第9話 未熟な魔術使いと魔法少女
本日は小学校も休みの土曜日。俺が小学生の頃は土曜日も学校に行ってた気がするがそれはどうでもいいこと。
地下のアリーナでミミックみたいな形のエネミーを一刀両断した後に人の形をしたエネミーが出てきた。ゲームではレアエネミーと呼ばれてた奴だ。
動きは鈍いがリーチが長く、パワーもある。
「|刺し穿つ―――死棘の百頭!!」
石槍は人の形をしたレアエネミーの胸部を貫く。
技に関しては完全に俺の趣味。
槍って思ったより使い易い。重いし、片手じゃ使えないから敬遠気味だったが価値観が変わった
『――新たなサーヴァントの召喚が可能になりました』
アリーナ内にアナウンスが響き渡る。コイツはパワーこそあったが、空を飛ばないから寧ろ鳥や蜂の形をしたエネミーのほうがやっかいだったりする。俺は飛べないし、今のところ遠距離攻撃がバカみたいに魔力を消費する|真・射殺す百頭(しかもまだ本来の威力の9分の1)しかないという残念な状況。
女神はサーヴァントの召喚を制限していたが、何か条件を満たせばまた召喚できるようになるのか。それとも単なる気まぐれか。倒したエネミーの数は数えるのが面倒になって100を超えた辺りから数えていない。もしエネミーの数が条件なのなら500体でも1000体でも倒すが。
それともこの世界で何か功績を残すこと?
分からないな……。
「はいどうぞ」
俺は「ありがと」と礼を言ってタマモが持ってきたタオルで汗まみれになった顔を豪快に拭いた。
体力もついてきたし、剣さばきもなかなか様になってきたと自負している。エネミーの強さもそろそろCくらいに上げてもいいかもしれない。
「今の何なんでしょうね?」
「俺に2体目を召喚する権利が与えられた……ってことじゃない?」
「いや、それは分かりますけど」
傍から俺の訓練を見てることに飽きたリニスは俺と同じように無限に出てくるエネミーを魔法を使って撃退している。「何これ楽しい」とか言って夢中になってるお陰でさっきのアナウンスには気が付いていないようだ。ちなみにその光景にちょっと引いた。
確かにある程度戦える猛者にはゲーム感覚で訓練が出来て楽しいところかもしれない。
さて、先程のアナウンスについても考えないといかないな。召喚するにしても今のところ戦力不足という訳ではないし、後のことを考えて召喚権はとっておくべきかもしれない。
仮に召喚するとしたら?
バーサーカー……は論外。キャスター枠は埋まってるし、アサシンは決め手にかける英霊が多い。ライダーも扱い辛い英霊(主にマケドニアの征服王と太陽を落とした女海賊)が揃っている。それを踏まえるとやはり強力な英霊が揃っていて対魔力も高い3騎士クラス(セイバー、アーチャー、ランサー)が妥当か。
魔術の方はまだまだ。早くガンドとか撃てるようになりたい。|月霊髄液とかエーテライトとか固有時制御とかかなり便利な魔術なので是非実現してみたい。というか俺まだ自分の属性もよく分かってないんだよな。起源は別に知らなくてもいいけど。変な起源だったらショックだし。
そういえば固有時制御の反動って|十二の試練で打ち消せないかな。もしできたら4倍速使いたい放題なんだけど。
……無理か。地道に頑張ろう。
明日だったっけか、なのはが言ってたサッカーの試合は。俺別にサッカー好きって訳じゃないんだけど。特に予定もないし行ってみようかな。
◆
サッカーの試合が行われるであろう広場に行くと、すでになのは、アリサ、すずかはベンチに座っていた。そしてその隣に何故かいる十文字。
コイツ呼ばれてたっけ?
本日、リニスはネトゲにはまり外出を拒否。逆にタマモは霊体化して何が何でもついて行くつもりだったらしい。
「遅いわよ」
「まだ始まってねーじゃん」
「十五分前行動で御座るよ彼方殿」
十文字は普段着の時も帽子とスカーフで顔が見えない仕様になっている。
どうでもいいが寒い時期はともかく、これから暑くなったら蒸れないのだろうか。
「……アンタそういえばあたし達が来た時にはもういたわよね」
「そういえば何で点蔵君はいるのかな?」
何気に酷いことを平然と言ってのけたすずか。
そしてその発言に地味に堪えている十文字。
「あれ、七志野は?」
あのデュエル馬鹿がいつもの面子にいないことが少し気になった。まあ、あいつならカードショップにでも行ってるんだと容易に想像がつく。
「小波殿ならアメリカの大会に出るとかで昨日からいないで御座るよ」
想像の少し斜め上を行っていた。
そのうち世界大会とか……もう出てそうだな。
そしてホイッスルを吹く音がする。
雑談をしていたら試合が始まったようだ。
「頑張れ頑張れー!!」
「みんなー! 頑張ってー!」
「羨ましいで御座るなぁ。自分も応援されたい……」
「まず応援されるようなことを始めてみたら?」
「例えば?」
例えば?
急に聞かれても困る。
「……野球で甲子園に連れて行くとか?」
「ベッタベタで御座るな」
温厚なことに定評のある俺でも流石にイラッと来る一言だった。
審判のホイッスルが鳴り、試合が一時中断される。どうやら選手の子が足を捻ってしまったようで、試合続行が不可能になったようだ。
「しまったな〜、控えの選手はいないし……」
監督をやってるなのは父は何故かこちらをチラチラと見ている。
あれか? 暗に出てくんないっていう意思表示なのか?
「よし、行ってこい点蔵」
「何で急に名前呼ばわりなんで御座るか!? そして何で自分!? 彼方殿が行けばいいで御座ろう?」
ここで魔法の言葉を呟いてやろう。
「アリサにいいところ見せるチャ〜ンス」
「ちょっくらハットトリック決めてくるで御座る!」
点蔵は思いのほかちょろかった。そしてハットトリックとは大きく出たな。
だがしかし俺は嘘は言っていない。
<みこーん! ご主人様、私気が付いちゃいましたよ。あのキーパーの子、さっきからあのマネージャーの娘をチラチラ見てるでしょ? 絶対あの娘にお熱ですよ!>
タマモはタマモでサッカーには別段興味も無さそうで全く別のことに注目していた。
ホの字と言われてもよくわからん。
言われてみればそんな気がしないでもないという何ともあやふや感想しか出ない。
あのキーパーともマネージャーとも面識はないから何とも言えないな。
「彼方君はやらないの?」
「俺はキャプ翼よりもスラダン派なんだ」
「要は面倒なんだね」
うん、すずかの言う通り。
そもそもルール詳しくないし、生前でも中学生の授業でやったのを最後にやってないし。
そもそもスポーツ自体あんまり好きじゃないんだよね。身体を鍛えるのは別だけど。
サッカーの試合はまさに点蔵無双の一言。
華麗なドリブルに加速と減速を器用に使い分けて並み居る選手をあっさりと追い抜きシュートしたかと思えば相手のパスをカットしてボールを奪いまたシュート。
先程の宣告通りにもう4回得点を入れている。
「あいつ運動神経だけは良いのよねぇ」
アリサも褒めてるんだか褒めてないんだか。
試合は0対6でなのは父のチームが勝利。
「ふう、こんなもので御座るか」
点蔵の奴はあれだけ動いたのに息が全然乱れていない。
本当に忍者だったりして。
試合も終わったし、帰って魔術の勉強でもしようかな。
そろそろ強化だけじゃなくて物質や自身の軽量化やら修復、治癒あたりにも手をつけていきたい頃。
なのは達と別れて俺は家に帰る。
その途中でさっきのキーパーとマネージャーの娘を見かけた。
これはもしや告白か?
野次馬根性を全開にして俺は告白を覗いてやることにする。
ちょっと遠くて聞き取れない。かと言って近づきすぎてばれてもな。
あ、キーパーが何か出した。プレゼントかな?
女をプレゼントで釣ろうとは、女ってそんなに単純な生き物じゃないぞ。
彼女いたことないから知らんけど。
どっかで見たことのある青い石……ってそれはまさか。
「うおおおおおおおおい!!」
抑えようとしたが時すでに遅し。
二人がいたところから巨大な樹が生えて町を覆ってしまった。
「木遁秘術・樹海降誕ッ!! ……なんちゃって」
「早く逃げますよ!!」
タマモは俺を脇に抱えて近くのビルのに飛び移る。
流石にこれはちょっと不謹慎だったかもしれない。
「あちゃー。これじゃあ町がめちゃくちゃですね」
「これ保険とかおりるのかなぁ」
車や建物は樹が侵食したことによって破壊され、怪我をしている人もぱっと見ただけでも大勢いる。
「……もっと早く気づいていれば」
「ご主人様のせいではありません。そもそもこんな危険な物を地球に落とした人が悪いんです」
タマモの言うことももっともだが、現場にいて何も出来ずに一人だけ無傷だというのは何とも後ろめたい気分だ。俺にもっと力があればあれを押さえ込むことも出来たかもしれないのに。
――もっと力があれば。
そう思うのは傲慢なんだろうか。
そんな俺の頭をタマモは優しく撫で優しく微笑んだ。
「ご主人様は良くやってると思いますよ。まだちょ〜っと未熟なだけ。ここは私に任せてください」
タマモは懐から玉藻鎮石を取り出して構える。
「あれ、リニスは呼ばなくていいの?」
「今から呼んでも間に合いませんよ」
確かに一刻を争う一大事。こうしているうちにも被害は広がる一方だ。
というかリニスがまともに活躍することが未だにないという。
タマモは跳躍して樹の枝までひとっ跳びして、そのまま中心部にいる二人のところまで辿り着いた。
キャスターのクラスといえども、身体能力は半端ではない。
「さてと……その魔力いただきますよ! 呪法・吸精!!」
タマモは発動している青い石の魔力を吸収し尽くしてこの騒ぎを収めるつもりだ。
問題はあの石がどれだけ魔力を内包しているかだが。
一分ほどで変化が表れた。木の枝が段々と縮んでいっている。
「か、彼方君!?」
声に反応して後ろを向くと何故かなのはが。そしてなのはは何故学校の制服を改造してどこぞの魔法少女風になってるような服を着てるんだ。というか何処から現われた。
「こ、こんなところにいたら危ないよ?」
「お前だって危ないだろうよ。そして何よりその格好が危ないよ」
まだ子どもだからギリギリ許されるかもしれないけど、その道の人で無い限りは痛いだけだと思います。
魔術師だってそんな格好……してるやつはいるか。
「それどういう意味!?」
「なのは! 口喧嘩してる暇ないよ、早くジュエルシードを封印しなくちゃ!」
――このフェレット今ナチュラルに喋らなかったか?
そしてこのフェレットの言ってるジュエルシードはおそらくあの青い石のことだろうか。思わぬところで新しい情報が手に入ったな。
そうしている間にも樹は小さくなっていく。タマモは順調にやってくれているようだ。
「どうなってるの? あの樹、小さくなってるよね。ユーノ君何か知ってる?」
「僕にも何が何だか」
なのはとフェレットも戸惑いを隠せない様子。
ちょっと分析してみようか。なのはがこの場に来たということは、確実にジュエルシードについては知っていると見て間違いないだろう。そしてリニスと同じく封印する方法を知っていし、探す手段も持っている。この際いつから魔法の力を使えるようになったかは問題じゃない。ジュエルシードを集めて何をするつもりだ?
そんなことを考えているうちにタマモの作業は終わったようで、樹は無くなっていた。
<ご主人様、魔力はあらかた吸い出すことに成功しました>
<タマモ、そのまま霊体化して先に帰っててくれ>
<何故ですか? というかこの石はどうするんです?>
<……分かりました。この子達を軽く処置してからでもいいですか?>
その言葉を最後に俺は念話を切った。
「消えちゃった……」
なのはの言う通り樹は消えた。しかしその爪痕はしっかり残っている。めちゃくちゃになった建物や傷付いた人達がその証拠だ。
「私がもっと早く気が付いたら、こんなことにはならなかったのかな?」
後悔の言葉を口に出すなのは。さっき俺が思っていたのと全く同じだ。
少なくともコイツ自身は邪な思いで石を集めているわけでは無いのかもしれない。
俺はかける言葉を見つけることが出来ず、居た堪れない気持ちになってその場を離れた。
◆
「ただいま」
何とも後味の悪い終わり方だった。今更あそこでああしていれば、などと考えても仕方ない。
なのはを言いくるめて情報を引き出そうとも思ったが、友人を騙すのは流石に憚られた。
幸いといっていいのかどうなのか、俺の家は結界に護られているお陰で破損一つない。
「お帰りなさいませ。怪我はありませんでしたか?」
優しく出迎えてくれるタマモ。
その尻尾は二つに増えていた。
「……なんでさ?」
******************
初めてやる作者コメ
最近週一更新ですら危うくなってきた。
召喚する英霊どうしようかな……。