小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e39.暴走―後





―side・リインフォース―


「ぅ・・・ん・・・」

どこだ、ここは・・・・・・商店街・・・?

そうだ・・・私は、ここの写真から出てきたキリヲの手に引きずり込まれて・・・

「・・・!」

強い殺気を感じ、振り返る。
そこには体中から黒い煙か、靄のようなものを大量に噴き出す彼が、そこにいた。
さっき靄となって失われていた彼の左腕は、今はある。

「キリヲ、さん・・・・・・」

憎悪に満ちた彼の目に、思わずたじろいでしまう。
だが同時に、彼が苦しみや悲しみをこらえているようにも見えた。
私は彼をここまで酷くさせ、苦しませてきたというのか・・・。

キリヲが1歩、足を踏み出した。
威圧的な、私を殺そうとする1歩だ。

「キリヲさ――キリヲ!」

私はさん付けを寸前で止め、彼を呼び捨てで呼びかけた。
他人行儀ではだめだ。私から、彼を苦しめてしまった私から向き合おうとしなければ、何も進まない・・・!

「私は、あなたに償いをしたい・・・!あなたが私を許せず、死を望むのであれば私は自ら死のう。だけど、その前にあなたと話をしたい・・・あなたの意思を確かめたいんだ!」

私にとって、彼は私に自由をくれた、恩人では形容仕切れない程の、まさに救世主だ。彼がいなければ、今私が生きていることは有り得なかった。
そんな彼が私のことを許せないのなら、私はどのような罰でも受け入れる。その覚悟は、ずっと前からできていた。
だけどその前に、彼の意思(こえ)は聞きたい。彼の思いを確かめたい。
そして言いたい。謝罪の言葉と、生かしてくれて、例え一時の間だったとしても、自由をくれてありがとうという、感謝を。
その思いを、告げた。

直後、キリヲの姿が消えた。
すぐに左側に強い殺気を感じ、後ろに飛び退く。
次の瞬間、何もなかった場所からキリヲが姿を現して、私のいた所に手に持った武器を振るった。

あれは確か・・・マテリアルS――シュテルのデバイス?
確かにあの時は、彼女だけ姿を見せなかったが・・・それにあの時、ユニゾンと言っていた・・・。
マテリアル達が、ユニゾンデバイスになっている・・・?

(夜天の・・・管制人格・・・・・・)

・・・!念話・・・!?
それにこの声、シュテルからか!

(シュテルなのか!?)

(キリヲを、・・・ドー・・・助け・・・・・・い)

ノイズが酷い・・・だが、確かにキリヲの名と、助けて欲しいという声は聞こえた・・・!
何からかと聞かれれば、恐らく彼の身体を覆うあの黒い斑点。彼の身に起きている異変だろう。
しかし、どうやって?そもそも、あれの原因は一体なんなのだ?

「―――っ!」

再び左側からデバイスを振るってきたキリヲに私は右手で障壁を張って防ぎ、すぐに距離を取る。
そして、シュテルに念話を試す。

(シュテルよ、聞こえるか?答えてくれ!)

・・・繋がらないか。
どうやら、自分で1つ1つ試していく他はないらしい。
そうなればまず、彼の武装を無力化させる必要がある。

「すまないキリヲ・・・だが、必ず助けてみせる!」

「―――!」

私の宣言と同時に、キリヲは駆けだした。
また、私の左側に向かって走ってくる。左肩が負傷しているため、左が防御しにくいという考えなのだろう。事実、左肩の痛みはまだ癒える気配すら見せない。
だが狙いが絞られている分、こちらとしても読みやすい。

キリヲが左肩を狙って、デバイスを振るってくる。私は身体を捻り、右手で障壁を展開して防ぐ。
障壁に弾かれた後も、キリヲは繰り返しデバイスを振るう。
音声入力ができないために魔法の発動やデバイスのモード変更ができないらしく、高町のデバイスでいうシーリングモードで殴りかかるのみ。私にとって好都合だ。
私は彼との距離を開けすぎないように乱撃を避けつつ、タイミングを見計らう。



・・・・・・ここだ!

キリヲの、デバイスを振るおうとするタイミングを狙ってダガーを飛ばす。
ダガーは正確にデバイスのコアを突き、デバイスを弾き飛ばす。
弾き飛ばされたデバイスに砲撃を放つ。空中で衝撃を加えられ、デバイスは動きが止まっている人ごみの中へと落ちていった。

念の為に、先程の“鉄骨の大きさを変える能力”に対処するために一旦距離を取る。
デバイスが弾かれてから、キリヲは動きを止めていた。

「キリヲ・・・目を覚ましてくれ・・・!」

私の願いに対し、彼は答えない。
沈黙ばかりが流れ、頬を汗が滴り落ちる。



―――そして、沈黙は破られた。

「・・・キリヲ?」

キリヲが背中を押さえる動作を取った後、その場に膝をつけてうずくまった。
それを見て、キリヲが身体に多くの古傷を抱え、出血を起こすこともあることを我が主が言っていたことを思い出した。
恐らく、それだ。早く手当てをする必要があるはず。

「キリヲ・・・!」

彼の元へと駆け寄る。
私の手が彼の肩を触れようとした、その時。





顔を上げた彼の双眸が私を射抜き、私の動きを止めた。

それから、一瞬だった。

彼が急に起き上がり、吹き飛ばしたはずのデバイスを、エクセリオンと同じ形状にして私の右肩を貫いた。
そのまま勢いで私を押し、だが私は地面に倒れる訳でなく、彼が張った後退を妨げるためであろう魔法陣に背中を打つ。
そして間髪与えずに彼は右手で私の首を掴み、容赦なく締め上げる。

「がっ・・・ぁっ・・・・・・!」

窒息と首への圧迫感で苦しくなっていく。
無意識の内に抵抗を試みるが、キリヲの左手が私の右肩を貫くデバイスをさらにねじ込んだ。
そのことによって右肩からメキリという音が鳴り、それから右腕の力が急激に落ちていった。
両腕が共に抵抗する力を失ってもなお、キリヲの右手の力は緩むどころか、より強くなってゆく。





・・・ああ、これはきっと、罰なんだ。

彼の自由を奪ってまで生き残って、それから彼を苦しめ続けて。
それでも、私が彼を助けることはできなくて。
これはそんな私への、呪われた魔導書である私への罰なんだ・・・。
視界が霞んでいく・・・。



・・・でも・・・・・・それでも・・・。

両腕に残された、僅かな力を使って腕をキリヲの右腕へ動かす。
激痛が腕の動きを阻もうとしてくる。それをなんとか耐えながら、両手を彼の腕へと運んでいく。

もう少し、もう少しだ・・・。

そして、彼の腕に触れた。
両手で包むように、彼の手首を掴む。
温かみを感じられない。それどころか冷え切ったようにも感じた彼の手に、もう堪えられなかった。

「ごめっ・・・さい・・・っ・・・・・・ごめんなさい・・・ごめんなさいっ・・・・・・!」

謝る。
あなたの自由を奪ったことを。
あなたを苦しめてきたことを。
私が無力なせいで、あなたを助けることができなかったことを。

涙が溢れてくる。
流れた涙が自分の手に伝い、自分の手からさらに彼の手へと伝っていく。
視界は涙でぼやけていたせいで、意味をなしてなかった。
だから、その時彼に“変化”が起きていることに、私は気づかなかった。

突然右肩を貫いていたデバイスを引き抜かれ、私は横に投げ倒された。
運がいいのか悪いのか、地面に仰向けに倒れ込む。

「・・・ケホッ、ケホッゲホッ!」

窒息しかかっていた状態から解放され、むせる。
そしてキリヲの方を向くと、両手で持ったデバイスをこちらに突き刺そうとしているのが見えた。
そしてキリヲはデバイスを大きく振りかぶり――





―――ドスッ





―――私ではなく、自分自身の腹部に突き刺した。

私の時よりも見るからに多量の血が、彼の腹から地面へと落ちていく。
彼は口から血を吹き、膝をつく。

「―――え?」

一体どういうことなのか、私には理解できなかった。

彼の身体はガタガタ震え、激痛に苦しんでいることは明らかだった。しかし、それでも彼はデバイスの柄を握り締めたまま、引き抜こうとしない。

デバイスを腹に突き刺したまま、キリヲが私の身体にソッと触れた。
触れた部分から、私の身体が紙になっていく――。


―side・out―





―side・三人称―


写真内で起こっていることは元の世界にいるなのは達も見ていた。
彼女らに加えて、ヴォルケンリッターも現在この場にいる。新たに結界が張り直され、何があっても万全の態勢である。クロノからキリヲの才能と影(シャドー)化についても聞かされ、確保の後に治療ということで決まってもいる。
写真内の会話はなのは達は聞くことはできず、ただ行動を見守るのみだった。
キリヲの不意打ちを受けるリインフォースを見て誰もが焦りを見せたが、彼の血迷ったかのような自刃行為には全員が仰天した。
そして突然写真が歪み、その歪みからリインフォースが飛び出した。

「リインフォース!」

誰よりも心配していたはやてが、リインフォースを抱き支えた。

「リインフォース、しっかり!」

「・・・我が、主・・・・・・」

はやての呼びかけに対し、未だに目に涙を溜めているリインフォースの声は弱々しかった。

「リインフォース、今治療するわね・・・!」

シャマルがリインフォースの元に近づき、両肩の治療を始める。


―――ズズッ・・・


『っ!!』

その時、十字架型の彼のデバイスが映していた画像から、平面状態のキリヲが現れてきた。
彼の出現に全員が警戒する。
平面だったキリヲは立体になっていき、元の形に戻った。
腹部に刺したデバイスは引き抜いたようだが、止血はされておらず、血はコートにまで染みてしまっている。

(肌の色が変わって――いや、元に戻っている?意識が戻っているのか・・・?)

いつ戦闘になっても対処できるようにとS2Uを握る手に力を入れながら、クロノはキリヲの状態を確認する。
相変わらず黒い斑点が彼を覆い、靄を噴き出しているものの、肌から黒さがなくなり、元の肌の色に戻っていた。
もし意識が戻っているのなら、説得でなんとかなるかもしれない。安全面でも効率面でも当然、その方がいい。

「キリヲ、君を保護、治療したい。大人しくこちらに来て貰えないだろうか」

「大丈夫だよキリヲ君。私達は味方だから・・・!」

なのはも説得に参加して、キリヲにゆっくり近寄る。

しかし、まだあと1メートル以上あるなのはとキリヲとの間の地面に、鉄骨が突き刺さった。
鉄骨と地面の衝突により轟音が鳴り響き、なのはは勿論他の者達も怯む。
その隙に、キリヲは走り出した。

「っ、逃がすか!」

クロノがキリヲに向けてバインドを放つ。
走っているとは言え、フラフラだったキリヲは簡単にバインドに捕まった。
先程はFLATによって平面世界に逃げられたが、その写真を出していたガーディアンはキリヲの手元にないままだ。今度はバインドから逃れられない。
拘束されたキリヲにザフィーラが接近する。FLATで逃げられることはなくなったとは言え、まだ他の才能がある。一体どのような才能なのかまでは管理局一同が知らない以上、確実に確保するためには気絶させるのがもっともな判断だった。その際、生身なキリヲ相手にだと魔法も危険なため、ザフィーラが持つ体術で彼の意識を刈り取ろうということなのだ。

だが、ザフィーラがキリヲの元に到達するより早く、灰色の砲撃がキリヲを呑み込み、爆発を起こした。
キリヲは衝撃でバインドから解放され、吹っ飛ぶ。
砲撃を放ったそれ――誰にも持たれる訳でもなくに宙に浮くルシフェリオンは、続いて大量の魔力弾を飛ばしてなのは達全員に襲いかかった。
なのは達は回避や防御をしてなんとか凌ぐ(治療を受けている途中のリインフォースはシャマルに守ってもらっている)が、その間にキリヲが起き上がり、フラついた足取りで走り出してしまう。

「待って、キリヲ君!逃げちゃだめ!」

なのはの叫びも意味を成さず、キリヲは道を曲がった先に消えてしまう。
程なくして、魔力弾の嵐は急に止まり、宙を浮いていたルシフェリオンも落ちて乾いた音を鳴らした。

「何だ、急に止まったぞ?」

「それより、早くキリヲを追いかけないと・・・!」

『もう、追うことは不可能かと』

フェイトがキリヲを空から追跡しようとして、そこに待ったの機会音声がかかった。
全員が、音源の方を向く。そこには宙を浮く十字架のネックレス――待機状態のガーディアンとそれに寄りかかるシュテルの姿があった。どこか満身創痍な様子のシュテルがガーディアンにしがみついているため、ガーディアンはバランスが安定していない。

「シュテル!いつの間に?というより、今までどこにいたの?」

「途中までキリヲとユニゾンしていたのですが、ユニゾンを解除されてから写真内に閉じ込められてました。ですが才能の効力がなくなったために先程写真から追い出される形で今ここに。それよりこのデバイス、ガーディアンの話を聞くのが先かと」

「そや。えと、ガーディアン。さっきの話って、どういう意味なん?」

『才能の解除によってシュテルが出られたということは、マスターがコピーの才能で造り上げた、コピーの海鳴市に逃げ込まれた可能性が高いです』

「コピーされた物には全て、キリヲによって設定という形で細工ができます。具体的に言えば、そこにあるルシフェリオンのコピーならば自動的に敵に攻撃するとか」

シュテルが地面に落ちているルシフェリオンを指差す。
そう、先程のルシフェリオンはその自動戦闘の設定が施されたために魔法を発したのだ。宙に浮いていたのは、第三の手がルシフェリオンを持っていたからである。
リインフォースの右肩を貫いたのもこのコピーのルシフェリオンであり、三次減算で隠し持つことで奇襲をかけたのである。

『コピーの海鳴市には進入の制限がかけられており、許可された者以外には入ることができません。あなた達も例外なく、進入不可能ですよ』

「そんな・・・」

「・・・・・・」

なのは達が会話している間も、治療中のリインフォースは何も言わず、俯いていた。
それを見たシュテルがリインフォースに近づいた。

「実はまだ、キリヲの元へ行くチャンスはあります」

「・・・!」

キリヲに会えると聞いて、リインフォースが顔を上げる。
だがそんな彼女に、シュテルは残酷な現実を見せる。

「ですが、キリヲを救うことはできないという事実に変わりはありません。精神を蝕む影(シャドー)化を治す方法は存在しません。そして、ディアーチェの身体を借りてあなたに会った彼の言葉を覚えてますか?“呪われた魔導書である貴様に償えるものなど何もない”」

「―――っ!」

シュテルが明かした現実に、リインフォースが目を見開く。

「おい、それどういうことだよっ!まさかアイツ、キリヲだったってのか!?」

ヴィータが声を荒げる。シュテルは一旦ヴィータの方を向いた後、再びリインフォースに向き直った。

「ええ。本来言いたかったのはそんなことではないと彼は悔やんでいましたが、言ったという事実に変わりはありません」

「あれは、彼の言葉だったのか・・・」

小さく呟くリインフォース。当時のことを思い出しているのだろう。

「ですが、キリヲはあなたを想っていました。自分のせいであなたを苦しめてきたと悔いていました。故に彼は今回、自爆という選択肢を取ったのです。完全な影(シャドー)となり存在を消してしまえば、あなたが不要な償いをする必要がなくなる・・・その論理自体は正しいとは思えませんが、影(シャドー)になった場合の危険性を考えれば、論理的な判断ではあります――では、これらのことを踏まえて決断してください。これはあなたとキリヲの問題です」

そしてシュテルは、究極の選択をリインフォースに迫る。

「助からないとわかってなおキリヲに会いに行くか、それとも彼の望む通りに不要な贖罪を諦め、彼との関係を忘れるか」

どちらの選択肢も、選ぶのに相当の覚悟が必要なものだった。
前者を選び行動しても、結局のところキリヲは助からない。償いは意味を成さず、それどころかはやて達に危害が及ぶ可能性がある。
また後者を選ぶのも、言うなればキリヲを見殺しにするということになる。忘れることを前提条件に出されたが、そのようなことを忘れるなどまずできはしない。
どちらを選ぼうにも、後に大きな影響が出ることは明らかだった。

「私は・・・・・・」

リインフォースは呟いたがそこで止まり、俯いてしまった。
償いは意味を成さず、キリヲは助からない。写真内でのキリヲの殺意や、ディアーチェの姿だった彼の言葉。それらから来る無力感に、彼女は押し潰されそうになっていた。
ギャラリーとなっているなのは達も、固唾をのんで見守っている。

が、1人は違った。
その1人――じれたヴィータはリインフォースの元に近寄ると彼女の胸倉を掴み寄せ、一発殴った。

「何やってんだよ!さっさとアイツの元へ行く方法を聞け!」

「ヴィータ・・・」

「ヴィ、ヴィータちゃん落ち着いて!まだリインフォースは治療中なんだから!」

慌ててシャマルが止めに入るも、ヴィータはそれを気にも止めずにリインフォースを睨む。

「お前と、アイツの問題なんだろ!?会わないで解決する方法なんてあるかよっ!」

「だが・・・」

「だがもクソもねぇよっ!余計なこと考えないで、お前がキリヲに何をしたいのか言え!」

リインフォースの反論を遮り、ヴィータが怒鳴っていく。
弱気になってたリインフォースは、ヴィータの気迫に気圧されていた。

「何があったのかあたし達は知らねーけどよ、お前が自分からここまで来たのは、アイツに会いたかったからじゃねーのかよ!」

言って、ヴィータは胸倉を掴む手を離した。

「リインフォースさん、行こうよ。ちゃんと向き合えないまま、分かり合えないまま会えなくなるなんて悲しすぎるよ・・・!」

「リインフォース・・・キリヲ君に会いたいんやろ!?」

「・・・私、は・・・っ」

声が震えているリインフォースが、胸の辺りで手を重ねた。
こらえるようにきつく閉じた目から、涙が溢れ出す。

「・・・会いたい・・・彼に・・・キリヲに、会いたい・・・!」

「・・・うん、みんなで、キリヲ君を助けよう!」

「助けることは無理だと言いましたが・・・・・・まあ、そのくらいの覚悟がなければ無理でしょうね。では、行きましょう」

「行くとは、どこへだ?」

キリヲの自宅へと向かおうとしたシュテルをシグナムが呼び止めた。
シュテルは振り返って、さも当然かのように答える。

「どこって、キリヲのいる、模写世界へですよ」

「え、でも・・・海鳴市のコピーには入れないって、さっきガーディアンが・・・」

「模写世界の設定は私がユニゾンしている間に才能に干渉、変更しました。今なら入ることができます」

不可能ではと尋ねたフェイトに、シュテルは種明かしをする。
シュテルはちゃんと、この事態は想定していたのだ。

「一応、オリジナルと夜天の騎士全員の進入許可は出したと思いますが、実際に何人入れるのかはわかりません。そしてこうしている間にキリヲがまた設定を変えられたら、今度こそチャンスを失います。なので急いでください。設定した入り口は自宅の扉です」

「それ先に言えよ!」

ヴィータの文句とほぼ同時に、クロノを除く全員がキリヲの自宅の扉へと走っていく。再び入れなくなるかも知れないと知れば、急ぐ他はない。

「クロノは、結界が解けた後で私の指示に従ってもらえますか。説明するための物と、ノゾミ様にも話をしなくては」

「わかった、ならそうしよう。ではみんな、気をつけてくれ」

クロノはシュテルの指示を受けて残ることになった。

「私からも。キリヲのことお願いしますね」

「うん。私達が、キリヲ君を連れ戻すから!」

頭を下げるシュテルに、なのはが力強く言った。

一方リインフォースは玄関の扉もとい、模写世界への扉の前で、その扉をじっと見つめていた。

(私はあの時、あなたによって自由を得た。紛れもなく、あなたに救われた)

これから会おうとする人物に対する、自分の気持ちを確認する。
怖くないと言えば、それは嘘になる。いくら覚悟していたことだとしても、あの殺意に震えてしまった。

―――だが、それでも。

(あなたが私をどう思っていたとしても、あなたは私にとって恩人であり、感謝している)

彼女の想いは固まった。

扉の取っ手に手をかける。

(救うことが不可能であっても、私はそのことを・・・私にとってのあなたを教えたい。そして、本当のあなたにとって私がどういう存在だったのかを教えてほしい)

取っ手を握る手に力が入る。

そして――

(だから、もう一度だけでいい)

彼女は、本当の再開を果たすべく扉を開ける。

(あなたに会うチャンスをください――)





―――ガチャ―――










―side・out―

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