e45.おれから見たおれ
彼女達全員に部屋から出てもらい俺は部屋の中で1人、ベッドの上で膝を抱えうずくまっていた。
頭の中で、少し前の2人の言葉が再生される。
『・・・違う、私は・・・・・・私は、あなたがいたから、あなたがあの時私の元に来て、願いを叶えてくれたから、こうして生きていられるんだ。私は、あなたによって救われた・・・』
『あなたは、誰かを不幸にする人なんかじゃない。救われている人もちゃんといる・・・!』
『だから・・・消えればいいなんて言わないでくれ・・・・・・自分を否定しないでくれ・・・!』
『私ね、今すっごく幸せなんだよ!母さんと一緒にいられるし、学校で友達もできた!それに、キリヲお兄ちゃんと一緒にいるのも、すごく、すっごく楽しいんだよ!』
『どれもキリヲお兄ちゃんが助けてくれたから!私はっ、キリヲお兄ちゃんに救われたんだよ!』
『だから、消えようとなんてしないで!もっと一緒にいてよ、キリヲお兄ちゃん!!』
・・・・・・・・・。
・・・何揺らいでんだよ俺・・・あれがアイツらの本心な訳ねぇじゃんか・・・。
アリシアならまぁ、わかるかもしれない。
だけど・・・リインフォースの言葉は、受け入れることはできない。
俺がリインフォースにしてきた、仕打ち・・・。
俺のサイレンス化という罪を着せ・・・
呪われた魔導書だと罵り・・・
そして・・・殺しかけた。
そんな仕打ちを受けて、それであんなことを本心で言えるはずがない・・・普通に考えて、当然な話だろうが・・・。
それに、なぜかはわからないけどせっかく声が戻ったっていうのに、謝りもせず、逆に怒鳴りつけてしまった。
アイツは何も悪くないのに・・・アイツに当たって、反発して・・・。
ホント・・・俺は大馬鹿野郎だ・・・。
そう自分に毒づき、膝に顔を埋め、俺は・・・そのまま眠りについてしまった。
「久し振りだな、もう1人の俺」
「・・・なんでお前がいるのさ」
気がつくと、真っ黒な空間の中。
黒以外に何も存在しない世界の中、俺の目の前にいるそいつに対し、呆れというかなんというか・・・とにかく微妙な反応をした。
コートを着た男。
顔は、可もなく不可もなく・・・言ってしまえば、ありふれたような顔つき。
コイツのことはよく知っている。というか、知ってなきゃまずい。
この間、生きた亡霊として襲いかかってきて、記憶が復元されて死体に戻ったはずの人物。
転生する前の俺・・・炎田浩人がそこにいた。
「なんでって、筆談の時に書いたじゃんか。お前の中で生きているって」
「・・・あれ、ホントだったのかよ・・・」
ってことは、何気に俺って二重人格者なのか。
「いや、表には出てこれないから二重人格者とは違うかな」
そうなのか?
まあ・・・その辺はいいか。
「で?話は戻すけど、一体何の用があって来た?」
俺はそう言って本題に入ろうとした。
すると・・・
「何の用、か・・・どっちかって言うと、それはこっちが聞くべきことなんだけどな」
・・・?どういうことだ?
呆れたような浩人(おれ)の表情と言葉に、俺は疑問を持った。
こっちが聞くべきこと?まるでその言い方じゃあ、俺がお前を呼んだような・・・
「ああ、お前が俺を呼んだんだ」
「なんで俺の思考が読めるんだ」
「お前の記憶は俺の記憶」
ジャイ○ンかお前は。
「いいじゃないか、おかげで話を早くできるんだし・・・・・・リインフォースに対してどうすればいいのかわからなくて、その答えが欲しいんだろ?」
「・・・・・・・・・」
俺は押し黙った。
・・・図星だ。
「お前の中では、自分が悪かったってわかってるんだろ?ならまずは謝って、それから償っていけばいいんじゃないか」
・・・簡単に言いやがって・・・それができりゃあこんなに悩まないよ・・・。
「・・・お前、ホントに転生前の俺なのか?なかなか実行に踏み切れず、いつまでも踏みとどまる性格、お前がよく知ってるはずだろ?」
「ああ、知ってる。ついでに他人事とか実感が湧かないことについてはとても楽観的な性格であることも」
・・・そうだったな。
そして自分には関係ないからって、どうでもいいと思って、見てみぬふりをして、自分だけを守って・・・そういう奴だった。
転生して原作に介入しようとしたのは、そんな自分から変わりたいと思ったのも理由かもしれない。
けど・・・実際には救うどころか新たな理不尽を押し付けちまうし、そんな現実から逃げようと、自分を守ろうとしていた。
全く、俺は変われていない。
そこまで考えてふと浩人(おれ)を見るとその思考を呼んでいたのか、フッと笑っていた。
「ああ、確かにそうなのかも知れない。でも、変われないって言うなら、変わらないなりのやり方があるんじゃないか?」
「・・・変わらないなりの、やり方?」
「忘れたか?一度実行したら、お前は開き直ってやりきる奴だったこと」
「・・・?」
「実行しちまえば、後は何とでもなるってことさ。転生する前はよくあっただろ?嫌な役回りさせられた時、嫌だ云々言いながらも一度実行したらなんだかんだで自分から進んでよくやってたじゃないか。その時のように実行したら引き返せないようにすればいいんじゃないか?背水の陣って奴?」
・・・・・・。・・・言い当て妙じゃないか?
それに・・・。
「それと、これは同じ問題じゃないだろ・・・」
「いーや、なんとかなるもんだってっ」
言って、浩人(おれ)は俺の背後に回って背中をバシバシ叩いた。ここが精神世界だからか、痛みはない。
「ほら、こんな夢ん中にいないで、さっさと行動したらどうだ?立ち止まってても何も始まらないことぐらいは、わかるだろ?」
「・・・お前、ホントに俺なのかよ・・・それとも他人事思考か?」
「前に書いたけど、お前はネガティブになりすぎだ・・・少なくとも、俺よりネガティブになっちまってるぞ」
・・・そうだな。そこは、否定しない。
「それにお前、アイツらに償ってやるって、そう俺に誓ったんじゃなかったのか?」
・・・そうだったな。いつの間にか、忘れてた。
「償い方なんて誰もわからない。だから、色んな償い方をして、たくさん償って、そうやって人は贖罪をしていくんだろ?何もしないで諦めてちゃ、何もできたもんじゃないぜ」
・・・そうだな。まずは実行、か・・・。
・・・ったく、自分に色々教えられる俺って、なんだろな。普通なら、過去の自分を乗り越えて今の自分を生かすってのに、これじゃあ逆じゃないか。
「・・・ほら、さっさと行けよ。口下手なのにここまで話をさせられる俺のことも考えろよっ」
「・・・それが本音かよ」
浩人(おれ)の本音に呆れた。確かに、本来の俺は口下手だったな。
「・・・・・・じゃあ・・・な・・・」
俺はそう短く言って、浩人(おれ)に背を向けて歩き出した。
ホントはもう一言ぐらいは言いたかったのだが、魂が同じとだけはあるのか、転生した後も結構な口下手らしい。
「――――おいっ、キリヲっ!」
「・・・?なんだ?」
しかし歩き始めてすぐ、浩人(おれ)が声をかけてきた。しかも名前呼びで。今まで「お前」とか「もう1人の俺」という呼び方だったから少しだけ驚いた。
俺は向き直ったが、浩人(おれ)は何かを言おうとして、しかし何か言いづらそうに口ごもった。
何度かそれを繰り返して、そして意を決したのか、口を開いた。
「俺は!お前のおかげで“救われた”んだからなっ!お前が今考えているような、お前が誰一人として救うことができない世界は有り得ないからなっ!!」
「―――――」
そしてそのすぐ後、前のように光に包まれる感覚がした。
「・・・・・・」
眠りから覚めて、俺はうずくまった体勢から顔だけ上げた。
視界に入ったのは殺風景な部屋。耳に入ってくるのは一定のリズムで静かに鳴る機械の音。
「・・・・・・」
無言のまま、俺はベッドから降り、ベッドの横にある棚に置かれていた俺の荷物を漁る。
そしてコートのポケットから、携帯を取り出した。
携帯をチャンネル[es]に切り替る。
久し振りにチャンネル[es]を使う訳だが、表示された原作キャラが意外に少なかった。まあ、誰かと接触することなんてまずないだろうし。それでもそこそこの人数はいた。俺の家族は当然として、なのは、アリサ、すずか、リインフォース、シャマル、ザフィーラ、クロノ、ユーノ・・・こんなとこか。
電波の本数は家族を除けば、リインフォースが唯一の3本だった。あとは1本から2本程度。
電波の本数は、ほぼそのまま俺への信頼となっている。信頼が強い程、通信(テレパス)でより情報が引き出せる。
「・・・・・・。救われた、か・・・」
アイツらも、口を揃えて救われたって言ってたな。
・・・相変わらず、俺はネガ思考だ。まだアイツのその言葉が信用できない。
このチャンネル[es]の画面を見ても、だ。
・・・だが、それが謝らない理由には当然ならない。
リインフォースの名前にカーソルを合わせて、ボタンを押そうとして・・・止まった。
押せない。
正確には、押そうと踏み切ることができない。
本当にこれでいいのか、それが疑わしくなる。
・・・だが。
だが、動かなければ、進まなければ、俺は変わることができない。
変わりたい・・・。
進みたい・・・!
そして
押した。
もう、後戻りはできない。
前に進む。それだけだ。