小説『wanari流 小説の書き方講座『解体信条』』
作者:wanari()

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4.wanari流 場面の描き方 〜戦闘描写

 ファンタジー小説の華、そのひとつは間違いなくバトルシーンでしょう。
 映像や絵で見る迫力満点の戦闘を、いかにして文字で伝えるか――ここでは戦闘描写について僕なりに思うところを書いてみたいと思います。
 僕が戦闘を描くときに気をつけている主なポイントは次のとおりです。

?場面を想像しながら書く。
?テンポ良く、畳みかけるように書く。
?情景描写を効果的に使って書く。

 まず?について。
 戦闘描写には「臨場感」が欠かせません。そのためには、まず自分がその戦場に立ってみた気持ちになって書くことです。そのときに重要になってくるのが「キャラの息づかい」。緊張して呼吸が浅くなる姿を想像したり、剣を振る度に「ひゅっ」と鋭く息を吐き出したりする様を考えると、よりのめり込みやすくなります。もちろん、「誰が」「どこで」「どうやって」戦っているかを描写するのは大切ですが、手に汗握る緊張感を書き手自身が感じることが、戦闘描写をよりリアルにする秘訣だと僕は思います。
 次に?。
 実際に戦っている人間って、まずもって余裕がないはずです。長々と状況を説明してしまっては実際に立ち回っているキャラの精神状態とずれてしまい、せっかくのめり込んでいた読者が興醒めしてしまうことになり「やすい」です(絶対ではありません)。なので、戦闘描写はできるだけコンパクトに、畳みかけるように描写するのがコツだと思います。このとき、単に「斬った」「斬られた」という単語だけだと逆に単調になってしまいますので、ときおり長い文を織り交ぜるとメリハリが利いてより読みやすくなります。
 最後に?についてです。
 どんなに刺激的な言葉を書き連ねても、何度も繰り返されると飽きてくるものです。短い文でテンポよく書いていても、それがただ戦い方だけの描写に終始していては読み手がお腹いっぱいになる可能性があります。そんなときに、一種の緩衝材(クッション)として情景描写を入れるのです。このとき、登場キャラの五感を通して感じられた周囲の情景を挿入するのが書きやすいかなと思います。雰囲気を盛り上げるのにも役立ちます。
 あと?に関連してですが、実は戦闘シーンってその作品の「設定」を説明するチャンスだったりします。特に武装や能力関係。実際の性能を戦闘で実証しながら、あわせて「設定」をちょろっと入れると、がぜん印象に残りやすくなります。
 最後に参考としてひとつ。以下はアットノベルスにも掲載している拙作『鎧ノひと』の一幕からの引用です。主人公の「ヴァルガ」がヒロインのひとり「ナナ」と肉体を共有し、仲間の戦闘集団「戦人」と一緒に(幻聴)という敵と戦うという場面です。

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 その手に生まれたのは巨大な岩の剣。片手一本で、(幻聴)は軽々と一撃を放ってみせる。ナナの左手にヴァルガが右手を添え、二人して全力で受け止める。ばらばらになるかと思うほどの振動が襲ってきた。
 がつん、と一合。
 がつん、がつん、と二合、三合。
 やがて剣速は並の者が視認することも難しいものとなっていく。
 受ける。払う。流し、斬る。伸ばされる手を振り払い、代わりに拳を突き出す。一呼吸ごとに目まぐるしく変わる攻守。状況判断する時間などすでに遠く、あるのは脊髄の反射と戦闘本能のみ。原始的な『強さ』のぶつかり合いとなった。
 このときまさに、ヴァルガの真価は発揮された。
 言葉による助言など無意味。しかし彼には、戦闘者――ナナの意識と精神にもっとも近しいところにいるという強みがある。自由になる右手で戦闘の援護をしながら、ともすれば恐怖と緊張で頭が真っ白になりそうになるナナをなだめ、彼女が発揮できる能力を最大限に確保する。
 ヴァルガとナナは、まさに二人でひとつとなって、(幻聴)に挑んだのだ。
「ふっ……ふっ……ふっ……」
 短い呼吸音。滴る汗を四方に飛ばしながら、それでもナナは真っ直ぐに(幻聴)を見据えている。岩の剛剣が生み出す風圧が彼女の銀色の髪を何度なく嬲(なぶ)ったが、いまだ致命的な一撃は受けていない。
 ひねった身体をかすめ、剛剣が大地に突き刺さる。一瞬の隙ができた。
「しっ!」
 振り向きざまに剣を振るう。会心の一閃――体感時間が異様に引き延ばされる。左手に持った鏡面の剣が(幻聴)の顔面に正確に吸い込まれる。
 強烈な手応えとともに一気に時間が戻ってきた。
「……ひぃ」
 押し殺した、ナナの悲鳴。
 (幻聴)の顔面には傷一つついていなかった。迫り来る斬撃を、あろうとことか、むき出しの歯で噛み掴んだのだ。
 嘲笑でも浮かべているのだろう。細かく震える口蓋が剣に伝わり、おぞましい感覚をナナに与える。
 (幻聴)がナナとヴァルガを――彼らだけを捉える。
『今だ、やれっ!』
(おおっ!?)
 ヴァルガの号令一下、背後に控えていた戦人たちが一斉に群がる。その手に握るのは大小様々な近接武器。(幻聴)は今、地面に足を付けた状態で完全に彼らに背を向けていた。
『ナナ!』
 ヴァルガは叫ぶ。そして心の中で告げた。
 ここが正念場だ。お前ならやれる!
 その一言で、ナナの瞳に力が甦る。
 戦人たちに対応しようと(幻聴)が翼を蠢かせた瞬間、ナナはその身体を渾身の力で蹴り飛ばす。
 活力の輝きが、ナナを通じて剣に伝わる。
 (幻聴)が素早く周囲を見回した。
 そして唸る。
 剣が、鎚が、槍が、巨大な鈍器が。
 光り輝く、活力の剣が。
 過(あやま)たず、その漆黒の身体に叩き込まれた。
 轟音が響いた。

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 とりあえず、?〜?のポイントは押さえていたかなと思いこの場面を引用しましたが、いかがでしょうか。
 ノリノリで書くことが案外大切だったりします。
 皆さんも自分に合った戦闘描写を模索してみてください。




(まとめ)
・戦闘描写にはいくつかのポイントがある。
・戦闘に突入したら、のめり込んで書いてしまおう!

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