e35.発覚と追跡作戦
影(シャドー)化が始まってからしばらくの日にちが経ち、とうとう7月に入った。
影(シャドー)化はようやく抑えられるようになってきた。1週間以上かかってようやく落ち着けるようになったところからすると、漫画エニグマの祀木の精神力は半端じゃない。いや、俺の精神が弱いだけだろうか。
それでも斑点を全て抑えるのに成功したのは、家族の支えがあったのともう1つ、ユーノのおかげだ。俺の才能について理解があるユーノに頼んで、精神に効果のある回復魔法をかけてもらった。勿論、海鳴市在住であることまでバラす訳にはいかないためリョウ家で治療してもらった。
学校を休んでいる間に何度かすずか達がやってきたが、おふくろがうまく対応してくれた。おかげで俺の現状はまだバレていない。
で、今。俺は朝食を食べ終え、久し振りに学校へ行くための準備をしている。さすがに、完全に休みっぱにはできない。課題の量がハンパないし・・・大丈夫だ、今日は気分がいい。影(シャドー)化は抑えられる。
久々にマテリアルズが髪の毛の中に潜る感覚を味わいながら、俺は家を出た。
少し懐かしさを感じながら登校。途中、優香と会って大丈夫かと聞かれたが、大丈夫だと返した。
教室に入る。
確か、窓側2列目の一番後ろだったよな。そんで右隣がフェイトになっていたはず。うん、ちゃんと覚えてる。
席に座り、カバンから必要なものを取り出す。
・・・誰かが肩を叩いてきた。誰だ?
:キリヲ、今までずっと休んでたけど、大丈夫?
フェイトか。
その紙を受け取った俺は、返事を書く。
:体調がなかなかよくならなかっただけだ
:そうなの?無理しちゃだめだよ?
:大丈夫だ
大丈夫だから、あまり話を続けないでくれ。今はあまり話しかけないでくれ。
俺がお前を悲しみのままにさせた奴だと自覚させないでくれ。
・・・ふぅ、大丈夫だ。影(シャドー)化さえ抑えられれば、さすがにフェイトでもバレることはないはず。
影(シャドー)化を抑えつつ、いつものように過ごす。ただ、それだけでいい。
―side・フェイト―
授業中のキリヲの様子を見てたけど、なんだか様子が変に見えた。
出血で倒れたあの時とは違う、何かに耐えてるような様子。キリヲはなんとか隠しているみたいだけど、私にはそう見えた。
今は4時間目も終わって昼休み。これから昼ご飯な訳なんだけど・・・。
久し振りなんだし、キリヲも呼ぼうかな?
キリヲは・・・あ、寝てる・・・授業終わりの礼はちゃんとしてたのに、寝るのが早いなぁ・・・。
・・・?
左手が動いてる・・・?この前と同じだ・・・癖なのかな?でも確か、起きた後には日記みたいなのを見てたと思うけど、何か書いてるのかな?
ちょっと気になったから、キリヲの反対側に回って左手側が見える位置に立ってみた。
絵と、文字を書いてる・・・ひらがなばかりだし、絵も子供っぽい感じだけど。
どうやら、絵日記みたい。日付は・・・・・・え、今日・・・?
7がつ3にち
ぼくがくろくなっていきます。
くらくてさむくてくるしくてつらいです。
まっくろが、あいつのせいだといってきます。
だれかたすけて。
・・・なにこれ?
今日の日付ってところで変だし、内容も妙だし・・・。
真っ黒になる?真っ黒がアイツのせいだと言ってくる?
絵も、人の絵が真っ黒に塗り潰されてるだけだし・・・。
一体、どういうことだろう・・・。
そう考えていると、キリヲがムクリと起き上がった。
起き上がったキリヲはその妙な日記を確認した後、閉じて机に置き、教室を去っていった。
「フェイトー、何してるの?先に行っちゃうわよ!」
「あ、うん。今行くよアリサ」
先に教室を出るアリサとなのはを追うために行こうとして、ふと気づく。
床に落ちた、一冊の日記帳。キリヲのだ。どうやらキリヲが行く時に引っ掛けてしまったみたい。落ちた時に開いたページには、さっきのとは違う何かが書かれている。
この妙な日記が気になって、日記を拾ってその開いていたページを読んでみた。
4がつ24にち
ぼくのしっているかみのながいおんながくろいふくろにいれられてすてられました。
はんにんのかみのながいおとこはたべながらぼくのものをさがしています。
かくさなきゃ!
4がつ24にち
ごみすてばでかにばるにたべられたひとをみつけました。
・・・カニバル・・・!?それって、あの時の!?
それにこの日付って、リインフォースが行方不明になった日・・・!
まさか、キリヲはカニバルについて何か知ってるの・・・・・・!?
・・・・・・。
なのはとはやてに念話で声をかける。拓也は今日任務に行ってるし、正直苦手だ。
弁当と、今日は問題の日記も手に持って屋上へと向かった。
調べるべきだ。あの危険な存在について何か情報があるのなら、聞き出さないと・・・!
―side・out―
―side・はやて―
放課後、海鳴市全域にサーチャーを撒いて、それから家に帰った。
昼休み、フェイトちゃんに呼び出されて話を聞いた。
キリヲ君が持つ妙な日記のこと。そしてその日記の記述から、キリヲがカニバルについて何か情報を持っている可能性があること。
最初はあまり信じられへんかったけど、その日記にミッドチルダや魔法という言葉も出てきたのが確信になった。
キリヲ君が魔導師か、それに関わっている可能性が高い。
魔導師になった経緯とかも重要やけど、それ以上に現状では情報や対処法がなさすぎるカニバルについて聞き出すことが大事。
せやから今日はサーチャーを撒いて、明日以降キリヲ君が学校に来た日に、キリヲ君の帰りを追跡することになった。
すずかちゃんやアリサちゃんに頼めば、キリヲ君の家の場所を知ることができるんやけど、友達が魔法を知ってることと、調査に巻き込むのは別や。できるだけ巻き込まないようにした方がええ。
ということを、家に帰ってすぐシグナム達に話した。
シグナム達や、クロノ君にはサーチャーの監視及びにもしものための備えとしてついて貰う予定や。
「・・・という訳でみんな、お願いな」
「わかりました」
粗方の説明を終えて、シグナムから返事が帰ってくる。他のみんなも同じく返事をしたり、頷いたり反応してくれた。けど・・・
「・・・リインフォース?どうかしたの?」
「え・・・あ、いや・・・なんでもない。大丈夫だ」
「・・・なぁ、リインフォース」
「なんでしょう?」
どこか様子がおかしなリインフォースに、私はあることを尋ねることにした。
・・・前から、おかしいとは思ってた。それと今回のが同じことだっていう確信はないんやけど、これは確認しておきたかった。
「リインフォース、以前からキリヲ君と会ったことあるんやないか?」
「・・・・・・」
「その例の日記の、前にリインフォースが行方不明になった日づけでな。キリヲ君の知ってる、髪の長い女性が襲われたっていう記述があったんよ。襲われ方からして多分カニバル」
その記述が本当であれば、キリヲ君はリインフォースを前の勉強会よりも前から知っているということになる。
別に、それと今回のことは関係あらへんのかもしれない。
ただ翠屋とか商店街とかで偶然知り合って、魔導師のことは関係ないのかもいれない。
「リインフォース・・・リインフォースがいつもつらそうな顔して、それを隠していること、みんな知ってるよ」
けれど、そうじゃない可能性もある。
リインフォースが闇の書の呪いから解放されてなお思い詰めたような顔をしていたのと、キリヲ君とが何らかの関係があるのかもしれない。
どうしたのかと尋ねてもはぐらかして、隠し続けている理由に、キリヲ君が何か関係あるのかもしれない。
「・・・・・・確証は、ありません」
返ってきたのは、前者ではなくとも後者でもない、曖昧な答え。
「なので・・・確かめたいことがあるのです。私も、その追跡に加わってよろしいでしょうか?できれば話は、それからにさせてください・・・」
そして、そのお願いの一言だった。
―side・out―