小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e4.プロローグ4





それから半年後。物語はA’s編に差し掛かる。

俺の魔力は前回言った通りAA。蒐集対象としては十分に狙われる。そのためガーディアンにリミッターを掛けてもらい、極限まで魔力を隠した。

才能は魔法とは別物のため、普通に使用が可能だ。俺は自分の才能でできる方法はないか、時期を待ちながら考えた。

闇の書・・・後の夜天の魔導書と、祝福の風リインフォースを消滅から救う方法だ。

色々と考えてはみた。まず真っ先に思いついたのがFLATでシステムを切り離した後の夜天の書に潜入、改悪プログラムを元に戻すというもの。平面世界に入り、平面世界のものをある程度なら変化させられるこの才能。改悪プログラムの原形は元の夜天の書なのだから、改善も不可能ではないと考えた。

しかし、問題が発生。FLATは“変えられる”のであって“元に戻せる”訳ではない。つまり、元に戻そうとするのであれば、その“元の形”を知らなければならない。俺には、夜天の書の元の姿を知る由もなかった。

次に思いついたのが、コピーによってバグのないプログラムを造ること。しかし、それも結局はFLATと同じだし、造れても組み込むことができないのであれば変わりないのが現状だ。

逆再生もだめだった。この才能は等速逆再生しかできない。組まれたものの解体では組まれた直後からの逆再生になるが、この場合、一体どういう逆再生になるかわからない。そもそも、バグプログラムの状態を逆再生させたら、せっかくなのは達が破壊した防衛プログラムが復活する恐れもある。

変わった視点で、コピーして改善したプログラムの形状通りにFLATで変化させるという案も持ったが、形状と中身は別物だ。外見が変化しても、中身のプログラムに変化がないのでは話にならない。FLATで変化させる場合、プログラムについては1つ1つ自力で入力しなければならないのだ・・・。





悩んでいる内に時間は過ぎてしまい、12月24日。

闇の書が目覚め、そして闇が終わる日である。

海岸で沖での戦いは僅かにだが見えた。最後に3人と転生者のブレイカーが決まり、防衛プログラムが転送されていった。





それから、俺はある公園に向かった。

管制人格・・・いや、リインフォースが消滅する場所だ。

時間的に早すぎる気もしなくはなかったが、逆に遅くてなのは達と遭遇してしまってはいけない。リインフォースと2人っきりの間に行う必要がある。
だから早く行って、先に公園に来るリインフォースと偶然会ったという形に持って行こうとしているのだ。

余談だが、俺の服装は古傷に触れないようにするため少し大きめの長袖にズボン、そしてフード付きコート。そしてリュック。

コートも若干大きめで、フードの影響であまり前が見えない。

その上に考え事をしているので、当然と言うべきか、人とぶつかってしまった。

「っ、と・・・」

「あっ、す、すまない。私の不注意で・・・」

「いや、俺も前を見て・・・?」

フードを取って謝ろうとして、固まった。

ぶつかった相手が、リインフォースその人だった。・・・どうやら、彼女も公園に向かっている途中だったらしい。それに、いつの間にか公園を通り過ぎてしまっていたようだ。

「・・・・・・」

「あ、あの・・・大丈夫か?」

「・・・・・・お前、そんな格好で何をしている?」

原作通りではあるが、リインフォースの今の格好はノースリーブで丈の短い黒い肌着のみ。明らかに不自然だ。なぜに騎士甲冑を纏わないのだろうか。

「それは、その・・・」

俺の指摘を受けて、リインフォースが目を泳がせる。魔法のことを言わずに言い訳をしようと必死だ。

だがその言い訳を聞くほど時間に余裕などないから、話を進めることにした。

俺は首にぶら下げた十字架の簡素なネックレス・・・待機状態のガーディアンを摘んで持ち上げた。

『こんにちは』

「っ!?・・・デバイス・・・!?」

「フリーの魔導師だ。デバイスを知ってるってことは、あんたも魔導師かなんかの類なんだろ」

俺のことは適当にでっち上げておく。本当のことを話しても長くなるだけだ。

「これなら話せるだろ。何をしてるのか、聞かせてもらうぞ」

「はぁ・・・」

とりあえずは悪意のある人ではないと思ったのか。俺の話を受け入れて、俺とリインフォースは公園へと向かった。





公園のベンチに座って、俺はリインフォースの話を聞いた。

リインフォースから聞いた話は、まあ原作とほとんど同じ内容だった。違いもあの転生者の名前が時々出てくる程度で、あとは違いがなかった。

「・・・それで、お前はここで自身を破壊するという訳か」

「あぁ・・・我が主やあの雛達は強い。私がいなくなっても、きっと未来で羽ばたいて行ける・・・」

「・・・・・・・・・」

確かに、あいつらの未来は明るい。それは確かだ。

だが・・・俺は、あの灰葉の言った台詞のように、誰も犠牲にならない未来が欲しい。そのために、俺はこの力(エニグマ)を手に入れた。

元々、理不尽を正すために手にしたドクロだ・・・。俺の才能(ちから)で正されない理不尽をぶち壊してもらうのが、俺の理想とするエニグマの使い方。

なら、迷う必要なんかない・・・・・・。

「リインフォース・・・だったか」

「・・・なんだ?」

「お前の理不尽・・・呪いに踊らされ、最後には死ぬというお前自身の理不尽から解放されたとしたら・・・お前は何を望む?」

「無理だ・・・私の身体は、もう・・・」

「望みを言えと言っているんだ。無理云々ではなく、お前の願いを言え」

「・・・・・・」

リインフォースはしばらく黙ったが、やがて、小さな声で呟き始めた。

「・・・主のそばで・・・主の成長を見届けたいな。・・・我が儘を言えば、主と共にずっと生きていたい・・・・・・」

「・・・なるほどな」

「だが・・・だめなんだ・・・・・・もう、私の身体は壊れきっている。それに、私が生きていたら、主に危険が・・・」

「・・・お前の望み、叶えてやろう・・・」

「え・・・?」

涙声で自分の望みを否定するリインフォースの前に、ベンチから立ち上がった俺が立った。

「お前が死ぬ必要がなく、かつ誰も不幸になることのない未来。その願いを叶えよう」

「無理だ・・・そんなことは・・・」

「やってみせる。ドクロの王、エニグマの名にかけてな」

そう言って、俺はリュックのチャックを開け、中から、エニグマの証明であるドクロを取り出した。

ドクロを見た瞬間、リインフォースが驚いた。

「それは・・・!?」

だが俺はそれを気にせずに、俺の手に収まっているドクロのみを見る。

「ドクロよ・・・お前の待ち望んだ1つめの願いだ。よく聞け・・・!」

意識を集中させる。

集中すればするほど、俺の中にいる怪物が、俺の器から溢れそうな感覚が湧いてくる。

それを抑え、そして、叫んだ。









「―――リインフォースを、呪いから解放しろっ!!改ざんされたプログラムを、元の“夜天の魔導書”の姿に戻せっ!!」





――――――そして










「代償は―――










 









     ―――俺自身だっっ!!!」










―side・リインフォース―


・・・あの光景は、3年以上経った今でも、一瞬たりとも忘れたことはない。

突如私の前に現れた黒髪の魔導師は、奇妙なドクロを手にして、そのドクロに向かって、私の願いと、代償というものを大声で言い放った。

その直後だ。


バチッ!!


「うっ!?」

電流が走ったような感覚がした。

衝撃は一瞬だったが激しく、ベンチに座った態勢でもよろめいてしまう程だった。

だが・・・

「ああぁあ゛あ゛ぁぁ゛ああ゛ぁああ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁっっ!!!」

魔導師の少年は、人のものとは思えない断末魔を発していた。

ドクロを取り落とし頭をかきむしる少年は耳と口から血を流していた。

「グッ、ゴボッ!う゛ぉえぇっ!!」

「どうしたんだ!?しっかりしろ!!」

吐血する少年にどうしてよいかわからず、とにかく私は少年に声をかけ続ける。

―――王ノ願イハ聞キ入レタ。

「―――っ!?」

その時に、ゾッとするような、不気味な声が聞こえた。

―――夜天ノ管制人格、リインフォースヲ呪イカラ解放シヨウ。

それは、生気のない骨クズ・・・

―――ソシテ、オ前ハソノ代償ヲ支払ッテ貰ウ・・・!

ドクロからの声だった。

「お前っ・・・彼に何をするつもりだ!?」

雪のついたドクロを手に取って、そのドクロに問うた。

―――我ハ王ノ望ミヲ叶エルノミ・・・。

―――オ前ヲ呪イカラ自由ノ身トシ・・・

―――代償トナル、我ガ王ノ自由ヲ奪ウ・・・!

「なっ・・・!」

私が驚愕する間にも、ドクロが生のない声を響かせる。

―――王ハ幼キ頃ニ理不尽ヲ受ケ、身体ノ自由ガ阻害サレタ・・・。

―――ナラバ今度ハ我ガ、モウ1ツ残サレタ自由・・・“音”ヲ彼カラ奪オウ。

―――何モ聞コエナイ・・・何モ語レナイ・・・無音ノ世界ヘ、彼ヲ導ク・・・!

「や、やめろ・・・そんなことをするなっ!その願いを取り消してくれ!私のことはいい!!」

私が望んだせいで、目の前の者が代償にされようとしているのが嫌で叫んだ。

だが、ドクロは私の願いを聞き入れない。

―――汝ノ願イハ聞ケヌ・・・我ハ王ノ望ミヲ叶エルノミ・・・。

「・・・じょう゛、どうっだっ・・・!」

その時、少年の酷く、潰れたような声が聞こえた。

口や耳から止め止めもなく血を流しながら少年は私が持っているドクロを睨みつけていた。

そして、血走ったように開いていた彼の瞳が、より一層大きく見開かれた。

「やってみせろっっ!!!」










・・・それからどのくらい経ったのだろう。

気がつくと、高町なのはやテスタロッサ、神崎拓也、騎士達に我が主も来ていた。

「リインフォースさん!大丈夫ですか!?」

「リインフォース!」

高町なのはと、テスタロッサが私に声をかけてくる。

「ぁ・・・・・・あ、ああ。大丈夫、だ・・・」

起き上がり、そう言うと、皆が安堵のため息をついた。

「よかった・・・公園についたら、リインフォースが倒れていたから」

「全く、変な心配をさせおって」

テスタロッサが私の状況を説明してくれた。将は、呆れたような視線を向けてくる。

そんな中、我が主が車椅子を動かして私の前についた。

「リインフォース!消えるなんて絶対あかん!制御なら、私がしっかりするから!だから消えんといてぇっ!」

「あ・・・」

そうだ・・・彼は・・・?それと、私はどうなったのだ・・・?

それに・・・さっきから感じるこの感覚は・・・!

「・・・・・・今まで感じていた・・・バグによる身体の淀みが、感じない・・・?」

「え・・・?」

胸に手を当て、自分自身の身体を調べてみる。

・・・確かに、今まで感じていた淀みがなくなっている・・・これって・・・まさか・・・!

「ち、ちょっと調べさせて・・・!」

シャマルが夜天の書を手に取って調べる。

少しして、調べ終わったシャマルの目が見開かれた。

「嘘・・・バグが、なくなってる・・・それどころか、プログラムが正常になってる!」

「え、ということは・・・!」

「リインフォースは、これからも生きていける・・・!」

この場の空気が一気に喜びに包まれる。

だが・・・これはつまり・・・・・・

「でもよ、なんでバグがなくなったんだ?」

「我らが確認した時には確かにプログラムは歪められたままだった・・・リインフォース、何かあったのか?」

「・・・それは」

この時、すぐに話すべきだったのかもしれない。

だが、彼がどうなったかがどうしても気になっていた私は、不意に、夜天の書に何かの紙切れが挟まっていることに気づいてしまった。

夜天の書を手に取り、紙切れが挟まっている頁を開く。

そこには―――









『このことは誰にも話すな』



紙切れにはそう書かれ、所々、血が滲んでいた。





全て、悟った。

書を閉じ、書を抱いて、私は涙した。

涙が止まらない。

「よかったな、リインフォース」

神崎のその甘ったるい声は、耳に入らなかった。

主も、小さな勇者達も、騎士達も、祝福の言葉を贈ってくれている。

しかし、私のこの涙の意味を理解する者は、誰1人としていなかった。









―――私のせいだ。









私のせいで、1人の少年が犠牲になったんだ。









闇が終わり、祝福の風の名をもらった最後の最後で、誰にも知られず









たった1つの、私にとって途方もない大きな代償が支払われた―――。









―side・out―

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