小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e44.まだ続く絶望










 









・・・・・・・・・。










 









 









・・・暗イ・・・・・・。










 









暗イ・・・真ッ黒ダ・・・・・・。










何モカモ、真ッ黒ダ。





周リモ・・・俺モ・・・。










ソシテ・・・俺ノ中・・・俺ノ精神マデモガ・・・黒クナロウトシテイル・・・・・・。










 









・・・デモ、ソレデイイ・・・・・・。










コレデイインダ・・・俺ガ消エチマエバ・・・ソレデ・・・・・・。





アイツハ・・・・・・。










 









 









 









・・・ン・・・・・・・・・!?










 









何ダ・・・光・・・・・・!?










俺ヲ・・・呼ンデイルノカ・・・・・・!?










ヤメロ・・・来ルな・・・!










来なイデくレ・・・!










もウ・・・嫌なンだよ・・・!










俺ハ・・・俺は・・・!










 









俺は・・・っ!!










 









「―――っ!!」

全身が光に覆われる感覚がして、飛び上がる。

飛び上がってすぐに、俺の知っている顔が視界に入ってきた。

「キリヲっ!」

『キリヲっ!』

・・・おふくろ・・・?


―――カサッ


:キリヲ、私やノゾミさんのこと、わかる?


プレシア・・・?

あれっ、ここどこだ・・・?俺の家じゃねーぞ・・・というかここ、管理局施設?

俺もおふくろもプレシアも・・・なんでこんなとこにいんだ・・・?

俺は・・・何をやっていた・・・?


―――カサッ


:キリヲ君、シャマルよ
シャドー化の様子はどう?なんともない?


シャマルまで・・・?

影(シャドー)化・・・・・・?










・・・・・・あ。

あ・・・あぁぁ・・・っ!

俺は左手で頭を抑え、目を閉じ、震え、縮こまる。

そうだっ・・・俺は、アイツを殺しかけてっ・・・!

それで・・・逃げたんだ・・・!
模写世界に逃げて・・・1人消えようとしたのにっ・・・!

「キリヲっ!?」

「キリヲ君、しっかり!ユーノ君、回復魔法をお願い!」

「わかりました!」

焦ったように聞こえる声と、その後に聞こえる魔法陣の展開音――





―――“聞こえる”?





・・・なんで?なんで目ぇ閉じてんのに、声が、音が“聞こえる”んだよ・・・?
だって・・・だって俺は4年前にドクロに願って・・・それで音を奪われて・・・・・・。

なんだよ・・・何なんだよこれっ・・・!










―――数秒後。



俺はこの世のものとは思えないような、悪魔の断末魔のような絶叫を、部屋中に響かせた。





―side・三人称―


大急ぎで、リインフォースはアースラの廊下を走っていた。
さすがに不眠はいけないとはやてに注意され、昨日の晩は睡眠を取った。
仮眠のつもりだったが、一昨日の不眠の疲れがあったせいか長く寝てしまい、時刻的には普通に朝を迎えてしまった。

そして起きた後、シャマルから入ってきた通信ですぐに睡眠に使っていた部屋を飛び出した。
突如キリヲの影(シャドー)化が回復し、目を覚ました、という内容だった。
一体何が起こったのかは不明らしい。しかしリインフォースにとってそれはどうでもよかった。

キリヲに会いたい。
会って話をしたい。
そして、謝りたい。

その感情が、彼女をより強く突き動かしていく。

キリヲの病室がある廊下へと差し掛かる。
すると向こう側から、こちら側に・・・正確には、同じく病室を目指して走ってくる存在を確認した。
ちょうど、病室前で合流する。
その存在とは、アリシア達であった。

「クロノ執務官!皆も・・・」

「シャマルから話は聞いた。キリヲが目覚めたらしいな」

「はい・・・詳しくは聞いてませんが・・・」

「とにかく、入ろ!一体何があるのか見てみたいし!」

エイミィが言って、病室の扉を開けた。
開いた病室に、リインフォース達はすぐに入っていく。

そして、リインフォースは見た。
ベッドの上で、頭を抱えてうずくまる彼の姿を。
足下には緑色の魔法陣が2つ展開されている。ユーノとシャマルのものだ。
ノゾミやプレシアが呼び掛けているが、キリヲは何一つ反応しない。
その姿からはつい一昨日の凶暴さや、リインフォースが4年前に見たような雰囲気は欠片も存在しなかった。

「どういう・・・こと?」

アリシアの頭にしがみついていたレヴィが困惑したように言う。
状況が呑み込めてないからか、とリインフォースは解釈して、とりあえずシャマルに近寄る。
まずリインフォースに欲しかったのは、現状の説明だった。
近寄るリインフォースに気付いたシャマルが、そっと耳打ちする。

「私達にもよくわからないんだけど・・・急に影(シャドー)化が収まっていったの。肌の色も正常だから、多分、正気に戻ってる。それに・・・声も出せるようになってるみたい」

「声が・・・!?」

影(シャドー)化の説明よりも、こちらの方にリインフォースは驚いた。
声が出せる・・・それはつまり、サイレンス化が治ったことを意味する。

「ええ・・・ついさっき、すごい叫び声を上げたの。それっきり、ずっとこの状態だけど・・・」

「・・・・・・」

自由を望んだから・・・彼はドクロに願い、そして代償として音を奪われた。
リインフォースは、キリヲの音は自分が奪ったものと思い続けていた。
だが彼は今、その奪われていた音を取り戻している。
なら、今の自分がやるべきことは・・・。

「・・・キリヲ」

彼に、謝罪の言葉を届けること。
キリヲのすぐそば、彼の真横に立ち、目線を合わせて声をかける。

すると。
今まで反応を見せなかったキリヲが、ピクリと反応した。
ゆっくりと首が回り、片目がリインフォースの顔を捉える。
手は頭を抱えたままのため、物陰から覗き込んできているかのような、そんな不気味さがあった。

「・・・・・・・・・。・・・・・・リイン、フォース」

それからしばらく――といってもわずか数秒程度だが――の時間を要して、消え入るかのような小さな声でぼそりと、彼は呟いた。
本当に小さな声だが、それでも確かに彼は言った。言葉を口にした。
そしてそれを、リインフォースはしっかりと聞いた。

「・・・っ・・・ああ、私だ。キリヲ・・・!」

自分が原因で彼が背負った呪いが解けている。そのことを実感したリインフォースは胸がいっぱいになり、涙が込み上げてくるのを感じた。
しかし今はキリヲと話をすべく、感情を抑え、彼に話し掛ける。優しく、できるだけ優しく。
しかし――

「―――だよ」

「・・・え?」

「なんで、俺を見つけたんだっ!!!」

返ってきたのは、この病室全体を叩きつけるような度量を持って放たれた、拒絶だった。
彼の頭を抱えていた手はベッドを殴り、双眸はリインフォースを睨み付ける。

「っ!?」

リインフォースはその叫びに、そして彼の顔を見て驚いた。
キリヲの顔は、悲痛に酷く歪んでいた。

「なんで俺を助けたんだよ!!ほっといてくれれば、俺は全部終わらせることができた!俺は、もう全部終わりにしたかったんだ!!」

「キリ、ヲ・・・?」

「もう、沢山なんだよ!こんな理不尽ばかりの世界なんかっ!!」

今まで喋れなかったこともあってか、キリヲの怒声に皆呆然とする他なかった。リインフォースも例外なく、彼の名前を呟くだけで精一杯だった。

「リインフォース、なんで俺を助けたんだよ?お前は俺に理不尽を与えられて、つらかっただろ?苦しかっただろ?俺が憎かったことだってあったんだろっ!?」

「・・・違う、私は・・・」

リインフォースはゆるゆるとかぶりを振って、キリヲの言葉を否定しようとした。
しかしそれを遮り、キリヲが怒声を浴びせる。

「違わねえよっ!!俺は知ってるんだぜ?俺の音が奪われたのが自分のせいだって、そうやってお前が自分自身を責めてるのをよぉっ!!」

「―――っ!?」

リインフォースの目が驚きで見開かれる。
無理もなかった。キリヲがそのことを知ったのは最初のカニバルの件の時のみで。その時彼女は意識を失っていたのだから。

「結局はそうさ!俺は理不尽から救い出すとか言いながら、新たに理不尽をなすりつけるような奴だっ!」

―――違う。

私は、あなたによって救われた。

リインフォースはそう言おうとして、しかし声が出なかった。
以前と同じだ。
勇気が出ず、前進することを恐れるせいで、言葉が出ない。想いが届かない。
立ち止まっていたせいで歩み寄れず、隔たりができ、結果としてあのような悲劇が起きた。

「他人を不幸にしてばっかりの俺なんか・・・呪いをふっかけるような俺なんかっ・・・!」

このままでは、今度こそ彼は壊れる。

その前に伝えなければいけない。

その為には、変わらなければならない。

前進することを恐れてはならない。

「消えちまえば――」

キリヲが、自身を壊すための言葉を放とうとして――





「違うっ!!」





その口は、リインフォースの叫びによって止まった。

時が止まったかのように、キリヲは動かなくなる。
キリヲだけじゃない。彼女の叫びに、この部屋の者全員が固まっていた。
当のリインフォースは僅かに息を乱し、それを整えてから、言う。

「・・・違う、私は・・・・・・私は、あなたがいたから、あなたがあの時私の元に来て、願いを叶えてくれたから、こうして生きていられるんだ。私は、あなたによって救われた・・・」

静まり返った部屋に、彼女の声だけが静かに響く。
声は震えていて、もし誰かが声を出したなら、すぐに掻き消えてしまいそうな程弱々しかった。

「あなたは、誰かを不幸にする人なんかじゃない。救われている人もちゃんといる・・・!」

「だから」と、彼女は続ける。

「だから・・・消えればいいなんて言わないでくれ・・・・・・自分を否定しないでくれ・・・!」

リインフォースの目から、涙が溢れていた。
キリヲは固まったまま、呆然としている。

「キリヲお兄ちゃんっ!」

すると、今度はアリシアが声を上げ、キリヲに近寄ってきた。

「私ね、今すっごく幸せなんだよ!母さんと一緒にいられるし、学校で友達もできた!それに、キリヲお兄ちゃんと一緒にいるのも、すごく、すっごく楽しいんだよ!」

両腕を大きく広げ、動かし、アリシアは必死に主張する。

「どれもキリヲお兄ちゃんが助けてくれたから!私はっ、キリヲお兄ちゃんに救われたんだよ!」

目に涙が溜まり、泣き声になってもなお続ける。

「だから、消えようとなんてしないで!もっと一緒にいてよ、キリヲお兄ちゃん!!」

「・・・・・・」

救われたと主張する、リインフォースとアリシアの2人。
その2人を見るキリヲの目は、酷く虚ろであった。ちゃんと2人を見ているのか、疑わしく感じるくらいに。

「・・・・・・・・・」

やがてキリヲは俯いて、右手で目元を覆い隠してしまう。

「キリヲ・・・!」

リインフォースが再び呼びかける。

「・・・・・・しばらく」

だが。

「しばらく・・・・・・1人にさせてくれ・・・・・・・・・」

返ってきたのは、そんな消え入りそうなその一言だった。


―side・out―

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