小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e38.暴走―前





―side・三人称―


苦しげに身を屈めるキリヲ。
体中に黒い斑点を浮かべ、身体全体の色が黒く変化する。

そんなキリヲに事情を知らない者達の顔には驚きが、知る者には焦りが生まれる。

「キリヲ君!?」

「キリヲお兄ちゃん、しっかりして!!」

いち早く反応したのが、すずかとアリシアだった。
その2人に続いて、なのは、フェイト、はやて、アリサ、優香が続いてキリヲに声をかける。が、キリヲに声は届かない。
なのは達が声をかけている途中に、手を弾かれて半ば呆けていたリインフォースもはっと気づき、キリヲへと駆け出した。

「キリヲさ―――かはっ!?」

キリヲに近づきながら呼びかける彼女だが、その声はキリヲをさん付けで呼びきる前に中断される。
なぜなら、キリヲの膝蹴りを腹にくらったからだ。それによりリインフォースの身体がくの字に折れ曲がり、彼女の口から空気が押し出される。

「あぅっ!」

無言のキリヲは、さらにそのリインフォースの髪を左手で鷲掴みにし、無理やり起こさせた。
乱暴にされて苦悶の声を上げながらもリインフォースはキリヲの顔を見る。

瞬間、リインフォースの背筋を悪寒が走った。



―――笑っていた。

目を見開き、口元を大きく吊り上げ、キリヲが狂気的な笑みを浮かべていた。

そしてそのキリヲが、リインフォースの髪を掴むのとは逆の右腕を振りかぶる。
リインフォースはそれを見て、反射的に左手で障壁を張った。
そして、その直後。


―――バァンッッ!!


鈍く、大きな音が響いた。
障壁は一瞬で粉々に砕け、彼女の左肩に突然現れた巨大な柱――元の大きさに戻された鉄骨が衝突。
元に戻る鉄骨の押す力は少しも緩むことなく、リインフォースを十数メートル後ろに吹っ飛ばした。

「きゃあ!?」

突然のことに優香が悲鳴を上げる。

「リインフォース、大丈夫!?」

「は、はい・・・大丈――っ!!」

はやてが駆け寄り、リインフォースに呼びかける。
それに対しリインフォースは起き上がることで答えようとして、激痛によって失敗する。
彼女の左腕から肩にかけて、見るからに重傷だとわかるほどの深い裂傷ができていた。

「キリヲ君!一体どうしたっていうの!?」

「アリサ、すずか、優香。3人共、一旦この場から離れて!」

そうしている間に、なのはがキリヲに声をかける。この状況で筆談する暇がないというのもそうだが、半ば激情してもいた。

そしてフェイトは、巻き添えにしないようにするため3人に逃げるように指示を出す。

対してキリヲは説得するアリシアを乱暴に振り払い、制服を襟元を緩め、そこから十字架のネックレス――待機状態のガーディアンを取り出した。

『―――セットアップ』

例え影(シャドー)化して暴走しても主であることには変わらず、ガーディアンは彼の命令を受けて起動してしまう。
キリヲの姿が黒い学ランと、両手両足には大きな枷がつけられたバリアジャケット姿に変化する。

『封鎖領域展開』

続くガーディアンからのその音声と共に、辺りの景色が一変する。
封鎖領域によって、魔力を持たない者――アリサ達が結界内から姿を消す。

「くっ、レイジングハート!」

「バルディッシュ!」

「リイン、行くよ!」

「はいです!」

キリヲのデバイス起動、そして結界の展開に対応すべく、なのは、フェイト、はやてもそれぞれのデバイスを起動、防護服に身を包む。はやてはリインとのユニゾンも行った。

(戦うしか、ないのか・・・)

リインフォースも、命の恩人であるはずのキリヲと争うことに抵抗を感じながらも、甲冑を身に纏う。

底知れぬ緊張感が漂う空気に、なのは達が嫌な汗を流す。

「ユニゾン・イン!」

「「「「!?」」」」

だがその空気を破ったのはこの誰でもない者の叫びだった。

キリヲが一瞬光に包まれる。
キリヲの髪が焦げ茶色に、瞳の色は青い色に変化する。

キリヲの変化と同時に、影(シャドー)化による斑点の侵食が抑えられ、少しずつだが元に戻っていく。

「シュテル、気合いを出せ!キリヲの影(シャドー)などねじふせよ!」

「シュテるん、頑張って!」

「・・・ええ!?」

さらにキリヲのバリアジャケットから出てきた2人――ディアーチェとレヴィに、なのはが素っ頓狂な声を上げた。
消滅したはずであったマテリアル達が、ねんどろいど程しかない大きさでいるのだ。さらに言えば、マテリアルがユニゾンデバイスになっている。ツッコミどころ満載である。

今マテリアルズは、シュテルがキリヲにユニゾンをして管制することで、内部から影(シャドー)を押さえ込もうとしているのだ。

・・・が。

キリヲが大きく仰け反り、瞬間、再び斑点が覆っていく。

「シュテるん、シュテるんっ!!」

「念話が途切れた・・・影(シャドー)に押さえられたかっ」

「な、何がどうなってるんや?」

理解し難い状況に困惑する管理局一同。
そんな一同に、いや、リインフォースに。キリヲは襲いかかった。

木刀程の大きさにした鉄骨を振りかぶる。


―――ブンッ、ドガァッ!!


「くっ!」

振り下ろすと同時に鉄骨に数値を戻し、本来の重量が凶悪な殺傷力を持つ。

狙われたリインフォースや、巻き添えをくらいそうになった3人はすぐに避け、事なきを得た。が、鉄骨はコンクリートの地面を容易く砕き、その破壊力を見せしめた。

リインフォースに避けられたことを確認したキリヲは、鉄骨に三次減算を発動、鉄骨に刻まれた数字を取り除き、再び木刀サイズにする。

(鉄骨が小さく・・・!まさかレアスキル?)

その様子を見たフェイトは驚きながらも考察する。
フェイト達は才能のことを知らないが、これのような特殊な力の総称、レアスキルというのを知っている。フェイトはこの三次減算を、レアスキルだと考えたようだ。

未だにリインフォースに狙いを定めるキリヲが、リインフォースへと歩を進め出す。

「キリヲ君、止まって!」

そのキリヲに、なのはがアクセルシューターを撃った。
撃ち出された魔力弾はあらゆる方向からガスガス命中する。しかし頑丈なガーディアンによって、効いた様子はない。

キリヲが一気にリインフォースへと接近し、木刀サイズの鉄骨を横薙ぎに振るった。
また鉄骨が大きくする可能性があったため、リインフォースは上空へと回避する。
が、そこに合わせてキリヲが拘束魔法を使用。リインフォースを捕らえた。

「くっ・・・!」

リインフォースがもがくが、なかなか解けない。
そのリインフォースに追撃しようと、キリヲが飛翔し、鉄骨を振りかぶる。

「はあぁっ!!」

そこにフェイトが割り込みキリヲの攻撃を妨害、さらに、プラズマスマッシャーを放ち、キリヲを地上に落とす。

「リインフォース、大丈夫!?」

『今、バインドを解くです!』

はやてがリインフォースの元に寄り、リインフォースの拘束を解く。

「キリヲはどうやら、リインフォースを狙ってるみたい」

魔力の爆発によって煙が立ち込める、キリヲの落下地点を見ながらフェイトが言う。

「リインフォース、それについても何か心当たりあるん?」

「・・・はい」

そう答えたリインフォースの表情が、酷くつらそうなものだったのをはやては見た。

リインフォースとキリヲとの間に何があったのか、全く想像できない。
だから、聞き出す必要がある。2人からそれぞれ、しっかりと。

聞き出すためにも、キリヲを止めなければならない・・・そう思って、再びキリヲのいる場所へと視線を戻す。

その時、ちょうどキリヲが立ち上がっていた。
影(シャドー)化の侵食を表す斑点が、すでに身体の半分以上を覆っていた。その上左腕が靄と化し、形を失っている。

靄と化す左腕を押さえつつ、キリヲは上空のリインフォースを睨んだ。
影(シャドー)に堕ちてゆくキリヲの憎しみに染まったその形相に、リインフォースがたじろぐ。

そして次の瞬間、キリヲの姿が一瞬にして消えた。
消える呪いを使用したのである。

「消えた・・・!?」

「きっと、リインフォースを狙ってくる!」

なのは、フェイト、はやてがリインフォースの周囲について警戒する。無論、リインフォース自身も警戒する。
右か、左か、それとも後ろからか・・・姿を消す相手に緊張が増す。

そして襲撃者(キリヲ)が現れる。
目標(リインフォース)の真上に。

狙いを定め、最小にまで縮小した鉄骨を持つ手を振りかぶり――



が、その時、水色のバインド――ディレイトバインドがキリヲを捕らえた。

「クロノ君!」

なのはが振り向く。そこには、S2Uを構えるクロノの姿があった。

「クロノ君、ちょう遅くあらへんか?私達と替わってキリヲ君の尾行しとったのに」

「アリシア・テスタロッサと、2人のマテリアルの保護に少しかかってな。途中でも色々あった。彼女達は今アースラにいる」

はやての文句に対し、クロノはそう答えた。アリシアの名前が出た時に、フェイトが複雑そうな表情をしていたのを、クロノは見逃さなかった。

「・・・それより、今はこっちの方だな。忌束キリヲ、君の身柄を拘束、本局にて治療を受けてもらう」

「・・・治療?」

だが、クロノはまず目の前の問題を優先させることにし、キリヲが読み取れるように正面に立ってそう言った。
実は、クロノはアリシアとマテリアル2人を確保する時、この3人から「キリヲを助けて」と頼まれ、キリヲについて力などの情報をある程度貰っている。故にキリヲの異変――影(シャドー)化についてもこの中では一番知っている。
治療というのも、マテリアルから話を聞いて判断した結果。はやてが疑問符を浮かべているが、彼女らに話すのは後回しにすることにした。

するとキリヲはあっさりとバリアジャケットを解除。ガーディアンを待機状態に戻した。

「物分かりがよくて助かる。では本局に――」

一見すれば、投降の意思と取れるキリヲの行動にクロノも油断し、警戒を緩めた。

しかしそれが大きな失態、そして悲劇へと繋がる。
十字架型のガーディアンが、突然モニターを展開した。

「ん?」

「なにこれ・・・写真?」

「商店街の写真みたいだけど・・・」

ガーディアンが展開した画像に気を取られる管理局一同。

これの意図は何か尋ねようとキリヲに向き直った時、すでにキリヲが動いていた。

「なっ――!?」

キリヲの身体が、紙のようになって折れ曲がった。FLATを使ったのだ。
平面化させたことによってキリヲの身体の体積が小さくなり、バインドをすり抜ける。

あまりに異様な光景に、なのは達は全員顔面蒼白。

そしてキリヲはそのまま、モニターに映る商店街の写真の中に入り始めた。

「ま、待て!」

クロノが慌てて手を伸ばすが完全に遅れ、キリヲは画面の中に入ってしまった。
取り残されたガーディアンが地面に落ちていった。
さらに、キリヲがいなくなったことによって結界も消える。

管理局一同、全員がまだ写真を展開しているガーディアンの元に近寄る。

「入っちゃった・・・」

「まさか、これもレアスキル?」

「レアスキルみたいなものだが、厳密には才能というらしい。マテリアル達からの情報だ」

困惑する3人に説明した後、クロノは考え込む。
現場に急ごうと才能1つ1つの詳しい説明を聞けなかったのが仇となった。まさか写真の中に入れるような才能があるとは思わなかった。マテリアルの1人でも連れてくるべきだったと後悔する。
どうすればいいのか聞くため、クロノがディアーチェらがいるアースラに連絡を取ろうとした、その時。


―――ズリャァアアッ!


「ムグッ・・・!?」

「リインフォース!?」

突如として写真からキリヲの手が伸び、リインフォースの口元を押さえた。

キリヲに捕まえられたリインフォースは、FLATの影響を受けて身体が平面化していき・・・





あっという間に、彼女は写真の中に引きずり込まれた。


―side・out―

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