「でね!この子があたしのパートナー、ポカブだよ!」
そう言ってベルは腕の中にいるポカブを見せる。
ポカブは何処か疲れたような顔をしていたが元気に鳴いた。
その様子を隣にいるチェレンのパートナー、ツタージャと共に見た瞬間、互いに苦笑しか出なかった。
研究所ではあれ程元気が有り余っているように見えたあのポカブが疲れた様子を見せるほどベルは元気な女の子らしい。
ツタージャとポカブは研究所では色々あり、あまり関わってこなかったのだが、比較的仲良くなれたと彼は感じた。
ベルがそこからポカブの自慢話を始めそうだったのでチェレンと男の子は慌てて止めるのを彼は視界の端で見ながら店内を見渡した。
此処はポケモンも同行可能なちょっとオシャレなカフェで、コーヒー豆の独特な香りがするサンドイッチが美味しい店らしい。
ベルの足の痺れもとれ、昼食をとるためにこの店へ来た男の子達はとりあえずアララギ博士からもらったポケモンを紹介し合おうと言う流れになってベルとチェレンのパートナーのポカブとツタージャの紹介が始まって今に至る。
ツタージャが彼を呼び、彼が再び男の子達を見るとチェレンと男の子がベルを説得し切ったのか、不満そうな顔をしながらもベルは大人しくなった。
男の子は彼を見て呼んだので、彼は素直にその言葉に従い男の子の肩に飛び乗った。
「この子が俺のパートナー、ピカチュウだ」
そう男の子が言って、彼―――ピカチュウをベルとチェレンに紹介した。
ピカチュウは宜しくしなくて良いからね。と言葉が通じない彼らに向けて言った。
?.日常―相棒の話―
ピカチュウは紹介を終えて男の子の肩に乗りながら男の子と楽しそうに会話する男の子の幼馴染だと思われる二人を見ていた。
注文した新作のサンドウッチの昼食セット三人分とポケモンフーズ三匹分がウエイトレスに運ばれてきて、その美味しそうな見た目と香りにベルは目が輝いている。
男の子とチェレンはそんなベルの様子に苦笑しながら話を打ち切り、昼食を食べる事にしたらしくベルに提案する。
ベルは二つ返事で了承し、男の子の肩から降りたピカチュウやツタージャ、ポカブの前にポケモンフーズを置き、食べ始めた。
少しの間沈黙が続いたが、会話がない食事にベルは落ち着かないらしく、時折話の話題を提供しながらサンドウッチを食べていた。
その話にチェレンは相槌を打ち、男の子は時折その話題の内容を聞いて自分がどう思ったかを話したり、ベルの意見を固定したりもしていた。
ピカチュウはその様子を見ながら好きなミックス味のポケモンフーズを食べながらこの場にいる全員を盗み見る。
男の子やポケモン達の様子を見て、彼らは比較的ピカチュウの意思を尊重している“良い人間”だという事は分かったが如何しても自ら二人に関わり合おうとは思わなかった。
ピカチュウは元々人間が嫌いだ。
そして、ポケモン達もどちらかと言うと嫌いだ。
人間やポケモン達に特別何かをされた訳では無いのだが、ピカチュウは嫌っていた。
だが、ピカチュウは初めから人間やポケモン達の事が嫌いではなかったのだ。
自分が引いた線以上に関わられるのが嫌い。というのが正しい表現だろう。
それを分からずにスカイブルーの瞳やイッシュ地方では珍しいから、可愛いからというピカチュウにとって下らない理由で近づき、自分が引いた線を越え、泥足で上り込んでくる人間とポケモンがあまりに多く、嫌悪感をさらに助長したのは言うまでもない。
特に研究所の人間はピカチュウにとって嫌いな部類の人間ばかりだった。
事務的に“世話してやっている”という感じで其処には愛情や温もりと言ったモノが無かったように感じた。
特にイズミとか言う研究員は最悪だ。とピカチュウは思っていた。
その人が笑った顔は目が笑っておらず、何処か取り繕っているかの様に見えた。
最初に目は口ほどに物を言う。と言った人は凄いな。素直に思ったほどだ。
だが、ピカチュウ以外の人間やポケモン達はそんな彼の様子に気づいていない様だった。
それを不思議に思いながらも、それを気づかせない人間がいた事にピカチュウは人知れず心の中に恐怖を抱いた。
嫌いな人間に世話をされるのが嫌だったのと研究員のイズミへの恐怖、ポケモン達に嫌気がさし、何度か野生のポケモンになる為にモンスターボールを破壊して研究所から脱走しようとした。
それはことごとく失敗に終わったのだが、それ以来あまり外に出してもらえなくなったので仕方なく大人しくしていた時、知らない研究員―――と言っても元々研究員など憶えていない事が多かったのだが―――がピカチュウを久しぶりに外に出してくれた。
朝食や昼食はすでに済まされているため、ポケモン達は各々自分の行きたいと思う所へ走り出す中、どうしようかと考えていると、数匹のポケモン達が近づいてきた。
ピカチュウは一緒に遊ぼうよ。と言って馴れ馴れしく近づいてきたポケモン達を威嚇して蹴散らした。
このポケモン達はまだピカチュウの線引きに気づいてい無いようで、何よりまるで友達に話しかけるがごとく馴れ馴れしかった。
今日初めて話しかけられたのに、友達でしょ?と言いたげなその態度はピカチュウにとって不愉快でしかなかった。
ピカチュウの威嚇に怖くなったポケモン達はすぐに逃げ出した。
その様子を確認してピカチュウは、久しぶりに外に出れたから走り回ってみようか。と考えていた時、ピカチュウに降り注いでいた太陽の光が大きな影によって遮られた。
ピカチュウは不思議に思ってその影の持ち主を見るために顔をあげ、文字通り固まってしまった。
「如何したんだい、ピカチュウ?皆と遊ばないのかな?」
大きな影の持ち主は、人受けが良さげな笑顔を浮かべている研究員のイズミだった。
人間よりも鋭い第六感的な何かが逃げろ。と言っているが、こんなに近くで合ったのも見たのも初めてだったので、驚きと恐怖で足がすくんで動かなくなってしまった。
相変わらず、目が笑っていないその笑みはピカチュウの恐怖を煽るばかりだった。
ピカチュウが怖がっているのを悟ったのだろう。ピカチュウの恐怖心を解くために研究員のイズミはゆっくりとピカチュウの目線に合わすようにしゃがみ込んだ。
その対処法は普通のポケモンなら問題なく良いのだが、ピカチュウは元々研究員のイズミに恐怖を抱いているので近づいた顔に更に恐怖を抱いた。
それを悟ったのか分からないが研究員のイズミは少し眉をひそめる。
その変化に敏感に気づいたピカチュウは更に体が固まる。
最早、悪循環に嵌っていた。
「本当に如何したんだい?遊び仲間がいないなら俺と遊ぶかい?」
そう研究員のイズミが言った言葉にピカチュウは冗談ではない。と思った。
何故、好き好んで恐怖を抱く相手と遊ばなくてはならないのだ。と。
だが、そんなピカチュウの思いに気づかない研究員のイズミはゆっくりとピカチュウに手を伸ばす。
その手を避けようと思っても固まってしまった体が思うように動けず、どう考えても避けきれない。
あと少しで手がとどくと言う時に、研究員のイズミを呼ぶ声が聞こえ、その声でいくらか体の硬直が解けたピカチュウは、研究員のイズミがその声の方に振り向いた瞬間に逃げた。
後ろで舌打ちが聞こえたような気がしたが、ピカチュウは気にせず走った。
久しぶりに走り回る事が出来たのと、研究員のイズミから逃れる事が出来たので、暫くすると少し気分が良くなった。
思い切り走ったその速度を落とさず、更に勢いをつけてピカチュウは大きな木の上に登った。
その木は研究所の敷地の中で一番大きな木であるだけあって見渡しが良かった。
ピカチュウはこの木の上が好きだった。
研究所以外の景色も見られるし、心地よい風が吹き、嫌いな人間に邪魔される事なく唯一くつろげる“自分だけの世界”が其処に広がっているからだ。
研究所の外にある町とその周りを囲むように広がる森と海のコントラストがピカチュウにとって自分が思い描いていた夢に近い世界だったのだ。
イッシュ地方では珍しくない風景だがピカチュウは自由になって好きに生きるのであればこんな風景が見られる所で生きたいと思っていた。
だからこそ、嫌いな人間とポケモンがいて、自由が制限されている研究所という檻から逃げ出したかった。
暫く景色を飽きることなく見ていると、研究員が誰かを呼ぶ声が聞こえた。
かなり大きな声だったので声がした方向を見てみると三人の人間の子供が集まっていくのを見つけた。
その中の一人、黒いモンスターボールのイラストが描かれた赤と白のキャップ帽子をかぶり、所々はねたブラウンの髪の男の子が何故か気になった。
どこか違和感があるのだ。
まるで、体と中身があっていない様なそんな感覚にピカチュウは不思議に思ったが、視線を向けるのをやめた。
ピカチュウには関係の無い事であったし、特に気になる事でもないだろう。そう判断したからだ。
また走り回ってみようか。と思ったピカチュウは木から降りると、青い鞄とスケッチブックが置かれている事に気が付いた。
スケッチブックに描かれている絵は研究員達の絵よりも上手く、何処か引き込まれるような気がした。
その絵に興味を惹かれたピカチュウは他のも見てみたくなり、ページをめくる。
其処には研究所のポケモン達が沢山描かれており、楽しそうに遊ぶポケモン達の特徴を捉え、今にも動き出しそうな絵に素直に感心した。
時間を忘れてスケッチブックに描かれた絵を見ていたピカチュウは何時の間にか自分に向けられている視線に気づき、その方向に振り返った。
其処には木の上で見たあの男の子がいた。
こちらが視線に気づいたのに驚いたのか、それともピカチュウの瞳に色に驚いたのか、どちらにせよ、男の子は少し目を見張っていた。
その反応に何時もなら少し不愉快に思うのだが、何故か不思議とそうならなかった。
それどころかピカチュウは男の子のブラウンの瞳から目を逸らす事が出来なかった。
ピカチュウが男の子の瞳から目を逸らせなかったのは、その眼差しが自分と同じ様な気がしたからだ。
“何か”を極端に恐れ、線を引いて必要以上に関わらない様にしている。まるで、自分自身が人間や他のポケモン達に対してしている事と同じ様な感じが。
だが、男の子は自分とは桁違いに多くの線引きをしている事にピカチュウは気づいた。
その瞳はまるで、男の子がこの世界をテレビ画面の映像の様に見ている。そんな感じなのだ。
この男の子が線を引いているのはきっと、この世界そのものなのだろう。とピカチュウは思った。
もしかしたら違うのかもしれないが、自分と同じ眼差しなのにこんなに桁違いに見えるのはそれ以外ピカチュウは思いつかなかった。
だからなのかもしれない。
ピカチュウが男の子に仲間を見つけたような気持ちになり、初めて人間に自ら近づき、初めて好きな人間が出来たのは。
ピカチュウは男の子に出会った時の事を思い出していると、ベルの大きな声で我に返った。
少し眉を寄せながらも、ピカチュウはベルに目を向ける。
如何やら、チェレンや男の子、ツタージャやポカブも怪訝な顔でベルを見つめている様だが、ベルはそんな様子を気にせず、いや、気づいていない様子で言った。
「ねえ!ポケモン達に名前をつけてあげようよ!種族名で呼ぶのも良いけど、やっぱりこの子たちだけの名前があると良いと思うの」
ねえ、どう思う?とベルは言った。
そのベルの提案に男の子は視線を下に向けた。
短い付き合いだがピカチュウはそれが男の子が考えている時の仕草だと分かっている。
男の子が考えているのを見ながらピカチュウも少し思考の海に沈んだ。
その事は少なからずピカチュウも思っていた。
種族名ではなく、男の子から貰った自分だけの名前。
それはとても魅力的に思ったし、男の子なら自分の名前をつけてくれても良いと思っていた。
ピカチュウにとってそれは信頼の証であり、トレーナーとポケモンの絆だと思っているからだ。
その思いは言葉が通じないので男の子に伝えられる手段が無かったのだが、ベルが言った事により伝えられそうだった。
少しは良い事言うんだな。と思ったピカチュウの中でベルの好感度がほんの少し上がった瞬間だった。
男の子がどうする?と尋ねてきたので、ピカチュウは思考を打ち切り、男の子の肩から降り、見つめた。
先ほど思考の海に沈んで思った事全てが伝わらなくても良いから、名前をつけてくれても良いのだ。と言う事だけでも伝わって欲しい。と思いながら。
見つめられた男の子はピカチュウのつけて欲しい。という思いだけは確実に伝わった様で、大切な事だから明日までには考えておくよ。と言った。
すぐには決められない様でピカチュウは少し残念に思ったが、明日になれば呼んでもえるのだと思うと明日が待ち遠しかった。
ベルはピカチュウと男の子のやり取りを見て、チェレンに勢い良く向き、期待の眼差しを送る。
その勢いにチェレンは少し身を引いた。
「チェレンは如何する?名前つける?」
「・・・・いや、ぼくは種族名で呼ぶよ。必要性を感じないからね」
ベルの質問にチェレンは冷静に答えた。
そっか。と言ったベルは先ほどの勢いが無くなり、少し残念そうな顔をした。何故かはピカチュウには分からないが。
ツタージャは最初からチェレンの反応が分かっていたらしく、気にしてはいなさそうだ。
少なくとも、ピカチュウよりチェレンのパートナーとして付き合いが長いツタージャ曰く、こういう人だと分かっていたから、そう言うのだろうなと分かっていた。そうだ。
ピカチュウはチェレンが如何いう人なのか良く分からなかったが、ツタージャがそれで良いのであればそれで良かった。
暫くして、食事が終わりベルのライブキャスターが鳴り響いた。
どうやら親に呼ばれたらしく、帰る事にしたらしい。
ベルが男の子やチェレンに説明している表情は少し陰りがあったのをピカチュウは見抜いた。
男の子は気づいていないようだが、チェレンは少し眉を顰めているため気づいている様だ。
何か言いたげだったが、言わない事にしたらしく、言いたかった言葉を飲み込んでまた明日。と言うだけにとどまった。
ポカブを腕に抱き、元気よく手を振りながらベルは帰っていく。
ピカチュウの目にはその足取りが何処か鈍い様な気がした。
ピカチュウは家に帰っていくベルから視線を外し、男の子とチェレンを見た。
二人はもう暫く店にいる事にしたらしく、世間話をしたり、明日の旅立ちの事を話していた。
チェレン曰く、明日は快晴になる様で絶好の旅立ち日和らしい。
その言葉を聞いた男の子は何故か一瞬顔を歪めたのだがピカチュウは何故男の子が顔を歪めたのか分からなかった。
男の子がそうなんだ。と返事をした後、少しの間沈黙が落ちた。
男の子はそれが腑に落ちなかったらしく、チェレンにどうかしたのか。と聞いた。
チェレンは少し迷ったような顔をしていたが、覚悟を決めた真剣な表情で言った。
「トウヤ、広場で話していた事なんだけど」
そうチェレンが切り出した瞬間、男の子の顔が微妙に強張った。
ピカチュウは広場で話していた時も同様に男の子の顔がこの時よりも強張っていたのを思い出す。
その時はベルが話の邪魔をしてしまい、お流れになっていたのだが、チェレンの言葉で再度話し合う事になりそうだ。
男の子は何処か不安に思っている表情をしたが、話を遮る事はしない様でチェレンの次の言葉を待っていた。
少し張りつめた空気になったのでツタージャも心配そうに双方を見つめている。
チェレンは男の子を見つめながら、口を開いた。
「・・・・・君が倒れて病院で目覚めた時からほんの少しだけ様子が変だなと思っていたんだ。今でもそうなんだけど確証がなくってぼく自身の勝手な推測なんだけど、」
そこで言葉を詰まらせたチェレンは次に言う言葉を探している様な表情をした。
それはまるで、男の子を傷つけない様にするチェレンなりの優しさが垣間見えた。
そのチェレンの姿に男の子も何か覚悟を決めたらしく、先ほどの不安げな表情が消え、どんな言葉でも受け止めようとする表情が見て取れた。
チェレンは言葉が思いつかないからハッキリ言うよ。と言い、一度深呼吸をしてから覚悟を決めた表情をして言った。
「トウヤ、君は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・旅に出たくないのかい?」
「・・・・・・・はい?」
男の子は少し、いや、かなり男の子にとって予想外の言葉が飛んできた様で、マメパトが豆鉄砲を食らったような顔をした。
その反応にチェレンは少し意外だったのか、目を見張り、驚いた顔をしたが、気を取り直して男の子にそう思った理由を説明した。
チェレン曰く、男の子は一週間ほど前からほんの少しだけ様子が変だと思っていたらしく、旅の話になると決まって顔を歪めたり、暗い顔をするらしい。
だが、それは些細な変化で、ベルやアララギ博士たちは気付いていなかったらしい。
何時もならとても楽しみにしている様な顔で話すのに、必ずと言っていいほどそれらの顔になるのでチェレンは心配していたし、もしかしたら自分がトウヤが入院していた時に言った“そんなに無茶をしていたら、旅に出られなくなる”と言う言葉を引きずっているのではないか。と思ったことを。
「だから、ぼくが言った事は気にしなくて・・・・・・。何やっているんだい?」
「・・・・・・・・・・。いや、気にしないでくれ」
男の子はテーブルに突っ伏した状態でチェレンに返事をした。
チェレンの話の途中からその状態になったのだが、ピカチュウは何故そうなったか意味が分からず、隣にいるツタージャと首を傾けた。
チェレンも何故そうなったか分からないのだろう。男の子に向ける表情は何処か怪訝な感じだ。
「・・・・・・・・・・・結局は勘違いかよ」
男の子が、ぼそりと呟いた言葉はどうやらチェレンやツタージャにはハッキリと聞こえなかったらしく、疑問に思ったようだが気のせいだと思ったようだ。
ピカチュウは耳が良いので男の子の言葉が聞こえたのだが、その意味は分からなかった。
男の子はどうやら違う事だと勘違いしていたという事は分かったのだが何に勘違いしていたのかは分からなかったからだ。
ピカチュウは男の子が時々悩んでいたり、意味もなく何かを書き留めていたりしているのを多々目撃しているのだが、何故そんな行動をしているのかは分からないし、男の子は教えてはくれなかった。
男の子はピカチュウにも線を引いている様な気がしたので、まだそんなに信頼関係が気付けているかどうかは微妙だ。
だが、何時の日かピカチュウが男の子を自分の線の内側に入れたように、男の子もピカチュウを線の内側に入れてくれる日が来るまでその行動の意味は知らないでおこうと思っている。
それは男の子の口から聞きたいと思っているのだが、自分自身でも言いたくない事を強要して言わなくてはならないのは嫌だ。と男の子も思っているはずだと思うからの黙認だった。
その日が何時になるか分からないが。
男の子がテーブルから顔をあげ、チェレンに誤解だ。と言っている所を見ながらピカチュウは自分の考えを胸の奥にしまい、様子を見る。
二人は互いに勘違いをしていたと認め、納得したようだが、ピカチュウの目にはチェレンがどこか腑に落ちない様な顔をしているのに気が付いていた。
だが、これ以上何を話してもなにも良い事は無いと理解しているのだろう。
男の子のお開きにしよう。と言う言葉に否定を示さず、固定したのだから。
ピカチュウは男の子の肩に乗り、ツタージャをモンスターボールに入れたチェレンと共に勘当を済ませて店を出た。
後ろからありがとうございました。と言うウエイトレスの声を聴きながらピカチュウは明日とこれからの事を考えた。
それはとても想像できなくて、けれども楽しい日々になるのだろうな。という事だけは分かった。