小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e40.かくれんぼ





―side・リインフォース―


開かれた扉の先、才能の影響か空間が歪み、不可思議な空間となっている中を、勢いをつけて走る。
治療を受けたとは言え傷は治りきってはおらず、痛む。が、動かせない程ではない

扉をくぐった先。そこは家の中ではなく、外だった。

「ここが・・・模写世界・・・?」

「ぱっと見はただの街、みてーだけど・・・」

「ただの街にしては異様だな」

・・・我が主や騎士達、それに高町とテスタロッサも、どうやら入ることができたようだ。
つまり突入組は全員・・・ということか?

「あれ、ユニゾンが解けてる・・・リインがおらへん!?」

「えぇ!?リイン、どこに!?」

「理のマテリアル・・・シュテルの言葉が正しければ、設定から弾かれたのでしょう。扉を通れていないのかと思われます」

・・・いや、リインだけが入れなかったか。入ることに成功したのは8人ということだ。
リインがいないことに慌てる主とシャマルにザフィーラが説明する。マテリアル達はリインとの面識はないから、設定から外されるのも仕方ないだろう。

それより、今はキリヲの方だ。
この模写世界のどこかにいるはずだが・・・。

「とにかく、今はキリヲだ。シャマルは周辺をエリアサーチで、そして残りの全員は空から探そう」

「ええ、わかったわ。クラールヴィント、お願い」

捜索方法の指示を受け、シャマルが魔法を発動しようとする。シャマル以外のみんなも、空から捜索するために飛行を開始しようとする。
私も飛ぶために、スレイプニールを展開しようと――

「―――え?」

「あれ・・・!?」

が、ここで異常に気付く。
魔法陣が、全く出てこないのだ。

「なんでや・・・!?飛べへん・・・!」

「エリアサーチもだめ・・・!」

一体なぜ、と思ってすぐに、1つの可能性に至った。

「恐らくは、この世界に魔法の使用不可の設定がかけられたのでしょう。魔法によって見つけられることがないように」

「魔法が使えない・・・そうなると、地道に探していくしかないね」

「手分けして、まずは近くを探そう。まだ近くにいるか、そうでなくても手掛かりが見つかるかもしれない。ある程度近辺を捜索したらまたここに集合」

テスタロッサのその指示で、私達は一端散開した。





テスタロッサの予想通り、手掛かりが見つかるのにそう時間はかからなかった。
本物の世界でキリヲが姿を消した道の先・・・そこでテスタロッサが、投げ捨てられた彼の鞄やコートを見つけた。恐らく逃走する時、軽量化のために捨てたのだろう。
テスタロッサが鞄の中から、高町がコートのポケットから手掛かりになりそうなものはないか探る。

「!これ・・・」

高町がポケットの中から、筒状に丸められた1冊のノートを見つけた。
そして高町はそれを広げ、ページを捲っていく。

「なんだこれ?絵はド下手だし、字もひらがなばっかじゃねーか」

「まさか・・・主はやて、これが件の日記ですか?」

「うん、そや。多分やけど、これは未来に起こることを書き記す才能・・・」

将の質問に我が主が頷く。
2人が探していたのは、恐らくこれなのだろう。これに今日起こることの記述がかかれているならば、キリヲの捜索の手掛かりにもなり得る・・・。
皆の視線が高町に集中する中、高町は手早くページを捲っていく。

「・・・あったよ!今日の日付の記述!」

『っ!』

その言葉を聞いた瞬間に、私を含む全員が一斉に顔を寄せ合い、その広げられたページを見た。



7がつ4にち

みんなとかくれんぼしました。

ぼくはみんながしってるあのばしょにかくれました。

でもだれもみつけてくれなくて、まっくろになりました。



「かくれんぼ・・・?」

そう呟く他はなかった。

かくれんぼ・・・つまりこの場合は、キリヲが隠れ、私達が探す鬼役ということになるのか・・・?

「おいちょっと待てよ・・・これってつまり・・・」

「どうした、ヴィータ」

「どうしたもこうしたも、これってつまり街全体から探せってことじゃねーか!?魔法も使えねーで、どうやって探すんだよ!?」

尋ねたシグナムに切羽詰まった様子でヴィータが言った。
確かにヴィータの言うとおり、場所の指定がなくキリヲがこの世界にいることから、このコピーの海鳴市全域を使ってのかくれんぼということになる。
魔法による捜索が不可能な今、探し出すには多大な時間が必要になる。

・・・だが、まだ希望は残っている。

「大丈夫やヴィータ。この記述から、キリヲ君の居場所をいくつかに絞ることができる」

「“みんなが知っているあの場所”。そこにキリヲがいるなら、キリヲと私達が知っている場所を特定すれば・・・!」

そう、この日記にある、唯一彼の居場所を知るヒント。
これから場所を絞り、探していけば、キリヲが見つけることができるはず。

「翠屋ならみんな知ってるよ!キリヲ君と一緒に来たこともあるし!」

「勉強会の時には私の家に来てたよ。それと、病院もみんな知っとる」

「中まではわからねーけど、学校もグラウンドとかならわかるぜ」

「商店街とか、図書館とか、誰でも知ってるような場所もありえるわね」

高町に、我が主、そしてヴィータとシャマルによって場所を特定されていった。

「よし、また手分けして探そう。各所できるだけそこに詳しい人が行って、隈無く捜索。日没後にまた一旦ここに集合」

テスタロッサの指示で、翠屋には高町、我が主と私達の自宅にはヴィータ、病院はシャマル、小学校はテスタロッサ、中学校は我が主、そしてその他を残った私と将とザフィーラが探すこととして散開した。





走る。



走る。



見渡す。



走る。



探す。



走る。



探す。



探す。



探す。



探す―――



「はぁ・・・はぁ・・・っ」

―――見つからない。

「リインフォース、少し飛ばし過ぎだ!」

「焦る気持ちはわかるが、少し落ち着いた方がいい」

「将、ザフィーラ・・・・・・済まない」

少し遅れて、後ろから将とザフィーラが走ってくる。
焦り過ぎて、2人のことを考えずにいたようだ。2人に謝る。

「まだお前が受けた傷は治りきってないんだ。無理をするな」

「それにあの日記に書かれている場所は恐らく、主や他の者達のように明確な場所。ここのような、曖昧な場所にはいないと思うぞ」

・・・ザフィーラの言うことは尤もだ。“あの場所”と書かれている時点で、商店街である可能性はかなり低い。もっと明確な場所が答えなのは私もわかっている。
わかっている、が・・・

「わかってる。だがそれでも焦るさ。あの日記にあった、“真っ黒になった”という内容。あれは恐らく、あの異変が最悪な状態にまでなるということなのだろう。そうなる前に、見つけなければならないんだ・・・!」

「っ、待て、リインフォース!」

再び走る。
ザフィーラの制止の声は聞こうとも思わなかった。

走る・・・走る。
最悪な未来だけは、来て欲しくないがために――。





日が沈み、辺りが暗くなる。
コピーの世界にも電気は通っているらしい。暗くなり始めた辺りから街灯の明かりがつき始めた。

私達3人は、集合場所であるキリヲの自宅へ向かっている。
結果は――当然と言うべきか、私達の捜索範囲内にキリヲはいなかった。
予想はできていた筈なのに、その結果が焦り、不安を掻き立てる。
他の皆も同じではないかと考えると、ゾッとしてしまう。
だが、それは有り得ない。
キリヲは、他の皆が行った場所のどれかにいる、筈・・・。

キリヲの自宅前に着くと、すでに我が主と高町、ヴィータ戻っていた。

「あ、リインフォースさんっ!」

「シグナムとザフィーラも!そっちはどうやった!?」

「いえ・・・こちらにはいませんでした」

「そう尋ねられるということは、主達も・・・ですか」

シグナムが問うと、3人は申し訳なさそうな表情をした。

「うん、ごめんな・・・こっちも収穫0や」

「一応、翠屋の周辺も探したんだけどね・・・」

「後は、シャマルとフェイトだな・・・」

ヴィータが、すっかり暗くなった道を見据える。私達も、残る2人を待つ。

そしてそのうちの1人、テスタロッサが走ってきた。

「ごめん!校内も調べたけど、キリヲはいなかった。そっちは!?」

テスタロッサははずれだった。
こうなると、残るは1人。

「後はシャマルか・・・」

焦りが大きくなる。
最悪な結果が脳裏に浮かんでくる。
待っている時間が、とても長く感じる。

「み、皆さーん!」

暗闇の方からシャマルの声が聞こえ、シャマルがこちらに駆け寄ってきた。

「っ、シャマル!」

「シャマル、キリヲ君は見つかったん!?」

「こめんなさい・・・見つけられませんでしたっ・・・!」

「―――っ!」

最悪な知らせに私は勿論全員が驚愕した。

「どういうことだよ!キリヲいねぇじゃねぇか!?」

「この日記を見て、逆に我々の知らない場所に隠れたか・・・?」

「そうかもしれないけど、それじゃあもう打つ手は・・・」

将達が模索するが、一向に場所の特定ができない。
私も模索するが、それらしい場所は思い浮かばない。



・・・キリヲ・・・。

私は、キリヲによって救われ、自由を得られた。キリヲがいなければ、私はとうに消えた存在だった。
それだけじゃない。私はいつも、誰かに頼ってばかりだ。
闇の書事件も、闇の欠片事件の時も、そして、最近起きた2度のカニバル襲撃の時だって。
私は何もできず、誰かが解決してくれて、私はそれに頼ってばかりだった。
だけどこれは・・・自分でやると決めたこれだけはっ・・・!
私が・・・!彼を探し当てたいっ・・・!

「・・・キリヲっ・・・!」










――――――――――。










・・・え?



今・・・何か映像が・・・?

雪が降る中、街を一望できる場所・・・。

・・・これって・・・まさか・・・?





・・・間違い、ない。

あそこだ。

日記の条件も、しっかり満たしている。

私にとって忘れる筈もない・・・あの場所だ・・・!

「ちょっ、リインフォース!?」

確信した時にはもう走り出していた。
我が主に説明する時間すら惜しい。

日付が変わるまで、残り数時間。

急いで、彼の元へ・・・!





走る。

ただひたすら走る。

・・・立ち止まる。

「はぁっ・・・はあっ・・・!」

キリヲの自宅前から走り出して、数時間。
移動手段が徒歩しかないため、ここまで走り続けた。
疲労は当然として、傷や焦りも体力を削る要因となり、限界に近かった。
時間ももうない。時計やそれになるものはないが、私の時間感覚が間違ってなければ日付が変わるまであと1時間もない。

だが、この道の先・・・そこにある高台に、彼がいる、いや、待っている筈だ。
私と、キリヲが初めて会い、そして私が彼によって闇の書の呪いから解放された、あの場所で。
全員、あの場所のことは当然知っている。ただ、キリヲも知っているということを知っているのが私しかいなかったんだ。日記に“あの場所”という表記になるのも頷ける。私が救われた場所。そして私にとって、私が生きるための代償が支払われた場所なのだから。

限界を訴える身体を奮い立たせ、また走り出す。
もう少し、この坂道を登りきれば、高台に辿り着く。
私が飛ばしすぎたため遅れている我が主や騎士達の姿が見えないが、気にしていられなかった。
やがて緩やかな坂が終わりを迎える。
そして、目的地である場所が、私の視界に入ってきた。

「あっ―――」

思わず、声が漏れた。
季節として当然雪はなく、変わりに草が絨毯のように地面を覆い、葉をつけた木々が周りを囲っている。
ベンチの近くにある街灯1つが、唯一の明かりとなっている。
そんな、この場所の中央に生えた1本の木。そこに――



木を背もたれにして座り込む、全てが黒く染まった、人の姿をしたものがあった。
手も顔も、服も何もかも黒一色に染まったそれは、体中から黒い靄を噴き出し、糸の切れた人形かのように動きを見せない。真っ黒でわかりづらいが、顔は俯いている。

「キリヲ・・・なのか・・・・・・?」

すぐに掻き消えてしまいそうなほど小さく、そして掠れた声で呟く。
この世界にいるのは、私達とキリヲの他は存在しない。つまり、彼がキリヲだと言う他はない。
だが、それを認めたくないと思っている自分もいる。
それは、彼は、答えない。反応する素振りも見せない。

1歩、彼へと足を踏み出す。
彼に反応はない。
ゆっくり、彼へと歩を進める。
1歩踏み出す度に、彼との距離が近づいていく。
いくら近づいても彼は逃げるどころか、私に気付く素振りすら見せない。

ついに、手を伸ばせば届く距離まで近づいた。
膝をつき、彼の頬であろう部分に触れてみる。



―――冷たい。



それだけしか感じられなかった。
触れているのに、彼は反応しない。
手を彼の背に回して引き寄せ、抱き締める。
何一つ動作を起こさない彼は、私に引き寄せられるまま、私にもたれかかっている。
心臓の鼓動は・・・感じる。

「・・・キリヲ」

呼んでみる。
反応はない。
彼は音が聞こえないということは、このときは念頭から消えていた。

やがて1つの事実が、私の脳内に流れ込んできた。

「キリヲ・・・キリヲっ・・・!」

視界をぼやけさせながらも、強く抱き締め、その事実を受け入れたくない一心で目を強く閉じた。
どれだけ強く抱き締めても、何度彼の名を呼びかけても、彼は応えない。

「リインフォースさん!それと・・・キリヲ君!?」

「なんだよこれ・・・!?真っ黒じゃねぇか!」

「急いで治療しないと・・・!」

「ザフィーラ、キリヲを背負って!急いで入り口に向かうよ!」

「わかりました」





時刻は、7月4日の午後11時26分。

かくれんぼ開始から、実に6時間以上も経過していた。

日記の予言は、彼が見つからなかったという意味では、運命を変えられたのかもしれない。

だが、あまりにも遅すぎて。

彼は黒く、予知通り真っ黒に染まってしまった。


―side・out―

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