小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e15.正体と願望





炎田浩人・・・・・・それは、俺が忌束キリヲになる前の、転生前の俺。
転生前の俺はとにかく内気で、なんでも自分1人で抱え込んで、ネガティブ思考の止まらない奴だった。

・・・いや、今もそうか。

そんなことよりもだ。その転生前の俺の書類がなんでここにあるんだ?
それにこの書類、浩人(おれ)の寿命なんてのも書いてあるし・・・でも、俺って神のせいで心臓麻痺で死んだんじゃ・・・。

・・・神?

・・・そうだ、この書類はおかしい。出身地とか血液型とかならまだしも、寿命とか好きな二次作品とかが普通の書類に書かれている訳がない・・・!

つまりこれって・・・・・・神が間違ってシュレッダーにかけてしまった、炎田浩人の書類・・・!?

・・・まさか、この部屋の持ち主は・・・カニバルの正体って・・・!





――――浩人(おれ)・・・!!



・・・でも、それだとカニバルになって望んだことってなんだ・・・?浩人(おれ)が死んだ理由は心臓麻痺。何も引き抜かれてなんかいない。それにこうして、俺は転生している・・・・・・。

・・・・・・ひょっとして・・・。

俺は第3の手を伸ばし、棚に飾られている軽そうな人形1つを取って、手元に寄せる。

・・・やはりだ。人形の服や髪によって隠れていたけど、この人形、“額”と“胸”の中枢辺りで穴が貫通してる・・・!
いや、重要なのはそこじゃない・・・その穴がある場所にあるはずの臓器“脳”と“心臓”がない・・・!
他の人形達も全てそうだ・・・この2つだけがない・・・!

・・・多分わかったぞ・・・問題の答えが・・・アイツの願望が・・・!
アイツは、ドクロの王になりたかった訳でも、ましてやドクロが欲しかった訳でもないんだ!

後は、本物の部屋・・・カニバルの腹に再突入してパスを打ち込むのみ・・・!

・・・・・・・・・。

リインフォースはかなり限界に近い。消化に耐えきれない可能性もある・・・けど、脱出するには避けては通れない道だ・・・。
巻き戻すしかかない。

古傷をもう一度剥がし、リインフォースに貼り付ける。

リインフォースの状態を、消化が始まる前まで巻き戻す・・・。

・・・巻き戻しが始まれば、もう大丈夫なはずだ・・・腹に突入しよう。

本物の部屋に入り、リインフォースを近くの壁に寄りかからせる。
まだ袖を掴み続けていたいた彼女の手を、そっと、離す。

そして俺はパソの前に立つ。パソに映し出されているのは、脱出のための問題。

キーを叩く。



―――この部屋の持ち主・・・炎田浩人の願望っ・・・。



アイツは“俺”が転生するために、浩人(おれ)にあった転生に必要なものを引き抜かれた・・・!



“脳”と“心臓”・・・それが意味するのは・・・・・・










“記憶”と“魂”っ!!





そして、何らかの形で復活させられた後・・・記憶を引き抜かれた後、唯一覚えていた記憶・・・エニグマのドクロを、“記憶の情報源”として欲していた!!

おそらくリインフォースを捕食したのはほぼ同じ原理・・・リリカルなのはのことを覚えていたからなんだ・・・!

つまり、コイツの願望・・・コイツが欲するもの・・・・・・それは!










氏名:【炎田浩人】

願望:【記憶と魂の返還】










これが――――





――――答えだっ!!










エンターキーを、叩いた。





―side・なのは―


変化は突然だった。

何度吹き飛ばしても起き上がる男が突然苦しみだし、頭を掻きむしった。

「ギッ・・・ア゛ア゛ア゛ッッ!!!」

「っ!なんだ・・・何が起きている・・・?」

突然の男の異変に、拓也君までもが動きを止めた。


―――ピシィイッ!!


「っ!ケースにひびが!」

「ホントや・・・なして!?」

割れるような音がして、フェイトが男の変化に気づく。よく見ると確かに、男のガラスケースに大きなひびが入っていた。

「お、俺は・・・俺はっ・・・・・・!?」

頭を抱えて呟きながら、男がこっちを見た。
そして男は目を見開いた。

「高町、なのは・・・フェイト・テスタロッサに八神はやて・・・ヴォルケンリッターも・・・!?・・・ここは・・・・・・俺は・・・!?」

私達の名前を呟いて驚いた様子の男・・・さっきも私達の名前を口にしていたのに、どういうこと・・・?

疑問に思っていると、男は突然私達に背を向けて逃げ出した。

「あ!逃げんなテメーッ!!」

『コメートフリーゲン』

ヴィータちゃんが鉄球を弾いて追撃する。
鉄球は男に当たって吹っ飛ばした。

「ヴィータちゃん、捕まえるのよ!吹っ飛ばしてどうするのよ!?」

「う、うっせー!怯んだところを捕まえりゃあいいだろーが!!」

シャマルさんの言うことは尤もだなぁ。

うー、砂煙が舞っていて見えない・・・。


―――バタンッ


扉が閉まる音がした。

「っ!?魔力反応が、消えた・・・!?」

えっ、それって・・・!?

『反応・・・ロスト・・・・・・!』

「そんな・・・!」

エイミィさんから、追い討ちのような言葉が告げられる・・・。

そんな・・・リインフォースさん・・・・・・!


―side・out―





・・・俺を消化していく感覚が止まった・・・正解だったみたいだ。
もうすぐ、俺とリインフォースは解放される・・・。

リインフォースを見る。俺がリインフォースの手をほどいたせいで、またうなされているようだった。

俺はリインフォースのそばに寄って、また頭を撫でてやる。

・・・もう、会うことはないかもな・・・。
俺は、大罪人だ。俺から彼女に会う資格なんてない・・・。

「   」

声は、出ない。

まったく・・・最悪だよな。この呪いは。
最低だよ・・・俺って奴は。

彼女にひたすらつらい思いをさせてしまった。
それなのに・・・謝罪の言葉も出せないのかよ・・・。

「     」

もう一度、今度は別の何かを言う。

何も聞こえない。音も出たとは思えない。

・・・意識が遠くなる。精神が肉体に戻ろうとしている・・・。

気のせいだろうか。
祝福の風の、涙の跡に・・・大粒の涙が流れたように見えた。





再度腹に突入したことによって一時的にケースにパイ・・・力が戻ったカニバルは、扉を経由して海鳴市の模写世界に逃げ込んでいた。
カニバル化によって伸びた髪の毛は、もう元の長さまで縮んでいる。

「はぁっ、はぁっ・・・お、俺は・・・何をしていた・・・?」

頭を抱えて、自身の行いの記憶を呼び起こす。

「何かを・・・喰った・・・・・・?パイ・・・?いや・・・・・・人を・・・・・・・・・!?・・・誰を喰った・・・?・・・・・・俺は、一体誰を喰ってしまったんだ・・・・・・!?」

その場に座り込むカニバル、いや、炎田浩人。

「あ・・・あぁぁあぁあぁぁぁぁぁっ・・・・・・!」

今、粉々に砕け散ったケースから、人型のパイは姿を消していた。





・・・そうだ。

浩人(おれ)は、あんな奴だった・・・。
いっつも内気で、ネガティブで、何かあったら自分のせいだと責めて、1人で抱え込んで、何の力も度胸もない、ヘタレで臆病者だ。

・・・いや、それは今の俺もそうか。
転生して力を手にしても、結局人は変わらないんだな・・・。
それなのに俺は、1人でカッコつけて、自分勝手なことばかりしていた・・・。

俺は結局、浩人(おれ)のままだ。

助けを求めたくても、助けを求めようとしないで抱え込んで、誰かが気づいてくれるのをただ待つ。そうやって、虚栄を張り続ける馬鹿者さ。

そんな浩人(おれ)を知っているのは、俺でしかない。

だから――――










:筆談をお願いできますか?










話そう。

どっかのライダーみたいな、2人で1人とは真逆だ。

1人で2人。

俺と浩人(おれ)だけの筆談を始めよう。

-17-
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