小説『白昼夢』
作者:桃花鳥()

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 「ねえ!誰が一番多くポケモンを捕まえる事が出来るか競争しようよ!!」



 その言葉を男の子は聞いた時、嗚呼、BWのストーリーが始まってしまったのだと実感した。
 そのベルの言葉に同意するチェレンを見た後、男の子は右肩に乗るユズを見る。
 ユズは男の子に見つめられて少し照れているのか、はにかんだ笑みを男の子に向けた。
 ストーリーの御三家とは違うピカチュウが最初の手持ちになってしまったが、大まかなストーリーは変わっていない事が男の子が安堵するには十分な事だった。
 だからと言って何度も言うが、男の子は自分が英雄になれるとは一?も思ってはいないのだが。



 だが、少し困った事になったな。と男の子は思った。
 男の子はこれからの旅のポケモン達(パートナー)は慎重に選びたい。と思っていたのでベルの提案を軽い気持ちで受け入れる事は出来なかった。
 一番道路と言えば、こいぬポケモンのヨ―テリー、みはりポケモンのミネズミ、ヒヤリングポケモンのタブンネぐらいだったと男の子は記憶している。
 男の子は生憎とその中から二匹目となるポケモンをゲットするつもりはないし、何より現実世界では当たり前のようにボックスに預けたりしていたが実際にそうするのは気が引けた。
 現実世界とは違い、このポケモン世界では当たり前だがポケモン達は生きているのだからゲットしたからには現実世界に帰るその時までちゃんと育ててやりたい。と思っている。
 だからこそ、ポケモン達(パートナー)は一番道路では決めない事にしていた。

 男の子はその事を色々誤魔化してベルに言おうと口を開いたのだが、



 「それじゃあ、先に行くよ!カラクサタウンでね!!」



 と言って、マッハ自転車のごとく走り去ったベルを止める術は無く、溜息を吐いたチェレンの隣で男の子は口を開きかけた状態で、ベルが走り去った方向を見るしかなかった。
 当然、男の子は強制参加となった。





 ?.筋書





 男の子はチェレンと別れ、一番道路にある誰かが整備して車や人の足で踏み固められ出来た平坦な道を歩き、カラクサタウンへと向かっていた。
 ポケモンと出会うにはこの平坦な道から少し逸れた草むらの中を歩けば良いのだが、男の子は草むらの中を歩こうとは思わなかった。
 別に参加してもポケモンを捕まえなければいい。と思い直したからだ。
 ベルの言う勝負には負けてしまうが、ポケモン達(パートナー)選びのためだ。と思えば如何って事は無い。と男の子が開き直ったとも言うが。



 男の子は手元にあるタウンマップを見た。
 その男の子の真似をする様にユズもタウンマップを覗き込む様に見た。
 この調子で歩いて行けば、3時位でカラクサタウンにつく事になるだろう。
 案外短い道のりだが、それは一番道路や橋がある所位だ。
 イッシュ地方の砂漠地帯であるリゾートデザートは抜けるのに五日かかる程だし、何より最低でも一週間程の良い気候が続く時にしかゲートが開かないので結構足止めされるのだ。
 だからこそ、イッシュのジム巡りだけでも最低半年程かかるのだ。
 しかも途中で祭やらイベント等が時期によってあるので、暫く滞在したりする事がトレーナーの旅には多いらしい。

 男の子はタウンマップを鞄にしまって、景色を肩にいるユズと共に楽しみながらのんびりと歩いていた。



 ミネズミの集団に襲われて木の上に避難している赤い服を着たもういい年をした大人のポケモントレーナーの姿を見るまでは。










 「いや〜、助かったよ。本当にありがとうね、トウヤ君」

 「・・・・・いえ、困った人は助けたくなる性質(タチ)ですので」



 トウヤは引き攣りそうになる顔を必死に何時もの顔になる様に努めていた。
 ユズは呆れたような顔を隠しもせずに赤い服を着たもういい年をした大人のポケモントレーナー―――ユウイチと言う名前らしい―――に向けている。
 それに気づいていないのかユウイチはニコニコと笑顔を絶やさない。



 ユウイチがミネズミの集団に襲われているのを見て男の子はUターンしそうな足をどうにか踏み止まり、ユズの10万ボルトでミネズミを追い払って互いに自己紹介した。
 彼によるとポケモンが戦闘不能寸前まで傷ついてしまい、カラクサタウンに戻ろうと急いでいたらうかっりミネズミ達の住処に入ってしまったらしく、それを怒ったミネズミ達が襲ってきたのだと言う。
 傷ついているポケモンはなるべくバトルさせたくなくって自分の足で逃げ切ろうと全力で走ったが、追いつかれてしまい木に登ってやり過ごそうとしたらしいが中々諦めてくれないので途方に暮れていた所を男の子が助けて今に至る。

 ポケモンを守ろうとする心意気は感心するが、ポケモンを戦闘不能寸前まで傷つけたのは感心しない。
 ポケモンの状態を把握しているのはトレーナーとして当然のことだし、何よりうっかりでミネズミの住処に入ってしまうのは、如何にもベテランそうなトレーナーに見える大人がする間違いでは無い。
 一番道路でした間違いだから大事に至らなかったものの、レベルの高いポケモンがいる所ではただでは済まない初歩的なミスだ。
 一週間程前に現実世界からこのポケモン世界に来た男の子でさえも知っているトレーナーとしての心得なのでつい心配してしまうのも無理はないだろう。

 ユウイチはお気楽思考なのか、気づいていていないのか男の子に先輩トレーナーとして旅の話やポケモン自慢をしてくる。
 男の子はすぐさま話を切って、それをユウイチに指摘した。
 余計なお世話に感じるだろうが、心に留めておか無いのと心に留めておくのとはえらい違いだ。
 聞いていればの話だが。

 ユウイチは男の子の話を聞くと反省したのか風船が空気を抜かれてしぼんだ様な不陰気を纏った。
 さすがにそんなにあっさりと男の子の意見を聞いて反省するとは思わなかったのでマメパトが豆鉄砲を食らった様に驚いてしまった。
 ユウイチはそんな男の子の様子に少し気を取り戻したのか、苦笑いしながら話してくれた。



 ユウイチ曰く、男の子位の歳の頃に一年間イッシュ地方を旅した後は実家に帰って家業の手伝いをしていたらしい。
 数年前に家業を継ぎ、忙しい毎日を送っていたがある時店に立ち寄った新人トレーナーの旅の話を聞いてまた旅に出たくなったのだとか。
 留守の間は妹に家業を任せ、どうせ旅をするなら初心に帰ろう。と思い、卵から育てたポケモン一匹でこの一番道路から旅をし始めたらしい。

 男の子はそれを聞いて、納得した。
 だから、あんな初歩的なミスをしたのか。と。
 いくら昔にトレーナーをしていても長い時の中で忘れてしまったのだろう。

 男の子とユウイチはそれからトレーナーとしての心得の話や他地方のポケモンの話の花を咲かせた。
 他のポケモンを褒める話をするたびにユズが拗ねるので、機嫌を取るのに男の子が苦労する様をユウイチは面白がるように見ていて、カラクサタウンまでの道のりは飽きる事は無かった。










 男の子が予想した通り、3時を少し過ぎた位に着いたカラクサタウンのポケモンセンターでユウイチと別れた後、男の子はカウンターで一泊宿泊する部屋の料金をトレーナーカードを見せて無料でとった。
 トレーナーカードを見せて本物と確認された後、ゲームやアニメの様に無料宿泊が出来るらしい。その代りに税金が高いのだが。
 更に、トレーナーカードはクレジットカードでもあるのでお金が無くなった時にポケモンセンターにある機械でトレーナーカード申請の際に作った自分の口座からお金を引き出す事も出来る。
 トレーナーとのポケモンバトルで勝利した時に発生する賞金はトレーナーカード申請の際に五百円以上で決める事になっており、人によって値段はバラバラだ。
 賞金の値段も近くのポケモン研究所、あるいはポケモンセンターで申請すればいつでも変えられるので、お金に困っている人は低く、困っていない人は高く設定する事が出来る。
 ポケモンバトルで勝利した人は負けた人のトレーナーカードを上からかざすとピッ。という音がして自動的に勝利した人の口座に負けた人が指定した賞金が振り込まれる、という賞金システムになっている。

 たが、やはり世の中には楽にお金を手に入れたい。そう思い、人からトレーナーカードを奪ったり盗んだり、ポケモンバトルをしていないのにトレーナーカードから賞金を取っていく窃盗罪を犯す人がいる。
 だからこそ、トレーナーカードにGPS機能がついていたり、ポケモンセンターにあるお金を引き下ろす機械に暗証番号と指紋検査に監視カメラが違う角度で三台あったり、誰に賞金を渡したか分かるように記録されていたり等々、上げたらきりが無い程の徹底ぶりのセキュリティがある。
 更に、第何条か男の子は忘れたがトレーナーカードを奪ったり盗んだり、賞金を取った窃盗罪を犯した人は窃盗罪の中でも重いトレーナーカードを永久剥奪し、十年以下の懲役と三十万円以下の罰金、さらには履歴書に大きな傷をつける事になるので、この手の犯罪に手を出す人は余りいないらしい。

 このトレーナーカードはポケモン世界の世界的機関ポケモン協会が携わっているので此処まで徹底しているのだろうと男の子は思う。
 現実世界なら内政干渉にあたるだろうが、此処ではポケモンに関する事柄は殆どポケモン協会が請け負っているらしいので、問題はないのだろう。



 男の子は荷物を部屋に置き、ユズを連れてカラクサタウンを回る事にした。
 カラクサタウンはカノコタウンよりも少し大きい街で、カノコタウンとは違った穏やかな賑わいがあった。
 何気なく街を観察していた男の子は街の人々や旅の途中で寄ったのであろうトレーナーが広場に集まっているのに気づいた。

 男の子は気になり、広場に行ってある旗が目に入った瞬間、その足を止めるしかなかった。
 PとZの文字が入った黒と白と青で書かれた特徴的な旗。
 それは間違いなくプラズマ団のエンブレムに他ならなかった。

 男の子が呆然としてその旗を見ていると、肩に乗っていたユズが男の子を呼ぶように鳴いた。
 ユズのに顔を向け、どうしたのか問う。
 すると、ユズはその小さな手で男の子から右方向に向けたので、その手を辿るようにして視線を向けると、その先には黒髪短髪の少年、チェレンがいた。
 チェレンも男の子に気づいて男の子の傍に来た。



 「トウヤもカラクサタウンに着いていたのか」

 「嗚呼、さっき着いたんだ。それよりもチェレン、これは一体」

 「さあ?メンドーな事に、誰かが演説するらしいけれど」



 そんな事をチェレンと話していた時、プラズマ団の団員達の中から一人が前に出て静粛に!と叫んだ。
 男の子とチェレンが話を辞め、プラズマ団のいる方向に視線を向ける。
 プラズマ団の団員達に囲まれて出て来た茂木色の長い髪を持ち、片方の目を仮面で隠した赤い瞳を持つ男、ゲーチスが現れた。
 ゲーチスは人々の視線をその身に受けながら、演説を始めた。



 「ワタクシの名前はゲーチス。プラズマ団のゲーチスです。今日皆さんにお話しするのはポケモン解放について、です」



 ざわり、と集まった人々はどよめいた。
 それもそうだ、何を話し出すのかと思えばポケモン解放について演説すると言い出したのだから。
 隣で聞いているチェレンは馬鹿馬鹿しいと言う顔をゲーチスに向けていたが、男の子は冷静にゲーチスを見つめた。
 ゲーチスは集まった人々がそういう反応をするのが最初から分かっていたのか平然とした態度だ。
 左肩に乗っているユズが、少し反応した様な気がしたので見てみると、ユズはゲーチスを何処か睨み付けている様に見えた。
 男の子はユズにどうしたのか聞こうとしたが、ゲーチスの演説が再び始まったので、迷ったが仕方なく聞くことを優先する事にした。



 「我々人間はポケモンと共に暮らしてきました。お互いを求め合い、必要としあうパートナー。そう思っておられる方が多いでしょう」



 その言葉に集まった人々は頷いたりして肯定の意を示した。
 何故ならそれはこのポケモン世界にとって当たり前の事だったからだ。
 お互いを求め合い、必要としあうのはポケモンとの関係で一番重要で大切な事。
 それを知らない者や理解できない者はそれぞれの地方にいる何とか団位だろう。
 もちろん肯定の意を示した人々の中にはチェレンも含まれていたが、男の子は肯定も否定もせず、ただ、ゲーチスの話を聞いていた。



 「ですが、本当にそうなのでしょうか?我々人間がそう思い込んでいるだけ・・・・・・。そんなふうに考えた事はありませんか?」



 ざわり、と再び集まった人々がどよめいた。
 ゲーチスが何を言いたいかハッキリと分からず困惑しているのだろう。
 チェレンにも表情に少しの戸惑いが現れていた。
 ユズはじっとゲーチスを見ている。
 男の子はこの状況にストーリーを思い出していた。
 集まった人々の中にトウヤとチェレンがゲーチスの演説を聞いている場面。そして、この中にいるであろうNを。



 男の子は何気なく辺りを見渡したが、ゲーチスの演説に集まっている人々が余りにも多く、Nらしき人は残念ながら確認できなかった。
 そうしている内にゲーチスは演説をどんどん進めていく。



 「トレーナーはポケモンに好き勝手命令している・・・・・・。仕事のパートナーとして扱き使っている・・・・・・。そんな事は無いと誰がはっきりと言い切れるのでしょうか」



 そんな。と言う声が聞こえた。
 他の人々も悲しむ人、怒りを露わにする人等、反応は様々だ。
 チェレンは眉を寄せゲーチスを睨んでいる為、怒っているのだろう。
 男の子はそんな反応を示す人々の中で何の反応も示さなかったので異様に浮いていたのだが、さして気にせずゲーチスを見ていた。

 ゲーチスはまるで幼子に言い聞かせる様な優しさを含んだ声で高らかに言った。



 「良いですか、皆さん。ポケモンは人とは異なり未知の可能性を秘めた生き物なのです。我々が学ぶべきところを数多く持つ存在なのです。そんなポケモン達に対しワタクシ達人間がすべき事は何でしょうか」



 ゲーチスは集まった人々に疑問を投げかけた。
 だが、その言葉は男の子にとって誘導尋問のように感じた。
 何故ならゲーチスは最初にその疑問の答えを言っていたのだから。

 男の子の思った通りであり、ゲーチスの思惑通りに集まった人々の中から解放?と言う声が聞こえた。
 ゲーチスはその声を聞き逃さず、すかさず演説を再開した。
 その声は何処か上手く事が運んだことを喜ぶかの様で、男の子にとって不愉快な声だったので思わず顔を歪めた。



 「そうです!ポケモンを開放する事です!!そうしてこそ人間とポケモンは初めて対等になれるのです。皆さん、ポケモンと正しく付き合うために如何するべきか、」



 肩から重みが消えた。と男の子が思ったその瞬間、黄色い何かがゲーチスに飛びかかったのを視界の端にとらえた。
 その黄色を見たチェレンは目を見開き、男の子は驚きで反応が遅れてしまった。
 ユズが男の子の肩から降りて、ゲーチスに飛びかかたのだ。

 何やってるんだよ!ユズ!!
 男の子は内心でそう叫び、人込みを押しのけて強引に前に出た。



 男の子が前まで来た時にはゲーチスは立ち上がっており、プラズマ団の団員がモンスターボールからミネズミを出してユズの前に立っていた。
 ユズは戦闘態勢に入っており、赤い頬に電気を走らせている。

 このままではバトルに発展する。
 そう思った男の子はすぐに感電してしまうのも構わず、ユズを後ろからなるべく優しく、それでいて早く抱きしめた。
 ユズは一瞬驚いた様で、電気の威力が増したが耐えられないほどの痛みでは無かったので唇を噛んでやり過ごし、ゲーチスへと視線を向ける。
 ゲーチスは怪しむ様な視線を男の子に向け、プラズマ団の団員はミネズミを出したまま此方を警戒している。
 ゲーチスが何とも無いのはどうやらユズはゲーチスに飛びかかっただけで技を使ってはいなかったらしい。

 その事実に男の子は内心で安堵し、ユズを落ち着かせる為に背中をゆっくり撫でた。
 男の子のその行為にユズは不満そうながらも大人しく男の子の腕の中に納まる事にしたらしい。
 男の子は何故、ユズがそんなに不満そうな様子を出すのか分からなかったが、それよりも今の状況をどうにかする方が先だった。



 「貴様!ゲーチス様にポケモンを仕向けるとは・・・・!!覚悟は出来ているんだろうな!」

 「すいません、ですが仕向けては「言い訳は聞きたくはない!」



 さすがに男の子も頭に来た。
 男の子はユズを仕向けてなどいないし、男の子に詰め寄るプラズマ団の団員は何処かゲーチスに害をなした者を追い詰めている事に優越感の様な物を抱いているのではと思う所があり、男の子は不愉快に思った。
 それに、この状況に困るのはプラズマ団の方なのだ。

 何故なら、プラズマ団はこれから起こす事のためにも、こんな早い時期で人目のある所で事を起こして目をつけられるのはかなり不味い。
 その事に気づかないこの団員は底が知れている。
 このまま、男の子が黙っていても自爆してくれそうなので男の子は黙ると、団員は嬉しそうな顔をした。
 その表情に内心で馬鹿にしていると後ろにいたゲーチスが彼を宥めにかかった。



 「やめなさい、ワタクシは何ともないのですから」

 「しかし、ゲーチス様!!」

 「よいのです。彼の様子を見ると故意にした訳では無いようですし、ワタクシは気にしてはいないのですから」



 ゲーチス様・・・!!と、感極まった団員に男の子は内心で舌打ちした。
 あともう少し醜態をさらしてくれれば良かったのに。と。

 だが、これで良かったのかもしれない。
 これ以上ストーリーを歪めてしまえば何が起こるか分からないし、このポケモン世界のイッシュ地方はトウヤの世界であり、男の子の世界ではないのだから。
 団員がミネズミをモンスターボールの中に戻したのを確認したゲーチスは男の子に話しかけてきた。



 「ワタクシの部下が失礼でしたね」

 「いえ、元々俺がユズ(この子)から目を話していたのが原因ですから」



 ゲーチスは人の好さげな笑みを男の子に向け、集まっていた人々にワタクシの話は此処までにいたします。ご静粛感謝いたします。と言ってプラズマ団の団員達を引き連れて去って行った。
 それを合図に、少しずつ人々は解散していった。
 ゲーチスの演説の事を話していて、中には悩んでいる人もいる様だが、ポケモン解放などあり得ない。と言う声が多く聞こえた。
 チェレンは男の子の傍に来て、大丈夫か。と聞いてきたのでその声に答え、男の子は腕の中に大人しくいるユズを見た。
 ユズは先程までの勢いをなくし、しょぼんとした顔で男の子を恐る恐る見つめ返した。

 男の子はそんなユズの様子に苦笑しながら、言った。



 「大丈夫、怒ったりしていないよ。ユズはただ、気に入らなかっただけなんだよな。俺もあの演説は気に入らなかったし」



 そう言った男の子にユズはあからさまに安堵し、元気良く鳴いて男の子にすり寄った。
 その様子に男のは微笑むと、隣にいるチェレンに話しかけようとした時、



 「キミのポケモン、今話していたよね・・・・・・・」



 突然、誰かが男の子に声をかけてきた。
 チェレンは怪しむ様に声が聞こえた方に向いているので、その声がかかった瞬間、男の子が固まっているのに気づかなかった。

 男の子はついに来たのか。と思った。
 普通の人より早口で話し、声変わりを終えたであろうその声とセリフは間違えなくこれから先の旅で重要な人物であり、トウヤが英雄になるきっかけを作った人。

 ゆっくりと声がした方に振り向く。
 優しげな茂木色の長い髪をし、白と黒のキャップを被った淡い空色の瞳を持つ青年が立っていた。





 現実世界で誰かが描いたイッシュ地方の筋書が今、始まろうとしていた。


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ポケットモンスターブラック2
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