小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”海軍本部「大将」青キジ”



〜Side ロビン〜



甲板から異様な気配を感じた……その扉を開けてはいけないような、でも、今開けないと後悔するような気がした。

……確かめなくちゃいけない……逃げちゃいけない。

扉のノブを回した瞬間に、冷たい視線を扉の向こうから感じてしまった。

直後に響いた爆発音と僅かな呻き声……そして叫び声。


「彼の声??」

「ちょっと!!? 今のタクミの声じゃない!!?」

「何かあったのか!!?」


そんなハズが無い彼は絶対に負けない。

あんなにも悲痛な叫び声をあげるわけが無い。


「アナタ達は長鼻くんの看病をしていて……私が、様子を見てくるから」


恐る恐る開いた扉のその先には…………私が恐れた光景が広がっていた。


「ちょっと何よコレ!!!? どうなってんの!!?」


結局私に続いて出てきた航海士さんに訊かれたけど、そんなの私が知りたい。

甲板に倒れ伏す二人の男の周りには、同じくらいの血溜まりが出来ていて、私は迷わず彼に駆け寄る。


「イヤ……どうして……イヤァァァああああ!!!?」

「……ロビン??……泣くなよ…………やっぱ粗悪品は粗悪品だな。ウソップの言う事聞いときゃ良かった」


自嘲気味に話す彼の腕には…………左手が無かった。


「ゲホッ!!!……あららら、コリャいい女になったな……ニコ・ロビン」

「青……キジ??」


「”炎蛇の子”が”悪魔の子”の守護者になったって噂は耳にしてたんだが……やってくれるじゃないの」


自然系の能力者のハズの青キジの腹部からは、大量の血が溢れ出ていた。


「効くだろ? ウチの天才の特殊弾は……トドメを刺してやるよ」


ふらつきながら立ち上がった彼は、残った右手で青キジに銃口を向ける。

出血が止まっているのは、「生命帰還」の応用でしょうけど……


「待って!!! もうヤメテ!!!」

「「生命帰還」ねェ、その手があったか…………何を驚いてんだ? お前に出来て、おれに出来ない道理はねェだろ? 止血に利用するって考えは、今までなかったけどな」


青キジも立ち上がった……もうダメだわ。


「ハッ!!! 思ってたよりハイスペックなんだな。だが、能力の使えないお前に何が出来るってンだぁ!!!!」


咆哮と同時に放った彼の銃弾を、青キジは難なく避けた。まるで彼の様に。

瞬時に彼の後ろに回りこんだ青キジは、彼の右腕を氷つかせる。


「ぁぁぁぁあああああ!!!?」

「「六式」も使えるって話さなかったか? まあイイか、海楼石の弾なら、さっき無理やり摘出した。かなり痛かったけどな」


体内で膨張した弾丸を、自ら抉り抜いたっていうの!!!? この男、精神力も普通じゃないわ!!!


「もうイイから!!! これ以上戦わないで!!! 能力が戻った青キジには敵いっこないわ!!!」

「退いてくれ、ロビン」


凍りついた彼の右腕は、徐々に解けていく。

多分コレも「生命帰還」、体温を急激に上昇させているんだわ。


「そんな戦い方じゃアナタの体がもたないわ!!!……青キジ!!! 私が「黙れ!!!!」……タクミ??」


彼に突き飛ばされた私は、訳が解らなかった。


「例え世界を敵に回したって、例えロビンが止めたって、この体が朽ちるその時まで……止まる訳にはいかないんだぁぁあああ!!!!」


天に向かって雄叫びを上げる彼の右腕は、完全に解凍が終わっていた。


「”愛故に”ってヤツか? 情熱的な家系だな。コッチはイイ迷惑だ」

「アイツと一緒にするなよ。俺はあそこまで狂っちゃいない」


彼は銃を捨てて、フォクシーから貰った小太刀を構える。

確か”あらゆる異能の力を無効化する”っていう刀のハズだけど、抜いた瞬間に鳴り響いた不吉な音には、イヤな予感しかしない。


「”式刀零毀”……”魔剣士ヴェリアル”が使った刀か。そんなもんまで手に入れてるとは……ソレが扱える時点で十分狂ってるだろ……ハイスペックなのはどっちだって話だ」

「知るか……悪魔と……踊れ!!!」


苦笑いする青キジを無視して、タクミは刀を構える。辺りを支配する濃密な殺気に、身動きが取れなくなる……もう、私には止められない。


「……”アークス流剣術”……」

「無駄口はお終いか?……かかって来い」


アークス流剣術??……彼は元から剣術が使えたの??


「”桜舞 魅六の舞”……”初の舞”!!!」

「おっと、よっ、ほっ……なるほど、厄介だな」


踊るように戦う彼の動きは、普段の戦闘時に比べれば格段に遅い。

それなのに青キジの攻撃を悉く避け続けて、その体に無数の傷を刻んでいく。

でも、それも最初だけで、青キジはタクミの攻撃に順応し始めてる。


「”弐の舞”」


「”参の舞”」


徐々に攻撃が通らなくなっていくのに対応して、彼もパターンを変えて対応するんだけど、それすら意味を成さない。

戦闘経験が、潜り抜けてきた修羅場が、彼と青キジじゃ違いすぎるみたい。このままじゃ……


「その緩急は見事なもんだが、リズムをいくら変えたってな、根本の流れが変わらねェ以上、もう食らわねェな」


青キジの言葉を聞いたタクミは、一度その舞を止め、距離を取った。


「……片手の俺が使いこなせる”舞”はココまで……だが、”舞”を破ったくらいでイイ気になるな……”アークス流剣術”……」


今までの脱力したような構えから一転して、タクミの両脚に力が集約されていくのを見て、青キジは顔色を変えた。


「……”絶対零度の壁(アブソリュート・ゼロ)”」


正面に冷気の壁を出して迎え撃つ構えの青キジ。まさか彼がそのまま突っ込んでくるとでも考えてるの?


「……”第十三手”……”雷霆(らいてい)”!!!」

「ガハッ!!?……」

「嘘!!!?」


消えたと思った瞬間には懐に飛び込んでいたタクミの刀は、青キジの左胸を貫いていた。

力なく倒れた青キジを横目に、徐々に凍り付いていくタクミ。

結果から考えれば、彼はあの冷気の壁をそのまま突っ切って、最短距離で青キジを殺りにいったって事。

でも、そんな事は、今はどうでもイイ!!

私は凍り付いていく彼に駆け寄り、その身体を抱きしめた。


「もう大丈夫だロビン、ちゃんと解凍してくれよ……俺は……寝る……」

「タクミ!!!? 起きて!!! タクミ!!!!」

「チョッパー!!! タクミを何とかしろ!!!!」


凍りついたタクミを前にして何も出来ない私の変わりに、剣士さんがチョッパーを呼びに行ってくれたんだけど、背後から凍りつくような寒さを感じて、感謝の言葉は出せなかった。

ソレは、私の腕の中で凍りついているタクミから発せられるモノとは比べ物にならないような冷気。


「……「生命帰還」の使い手は大概、心臓の位置を変えてる。機会があったらソイツに教えてやりな」


投げられたタクミの刀が、私の横を滑っていく……振り返ろうとした私は…………



〜Side サンジ〜



「お前ェ〜〜〜〜っ!!!」

「わめくな……ソイツが言ったみてェに、ちゃんと解凍すりゃまだ生きてる」


タクミに確かに心臓を貫かれたハズのアイツは、起き上がって今度はロビンちゃんを凍らせた。


「クソがァァァああああ!!!!」


凍りついた二人を見たゾロは、激昂して大将に突っ込んで行く。


「ヤメロ!!! お前じゃムリだ!!!」


残ったメンバーで氷人間のアイツを倒せるとしたら、おれの”悪魔風脚(ディアブルジャンブ)”しかねェんだが、まだ実戦で試してねェコイツが何処まで通用するかが問題だ。


「うるせェ!!! おれはタクミを超える!!!!」


ゾロは落ちていたタクミの刀を拾って斬りつけたんだが……


「お前にその刀は扱えねェよ」


タクミの時と違って、その刀身は大将の氷の体を砕いただけだった。


「おああああああっ!!!」

「ゾロ!!!?……わたしが相手よ!!!!」

「ナミとビビは三人を移動させろ!!! 砕けたらやべェ!!!……”ギア”……”2(セカンド)”……”ゴムゴムの”ォ!!!」


体が凍り付いていくゾロを見てビビちゃんが戦闘態勢を取ろうとしたが、それを諌めてルフィが突っ込んでいく。


「……わかったわ。ナミさん!! トニー君!! 急いで運びましょう!!」


ビビちゃんの能力はアイツと相性が悪すぎるからな……妥当な判断だが、ルフィでもアイツには勝てない。

……迷ってる場合じゃねェな。


「JET”銃弾(ブレット)”ォ!!!! 冷た!!! うわ!! がァあああ!!!」

「ルフィ!!! 10秒粘れ!!! おれが何とかする!!!」


おれは左脚を軸に高速回転を開始した。

摩擦によって発生する高熱、体に負担が掛かっちまうから長時間は使えねェが、この技はアイツにとって天敵のハズだ。


「”悪魔風脚(ディアブルジャンブ)”」

「おいおいそりゃあないんじゃないの!!? 全くとんでもねェ一味だな……まぁ……」


「”粗砕(コンカッセ)”!!!?」

「当たらないなら意味ないんだけどな」


クソ!!! 軽々と避けやがった!!! 確かにタクミが苦戦するようなスピードの相手じゃ、おれの蹴りが当たるわけねェか。


「だからって諦めきれるかァ!!!」

「”海狼星(かいろうぼし)”!!!!」

「おっとォ!!?」


重症のハズのウソップが突然現れて何かを放ったんだが、青キジに届く前に氷付けにされて甲板に転がった。


「危ねェな、どうせコレにも海楼石が仕込んでんだろ? あの口ぶりからすると製作者は別にいたって事だよなァ……確かお前は、”追跡者(チェイサー)”の息子だったか……お前も危険だな」


ウソップに標的を変えた大将が、氷の槍を空中に創り出したんだが、ソレが放たれる前にウソップは崩れ落ちた。


「あららら、勝手に倒れてくれちゃって、一応トドメは刺しとくか」

「お前の相手はァ!!! このお「待った!!! サンジ!!!」……ルフィ??」


おれと大将の間に割って入ったルフィを見て、おれもヤツも動きを止めた。


「コレ以上手ェだすな。一騎打ちでやりてェ!!……この勝負、おれとお前で……決着をつけよう」


一騎打ちってお前!!? 右腕は既に凍った状態だってェのに……!!!?

そういう事かよ!!!? だけどコイツがその約束を守る保障なんて何処にもねェだろうが!!!


「構わねェが、連行する船がねェんで……殺して行くぞ?」

「……広いとこで戦いてェ。場所を変えねェか?」


無言で了承した大将を伴って、ルフィは草原に駆けて行った。


何も出来なかった……何も言えなかった。

おれはルフィの決断を見守っただけじゃねェか。


「おれは…………弱い」
 
 
吐き捨てるように呟いたおれの言葉は、誰もいない甲板に虚しく響いた。
 
 
 

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