小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e14.罪と希望





―side・なのは―


「ディバイン・・・バスターッ!!」

ディバインバスターが放たれる。桜色の砲撃は、狂うことなく男に直撃した。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!」

けれど男はその砲撃が直撃しても、傷1つなく起き上がってくる。

リインフォースさんの捜索中、はやてちゃんが襲撃に遭い、みんな駆けつけてからずっとこんな感じ。

どんな攻撃を受けても、腹部にガラスケースを埋め込んだ男はまるで効いてないかのように起き上がる。拓也君の魔法も、ユニゾンを使った一撃も、それが効いた様子はない。

ただ魔力が減ってきている、あまりよくない現状。それどころか、事態は悪い方だ。

はやてちゃんが言うには、リインフォースさんがあの男に捕らわれているみたい。
捕らわれていたリインフォースさんが一瞬出てきて、パイにされて食べられたこと、そしてそのパイがあの男のガラスケースの中にあることをはやてちゃんは言っていた。けれど、今のガラスケースは空っぽ。何にも入っていない。
・・・一体どういうことだろう?はやてちゃんが嘘をつくなんて考えられないし・・・・・・。
それに、奴が言うリインフォースさん解放の条件・・・ドクロっていうのも気になる。私達のことも知っていたし、一体何者なの・・・?

・・・なんでもいい。あいつをなんとかして、リインフォースさんを解放させれば!

状況としては、私とフェイトちゃんとはやてちゃん、ヴォルケンリッターのみんなに拓也君の8人がいる。相手は翻弄されている。大丈夫、十分いける!

待ってて、リインフォースさん!今、私達が助けるから!


―side・out―





・・・脱出不能という現実を突きつけられた俺は、自暴自棄になってリインフォースの隣で座り込んでいた。

最悪だ・・・カニバルが咬田シメイでない以上、俺達に脱出の手立てがないっ・・・・・・。

脱出するためには、本物の部屋のパソにカニバルの本名と願望を打ち込む必要がある。このコピーの部屋だと意味がない。だからと言って腹に再突入して検証していくなんてことをすりゃ、確実に消化される・・・第一、パスの入力が何度もチャンスがある保証はない。

・・・どうすりゃいいってんだよ・・・。

ここにいれば消化される心配はないにしろ、永遠にこのままだ。そのうち発狂して終わる。精神世界だから空腹を感じないかもしれないが、解放されたいという欲に負けるか、その希望が折られてしまう。・・・詰んだ。

結局俺は、半端者か・・・・・・何にもできず、ここで終わるのか・・・。


―――クイッ


・・・?

何かに引っ張られた感じがして、その方を見た。
そこにいたのは、相変わらず苦しそうに細かい息をして眠るリインフォース。俺に寄りかかって、俺のコートの袖を弱々しく掴んでいる。

『ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!』

・・・うなされてる・・・?
何かに謝り、眠りながら涙を流している・・・過去の主の夢でも見てるのか・・・?

・・・さすがに、起こしてやった方がいいか?

バレる可能性はあるが、3年も前の人だ。姿の記憶などほとんどあてにはできない・・・運がよければバレずに済む。そもそも、起こさなければ済む話だし・・・・・・。

そう思って逆再生を使おうとした時、リインフォースの口が再び動いた。

『私のせいで・・・・・・私が、早く私を壊さなかったから・・・・・・!』





・・・・・・っ。

・・・・・・だめだ、できない・・・。

もし、巻き戻したことによって起きたら、そうして俺のことに気づいたら。
リインフォースは・・・自身の罪悪感に、自分に課した罪に耐えきれるのか?
耐えきれるという確信もなしに・・・壊れてしまうかもしれない可能性を振り切って、目を覚まさせるのか?

・・・俺には・・・できない・・・・・・っ。





最低な野郎だよ・・・俺は。

理不尽をぶち壊すとか言って、救済するとか言って、俺は彼女に重い罪を着せたんだ・・・。

思えばプレシアの件だって、俺は確かにプレシアの病を治し、アリシアを蘇生させてプレシアを救済した。

でも、そのためにコピーの時の庭園に避難したためにフェイトは、自身の思いをプレシアに伝えることができなかったってことだ・・・きっと今も、引きずってる。

結局は理不尽を壊せていない。それどころか、俺が理不尽を作り出している。
俺は、救世主になんかなれない・・・とんだ極悪人だ。
きっとこれは、そんな俺に対する罰なんだ・・・俺はそれに、リインフォースを巻き込んじまった・・・。

何か・・・刃物はないかな・・・・・・あったら原作のキリヲのように喉を切り裂いて無理やり願望を唱えて、リインフォースだけでも脱出させて、代償を俺に回すことができるかもしれないのに・・・探すか。

立ち上がろうとすると、クイッと、何かが俺の袖を引っ張る。

リインフォースだった。
うなされながらも、弱々しい握力で、俺の袖を引っ張っていた・・・。

『行かないで・・・・・・私に、謝らせて・・・!』

・・・・・・・・・。

・・・最低な奴だよ。俺は。

ここで目覚めさせることはできない・・・彼女が抱える罪を、俺が晴らすこともできない。けれど・・・・・・。
俺は再びリインフォースの隣に座る。リインフォースの身体を自分に寄せて、頭を優しく撫でる。

けれど・・・こうしてそばにいてやる、いや、そばにいるのは・・・いいよな。

・・・しばらく撫で続けると、謝罪の言葉は止まった。涙は出てるし、まだ苦しそうだけど、さっきよりはマシになった気がする・・・ただの妄想か。

・・・脱出しよう。

妄言だとしても構わない。それでもこれ以上リインフォースが罪を負うことはないようにしよう。

もう一度、部屋を見渡す。

部屋自体は原作と大した変わりがない。変わってることと言えば頭のある人形と、脱出条件が違うパソと、後はシュレッダーがあることぐらい・・・・・・。

・・・ん?シュレッダー?

そういえば、パソと人形に目が行き過ぎて、あのシュレッダーは調べてなかったな・・・手動式で軽そうだ。あれくらいなら第3の手でも運べるか・・・。

第3の手を伸ばし、シュレッダーを手元に手繰り寄せる。

何か紙屑が入ってる・・・文字も書かれてるみたいだ。

・・・これが、最後のチャンスかもしれない。

俺はシュレッダーの蓋を開け、紙屑を取り出した。
そして背中の古傷の皮を剥がす。剥がれた背中の皮が一部裂けて、人型の式紙のような形を取る。
そしてその皮が紙屑に張り付き、カウンターと巻き戻しのマークが現れる。

この紙屑をシュレッダーに掛けられる前まで、巻き戻すっ・・・!

次の瞬間、カウンターの数字が巻き戻り出し、同時に紙屑達が動きを見せた。
細切れにされ、クシャクシャにされた紙屑が伸び、切断面同士がくっつきあう。

そうして、数枚の紙の束が出来上がった。
俺はその紙の束を手に取り、見る。





氏名
炎田(ほむらだ)浩人(ひろと)

出身
日本○県△市

血液型
B型

寿命
78歳

好きなもの
甘いもの、辛いもの、漫画、アニメ、ゲーム

嫌いなもの
苦いもの、バッドエンド、恐怖関係、梅干し

好きな二次作品
リリカルなのは(無印、A’s、StrikerS、Force、ViVid)、エニグマ、遊戯王、他

・・・





炎田・・・浩人・・・・・・!?

馬鹿な・・・これって・・・!





“俺”のっ・・・










“転生前”の名前っ・・・!!

-16-
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