小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e16.俺2人





―soundonly―


:私は忌束キリヲと言います
あなたの名前を教えてくれますか?

:炎田浩人
忌束キリヲって、まさか

:あなたの想像しているキリヲとは別ですので、気にしないでください
早速ですが、何か質問はありますか?

:とりあえず、ここはどこなんだ?

:ここはあなたの知っている世界から遠く離れた場所、とだけ言わせていただきます
他に何かありますか?

:ならもう1つ
アンタ、さっき俺の想像したキリヲがわかってるような素振りだったけど、なんでわかるんだ?アンタは、俺を知ってるのか?

:わかりますよ。いや、私があなたのことがわからなかったら、私ではないので

:そうなのか?

:ええ
他はありますか?

:いや、もういい

:そうですか
ではこちらからも質問しますね
ここに来るまでの経緯を話してくれませんか?

:街中で突然胸が苦しくなったのが、始まりだった気がする
気がついたら、知らない街にいて
そこから何かが足りない感じがした
その何かを探して歩き回った
途中、腹が減って何か食べた気がする
それでも何かは見つからなくて、躍起になった
それで気がついたら、頭に何かが流れ込んできて
同時に目が覚めたような感じもして
そして目の前には、知ってる人達がいた
でも怖くなって逃げた
それでここまで逃げてきた

:そうですか
まだ、その足りないものは探している途中ですか?

:いや、今はもうある
気がついたらすでにあった

:そうですか

:けど、見つかっても俺のものじゃないな

:どういうことですか?

:だってお前、俺の生まれ変わりかなんかなんだろ?










:違うか?

:なぜ、そう言えるのですか?

:わかるんだよ
それにお前、ついさっき俺のことがわからなければ私じゃないって言ってたじゃないか





:ありがとう

:はい?

:俺を救ってくれて
お前が、記憶と魂を、俺を思い出させてくれたんだろう?
すごいよな。生まれ変わった俺、いや、お前は。強くて、憧れる

:強くなんかありません
何にも変わってないですよ。内気なのも、ネガティブなのも、何でも1人で抱え込もうとするのも、1人でカッコつけようとするのも、何もかも
そして私は、自己満足のために他人に悲しい思いや、苦しい思いをさせてしまった

:確かに変わってないな、そのネガティブ思考
でも、お前が救った何かもあるんだろ?
それだけでも、お前はすごい。そして強い
後、今更だけどその丁寧語もつらいんじゃないか?楽にしていいんだぞ



:俺は

:俺が言うのも何だけど、そのネガティブ思考は少しなんとかした方がいいと思うぞ。せっかく、お前は強いんだから
俺は、そんな強いお前魂が同じなんだよな。お前の中で、俺は生きているんだよな



:ああ

:お前は、これからも誰かを救うんだろうな
同じ俺なのに、羨ましいよ





:じゃあな。そろそろ時間だ

:え?

:もう、身体が保たない
お前のおかげで記憶を取り戻せた
けれど俺はもう死体で、動く亡霊。ここにいるべき人じゃない

:死んだら、あの世に行くのか?

:魂がないからな。あの世にすら行かないさ
強いて言うなら、お前の中に生き続けるんじゃないか

:浩人、いや、俺・・・

:ありがとう、俺
おかげで、やっとこの身体も休める
そして、さようなら


―sound・out―





海鳴市の模写世界に1つ、模写ではない墓標が立った。
簡素で小さな手作りの墓。墓石には『炎田浩人』と書かれている。

墓には花や供え物の代わりに、俺と浩人(おれ)での会話が綴られたメモ帳が供えられている。
短い対話だった。伝え足りてないこととか、今更思いついた話とかがたくさんある。俺は、本当にアイツを救えたのだろうか。

でも・・・ありがとう。

お前のおかげで、弱い俺に気がつけた。そして、俺が犯した罪にも気づけた。
罪は消えない。アイツらの悲しみ、苦しみ。それを着せた俺は大罪人だ。
もう、逃げることはできない。

なら、償ってやる。

どんな方法かはわからない。俺にできることは何か、まずできることがあるのかもわからない。
けれど俺は必ず、アイツらへ贖罪し続けてやる。

左手が動く。

日記帳に、届いた悲鳴が綴られる。

これが俺にできること。俺の贖罪の方法なのか。










――――緊急事態(メーデー)だ。

-18-
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