小説『魔法少女リリカルなのは〜英霊を召喚する転生者〜』
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第8話 貧乳はステータス?じゃあ巨乳は?






「やっぱりフィアッセ様は最高で御座るな!」

 十文字の奴が週刊誌に写っている金髪美女を見てえらく興奮している。……まぁ、見た感じ確かに美人だしわからないこともない。
 だが場所を考えろ場所を。ここ教室だぞ。女子の過半数がドン引き状態だぞ。そして俺もちょっと引いてるぞ。

「お前……アリサはどうしたよ?」

「それはそれ、これはこれで御座る」

「えー」

 しれっと言ってのける姿を見て、俺の中で十文字の株は絶賛急降下中だ。

 とりあえず一緒にいるとあらぬ誤解を受けそうだったので十文字から離れて自分の席についた。

「あいつ、もうどうしようもないわね……」

「言ってやるな」

 アリサは嫌悪を通り越して呆れた表情で十文字をチラ見して呟いた。
 あれでは庇いようが無い。汚名返上は自分でどうにかしてくれ。

「アリサちゃんおはよー」

「あれ? すずか、なのははどうしたの?」

「ちょっと遅れるって」

 こうして普通に学校に来て、友人と話していると昨日の久遠の件が夢のように思えてくる。勿論現実で起こったことだし、昨日の原因となった青い宝石はタマモの札でぐるぐる巻きにして持って帰り、改めてリニスに封印して貰った。

 昨日の俺は色々限界突破し過ぎたせいで全身が結構ズタズタになってたらしい。
 寝ている間にタマモと那美さんが治してくれたのと、|十二の試練(ゴッド・ハンド)の副産物である再生能力のお陰で軽い筋肉痛程度にまで症状が和らいでいる。
 
 ホームルームが始まるまでまだ少し時間があるし、ちょっとゆっくりしようかね。

「おい、デュエルしろよ」

 と思ってたら七志野に対局を申しこまれた。

「今日はカード持ってきてねぇよ。……よし、アリサとすずか」

「何であたし達!? そもそもあたしはカード持ってないわよ」

「わたしも持ってないな〜」

「くっ、こんなんじゃ満足できねぇぜ」

 残念そうな顔をして七志野は背を向けて何処かへ行ってしまった。その哀愁を漂わせた背中は正直小学生とは思えない。

 その後はなのはがギリギリになって教室に入って来たこと以外はいつも通りだった。
 変わったことといえば十文字が授業中になっても雑誌を読んでたせいで雑誌を没収されたことくらい。





 放課後は久遠の様子を見るべく八束神社へと向かう。大丈夫だとは思うけどこの目で確認してから安心したい。昨日除け者状態だったリニスもついて行くと言って聞かなかったので、一旦帰ってから行くことになった。

 神社に着くと、元気に走っている久遠は目に入る。
 良かった特に問題は無さそうだ。
 それと那美さん……ともう一人女の人が何か話している。
 二人はこちらに気がついてこちらへ来た。

「那美……この子が?」

「そうだよ薫ちゃん。この子と後ろの着物の人が久遠を助けてくれたの」

 薫と呼ばれた女性はこちらをジロジロと観察してきた。
 
「……ふむ、霊気とはまた違った力を感じる。私は神咲薫、そこにいる那美の姉でもある。よろしゅう


 少し訛りのある口調で自己紹介をする薫さん。
 那美さんのお姉さんだからこの人も何か特殊な力を持っているのだろうか。

「どうも初めまして、八代彼方です。後ろにいるのがキャスターのタマモと居候のリニスです」

「い、居候……まあ、間違っては無いですけど」

「どうも|ご主人様(マスター)にご紹介をいただきましたタマモです」

 自己紹介も終わったところで本題に入らせてもらうとしましょう。

「薫さんは何故ここに? 昨日はいませんでしたよね?」

「久遠の封印が解ける前に久遠を斬るつもりだった」

 その言葉に俺とタマモは身構える。リニスは何も聞かされていなかったので何のことか分からずじまいだ。

「……話を聞く限りだとその必要もねご……無くなったみたいだけどね」

 俺に合わせてくれたのか、薫さんは訛りを修正しながら話している。

「そのことを那美さんは……?」

 その質問に那美さんは首を横に振る。
 
「久遠は危険すぎる。もし封印が解かれたらまた大勢の人が死ぬ」

 それを防ぐために久遠を殺す。別段間違った判断ではない。

「彼方君とタマモさんが助けてくれなかったら本当に久遠が殺されてたかもしれなかった……本当にありがとう!」

「顔を上げてください。那美さんだって頑張ったじゃないですか。みんなで勝ち取った勝利ですよ」

「あんまり役に立ってませんでしたけどね〜」

 おい、やめろタマモ! 
 那美さん落ち込んじゃったじゃないかよ!

「……一遍鍛えなおした方がいいんかなぁ?」

「うううっ」

 膝を抱えて蹲る那美さんと、それを見下ろす薫さん。
 仲の良い兄弟だ。
 前世でも今世でも一人っ子だからお姉さんとか妹とか憧れるな〜。

「そういえば、昨日のあのでっかい剣は何だったの?」

 気を取り直して那美さんが俺に疑問を投げかける。

「あれは師匠がギリシャの大英雄ヘラクレスに縁のある神殿の支柱を加工してつくった物なんです。特殊な加工を施してあるらしくて大きさが変わったり形が変わったりするんですよ。あの時は小さくしていた斧剣を大きくしたから突然沸いて出てきたように見えたんでしょうね」

 形を変えられることについては昨日初めて知ったんだけどね。
 百頭万能すぎワロタ。
 時間があったら色々試してみよう。

「ヘラクレスって映画にも出てるあのギリシャの大英雄だよね」

 二人は顔が引き攣っていた。
 ヘラクレスの知名度の高さを改めて思い知らされる。昨今なら子どもでも知ってるだろうしね。

「そういえば那美が、君は光の矢を放っていたと言っていたけど」

「薫さんは那美さんからどこまで聞いてるんですか?」

「不思議な力を使うってことくらいだね」

 何だ。那美さん、魔術については黙ってくれてるんだ。

「あれもこの斧剣の力です。俺なんかまだ全然ですし」

 正直力不足感が否めない。
 まだ一ヶ月くらいだから仕方ないかもしれないけど、実戦になったら仕方ないじゃ済まされないからな。今回のは運が良かったと思ったほうがいい。

「く〜、かなたっ」

 いきなり俺の胸に飛び込んでくる久遠。俺は慌てて抱きとめた。
 
「あらあら、すっかり仲良しになったね」

 う〜ん、何というか複雑な気分だ。
 昨日は極限状態だったから考えてる暇なんて無かったけど、今冷静になって思い出したら大人久遠はめちゃめちゃ美人だったよな。背も結構高かったし、顔も整っていたから優しく笑ったらさぞ美しいだろう。
 ……ってイカンイカン。金髪巨乳が好きとか十文字じゃないんだから。

 まあ巨乳は好きなんだけどね。貧乳が悪いってわけじゃないけど。

「ぐぬぬぬぬ、まさか久遠ちゃんが敵に回るとは。……ご主人様、私の方が胸ありますよ!」

「突然どうした!?」

「くぉん?」

 そしてその発言にダメージを受けてるのが約二名。

 なお、リニスは見た感じ結構ありそうなのでさほどダメージは受けてない模様。

「……まだ大丈夫まだ大丈夫まだ成長してるまだ成長してる……」

「ふ、ふん! 大きな胸なんて剣術で邪魔になるだけだ……」

 那美さんは自分の慎ましやかな胸を虚ろな表情で眺めながら暗示のようにブツブツと呟き、薫さんは剣を使うのに邪魔だと目の端に薄っすらと涙を溜めながら強がっている。

 居た堪れなくなったので今日はもう|帰る(逃走)することにした。






「へ? 彼方君?」

 石段を全て降りたところでなのはと出会う。肩にはフェレットを乗っけており、首には赤くて丸い石のついたペンダントがかけられている。

 心なしかフェレットがリニスを見る視線が鋭い気がする。
 一応リニスは魔導師だとばれないように魔力を隠しているからよっぽど勘がよくない限りは気づかれないと思うが。

<マスター。この子魔導師です>

 頭の中にリニスの声が響く。

「どうしたんだこんな所で? 参拝? 今は色々アレだから止めといた方がいいぞ」

 原因つくったの俺だけど。

「アレって何!? ……ところで彼方君。この辺で綺麗な青い石とか見なかった?」

 久遠の暴走の一端を担ったあの危険な宝石をなのはも探しているだと?

 とりあえず昨日の分も厳重に封印して地下にしまってあるが、なのはの目的が分からない以上下手に渡して騒ぎになったら目も当てられん。なのはから宝石の情報を引き出せればいいが、

<どうしよう?>

 俺個人で結論を出すわけにはいかないのでリニスとタマモにも判断を仰ぐ。

<向こうの正体が分からない以上下手にこちらの情報を漏らすわけにはいきませんね>

<幸い、こちらは三人であちらはフェレットを入れても二。コロコロしようと思えば出来そうですけど>

 タマモの案は過激過ぎるから却下だ。できるだけ人死には出したくない。

「いや、見てないけど。それがどうかしたのか?」

 この時の俺の演技はオスカーを取れるかもしれないくらい自然だったと思う。

「う、ううん何でもないの! それより後ろの二人は誰?」

「親戚のお姉さんと家にホームステイしている留学生の人だよ」

「へー」

 我ながらよくもまあそんな嘘がポンポン出るもんである。
 
 あんまり長時間話してるとボロが出そうだしさっさと買い物を済ませて帰ろう。

「じゃ、俺そろそろ帰らないと……」

「あっ、そうだ。今度の休みにお父さんのサッカーチームの試合があるんだ。良かったら見に来て」

「あ〜、時間があったらな〜」

「絶対に来てね?」

「強制いくない」

 何だか行かないと後が恐くなってきた。





『ただいまからタイムセール。タイムセールを実施します。鶏モモ肉100gを5円でのご提供です』

 よし、前月の雪辱を晴らすために俺はまた海鳴スーパーへとやって来た。
 そういえばあの時も鶏モモ肉を取ろうとして取りそこねたんだったな、鶏だけに。

 今回も立ちふさがるのは|オバちゃんの軍勢(アラフォー・ヘタイロイ)。
 しかし俺は以前の俺に非ず。

「――――いざ征かん! AAAAALaLaぶへっ!?」

「ご主人様ー!?」

 アラフォーパワー恐るべし。
 肉の壁に阻まれて俺の突進はあっけなく弾き返されてしまった。

「ふんふ〜ん、今日はこれで唐揚げやな」

 俺の隣を車椅子の少女が通り過ぎた。
 ……安売りしていた鶏モモ肉を買い物籠に入れて。

「……くじけそうだ」

 というか何故車椅子に乗ってるのに一人なの? 
 大人一人くらいついて行ってやれよ。事故になったらどうするんだよ。見た感じ俺と同じくらいの年齢だったぞ。

「あっ、カツオのタタキが安い」

 俺がくじけている間にリニスは魚類を買い物籠に入れている。

「もう今日は刺身でいいか」

 あの車椅子の少女にまた会うことがあったらコツでも聞きたいもんだね。

 そして夕飯のカツオのタタキは生姜醤油でも美味かったが山葵醤油でもなかなか美味かった。
 6月になったら是非初ガツオを食べよう。

-9-
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魔法少女リリカルなのはtype (タイプ) 2012 AUTUMN 2012年 10月号 [雑誌]
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