e46.本当の救い
―side・リインフォース―
『リインフォース・・・聞こえるな?』
「っ!?」
彼の声が聞こえたのは突然だった。
あの後緊急で任務が入り、現場に向かっている最中、突如頭の中に声が響いた。
突然のことに驚き、飛翔を一旦止めてその場に立つ。
「どうした?リインフォース」
「あ、いや・・・なんでもない」
共に来ている、将の質問にとりあえずは誤魔化しておく。
『通信(テレパス)の才能で、お前の思考に直接声をかけてる。そのまま聞くだけでいい』
また声がした。
通信(テレパス)・・・ノゾミさんからの話にあった才能だ。4年前に音を無くしてから、使うことはなかったらしい。
・・・その通信(テレパス)を使ってまで声をかけてきたということは、何か大事な話に違いない。
その結論に達した私は、飛翔を再開しつつもキリヲの声に集中する。
『話がある・・・夜の12時に桜台で待ってる。来るか来ないかは、自由だ・・・・・・それだけだ。じゃあな』
「あっ・・・」
声をかけようと思ったが、任務中であることと、そして電話が切れるのに似た音で叶わないものとなった。
・・・あの場所で、か・・・。
―side・out―
午後11時19分、海鳴市、桜台。
辺りは真っ暗で、1つある街灯が唯一の明かりとなっている。
そんな場所に俺は、木を背もたれにして座っていた。
俺が指定した時間までは、まだ30分以上もある。
俺は何をすることもなく、ただ空を眺めていた。
ここから眺める星空は綺麗なのだが、あいにく今日は曇天だった。
・・・そういえば、アイツと初めて会った日も、あの事件の日も、こんな風に星は見えなかったっけ・・・。
・・・まあ、それはいいとして。
俺にとっても、リインフォースにとってもいい思い出なんてないこの場所。わざわざここを指定したのには1つ理由がある。
まあ、かなり個人的なものだし、ここにリインフォースを呼んでどうこう、というものもないから、話自体はここじゃなくってもよかったんだが・・・。
ん・・・・・・夢日記・・・?
こんな時間に予知が起こるなんて珍しいな・・・。
緊急事態(メーデー)だとしても・・・さすがに今回は無理か・・・。
「キリヲ?」
「ん・・・来たのか」
声で目が覚め、顔を向けると、少し離れたところにリインフォースがいた。
携帯を使って時刻を見てみる・・・11時32分。早いな・・・まだ30分近くもあるじゃないか。まぁ、それはそれでいいか。
彼女の姿を確認した俺は立ち上がり、服に付いた汚れを軽く落とす。夢日記は、こんな暗さだとまともに見えないだろうし、そのままでいっか。
「悪かったな、こんな時間に、こんな所に呼び出すなんてさ・・・でも、思い出すには再現が一番いいからな・・・」
「・・・思い出す?」
「俺が影(シャドー)化していた時のこと・・・俺は当時何やってたのかを、な・・・」
そう、俺はただそれだけのために夜遅くにここに居座った。その直後で、彼女と話をしようと思った。
「疑り深い人間みたいでな、俺は・・・どうやってここがわかったのか、確認したかったんだ。それでちょっと、リインフォースの記憶を見たんだけど、急にここのイメージが浮かび上がったらしいな」
「・・・ああ。なぜ急にあそこを思い立ったのか、私もよくわからなかったが・・・」
「・・・ははっ・・・そういうことだったんだな・・・」
彼女のその返事を聞いて、俺は軽く笑ってしまった。
理解した。俺がなぜ見つかったのか、そのからくりを。
俺が本当に半端者だっていうことも・・・。
「キリヲ・・・どうして笑うんだ・・・?・・・それも、そんな悲しそうに・・・」
「・・・教えてやるよ。お前がなんでここに気づいたのか」
「・・・え?」
「俺は半端者だから、消えたいと思ってる中で助かりたい、助けてくれって思ってた。お前は罪として受け入れすぎて、あの時の俺まで受け入れてた。この2つが重なって、俺達は繋がったんだ」
漫画のエニグマはどうだったのか、もうほとんど覚えてないが、おそらく通信(テレパス)には電波の本数が最も多い人と自動的に思考の送受信する機能があるんだと思う。
リインフォースの頭の中に浮かんだ映像は、それによって彼女が受信した俺の思考だ。
「馬鹿馬鹿しい話だよな、消えたいとか言っておきながら、結局はそれを怖がって、こうしてのうのうと生きちまっているんだから・・・」
「キリヲ・・・」
ホント、馬鹿馬鹿しくって笑えてくるよ。
言ってることとやってるけとが違う、というのはそれなりにある話だが、俺の場合は言ってることと思ってることが違う、だ。一体どうしたらこんなことになるんだろうか。
・・・さて、疑問が解決してスッキリした。そろそろ、頃合いだろうか。
「・・・そろそろ、本題に入ろっかな」
「本題・・・?」
言って、俺はリインフォースと目を合わせた。
さっきまでは空を眺めたり、遠くを見る目をしたりして彼女を見てなかった。アースラの時もまともな目で見てなかった。だから、今日彼女の目を、顔をちゃんと見たのはこれが初めてだ。辺りは暗いが、街灯のおかげで顔は見える。
不安と心配が入り混じったような目をしていた。それに加えて、少しやつれているように見える。
俺が、アイツに心配かけさせた証拠だ。
償うために・・・ずっと待っていたんだな・・・。
「リインフォース」
名前を呼ぶ。
そして俺が伝えるべき思いを、言葉にする。
「今まですまなかった」
「・・・!」
「いらない罪を感じさせて、避け続けて、罵ったり殺しかけたり・・・他もたくさんだ。今の今まで、悪かった」
「え、あ・・・」
随分穏やかな表情をしてるってことは、俺自身でも感じ取れた。
多分、開き直っているからだろうとわかった。どれだけ泣いて謝罪しようが、俺が仕出かした罪が消えることなんてない。
言葉や表情では償いにはならない。それぐらい、俺もわかる。
なら、行動で償おう。何をすればいいのかわからない。ならわからないなりに色々やっていけばいい。いくらでも贖罪を続けていけばいい。
「私は・・・!」
「今ここで許してもらおうなんて思ってない。・・・いや違うな。一生許しを貰うつもりはない。これから先、ずっと償っていくつもりさ」
彼女が罪を感じさせないように、彼女の言葉を遮って言うだけ言う。
そうだ・・・これでいい。
許しを貰う必要なんてないし、欲しいとも思わない。これから先、彼女に償い続けて・・・彼女が幸せになれるように、それを思って償っていけばいい。
ふぅっと、小さく息を吐いて、穏やかな、微笑んだ表情で一旦目を閉じた。
結局、アイツの言うとおりだったか。
よく俺もここまでスラスラ言えたもんだ。
「それだけだ、お前に話しておきたかったのは・・・・・・こんな時間なんだし、早く帰ろう。八神家まで送ってくか?」
言って、俺はエスコートする時によくあるような感じに彼女に手を差し出す。
らしくないことしてるなとは思ったが、礼儀みたいなもんだろうし、別に恥ずかしいとはあまり思わなかった。
それからは、リインフォースは俺の手を取って、八神家まで送ってやって、俺も家に帰って、明日から始める予定の彼女への償いのために寝る。
どうすればいいんだろうか。奉仕活動としても、一体何をすればいいのかわからない。とにかく彼女の望むように、色々考えていくしかない。
そう、考えながら。
の、はずだった。
リインフォースは俺の手を取るどころか、直接俺に抱き付いてきた。
抱きつかれた勢いで後ろに倒れかかるが、なんとか持ちこたえた。
背中に回してくる腕が、結構な力を入れてるのを感じた。
「・・・リインフォース?」
「今度は・・・私の番だな・・・」
リインフォースの、番・・・?
・・・何言ってんだよ。お前は何も悪くない、寧ろ被害者だったじゃないか。謝る必要なんてない。
俺はその思いを、そのまま言葉にしようと口を動かした。
「何を、言って「何も言わずに、私の話を聞いてほしい」―――」
リインフォース・・・お前、何を・・・。
彼女の表情は見えなかった。
いや、俺の頭の真横、俺の左肩にあるため、見ようと思えば首を回すことで見えるのかもしれない。
だがなぜか、彼女の表情を見ようと思えなかった。
「私から話したいことは2つある。まず1つ・・・・・・今まですまなかった。私が非力なせいで、私に勇気がないせいで、あなたを今までずっと苦しめてきた」
・・・違う。
さっきも言おうとしたけど、お前はただの被害者だ。ただ俺に振り回されてきた・・・お前が謝るのは筋違いだろ・・・。
「だからこれから、私もあなたに償いをする。何をすればいいのかわからないが、できる限りずっと償い続けるつもりだ」
違うって・・・。
お前は罪を感じる必要も、償いをする必要もないって・・・。
「そして、もう1つ」
もう・・・いいだろ・・・。
俺はもう、お前の悲しむ顔なんて・・・・・・
「ありがとう」
・・・え?
「あの時、私を救ってくれて・・・私に自由を与えてくれて・・・」
・・・救った?俺が?お前を?
言ってるのは、おそらく4年前のあの時だろうが・・・確かにあれでリインフォースは夜天の書に戻った。助かった。
でも同時に俺のサイレンス化の現実も知って・・・彼女の苦痛の始まりでもあったはずだ・・・。
だから、救えたはずなんて・・・。
「罪悪感で霞みそうになっていた。だがこの思いも、ずっとずっと伝えたかった・・・!」
「・・・違、う」
俺の声が、震えていた。
怯えなどとは違う、まるで、浩人とは別の意味でもう1人の俺が俺を休ませようとしているかのようだった。
もう、いいんだと。互いに苦しみあう必要はないんだと。
だけど所詮は、そういう錯覚。震えながらも、声は出ようとする。
「俺は・・・何にも救えてない、礼を言われるような奴じゃない・・・・・・俺なんか「確かに疑り深いな、あなたは」―――っ」
「あなたが来ていなければ、あの時私は消滅していた。そんな私が今こうして存在しているのは、紛れもなくあなたのおかげ・・・あなたが、代償に自分を捧げてまで私の生存を望んだからだ」
今まで拒絶してきた優しい声音が、俺の耳に真っ直ぐ入っていく。俺の真に染み渡るような、そんな感じがした。
なんでだろう。今まで・・・つい今朝にも同じ声を聞いたはずなのに・・・。
目頭が熱くなってくる。
リインフォースは顔を離し、彼女の細い指を熱くなっている俺の目元に押し当てた。
いつの間にかぼやけていた視界がクリアになり、彼女の、潤んだ瞳を持って且つ微笑んでいる顔がはっきりと映った。
「必要であれば、私は何度でも言おう。だから・・・まずはもう一言言わせてほしい
私を救ってくれて、ありがとう」
俺の中の何かが、決壊した。
目の前にいる彼女を抱き寄せ、力任せに締める。
「キリヲ・・・少し、苦しいぞ。もう少し加減できないか?」
「うっ・・・うぅ・・・っ!」
少し困惑したような、呆れたような、そんな声が耳に入ったが俺は情けなく嗚咽を漏らすだけだった。
―――そうか。
俺はずっと、この言葉をかけて欲しかったんだ。
今まで、俺の存在する意味がわからなかった。
救おうと思ったら不幸にしていて、逃げようとしたら簡単に退路を断たれて。
俺は俺の行動に、正しさを見いだせなかった。
俺はずっと、俺を肯定してくれる人、そして場所が欲しかったんだな・・・。
「リイン、フォース・・・っ!」
「あぁ・・・私で良ければ、ずっとあなたのそばにいよう。あなたのおかげで、私はずっとそばにいられる」
優しい言葉と共に、リインフォースも抱き締めてくる。
包み込むようなその言葉と抱擁に、俺は声も無く泣き続けた。
いつの間にだろうか。
俺の心を表すかのように、空は曇天から綺麗な星空に変わっていた。
7がつ6にち
うみなりしがみえるばしょでりいんふぉーすとなかなおりしました。
りいんふぉーすがとてもやさしくて、ぼくはないてしまいました。
そらはほしがきらきらしてて、きれいでした。
俺は
祝福の風によって救われた。