小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e2.プロローグ2





そして、転生した。

転生させられてから数年間は、ある意味地獄とも言えた。赤ん坊からの転生だから、もはや黒歴史。もう思い出したくない。

転生した俺の名前は忌束キリヲ。
少年ジャンプで連載していた漫画『エニグマ』のキャラだ。運がいいのか、俺の髪の色はキリヲと同じ黒だった。瞳は黄色になったけど。

神によって何かの能力を付けられたが、知らなければ使うこともないだろう。そして下手に使わなければ騒ぎにならないんだし、原作に関わるかどうかぐらついている俺にとっては、何もしないで現状維持が最善だ。

当時そう思っていた俺に、黒歴史なんていうのではない、現実の地獄が来るのは、俺が7歳になってから。

そしてその日が、俺の“力”が発現する日であり、その他、特別な日でもあった。





俺の親は、忌束ノゾミというおふくろだけだった。おふくろは艶やかで長い黒髪を生やし、スタイルもいい、文句なしの美人だ。人もよく、理想的な女性と言える。

だが、そんなおふくろとは正反対に、親父は最悪だった。いや、あんなのはもはや親父とは認めない。

俺の血筋上の親父は、暴力団の男、それも幹部だった。
詳しくはわからないが、そいつにおふくろが強姦されてその結果、俺がデキてしまったらしい。つまり、俺は望むべくして産まれたのではないのだ。

俺が産まれてからも、そいつは何度も家に押し入り、おふくろに襲いかかった。だが、乱暴をされた訳ではない。脅迫されたが、金目的ではない。金を取り上げてくることもあったが、それでもあいつの目当てのものは別にあった。
おふくろも、金は出しても奴の本当に要求するものだけは頑なに渡そうとしなかった。叩かれても、殴られても、ナイフで脅されても、おふくろは“それ”を差し出そうとしなかった。

俺は当時“それ”が何なのか知らなかったが、それを知ったのは、俺が6歳であったある日のことだった。

当時は休日で、おふくろは買い物に出かけていて俺は留守番をしていた。

夕方になり、不意に玄関の扉がガチャガチャと激しく音を立てた。何度も争いを見た俺にはすぐにわかった。またあいつが来たのだ。
隠れようとしたのだが、扉が無理やり開けられ、ズカズカとそいつとその部下2人が入り込んできた。

「チッ、女はいないか・・・・・・おい、ガキっ」

俺のことは気にせず、一通り探しまわったそいつは、俺にいきなりナイフを突きつけてきた。

「お前はあいつと住んでんだからわかるだろ?『木箱』はどこだ。言えっ」

「・・・知らない」

俺は首を横に振って答えた。

本当に知らない。木箱ってなんだ?こいつが探し求め、おふくろが必死に守り続けている木箱には何がある?

「・・・知らないだぁ?そんな嘘、通ると思ってるのか?・・・さっさと言えっ!木箱はどこにある!!」

「知らない」

「てめぇっ・・・ぶっ殺されたいか!!」

「知らない!!」

負けじと声を張り上げ、睨みつけた時だった。

そいつがブチ切れた。

「このクソガキッ・・・!おい、押さえろっ!」

「!?」

2人の部下が俺を床に押し付け、身動きを取れなくする。
それでももがこうとする俺を余所に奴はまずナイフで俺の上半身の服を切った。

そして―――










「――――――あぁああ゛あぁ゛あ゛あぁぁ゛ああぁあっっ!!!!」










背中に、焼き付くような激痛が走った。

最初は首辺りだったその激痛は、ザクザクという音と共に腰の方へと広がっていく。

一通り背中を抉った奴は次に俺の体中を切り裂き、さらには手や足、さらには胴体にもナイフを突き刺した。

その間部屋中に響く、俺のこの世のものとは思えない断末魔。

ゲス野郎はそんな俺を見て笑っていた。

「―――キリヲっ!!」

その時だった。おふくろが帰ってきたのは。

おふくろは俺の断末魔を聞き、血まみれの俺を見て、すぐさま奴の部下達をどかし、俺を助けようと動いた。しかし、そんなおふくろの前にゲスが立ちふさがった。

「待ってたぜっ。さあ、アレをよこしな!」

「どきなさい!あなたに構っている暇なんかないわ!!」

おふくろがどかそうとするが、男と女。ゲス野郎はビクともしない。

「さっさとアレをよこせと言ってんだよっ!黙って俺の言うことに従えっ!!」

「黙りなさい!あなたなんか・・・キリヲにこんなことをするあなたなんか、ここから出て行ってっ!!」


―――ドクンッ


「このクソ女(アマ)っ!!」

ゲスがおふくろに殴ろうとした、次の瞬間だった。


―――グイッ


「うおっ!?」

見えたのは、目の前にいるおふくろではなく、その真逆である、後ろへと腕を動かすゲスの姿。

「な、なんだ!?腕が勝手にっ・・・!」

そんなことを言いながら、後ろに動く腕を空いている手で抑えるゲス。

そして、見た。

「・・・な、なんだこのカウンター!?」


―――ギュルギュルギュルギュル・・・


勝手に動くゲスの腕に張り付いた、奇妙な黒いカウンター。
日・時・分・秒が記されたカウンターが回転し、その上には巻き戻しを示す左向きの三角形が2つ。

何が起きたのか、わからなかった。

そして同時に





全てを理解した。





「キリヲっ!」

ゲスが同様している間におふくろがゲスの部下を押しのけ、俺を引っ張り出した。

「この野郎っ!!」

しかし部下の野郎もただでは返そうとせず、持ち込んでいた金属バットで横薙ぎに殴りかかった。

その時に、俺はありったけの力で叫んだ。










「―――戻れっ!!」

そうしたら、そいつの金属バットを振るう動きが“戻った”。

さらに俺は、近くにあったコップをそいつの顔面に投げつけた。

「ギャッ・・・!」

怯み、後ろによろめくゲスの部下。

それでも、腕の動きは“戻り”続ける。

結構な速さで振った分、同じ速度で“戻る”バット。そいつの後ろにいるゲス。

結果――


―――ドゴッ!


「ぐふぅっ!!」

バットがゲスの腹に直撃した。

「兄貴!!」

「な、なんだよコイツ!気味が悪ぃっ!」

「くそっ、覚えてやがれっ!」

この現象に恐怖したのか、ゲス共は早々に出て行った。

が、それが運命の別れ道、いや、そいつらの運命だったようだ。


―――キィィイイイイイッッ、ゴシャァァアアッ!!


ゲス共は、道路まで飛び出したところでトラックに跳ねられ即死。

俺は、奴らが即死する音が聞こえた直後に、意識を閉じた。





俺の怪我は相当酷く、退院するまで数ヶ月要した。その上、多くが古傷として残り、動きにも制限が付くほどだった。
俺の自由は、あのゲス野郎の理不尽によって奪われた。

そして退院して家に帰って、おふくろが俺に見せたいものがあると言ってきた。

それは、例の木箱だった。

何の変哲もない、粗末な木箱。大きさにして、人の頭ぐらいなら入りそうだ。

そしておふくろは木箱を開け、その中身を取り出した。





中身は、ドクロだった。





下顎の骨が前後で入れ替わり、額辺りから上の部分がない不気味なドクロ。

「・・・・・・それは?」

俺は尋ねた。

しかし、俺はこれの正体を知っていた。

俺の名前の由来でもある、二次元の作品で最も重要となる物体。所有者の願いを叶える代わりに、周囲の運命を歪める呪いのドクロ・・・

「呪いのドクロで、持ち主をエニグマって言う王様にする物なの」

エニグマの証明―――。

だが、持った者をエニグマにさせるこのドクロを、おふくろが普通に触れている。つまりこれは・・・

「母さんが・・・王様?」

「ええ・・・今はね」

そう言って、おふくろは今まで手の清潔さが売りの仕事だからと言って常に右手にはめていた白い手袋を外した。

「このアザを持った人がエニグマになって、ドクロに願いを3つまで叶えてもらうことができるの・・・」

おふくろの右手には、アザが刻まれていた。
人差し指と中指には丸、親指には四角で格子状に刻まれた黒いアザ。手の平と甲に刻まれれば完全なエニグマとなった証である。

「危険な物だから、最後の願いで誰の手にも届かないところに置いていくつもりだったけど、この間使っちゃってね」

この間とは、俺の才能(ちから)が初めて発現した時のことだ。


―――キリヲにこんなことをするあなたなんか、ここから出て行ってっ!!


おふくろのその叫びを、ドクロは願いと読み取ってしまったらしい。
結果、今のおふくろは王ではあるが意味のない状態らしい。

「あなたの・・・キリヲのその力も、このドクロに願ったから・・・本当に、ごめんなさいっ・・・」

俺のこの力・・・これは作中の崇藤タケマルが使う『古傷による逆再生』の才能だ。ちょうど、タケマルも俺と変わりない境遇だった。

理不尽・・・・・・タケマルはその理不尽が嫌いだった・・・理不尽を受けた。

そして、これからの未来で、理不尽を受ける人がいるのを、俺は知っている・・・!

「母さん・・・僕は、理不尽は嫌いだよ。痛くて、つらくて怖くて悲しくて・・・もう、そんな理不尽は嫌だ」

言いながら、俺は目の前に映るドクロに手を伸ばす。

「もう理不尽は嫌だ・・・理不尽はもう、僕・・・いや、俺で終わりにしたいっ・・・!」

「キリヲ・・・!?」

額の縁を掴み、握り潰すような気持ちで強く力を入れる。
おふくろは驚いているが、理不尽に対する憎悪が、それを認知させなかった。

「だから俺はっ・・・コイツで!理不尽をぶっ壊すっ!!」


―――バチッ


電撃を受けたような感覚がした。

おふくろの右手のアザが薄くなる。
同時に、ドクロを掴む俺の右手に、アザが刻まれていく。










「俺が―――エニグマだっ!!」



こうして俺は、呪いのドクロの王となった。

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