小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e41.一夜明けて





―side・シュテル―


――眠っていた意識が、目を覚ます。
同時に伝わってきたのは、いつも寝床としている模型の家のベッドの暖かさではなく、少し冷えた空気とゴワゴワした、ハンカチの感触でした。

・・・いや、逆ですね。いつもの寝床ではない感触が不快で、それで起きてしまった、という方が正しいかもしれません。

一緒に寝ている王とレヴィを起こさないように注意しつつ上半身を起こします。
視界に映るのはいつもの、オカルトグッズが所狭しと並べられた部屋ではなく、寧ろ逆。何もない質素な部屋。天井の照明が唯一の明かりで、窓はありません。あるのは椅子と机、あとは棚といったところ。

・・・訂正します。窓はあります。それも大きな。しかし開きません、外に繋がる窓ではありません。
窓の前には1人の女性が、椅子に座って窓の奥の光景を眺めている。いや、座ったまま寝ているのかもしれません。こちらからは後ろ姿しか見えないので、起きているのか否かわからないのです。
ですが、その後ろ姿を見ると、私もとても悲しい気持ちになります。

なぜなら・・・・・・その、銀髪の女性が見つめる先には――





絶望に堕ち、真っ黒に染まってしまった我々のロードが、ベッドに横たわっているのですから。





「夜天の管制人格・・・」

私がそう呼ぶと、彼女は僅かに顔をこちらに向けました。

「・・・シュテルか。今起きたのか?」

「ええ。忌束家では一番の早起きです」

質問に答えつつ、私は彼女の隣まで飛んでいきます。
彼女は私の声を聞いて、再び窓の方に視線を戻します。

「そうか。他の皆は?」

「自分でも確認したらどうです・・・・・・まだ全員寝てますよ」

周りを見ようとする素振りも見せない管制人格に、呆れを含めた声でそう返しました。

私を含めて、治療室に隣接するこの部屋にいるのは彼女と、あとは忌束家の者達。計7人。
王とレヴィはハンカチを布団の代用にして寝ています。ノゾミ様、プレシア、アリシアも、それぞれ机に突っ伏すようにしたり、椅子を並べてベッドの代用にしたりして寝てます。

管制人格やオリジナル達がキリヲを連れ戻してから一晩明けます。
キリヲが模写世界から連れ戻された後、キリヲはすぐに管理局の次元航行艦、アースラへと運び込まれ治療が施されました。
ユーノ・スクライアと、湖の騎士――シャマルが回復魔法をかけ、それは現在も続いていますが、もはや回復は望み薄でした。

説明が遅れましたが、さっき言った通りここはアースラの中。
アリシアやノゾミ様はともかく、プレシアがなぜいるのか、また居て大丈夫なのかという疑問はあるでしょうが、話が逸れるためしばらく割愛とします。

「・・・ところで、あなたはずっと起きていたのですか?」

「・・・ああ。眠れなくてな・・・」

「やれやれ・・・」

管制人格の返答にまた呆れ、首を横に振りました。
管制人格の顔はやつれ気味でした。それに加えて、少し眠いのを無理に抑えているようにも見えます。
・・・眠れないのではなく、眠ろうとしなかったんじゃないですか。

「いくら起きて見ていても、キリヲが回復することはありませんよ」と、そう言うのは簡単でした。寧ろ、そう言って休ませるべきでしょう。
ですが、それはやめました。理由としては、それでは管制人格が哀れだと思ったからでしょう。
理のマテリアルである私が情で判断するのは、少しばかり問題があるでしょうが、ここは目を瞑りましょう。

・・・さて。

私は窓の奥にいるキリヲを見てみる。
ベッドに横たわる真っ黒なキリヲ。そんな彼を中心にミッド式とベルカ式の魔法陣が光を放っています。魔力光はどちらも緑色・・・ユーノとシャマルのものです。
回復魔法の作用があってか、靄は出ていません。
ですが、この回復魔法だけではそれが限界。キリヲは影(シャドー)化から抜け出すことはできない・・・。

・・・・・・・・・。


―side・out―





―side・はやて―


ロストロギアの回収任務で空を飛びつつ、私は考えていた。

キリヲ君を治療室に運び込み、その後にリインフォースから聞いた、リインフォースとキリヲ君との関係。

4年前・・・リインフォースが自分自身を破壊しようとしたあの日に会い、キリヲ君が願いを叶えるというドクロの所有者――キリヲ君の母親、ノゾミさんが言うにはエニグマと言うらしい――としての権利を使って、夜天の書のバグを修正したらしい。
ここまでなら、何も昨日のようなややこしいことになることはなかったはず。せやけど、そこから先が問題だった。

エニグマの権利を行使するためには、必ず誰か代償が必要になるらしい。
キリヲ君は、自らその代償になり、音を失った。
そしてリインフォースは、キリヲ君が音を失ったことも、影(シャドー)化という異変も、自分のせいだと責めている。

・・・どないせぇっちゅーねん。

いや、この騒動はリインフォースのせいでも、キリヲ君のせいでもなく、そのドクロのせいやってことはわかるし、それを言うのは簡単だ。
でも、言っても解決にはならないだろう。
それにキリヲ君がどう考えているのか、それをしっかり聞く必要がある。
けどそれも、キリヲ君が治療方法不明の病(そもそも病かどうかが不明だが)で意識を取り戻していない。

もう一度言う。どないせぇっちゅーねん。

とにかく治療法を探して、キリヲ君に意識を取り戻してもらうのが先決だ。というか、そうするしかない。
キリヲ君の方からもきっっっちり、話してもらわんとな。
そのためにも、この任務はちゃっちゃと終わらせなっ。


―side・out―





―side・シュテル―


キリヲの様態に変化がないまま時間ばかりが過ぎていき、時刻としてはもう夕方。私達は、食堂で夕食を取っていました。
私達と言っても病室にいたメンバー全員ではなく、ノゾミ様と管制人格はいません。代わりにと言いますか、リンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン、エイミィ・リミエッタの3人が加わっていました。

そして私達は、あることについてリンディに話を持ちかけていました。

「――そういう訳で、アリシアを少なくとも学校には行かせるべきかと思いますが」

話の内容は、アリシアについて。
P.T事件の主犯であるプレシアや、キリヲについてよく知るノゾミ様とは違い、アリシアは事件関係にはほとんど無関係。参考人としての重要性もさほどありません。
それに加えてアリシアは小学生。今日はゴタゴタしていたため学校は休みとしましたが、基本的には行くべき。
それを説明して、先の台詞を言ったのです。

プレシアからは何も言ってきません。
それもそのはず。プレシアには事前に、この話の表と裏をある程度伝えましたから。
表と裏――つまり、アリシアの学業を建て前にしてやろうとしていることが、私達にはあるのです。
まあ、ある程度であって全ては伝えてないのですが。

「ノゾミ様はキリヲのことで無理でしょうし、プレシアも過去の経歴からここから放しづらいでしょうが・・・代わりに、カニバルの警戒も兼ねてそちらから誰かと共に居させるのはいかがでしょうか。私とレヴィも行動を共にすることでアリシアの護衛をします」

「うーん・・・」

「確かに、話を聞く限りではキリヲに回復のメドはないから、それも一考だが・・・」

私の言葉を受けて、考える仕草をとるリンディと、賛成に傾こうとしているクロノ。
もう少し押せば、この提案が通るでしょうか。

しかし、同じく考える仕草を取っていたエイミィがアリシアに尋ねました。

「アリシアちゃんはどうしたいかな?今学校に行きたい?」

・・・まずいですね。
実を言うと、アリシアにはこの話の裏を教えていません。教えれば、アリシアまでも危険に晒される可能性がありますから。ですが、話を合わせるようには言っておくべきだったでしょうか・・・。
アリシアが拒めば、それまでになってしまう・・・!

「ぅー・・・学校の友達に心配させたくないけど・・・・・・キリヲお兄ちゃんが心配・・・」

アリシアは俯いていながら、そう小さく言いました。
しめた・・・今ここで吹き込ませれば・・・!

(王、説得をお願いします)

(うむ。任せよ)

王に念話で説得を頼み、それを受け取った王が、リンディらに見えぬようアリシアの後ろに回って何かを言いました。

「・・・うん。じゃあ、学校に行く・・・」

王が言ってから少し悩むような時間があった後、また小さく、アリシアがそう言いました。

(シュテル、うまく行ったぞ)

(ありがとうございます、王。ところで、なんと言ったのですか?)

(なに、学校が終わってから、時折ここに来ればよいと言ってやった。これなら問題なかろう)

・・・まあ、なんとかなるでしょうか。

「それじゃあ、こちらからはクロノとエイミィをつかせましょう。2人も、それで良いわね?」

「はい」

「了解です」

「それでは、早速ですが家に行きましょう。明日も学校がありますし、準備です」

リンディに指名された2人が了承の返事をしたところで私がそう言います。

そしてもう一度、王と念話を繋げます。

(では、王。そちらの方はお願いしますね)

(うむ。・・・我が行けないのは癪だが・・・)

(キリヲにだけ許された権利を行使するのですから、万が一のためです。もしものことがあったら、キリヲのことをお願いします)

(ふん・・・必ずや2人とも我の元へ戻ってくるのだぞ)

(善処します)

さて・・・行きますか。

キリヲを・・・救うために・・・!


―side・out―

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