小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e28.サイレンスVSチート、人気投票対決





朝、登校すると。










神崎拓也VS忌束キリヲ 人気投票対決!!

6月12日昼休み――個人アピール・応援スピーチタイム
6月13日昼休み――投票
6月14日昼休み――結果発表










昇降口の壁にこんな張り紙がされていた。





『サイレンス!昇降口の貼り紙は見ただろうなぁ!!』

昼休み。
神崎(バカ)がやってきた。


:ああ、見た
とりあえず俺には理解できない事態だということは理解した
あと面倒事は嫌いだ


『最近また調子に乗り出したみたいなんでな!やはりお前には、しっかりとお灸を据えるべきだと思ったのだ!!』

聞いてよ。

『そうだそうだ!』『アリサのツンデレは俺のもの!』『なのはさんは俺の嫁!』『フェイト嬢LOVE!!』など馬鹿の取り巻きが声を出している。
お前ら全員病院に送られろ。そしてもう退院するな。

『ま、12日のアピールの内容でも考えておくんだな!あと、なのは達聖祥5大美少女は応援スピーチには出られないことになっているから、彼女ら以外から誰か頼んでおくことだな!!』

聖祥5大美少女って何さ。

嵐のように現れて騒ぎ立てた神崎(バカ)は、嵐のように去っていった。

神崎が去っていったのを確認してから、なのはが筆談を持ちかけてきた。


:なんか、大変なことになったね・・・大丈夫?

:大丈夫じゃない。アイツの頭が


ホントなんなんだか。面倒だからアピールタイム含めて当日全部休むか?

そう思っていると、今度は別の人が入ってきた。爽やかな雰囲気の男子生徒だった。


:君が、忌束キリヲ君で間違いないかな?

:そうだけど


身長的に、2、3年生か?感じからして、あんま危ないような奴ではないと思うけど・・・


:僕は加藤亮太。生徒会長をやってる
少し話をしたいんだけど、一緒に屋上に来てくれるかい?

:わかった


俺はその生徒会長、加藤先輩についていった。





屋上についた。

加藤先輩の他に男女数人の生徒がいる。多分生徒会の人達だろう。
つか、なんで俺は生徒会の人に呼ばれたのか未だにわからない。

『さて』と加藤先輩が呟いて、筆談が開始された。


:君と神崎君とで、人気投票対決がされるのはもう知ってるよね

:ええ。めんどくさいのでその3日間は休もうかと


その3日間で、デバイス制作をどんどん進めようと思うんだ。


:実は、そのことでお願いがあるんだけど

:お願いですか?

:その対決、ぜひ君に勝ってほしいんだ!


・・・・・・はい?

え・・・えぇ?俺が?アイツに?勝つ?

・・・なんで?


:神崎君を指示する生徒はとても多い。けどそれと同じぐらいに、特に彼に対する苦情が相次いでてね・・・彼が統制するグループ、“チーム神崎”。あれには僕達生徒会や先生方も頭を悩ませているんだ


ああ、あの迷惑集団か。

男女問わずにかなりの人数がいるんだよな・・・数にして一学年分ぐらいいるんじゃないか?

まあ確かに、アイツらに引いているのがなのは達だけって話はないよな。惹かれている奴がいれば、引いてる奴がいるのも当然だ。


:で、今回の対決に勝って、神崎やそのグループを沈静化させろと
あわよくばグループを解体まで追い詰めろと

:解体までは行かなくとも、早い話がそうなるね

:俺の彼女が、アイツらにしつこく言い寄られてるんだ!

:私なんて、酷い時には10人近くの神崎組に言い寄られた!

:神崎はよくその中に割り込んで、自分をカッコつけようとする


これは酷い。

神崎よ、少し制御という言葉を知った方がいいぞ。ググれ。

で、こんな風に頼まれたら、断れないよなぁ・・・ああ、俺のデバイス。完成は程遠い・・・。


:まあ、善処しますけど勝ち目あるんですか?
グループに加えて、何割かが神崎に入るでしょうからこのままだと勝ち目はありませんよ
校内の世間体としては不良ってことになっちゃってるし、俺に支持率があるとは思えませんし

:大丈夫だよ、君は不良なんかじゃない
生徒会の子達から、友達が君に助けてもらったって話をよく耳にするよ


ああ、夢日記を使った未来潰しのことか・・・。

いやでも、それで入る票なんで1、2%程度・・・。


:それに、彼に勝つために12日の昼休みがあるんだから


ああ、なる。

・・・・・・ん?


:ひょっとしてこの対決って

:ああ、ルールは僕達生徒会で作らせてもらったよ


殴ってもいいかな?
本人の許可も得ずにやるのはどうかと思うな。


:我慢してくれ
公平な条件で君が勝てるようにするにはこれが最善だったんだ

:本人の許可も得ずに対決を許可することのどこが最善ですか
殴っていいっすか

:だめだよ


ですよねー。


:まず、応援スピーチは1人申し出てきた子がいてね。彼女に任せようと思うんだ


へえ、申し出てくれた人いたんだ。

俺の前に1人女子生徒が出てきた。
ん?どっかで見たような顔だな・・・。

その女子生徒はおずおずと上目遣いをしながら、まるで手紙でも渡すかのような感じで紙を差し出してきた。


:応援スピーチに出ることにしました、1年1組の尾崎優香です
忌束君、体育館倉庫では助けていただきありがとうございました!
おかげで、友達と仲直りもできました!


・・・?体育館倉庫・・・友達と仲直り・・・・・・?

・・・・・・ああ、あの時いじめられてた女の子か(e6参照)。


:忌束君がとってもいい人だって皆さんにわかってもらえるように私、頑張ります!

:できれば俺が静寂に暮らせる程度に頼む


多分聞いてくれないな。
俺が勝つことを目的とした会議だし。


:そういう訳だ
あとは君のアピールなんだけど、何か思いついてるかい?
よかったら考えるのを手伝うけど

:いや、当日までになんとかしますよ

:そうか
それじゃ、頑張ってね


逃げるコマンドが消えてしまった俺であった。

・・・不幸だ。





そして12日。
人気投票対決の初日である。

そして現在はすでに昼休み。場所は体育館のステージ裏。

よくもまあ、昼休みにこんな企画を実行できるもんだわ。先生もよく許可出したな。

『おうサイレンス。逃げずに来たようだな』

ああ来たよ。生徒会のせいで。
まあ一応ちゃんと準備は整えているけどさ。

つかお前、アピールのためとは言えそんな派手な服で恥ずかしいとは思わないのか?
あと思ったけど、お前と腕組んでるいかにも高飛車なそこの女子。誰だお前。つか、ホントに生徒?


:神崎の応援をする3―1の伊集院遥香だ。神崎親衛女子隊の隊長もやっている・・・強敵だぞ


加藤先輩が教えてくれた。

神崎親衛女子隊って何さ。派生グループでもできてんの?

『拓也さんの素晴らしいところは全てピックアップ済みですの。その程度の庶民と組んだところで、サイレンスのあなたは私の演説にすら適わなくてよ?あら、聞こえないのでしたね。申し訳ありませんでしたわ』

まる聞こえだよ。アンタの口の動きを見れば。

あと、さっきから思ったんだけどさ尾崎さん。アイツに対抗しようと俺の腕に抱きつくのはやめてくれませんか。


:絶対に勝とうね、忌束君!


俺の気持ちを察してください。
最近の出来事と俺の気持ちを無視したこの展開で俺の精神がマッハだ。


:始まるぞ


ん、始まるの?

というか、生徒会長である加藤先輩が司会をするんじゃないの?
じゃあ誰がやってるんだ?他の生徒会の奴か?

ちょっと見てみるか・・・ホント頼むから尾崎さん、離れて。動きづらい。

・・・チラッ。





『――――始まりました!第1回聖祥中学人気投票・忌束キリヲVS神崎拓也!!司会の1年3組の八神はやてでーすっ!!』





―――お前かいぃぃぃぃぃっ!!!


:彼女は自ら申し出てきたんだ
ユーモアが溢れてなかなか見所があったから採用したんだよ


確かにそうだけどさ!!

『どけ、最初は俺のアピールからだ』

神崎が肩を叩いてそう言ってきた。
確か、順番は神崎、俺、で、応援スピーチで伊集院、尾崎の順番だったか。

俺は道を開け、神崎を通してやった。

神崎のアピールは、ダンスだった。まあ、典型的っちゃあ典型的だが。

・・・さて、時間が来るまで待つか。


:ところで、忌束君はどういうアピールをするつもりだい?

:あ、それ私も聞きたいな


あれ、尾崎さんはともかく加藤先輩は知らないっけ?俺、生徒会に色々準備頼んだんだけど。

・・・ああ、そういや昨日、加藤先輩は休んでたからな・・・。


:まあ、それは本番でのお楽しみってことで


敢えて隠す。ギリギリで見せた方が、カッコいいじゃん。

そんなこんなしているうちに、神崎のアピールが終わった。
アピールが終わった者は、ステージを降りてすぐの席に座ることになっている。神崎がステージから降りた。そして俺のアピールタイムに移る前の準備が始まる。

さ、俺も動きますか。

コートを脱ぎ、ブレザー、ワイシャツ、その下に着ている肌着も脱ぎ捨てる。

加藤先輩達は・・・ああ、驚いてる驚いてる。俺の上半身の傷痕を見て驚愕している。伊集院さんもそれは同じだった。


:忌束君、それは一体

:俺の過去も、この演技に使ってやるってことさ


正直あまりやりたくない。
でも、多く票を得るっていうのなら、これぐらいしか思いつかなくてな。

・・・というのが、何かの言い訳であることには気づいている。

本当は、これで自分の“何か”をわかってほしい。
その“何か”が、そしてわかってもらってからどうしてほしいのかがわからないんだけどな。

・・・さて、道具を持って、行くか。





ステージへと歩を進める。
ステージは床も壁にもブルーシートが敷かれ、壁にはどでかい書道用の紙が掛けられている。

俺の手には、片手にはでかい筆を、もう片手には大量の墨汁が入ったバケツ。

ステージへと入り、中央で一礼。
全員の視線が俺の、ほぼ確実に上半身に刻まれた傷痕に集中している。

バケツを置き、筆をバケツの中に突っ込む。
さて、俺は特別書道に精通している訳じゃない。ただ適当に、やるならこれがいいかと思っただけだ。

十分に墨汁を染み渡らせた筆を持ち、紙の前に立つ。



―――そして、筆を走らせた。

うまいとは大して言えない、言わば八つ当たりの殴り書きのような感覚で、紙に巨大な字を刻んでいく。

書き出したら止まることはなく、全身全霊で筆を動かす。
古傷が痛んでも構わない。

そうして書き上げた、俺の全てを表す3文字。



―――“理不尽”



・・・だがまだだ。俺はこれで終わらねえっ・・・!

再びバケツに筆を突っ込む。
一度強く息を吐き、それから息を整える。
そして息を吸い込み、力を溜め込んでっ・・・!





理不尽の文字を、一閃するっ!!





横一文字に筆を振り、遠心力で飛んだ墨汁が理不尽の文字に、切り裂くかのように張り付いた。
大量の墨汁が飛んだ分、壁や紙に張り付いた墨汁が下へと垂れていく。

バケツに筆を突っ込み、一息ついてから振り返って一礼。
ステージ裏の方から肌着とワイシャツを投げ入れてもらい、それを受け取ってステージを降りた。
神崎はステージから見て右側。俺は指定されていた神崎の逆側の椅子に座る。

生徒らは・・・呆気にとられている。
体質上何も聞こえないが見る限りではおそらく、誰も何も言ってない、まさに無音の状態だ。

やがて、先頭がざわめき始めた。
ざわめきはほどなくして拍手へと変わっていった。

・・・恥ずい・・・。

『さ!続いて応援スピーチタイムに移りまーす!』

はやての司会で、ようやく次へと進んでいく。

伊集院さんがステージ上に出てきて、マイクに向かってスピーチを始める。

俺はスピーチが始まる直前に彼女のスピーチ内容のコピーを受け取ってはいるが、一応伊集院さんの方を向く。言うことが変わるのかもしれないし。
伊集院さんのスピーチは俺の手元にあるコピーと同じ内容だった。神崎のいいところばっか言った長ったらしいスピーチ。時々読み取るのも面倒になって寝そうになった。

そんなスピーチも終わり、ついに尾崎さんのスピーチになる。
尾崎さんがステージ上に姿を現す。見るからに動きが固く、緊張しているのが丸わかりだ。
伊集院さんの時と同じく内容のコピーを渡されたが、もらってからそれを見向きもせずに尾崎さんの方を見守る。

スピーチが始まった。

『えっと・・・私は最初、忌束君のことを“サイレンス”という呼び名しか知りませんでした。サイレンスって名前なら、皆さんもご存知だと思います。時々見かけても最初の頃は怖い感じがして、はっきり言って苦手でもありました』

尾崎さんは静かに語る。

苦手意識・・・まあ当然だな。ありもしないことを神崎が言いふらしたとは言え、何があっても無言な奴とは一緒にいたくないと思うのが普通だ。

『そんな忌束君についての考えが変わったのは、今年の4月のことです。当時私は2人の男子生徒と、1人の友達にいじめられてました・・・そして体育館倉庫で、男子生徒にお金を出すように脅されていた時に、忌束君が突然私達のところに来て、男子2人をやっつけたんです。友達でもクラスメイトでもない、知り合ってもいない忌束君が助けてくれたんです。そして男子を追い払うと忌束君は紙に何かを書いて私の友達に渡してすぐに去ってしまいました。後から見せてもらったのですが、“謝って、話しておけ”・・・そう書かれていました。友達は私に謝ってくれて、今では仲直りしています。本当に忌束君は、私にとっての恩人です』

尾崎さんはそこまで言って、後ろを見た。

ステージの壁には今も一閃された“理不尽”の姿がある。

『忌束君はこのアピールの直前に、自分の過去も使ったアピールだって教えてくれました。忌束君の過去は知らないのですが、壮絶な過去があったんだということがこれと、忌束君の身体の傷痕から見て取れます。自分の過去を使った、強い強いアピールだと感じます』

ここまできて、尾崎さんの口がピタリと止まった。

何度か事前に言う内容を書いたのであろう紙を取り出して見たり、深呼吸したりを繰り返している・・・どうしたんだ?

そして次の瞬間、意を決したかのように尾崎さんが再び口を開いた。

『忌束君は強いです。優しいし、色んな人達を助けてくれています!理不尽を正してくれています!彼は不良なんかじゃありません!例え全校の生徒達が不良だと言っても、私にとっての忌束君は、ヒーローですっ!!私は、忌束君・・・いや、キリヲ君のことが―――――大好きですっっ!!!』





尾崎さんの告白。

急激に盛り上がる生徒達、先生方。

えっと、よくわからないけど、自分の心境だけはよくわかった。









恥 ず か し い ぃ ー ー ! !



恥ずい!これは恥ずい!!

なぜ?なんでこのタイミングで告白!?なんでこんな場所で告白!?というか、なんでみんなの前で告白してるのさぁぁぁ!?
ヤバい、これは悶え死ぬ!聞いてるこっちが悶え死ぬ!!

ぐああああっ!!やめろお前らぁぁぁっ!そんな目で見ないで!お願いだから見ないで!!
尾崎さんは!?

・・・完全に顔真っ赤にして硬直してるしよぉぉぉぉ!!

てめっ、散々俺を引っ掻き回してフリーズってどういうことだぁぁぁ!!
・・・あ、もうだめぽ。

俺は悟った。
体育館中が、尾崎さんの告白で熱狂状態になっている。

俺の静寂な日常・・・。

儚く散る・・・。

-30-
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