e3.プロローグ3
そうして、俺はエニグマになった。
だが、現在・・・舞台である13歳に至るまでの昔話はもう少し続けよう・・・。
当然と言うべきか、エニグマになった直後、おふくろには驚かれた。元々は俺の才能の説明だけで終わらせるつもりだったらしい。だが今となってはどうでもいい。
それから、おふくろは俺にエニグマ使用におけるルールを説明してくれた。と言っても、俺が知る通りのものだった。
意識を集中し、自分の願いをドクロに言う。それだけだ。
願った後、その願いは周囲の運命が歪んだ姿で現実となる。これも知っている。
願いは3つまで。これもわかりきったことだし、おふくろが見せた時にも言っていた。
だが、次のルールだけは原作にない、特殊なものだった。
願った後、代償になるものを述べればそれの運命が代償として歪められる。
つまり、代償の提示である。
代償にする人や物体を言えば、ドクロはそれを代償として歪める運命の対象とするらしい。言わなければ、無差別に何かの運命を歪めるそうだ。
だが、物体と言っても小物程度ではドクロは代償として受け入れない。建物や乗り物・・・つまりは人の運命が歪められるような代償でなければならないのだ。
なお、歪み方は人によって変化する。単純に不幸にするというものもあれば、大犯罪者の運命を歪めれば大量殺人などの大事件を引き起こす場合もあるらしい。
当然ながら、代償を自分に設定することも、可能と言えば可能だ。
おそらく、あの神がそう設定したのだろう。エニグマの力を用いた結果、俺が不幸にならないようにするために。まず、エニグマの証明を贈ること自体どうかと思ったのだが、願いを叶える道具などあまりなかったのだろう。
・・・以上が、エニグマのルールだ。
・・・エニグマとなってから、もう6年過ぎた。俺は中学生だ。
現時点で、俺の願いの残りストックは2つ。すでに俺は、願いを1つ使っている。その願いの話をしよう・・・。
エニグマとなってから3年後。
その間、俺は才能の制御ができるようにおふくろには内緒で練習をしていたが、とんでもない事態になった。
才能が、1つだけに留まらなかったのだ。
崇藤タケマルの『逆再生』の他にも、
灰葉スミオの通信(テレパス)、『チャンネル[es]』。
来宮しげるの『予知』。
支倉モトの『消える呪い』。
九条院ひいなの『第3の手』。
祀木ジロウの『三次減算』。
栗須リョウの『FLAT(フラット)』。
綺島ユウタの『コピー』。
これらが確認できたのだ。
きっかけはある日、逆再生の練習の時に疲れてベンチに腰掛けた時だった。
腰掛けたベンチから立ち上がった時、俺の手の平に数字が刻まれ、ベンチが小さくなった。三次減算が発動したのだ。
それから実験してみたが、全て成功。水沢アルの『人形化(ピットくん)』だけがまだ未検証だが、おそらく使える。
また、予知については本来のしげるの予知ではなく、予知と通信(テレパス)による産物『夢日記』となっていた。
おそらく人形化も、元々の設定(肉体から精神が離脱し、精神のない人形に入り込む)になっているはず。
・・・正直な話、神もやり過ぎだと思う。同時発動もできるのだから、能力を複合させれば兵器レベルにもなりかねない。いまさらだが。
・・・それはともかく、転生の時に手に入れた俺のデバイスは完全な補助型だ。
名前は『ガーディアン』。鎧・・・すなわちバリアジャケットそのものがデバイスである。結界やバインド、補助魔法に長けていて、純粋な防御力ではかなり堅いらしい。
別に戦闘が好きな訳ではないので助かる。
ちなみに魔力はAA。
魔導師としては十分有能だが、原作キャラよりは低い程度。
それと、俺の普段の格好としては傷を隠すためにフード付きコートを常に着ている。両手ともに傷を隠すために包帯をしているが、アザのある右手にはさらに革手袋をはめている。
さて、一通りの説明をしたところで、介入の話をすることとする。
まず、俺の住まいについてだが、元々は海鳴市ではなかったのだが、意外なご都合主義にも、ゲス親父が死んでから遠い親戚のいる町ということで、海鳴市に引っ越した。
で、その親戚とは・・・・・・高町家だ。
世界は広いようで狭いものである。
引っ越してすぐになのはとは対面こそしたものの、それきり会ってない。まず会わないようにしている。
リリカルなのはの世界に来て最初こそ浮かれていたのだが、度重なる理不尽とエニグマ化によって、もはやそんな感情などなかった。
引っ越してから学校にも通っていない。通信教育だ。体中の傷や内面事情のことを考えれば当然である。おふくろはできれば通わせようとしているみたいだが。
そして9歳になり、物語が始まる。
まず無印。戦闘への介入は無理だろうし、時の庭園も行く手段がない。ドクロに願えば行けなくもないが、非効率にも程がある。危険も大きい。ジュエルシードを探そうにも明らかな場所は危ないし、明らかでない場所もどこを探せばいいのかわからない。ガーディアンの探索魔法を使えばおそらく感づかれ、戦闘になる。
そして何より、俺の予想通り、他の転生者がいた。
名前は知らない、というか興味ない。そいつは銀髪でやりすぎな程にイケメン。しかもガーディアン曰わく魔力がリミッター付きでAAA+。しかも融合騎までいる。神は介入に必要な分だけはオートと言っていたのだから、容姿、魔力、融合騎の3つを願いで、そしてもう1つ何かの能力を手に入れたのだろう。
だが、俺の計画は変わらない。そして気合いで、ついにジュエルシード1つを探し当てることに成功した。
そしてジュエルシードをコピーし、コピーしたジュエルシード(略してコピーシード)だけを持ち帰った。もちろん、コピーの本領である『コピー物の操作』によってジュエルシードとしての反応は感知されないようにした。
その上でコピーシードの性能を『純粋に願望を叶える力』に操作。
なお、コピーは1つの物質につき1つしかコピーできない。だが、1つあれば終盤でプレシア・テスタロッサの元に行き、そこでまたジュエルシードをコピーできる。
・・・フェイトは無印の間理不尽を受け続けたが、それによってとも言える友達や家族に出会えた幸福者だ。しかし、プレシアはどうだろうか。
組織の上の者の無茶な命令のせいで起きた事故でアリシアを亡くし、もう一度アリシアと共に過ごすため必死に研究を重ねた。しかし結果はよろしくなく、逆にプレシアが病に侵され、果ては虚数空間に落ちた。これが、理不尽と言えないのだろうか。
だからこの才能(コピー)をもって理不尽から引きずり出す・・・理不尽をぶち壊すっ!
しばらくなのはの動向を探り、そして明朝の決戦。原作通りになのはがスターライトブレイカーで決着してから、俺も動いた。
まず、あの転生者を含めた全員がアースラに転送されてから、コピーシードを使用、時の庭園へと向かう。
場所は直接プレシアの目の前。いきなり来た俺に対して、プレシアは驚き以前に迎撃に出ようとした。
「待て、プレシア・テスタロッサ。俺はあんたの願望を叶えに来た」
「・・・なんですって?」
「まずは俺が隠れる場所が欲しい。どこかないか?」
「・・・・・・・・・こっちよ」
プレシアはしばらく悩んだ後、隠し通路を開いた。そこに隠れろということらしい。
だが、この隠し通路がバレることはわかっている。俺は隠し通路に入った後、できるだけ気付かれにくい奥の隅に隠れ、さらに透明化して隠れた。
そして、局員が来た。
アリシアの入った生態ポッドにまで近づく局員を蹴散らすプレシア。転送される局員。そして通信でフェイトに打ち明けた真実、フェイトに対する嫌悪。
そして次元震。ここまでは概ね原作通りだ。ジュエルシードが3つしかないとプレシアが言っていたが、あの転生者、フェイトのジュエルシード回収を徹底的に妨害していたらしい。3つはおそらく、海で回収したものだ。
そして通信を切ったプレシアが、こっちを見た。正確には、おおよその検討をつけた方向なのだが。
「・・・・・・早く出てきなさい」
そう言われて、俺は透明化を解除した。
「・・・認識阻害魔法?その割りには魔力を感じなかったわね」
「魔法とは別だからな」
「そう・・・そんなことはどうでもいいわ。話は聞いていたわね?願いを叶えると言うなら、私とアリシアをアルハザードに・・・」
「それより手っ取り早く、ここで蘇らせてやる。そもそもアルハザードは、願いを叶えるための途中経過だろう?」
「・・・!?」
「だがこの次元震だと崩れたら面倒だな。管理局もまた来る。移動するぞ、模写世界(コピーワールド)に・・・!」
バンッと壁を叩く。
この庭園全体をイメージし、強く念じるっ!
しばらくしてから、壁の一部が隠し扉になって動いた。
「っ!?そこに隠し扉はないはず・・・!?」
「コピーした時の庭園と繋ぐために造ったんだからな。行くぞ。ジュエルシードとアリシアを運べ」
そう言って俺は造った通路を歩き出した。
プレシアも3つのジュエルシードを持って続く。アリシアは傀儡兵に運ばれていく。
「このコピーした時の庭園は、俺達以外には不可視と不可侵が働いている。あと強度も高めているからさっきの次元震で崩れることもない」
「あなた・・・一体何者なの?」
プレシアの問いに、俺は立ち止まった。
顔だけプレシアに向けて、答える。
「俺は、エニグマだ」
「エニグマ・・・」
「コピーの庭園に入ったことだし、ここでいいだろう。ジュエルシードを貸せ」
プレシアからジュエルシードを受け取る。
番号は・・・うん、さっき使ったコピーシードと被っていない。
コピーは1つの物体につき一度きり。同じものをいくつも造ることはできない。そしてコピーシードは願いを確実に叶える代わりに使い捨てで、庭園に来た瞬間に砕けた。
コピーシードで使える願いは3つ・・・・・・十分だ。
片手に乗せてあるジュエルシードをもう片方の手で被せ、念じる。そしてジュエルシードから純粋に願いを叶えるコピーシードを3つ造り出す。
「ジュエルシードが増えた!?」
「さて・・・1つはあんたに使ってやる・・・・・・“治せ”」
造り出したコピーシード1つに願った。コピーシードが輝きを放った。
光が収まると、先程驚いていたプレシアがさらに驚いた。
「身体の重さが・・・消えた!?」
「あんたの病を治しておいた。アリシアが生き返ってもお前が死んでは意味がないからな・・・・・・さて、次に“蘇れ”」
2つめのコピーシードに願う。
先程と同じ光が止んでから少し経って、裸はまずいから俺がいつも着ているフード付きコートを纏っていた少女の瞼が動いた。
「ん、ぅ・・・・・・あれ、お母さん?」
「アリ・・・シア・・・・・・アリシアッ!!」
長年待ち望んでいたアリシアの蘇生を目の当たりにしたプレシアが、あっという間に涙を流してアリシアを抱き締めた。
「アリシア・・・アリシア、アリシアぁぁっ・・・!!」
「お、お母さん・・・苦しい・・・・・・」
「・・・フン」
これで、俺のやりたいことは終わった。あとは言うべきことを言って去るだけだ。
「最後のコピーシードは俺の帰還用に使わせてもらう・・・・・・あと、この庭園にあるものは全てコピー。俺が解除したら全部消える。どこか別の世界に転移したら、早いとこ衣食住を揃えるんだな」
「ええ・・・ありがとう。礼を言うわ」
「・・・お兄さん、誰?」
最後にアリシアに尋ねられた。
そうだな・・・会うことはもうないんだし、別にいいか。
「・・・忌束キリヲ。それが俺の名だ・・・・・・“帰せ”」
名前だけを告げて、俺は地球へと戻った。
これが、無印での俺だ。