「美夏?」
今度は聞こえるように言うと、やっと彼女は我にかえった様だ。
「カズ・・・?」
彼女は、僕を見てゆっくり首を傾げる。
「うん。っていうかこんな時間になんでいんの?」
「まぁ・・・」
彼女は、言葉を濁した。
「それよりさ、あれほんと?」
「あれって?」
彼女は、まっすぐ前を見たまま言った。
「翔子とつきあってる事」
「な、なんでっ、それっ!!」
情報いくの、はやすぎだろっ!
「まぁ・・・ね?」
今度は僕が言葉を濁した。
「やっぱ、翔子の事好きなんじゃん・・・」
「や、でも・・・」
「私も彼氏作るしっ!じゃあね、お幸せに」
「へ・・・?」
彼女は、立ち上がってそそくさと教室に出た。
彼女に『彼氏』が出来たのは、その次の日だった。
「美夏ちゃん、来てるよ。めずらしいね」
ふと耳に入ったクラスメイトの談話。
「そういえば、アノ子彼氏で来たらしいよ?」
えぇえ?!!
「よく、あんな子とつきあおうと思ったね、美夏ちゃんの彼氏。で、誰なの?」
僕は耳を澄まして次の言葉を待った。
「慶太郎くんだってさ」
け、慶太郎?!!!
「あの、ファンクラブの子?」
「そうらしいよ」
「なるほどね、ゾッコンだったもんね」