e37.追跡、そして・・・
今日の授業も終わり、後は帰るだけ・・・。
訂正。アリシアを迎えに小学校へ行って、病院に薬を処方してもらって、それから帰宅だ。
いつものようにできる範囲で早足で歩き、昇降口を出る。
そういや、今日は全然原作組が話しかけて来なかったな。珍しい・・・つっても、今の俺にとってはその方がいいんだが。
・・・さてと、さっさとアリシアの迎えに行くか。
時同じくして・・・
「行くよ、みんな」
追跡グループも動き出していた。
―side・なのは―
リインフォースさんとも合流し、キリヲ君の尾行をする私達。
でもこの方角って・・・
「ねぇ、フェイトちゃん・・・キリヲ君の歩いてる方角って・・・」
「うん・・・小学校に向かってるみたい」
やっぱり。
家が小学校の近くなのかな・・・それとも、弟か妹がいるとか?あ、今は母親と2人暮らしなんだっけ・・・。
「おかしいな・・・キリヲ君、弟とかはいないって言ってたのに・・・家とも方角違うし」
じゃあ、小学校で何するつもりなんだろう?
結局、小学校まで来ちゃった。
キリヲ君は校門の所で寄りかかって、腕を組んで誰かを待ってる様子。
私達は近くの茂みに隠れながらそのキリヲ君の様子を伺う。
キリヲ君が小学校に到着してから程なくして、寄りかかっていたキリヲ君が動き出した。児童が通り過ぎる中、キリヲ君は小学校の方を向いて立つ。
誰か来るみたい。だけど一体誰が・・・・・・・・・!?
「フェ、フェイトちゃん・・・・・・あ、あれって・・・」
「え、嘘・・・あれ、ホンマなんか!?」
「ちょっ、フェイトにそっくり!?」
「アリ、シア・・・・・・?」
キリヲ君の元に駆け寄ってきたのは、小学校の頃のフェイトちゃんと瓜二つな少女・・・。
アリシア・・・フェイトちゃんの元になった子で、すでにこの世に存在しないはず。
フェイトちゃんはキリヲ君に抱きついている彼女の姿に呆然としている。
偶然?でもあまりに似すぎてる。
でも、どうやって?いくら魔法でも、死んだ人を蘇らせるなんてできないし、そもそもなんでキリヲ君がアリシアと仲良くしているのかわからない。
・・・!2人が動く!
「追うよ、フェイトちゃん!」
「う・・・うん!」
「あ、まっ、待ってください〜!」
アリシアを背負って歩き出したキリヲ君を見失わないために、私達は尾行を再開した。
次に辿り着いたのは、病院だった。
さすがに病院の中にまでついてって、そこで鉢合わせになるとマズいから、病院の入り口を少し離れたところから張り込むことに。
「確かキリヲ君、病院で傷を診てもらってるんだよね?」
「うん。あと、昔のトラウマがフラッシュバックするみたいで、薬も貰っているよ」
実際にそれで襲われそうになったし、とすずかちゃんは付け足した。
フラッシュバック・・・昔の、虐待の記憶だろう。あんな傷を負った時のことを忘れるなんてできないよね。
「うぅ、初耳な情報ばっかり。この差は結構キツいなぁ・・・」
「リインフォースも、キリヲ君の傷については知ってるんか?」
「いえ・・・これは初耳です」
以前翠屋に居合わせてなかった優香ちゃん、リインフォースさんは初耳みたい。
じゃあ、リインフォースさんはどういったことでキリヲ君と知り合って、それでもって(多分だけど)気まずい?関係になったんだろう・・・?
リインフォースさんは、私達の知らないキリヲ君についての何かを知ってるのかな・・・?
と、その時だった。
「「「「っ!」」」」
突然念話の声が響いてきた。その声に私とフェイトちゃん、はやてちゃん、リインフォースさんが反応する。
この声は・・・!
シュテル・・・私をオリジナルにしたマテリアルだ。
はやてちゃんのマテリアルがいたから予測していたけど、やっぱりいたんだ。
でも、タイミングが少し悪いかも・・・。
・・・頼み事?
フェイトちゃんを見る。私からの視線に気付いたフェイトちゃんが頷いてくれた。
シュテルに指名され、リインフォースさんが念話の中に入る。
思わず質問した。なんで、シュテルからキリヲ君の名前が出てくるのかわからない。
あ、ちょっ!?
それから呼びかけても、返事はなし。念話の回線を切ったらしい。
それからリインフォースさんを見てみる。リインフォースさんが何か心当たりがあるみたいなのがつらそうな表情から見てとれた。
私の問いにリインフォースさんはそう答えた。
フェイトちゃんも頷いて、尾行から予定を変更。キリヲ君の家に先回りすることに。
キリヲ君とアリシアの追跡はクロノ君に引き継いでもらい、私達はすずかちゃんの案内で先にキリヲ君の家へと向かった。
―side・out―
―side・シュテル―
「ふぅ・・・」
ナノハとの念話を終え、一息つく。
現在私、レヴィ、王がいるのは病院の待合室、にいるアリシアの鞄の中。
病院に来るまでの道中でナノハ達の気配を気付いた私達は、キリヲが医者と話している間にナノハ達に指示を出した訳なのですが。
「終わったか」
「はい。指示通りに動いてくれるはずです」
「ねぇシュテル・・・ホントに、キリヲお兄ちゃんが良くなるんだよね?」
確認を取ってくる王に返事した後、アリシアがそう尋ねてきました。その表情には、はっきりと不安の様子が見られます。
「そうだよ。ホントにうまくいくの?第一、影(シャドー)化の原因はあのクロハネなんだから、もっと酷くなるかも」
「分の悪い賭けだというのは承知しています。ですが、このままだとキリヲが影(シャドー)に呑まれるのも事実ですし、精神状況が良い今がチャンスかと」
続いて言ってきたレヴィに、私はそう言っておきます。
確かに今回の作戦、はっきり言って成功する可能性なんてありません。逆に、夜天の融合騎と顔合わせすることで影(シャドー)化が悪化する危険が高い。
しかし、このままではキリヲの精神状況が悪化し、影(シャドー)に呑み込まれるのも時間の問題。
なので今の、精神が安定した今に融合騎と再会させてしまった方がいいと行動に出ることにしたのです。
早い話が、影(シャドー)化を完全に抑えるのではなく、影(シャドー)化を最小限に抑えれるようにする、ということです。
私達がユニゾンでサポートをすれば、安全性が増す・・・はずです。
「アリシア。レヴィと王も、くれぐれもこのことはキリヲには内緒でお願いしますよ」
「「うん」」
「いいだろう」
事前に3人に釘を差しておきます。もし彼女らがいるとキリヲに知られれば、逃げられてしまう可能性があるので。
あ、ちなみに、プレシアにはこのことをアリシアを通して伝えておきました。魔力を隠しておいて、もしキリヲが暴走した時に制止させるようにと。
・・・無事に成功するといいのですが・・・。
・・・あっ、キリヲが戻ってきました。
薬の入った紙袋に多数の薬が入っているのでしょう、紙袋が大きいです。フラッシュバックを抑える薬だけでなく、影(シャドー)化を抑えるために精神安定剤も処方して貰ったのですね。表面上では無事に見えても、中では苦しんで、それを必死に隠して・・・。
成功するといい・・・ではありません。成功させます。我等のロードである、彼のために!
―side・out―
病院での用事も済み、帰路に立つ。
いつもならよく話しかけて、影(シャドー)化が進んでいる中でも明るく接してくるアリシアやレヴィがあまり話しかけてこない。何かあったのか?いや、それはないか・・・。
家に帰ったら、何すっかな・・・久々に俺が晩飯作ろうかな。確か豆腐があったはず・・・麻婆豆腐にするかな。いや、豆腐は味噌汁の具にして、和食にするかな?
まあ、それは家に帰ってから考えるか。
そんなことを考えながら、道の角を曲がる。曲がってすぐに、俺の家が――
『キリヲさん・・・!』
――――え?
なんで・・・俺の家の前に、リインフォースが・・・?
・・・リインフォースだけじゃない・・・なのはにフェイト、はやて、すずかにアリサ、優香まで・・・?
―――ゾワッ
っ!!?何だ・・・暗い、寒い、怖いっ・・・!?
影(シャドー)化・・・!?よりにもよってこんな時に・・・まさか、影(シャドー)の野郎は、リインフォースが目の前にいる時を狙ってたのか・・・まずいっ、呑まれるっ・・・!
リインフォースがこっちに来るっ・・・・・・だめだ、今の俺に来ちゃだめだっ・・・!
やめろ・・・来るな・・・
来ないでくれ・・・・・・!
―――来るなっ!!
迫ってきた彼女の手を、全力で手の甲ではたき落とす。
手を振るった反動で後ろに下がり、全力で右腕を掴み、抑える。
―――殺セッ、“俺”ノ自由ヲ奪ッタ、奴ヲ殺セッ!!
黙れっ、黙れ、黙れっ!!
消えろ異物っ・・・勝手なことするんじゃねぇっ・・・!!
もうこれ以上・・・アイツに不幸を味あわせたくないんだ・・・!
止まれ・・・止まってくれよっ・・・!
もう・・・やめてくれ・・・・・・・・・!
ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ
ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ ゲラゲラ
・・・殺す。
どいつもこいつも、俺の邪魔でしかねぇんだ。
俺はエニグマだ。俺は王だ。
ドクロを支配し、全部を支配する存在だ。奴らとは違う、こんな所にいるべき人間じゃないっ!
俺の自由を奪った奴、俺の自由を奪う奴は全部――
―――ブッ殺スッ!!
簡単だ。この手で、小さくした物を掌握して、解き放てばいい。
掌握して、念じて、それから投げれば、みんな潰れる。全部潰れて、壊れて、死ぬ。邪魔な奴はみんな死ぬ。
掌握してっ・・・
念じるっ・・・!
―――サンジゲンザンッッ!!!