小説『魔法少女リリカルなのは〜英霊を召喚する転生者〜』
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第12話 家族





「異議あり!!! あなたのその発言には、大きな矛盾があります!!」

 一度は言ってみたかったあの台詞。弁護士とか検事にでもならないと使わなそう。それによって二人の口喧嘩は中断され、二人の目線は俺に注がれる。リニスは意外そうな目で、プレシアさんは忌々しそうな目で俺を見ている。
 言ってみたかったから言ったわけでもないし、目の前で俺にとって全く関係ない口喧嘩をされてうっとおしかったわけでもない。フェイトという一個人を代用品だの出来損ないだの言ってたことについてはイラっときたが、そういうわけでもない。

「そういえば知らない顔がいたわね。あなたは誰かしら?」

「突然の発言失礼しました。リニスの今のマスターをやってる八代彼方っていいます」

「そう……それで? 私の発言のどこに矛盾があるのかしら?」

 プレシアさんはまるで俺を挑発するような目で見ている。
 彼女の目的の全容が分からない以上鼻を明かすことが出来るかどうか。

「何故、フェイトを生かしてるんですか?」

「は?」

「……」

 リニスは俺の言葉に絶句。そんなこと言ったら当たり前か。
 そしてプレシアさんは言葉を詰まらせている。

「出来損ないなんでしょう? 代用品にもならないんでしょう? 見るのだって辛いはずです。なのに何故フェイトを処分するなり何処かへ捨てるなりしないんですか?」

「……ジュエルシードを集めさせるためよ」

「それくらいなら廊下にあった傀儡兵でも出来るんじゃないですか? それにリニスが戻ってきた以上、フェイトは用済みでしょう。何なら俺とキャスターも協力しますよ? 元々全部集めた場合の処遇については悩んでいたところですから。地球から持って行ってくれるのならそれに越したことはありません」

「あ、うっ……」

 一応逃げ道は塞いでおいた。
 ホムンクルスで思い出した。アインツベルンは聖杯の器を造る際にアイリやイリヤのような傑作以外はほとんどを廃棄している。そりゃ何度も造り出すことなんてそう簡単には出来ないだろうけど、費用や手間がもったいないからって態々憎しみの対象にしかならないようなモノを残しておく道理が無い。

「ただ、殺したくなかっただけじゃないんですか?」

「……黙りなさい」

「ジュエルシードがどうかなんて建前なんじゃないですか?」

「黙りなさい」

 俺は、核心をついた。

「貴女……本当はフェイトのことを嫌ってなんかいないんでしょう?」

「黙れと言って……ガハッゴホッ!」

 ヒートアップしすぎたせいか、プレシアさんは咽て――違う! 口を抑えている手から赤黒い液体が漏れている。吐血しているんだ。

「プレシア!」

 床に倒れたプレシアさんに駆け寄るリニス。俺とタマモもつられて駆け寄った。図らずともこの状況をつくってしまったわけだし責任がないとは言えない。
 呼吸が荒く、呼吸するたびにゼーゼー、ヒューヒューと音がする。

「は、早く医者に診せないと」

「無……理よ……もう、匙を……投げられてるわ」

 プレシアさんはポケットから錠剤が入っている透明なケースを取り出し、そこから何粒か錠剤を出してそのまま飲んだ。

「……ふう」

 しばらくすると薬が効いてきたのか、プレシアさんの呼吸は安定した。しかし顔色はあまりよろしくない。吐血するということは呼吸器官でもやられているのか?  

「あの、プレシア。その薬は……」

「ただの鎮痛剤よ。一時的に発作は治まるけど、私の病気に効くような効果は無いわ」

 リニスに支えられながらプレシアさんは玉座にもたれかかって一息つく。

「このことをフェイトは」

「知ってるわけ無いでしょう。あの娘に心配をかけるわけにはいかないわ」

「何でそうまでして」

「……白状するわ。あなたの言ってることは大体あっている。確かに最初はアリシアと違うと気づいて憎んでいた。時にはフェイトに、何故お前はアリシアではないのかとやつあたりをしてしまった。……でも憎みきれなかったのよ」

 自嘲気味に笑い、俺達に懺悔するプレシアさん。その顔はとても辛そうで、とても悲しそうで、何と言葉をかけていいか分からない。不用意な言葉さえ無粋になる。

「あの娘はアリシアじゃなかった。でもどんな手段であれ、自分の生んだ子どもに対して愛着が沸かないわけないじゃないの。何も知らないのに、私のわがままで生み出されたのに、私なんかのことを母さん母さんって……。アリシアを忘れられない気持ちとフェイトへの申し訳なさでどうすればいいかわからなくなってしまったのよ。だって私の本来の目的はアリシアを生き返らせることだから」

「プレシアさん」

「その矢先にこの病気よ。私はもう長くないわ」

「じゃあ何故こんなことを?」

 それが分からない。長くないのなら余計に寿命を縮めるような真似をするなんて。

「いくら管理外世界であろうと、ロストロギア関連の騒ぎを起こせば必ず管理局が出張ってくる。後はこの騒ぎの罪を私が一人で被るだけ。フェイトは虐待されて仕方なく従ってたことにすれば裁判でも有利になるでしょうし、仮に私が死んだとしても自分を愛してくれた母親が死ぬのと自分を虐待していた屑が死ぬのなら……後者のほうが悲しみが少なくて済むわ」

「そんな……」

 言葉一つ一つにプレシアさんの覚悟が感じられる。この人は残りの命を全てフェイトのために使うつもりなんだ。

「大切な娘を管理局に預けるなんてあまり気は進まないけど、背に腹は変えられないわ」

 本当に嫌そうな顔をしている。管理局関連で何か問題でも起こったのだろうか。そういえばリニスもあまり管理局を好ましく思っていない。だが今はどうでもいい。

「何で話してくれたんですか?」

「何でかしらね。誰かに話して楽になりたかったのかしらね」

 プレシアさんは苦笑しながら俺の問いに答える。確かに先程の彼女よりもすっきりとしているように見える。もしかしたらこれは彼女からの遺言なのかもしれない。

「母さん!!」

 ドアを乱暴に開ける音がした後にプレシアさんを呼ぶ声。声だけで分かる、入り口に立っているのはフェイトだ。整った顔をくしゃくしゃにして頬に大粒の涙を流している。
 リニスに帰っていろと言われたのに……。
 扉から顔を覗かせているアルフさんもどうしたらいいか分からない風な表情をしている。

「母さん!!」

 フェイトは啜り泣きながら母親の元へ走る。
 これは全て聞いていたと見て間違いないだろう。そうでなければこんな反応はしない。

「フェイト……盗み聞きするような子に育てた覚えは無いわよ?」

「ごめん……なざい。ヒック……母ざんと……リニズが気になっで」

 ところどころ鼻声になったりしゃっくりしたりと酷い声だ。

「母ざ……わた……アリ……」

「落ち着いて。ホラ、チーンして」

 俺は駅前で配ってたティッシュを何枚か抜き取ってフェイトの鼻に押し当てる。フェイトはそのまま思いっきり鼻をかんだ。
 それをあと2回ほど繰り返す。

「落ち着いたか?」

 鼻をかんで涙を拭き、呼吸を整えてフェイトは落ち着きを取り戻す。

「あの母さ――」

「フェイト……まずは謝らせて。不甲斐ない母親で、いえ、もうあなたの母を名乗る資格なんてないわね」

「そんな! そんなことない!」

 プレシアの言葉に強く反論するフェイト。

「私……ずっと不安だった。母さんから嫌われてるんじゃないかって。だから母さんの本音が聞けてよかったって思います」

「あなたは、こんな私を母親と認めてくれるの……?」

「当たり前だよ、だって私にとってたった一人の母さんなんだから!」

 母娘二人は抱き合い、涙を流す。

「ごめんなさい……ぐすっ……ごめんなさいねフェイト……」

「かあさああああああん!!」

 プレシアさんもフェイトも今までの辛かったこと、苦しかったこと様々な出来事を思い出しながら涙を流し続けている。

「良かったですねフェイト。良かったですねプレシア。本当に良かった……」

 リニスも抱き合う二人を優しく見つめながら手の甲で目に溜まった涙を拭っていた。

「家族……か」

 思い出す。俺の家族を。
 両親は俺が死んだ後どうしているのか。プレシアさんがそうなってしまったように俺の死に囚われてしまってはいないだろうか。
 そう思うと不思議と悲しくなっている。

「ご主人様。私はここにいますからね。いつまでも一緒にいますからね」

「ありがとう」

 タマモの体温が一層温かく感じられた。





「お礼がまだだったわね。ありがとう、リニスを助けてくれて。それにフェイトとも分かり合うことが出来たわ」

 プレシアさんが俺に頭を下げている。
 俺がつくったのはあくまできっかけだけ。大した事なんてしていない。

「いいですよ。こっちが勝手にやったことです」

「厚かましいかとは思うけど、リニスと一緒にフェイトとアルフのことも頼めないかしら?」

「か、母さん!?」

「私はもう長くない、そんな時にあなたに出会えたのは僥倖だったわ。管理局に預けるよりは危険は無さそうだもの」

「や、やだやだやだ。ずっと母さんと一緒にいる!!」

「フェイト、あんまり私を困らせないで」

 フェイトは逃がさんとばかりにプレシアさんにしがみついた。
 やっと分かり合えた母娘にこの仕打ち。運命とは何故こうも残酷なんだろう。

「どうかしら、謝礼なら出来る限りのことはするわ」

「……ならフェイトが持ってるジュエルシードを貸してくれませんか?」

「そんなものでいいのなら。というよりさっき処遇に困ってたとか言ってなかったかしら?」

「あんなのが21個あっても扱いに困るってだけですよ」

 涙目のフェイトからジュエルシードを1個手渡された。 
 何か俺が泣かしたみたいで嫌な気分。

「キャスター!」

「はい、呪法・吸精!」

 俺の手にあるジュエルシードの魔力を吸収し、タマモはさらなるパワーアップを遂げる。
 タマモの尻尾はこれで五本になった。

「尻尾の数が増えた……?」

「プレシアさん、アリシアって子は何処にいるんですか?」

 アリシアって子の死を認めたくなかったのなら当然葬式なんてしてないだろう。遺体を何処かに冷凍保存でもして綺麗に保ってる可能性が高い。

「……何をするつもり?」

「連れてきたら話します」

 訝しげながらも俺を信じてくれたのか、持っていた杖で壁を押すと、隠し扉になっていた。そしてリニスに支えられながらその中へ入っていく。

「連れてきたわよ」

 隠し扉から出てきたリニスが抱えているのは、白い毛布に包まれているフェイトを少し幼くしたような少女。腐敗も無く綺麗なまま残っていて、今にも動き出しそうだ。
 しかし呼吸をしていない。紛れも無く死んでいるのだ。

「キャスター、どう?」

「綺麗に残ってるし問題無さそうですね。ジュエルシード4つも吸収したから私の宝具の真の力を発揮できますし。何よりご主人様が期待してくれるんでしたら1000人力ですよ」

「えっと、いい加減何をするのか教えてくれませんか?」

 リニスがとうとう抗議してきた。
 仕方ない。タマモも出来そうだと断言してるし。

「この娘を生き返らせるんですよ」

「「「「は?」」」」


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次回、キャス孤本領発揮

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