を相棒に!!! 必ず1000人斬りを達成してお見せしやす!!」


フォクシーに話を通してないんだが、大業物を持ち出したのか。

コイツの中では俺に貰った事になってるみたいだけど……まあイイか。


「ああ、頑張れ」

「兄貴…………お達者で!!!」


涙を堪えながら、ミフネは去っていく……アイツ死んだな、間違いなく。

実力以前に、あんな小船でこの海を航海するなんて、いくらなんでも無謀すぎる。


「……もうイイか?」

「ああ、待たせて悪かった。それで?」


「えっとな、何かタクミとロ「ルフィ、もう荷造りは終わったぞ!!」……もうイイみてェだ」


大きな荷物を引いて現れたサンジ達の登場に、ルフィは説明をヤメたんだが、もうイイと言われると気になってきたな。


「?? 相変わらずルフィの説明はグダグダだ……な……何でアイツがお前らと仲良くしてるんだ!!?」

「お、タクミはアイツを知ってんのか? めんどくせェって理由で自己紹介も出来ねェようなヤツなんだけどよ、おっさんの引越し手伝ってくれるらしいしイイヤツだぞ」


警戒心剥き出しのゾロの隣を歩く男を見て俺は凍りついたんだが、ルフィは既にコイツと友達になってしまってるみたいだ。


「あららら、おれを知ってんのか? 政府はニコ・ロビンと同じくらい、お前の事も警戒してるぞ。占い師、”銀獅子のタクミ”……イヤ、事情を知ってるおれとしては、”炎蛇の子”バジル・リングローズって呼んだ方がイイのか?」


もうそこまで調べられてるのか!!?

政府の諜報力を甘く見てたって事か……フォクシーのヤツも俺の”占い”を知ってやがったが、いったい何処から漏れたんだ?


「俺は麦わらの一味の副船長、ハンターのアイザワ・タクミだよ。だいたいの用件は解ってるが、何の用だ……海軍大将”青キジ”」

「「「海軍!!!?」」」


今まで一緒に荷造りをしていたヤツが海軍だったって事に、ゾロ以外の三人はメチャクチャ驚いている。


「うろたえんな!!!……余計な事は口にせず、黙って見守れ。敵にタダで情報をくれてやる必要は無いからな」

「俺の言いたかった事を代弁してくれてありがとな。俺に何かあった時の副船長は、ロビンじゃなくてゾロに頼む事にするよ」


ゾロは返事もせずに青キジを睨みつけてるけど、こういう時は本当に頼りになるな。


「なァに、別に捕まえに来たって訳じゃねェよ。ニコ・ロビンの所在確認に来ただけだ」


ポケットに両手を入れたままヤル気なく発言する青キジ……どう見ても隙だらけだよな。

今奇襲をかければ確実に……即座に使用可能なのが”零毀”だけっていうこの状況じゃ厳しいか。


「ロビンならいるが、お前に会わせるつもりは無い。お帰り願えるかな」

「つれないねェ。自分で一目見とかねェと安心できねェだろ?…………イイから出せ」


!!!? コイツ、雰囲気が変わった!!!?


「それは出来ない相談だな。お前はアイツのトラウマだ。帰らないって言うなら、消すだけだ」

「そんなモノでおれを倒せるとでも思ってんのか? 無駄死にするぞ?」


俺の言葉を聞いた青キジは、ガンベルトの二丁拳銃を一瞥して、つまらなそうな声色で言い切った。


「ご忠告どうも。あいにく今日は俺の命日とは出てないんでね」


エボニー&アイボリーに”能殺弾(スキルブレッド)”を一発ずつと、”炸裂弾(バーストブレッド)”を五発ずつ装填……肉片が残るかも微妙な過剰武装だな。


「(やっぱり兄弟なんだな)……かかってこい」


???……どこか笑いを堪えている様な青キジに疑問はあったが、俺は「紙絵武身」の状態で全身の力を抜き、瞬時に加速可能な構えをとる。

………………お互いに動かない。いや、動けない。隙だらけなのがかえって攻め難いな。何か、何か切欠が欲しい所だ。

静寂を破り、不意にガチャリと音が聞こえる。開いた船室の扉に青キジが気を取られた隙に、俺はヤツの背後へと駆けた。


思えば不思議なモノだな。

コイツに対抗する意志が俺になければ、ウソップはああならなかったんじゃないか?

”零毀”と出会えたタイミングも、ココで使う為だった気がする。

試す機会がなかったから今回は使わないが、この運命……いや、宿命には感謝しなければいけないのかもしれない。


青キジとの戦いは、何度シュミレートしてきたか解らないが、勝負は一瞬でつく。

ホローポイントが発動しなくても、俺の速射能力なら青キジが実体化している間に、”炸裂弾(バーストブレッド)”が着弾するだろう。


「(Good bye Kuzan.Sweet dreams)」


俺の小声に反応して青キジは振り返ろうとするがもう遅い。

……俺は笑みを浮かべて引き金を引いた。
 
 
 

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