e47.色々と裏話があるようで
7月7日。
今日は週末で学校は休み。
リインフォースと和解した俺は今日、朝食取ってからアースラに来ていた。
理由と言えば、リンディに呼ばれたから。
呼び出された理由と言えば、先日の騒動しかないだろう。
まあ、当然だ。当事者なんだから。
といってもことの顛末は知ってるだろうし、おふくろがいたんだから才能とドクロのことも聞いてるだろう。
だから話す内容は・・・俺が仕出かした罪についてだろうか。管理外世界での魔法の使用とか殺人未遂とか、あと確か夢日記でミッドチルダの記述をしたことがあった気がするから、無断渡航もバレてるか。『大火星王の宴』の運営者だってばれてたらもっと追加されそうだし・・・あれ、俺の人生詰んでる?
どれも弁明のしようがないけど・・・なんとかなんないかなぁ・・・せっかく和解して、これからだっていう時に・・・。
「なんとか減罪できないかな・・・無限書庫での資料整理とかを事前奉仕活動として」
「・・・何をブツブツと呟いているんだ?」
「つーか、クロノお前請求する資料が多いんだよ。ユーノの愚痴が半端なかったぞ。俺も無償で手伝ってたんだからな?」
「・・・そういう経緯があったのか・・・」
先導しているクロノに愚痴ると、クロノが溜め息をついてきた。
どうやら、ユーノからは友人だという話はしているらしい。
まあ、ユーノには俺のことは言わないように頼んでたからな。友人と言われて少しは驚いただろう。
「ところで、俺についてはどこまで説明があった?」
「君の母親からは君の才能とドクロについて、プレシアからはPT事件の裏であった出来事、そしてリインフォースから彼女が助かった経緯についての説明があった」
「なるほど」
俺に関することについて、ほぼ全部知られているという訳だ。
・・・そういや今1個思い出したが、PT事件についてで俺はプレシアの逃亡援助も公務執行妨害として含まれるんじゃね?
おいおい、ここまで来たらもはやオーバーキルじゃん。やべっ、なんか笑えてきた。
こりゃ、冗談抜きで何十年と刑務所で生活することになるんじゃないか?というか、なるだろ。
「さて・・・着いたぞ」
そうこうしてる内に、部屋の前についてしまったらしい。
やべーよ、こっちにはこの圧倒的不利な状況を切り抜ける要素がないよ。完全に詰みゲーだよ。
「失礼します。艦長、忌束キリヲを連れてきました」
・・・などと考えてる間に、クロノがとっとと部屋の中へと入っていく。遅れないように、慌てて俺も部屋に入る。
と、そこには。
「はい、いらっしゃい。さ、楽にして」
お茶、座敷、盆栽、鹿威し、その他諸々・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・えーっと・・・。
・・・ああ、思い出した。
確か艦長室ってアニメ1期でこんな感じ・・・だったんだっけ?
いかん、だいぶ忘れてきたようだ。
まあ、記憶の風化は仕方ないよなぁ・・・。
とりあえず、座敷の上に正座しておく。クロノはリンディさんの隣に座った。
ヤバい、緊張してきたな・・・。
「そんなに緊張しなくていいのよ?話をするだけなんだから」
「・・・緊張の理由がその話の内容にあるってこと、わかってて言ってますよね?」
「あら、バレてた?」
「当然ですよ。だからさっさと、話を進めてくれませんかね」
長々と話し込む気がないので、話の催促をする。
敬語の理由?犯罪者が提督に対してタメ口をするメリットがあるはずないだろ。
良く言えば印象を良くするため、悪く言えば媚びを売るため。度胸がないとか情けないとか言うが、所詮人は最初の印象だ。
「じゃあ、今回の事件のことを詳しく話してもらえるかしら?」
「もうすでに、報告とかで聞いてるんじゃないですか?クロノから過去に俺がやったことについても説明はされたって聞きましたし」
「多方面から見れば、それだけ判断がつきやすくなるでしょ?影(シャドー)化というものがどれだけ影響を与えていたのか、それも重要な判断材料なの」
なるほど、影(シャドー)化された俺の視点か。
しかしなぁ・・・。
「・・・影(シャドー)化している時の記憶、曖昧なんですけど」
「覚えてる範囲でいいわ。どういう時に、あなた自身はどう思っていたのか、それを教えてもらえるかしら」
「・・・わかりました」
それから覚えてる範囲で、影(シャドー)化してリインフォース達に襲いかかっていた時のこと、模写世界に逃げ込んだ時のことを説明した。うまく説明できたとは思えなかったけど、取りあえず一通りは説明しきった。
「・・・こんな感じです」
「なるほど、わかったわ」
説明を終えると、リンディさんは納得したように頷いた。
「なら今回の事件については、レアスキルの暴走による事故ってことで不問になります」
ああ、そうですか。
・・・・・・ん?
「はい?」
「ただし、それを立証するために色々と手間がかかるけどね」
え・・・不問?つまりは、無罪?
「あの」
「ん?何かしら?」
「いや、その・・・レアスキルの暴走だから不問って、そんなのアリなんですか?俺はほら、リインフォースを殺しかけてもいるんですし」
「アリよ。レアスキル保有者がそのスキルの制御が難しかったり、制御する力を持ってなくて暴走というのはよくある話で、その場合には術者を責めることはないの。勿論、明確な悪意があって、故意に暴走を起こしたとなればそれは厳罰になるんだけど、キリヲ君はそういう訳じゃないのでしょう?」
「え、あ、はい」
いきなりの無罪宣告に逆にビックリしてしどろもどろになるが、なんとか答える。
リンディさんの質問には当然Yes。なんでリインフォースを殺したいと俺が思うんだ。
「なら問題はないわ。ただ、それを立証するためにあなたの持つ才能をレアスキルとして登録して、よく調べる必要があるわ。それと・・・」
「・・・危険性の高いスキルを持つ俺を、そちらで管理する必要がある」
「ええ、その通りよ」
これは予想がついていた。有罪であろうが無罪であろうが、俺の力がバレた以上俺が管理局に入れられることは。
これについては断りようもないだろう。俺の才能には、影(シャドー)化以上に危険性の高いものが多い。
仮に断れば、俺は今後魔法を使えないようにされる。
それはマズい。まだやりたいことも、やるべきことも俺にはあるんだ。
「まあ、それは仕方ないですよ。俺も選択する権利はないと同じでしょうし・・・俺がやってきたことを考えて、しばらくは奉仕活動ですかね?」
「ごめんなさいね・・・それと、奉仕活動?」
ん?
なんでリンディさんが疑問符つけてんだ?
仮に大火星王の宴のことを知らなかったとしても、他にもやらかしたことはあるんだし・・・。
「いや、あるじゃないですか。異世界無断渡航とか、PT事件においてプレシアの逃亡に手ぇ貸したとか」
「ああ、それね」
納得した様子のリンディさんは、次に予想外の発言をした。
「大丈夫よ。どちらも問われはしないから♪」
・・・は?
「無断渡航については、こちらから注意はするが罰を与えるほどではない。それと、プレシアについてなんだがな・・・」
クロノはそこで意味深げに言葉を切った。
一体なんぞ。
そしてクロノは深い溜め息混じりに、言った。
「・・・PT事件のプレシア・テスタロッサと、君の家に居候しているプレシア・テスタロッサは別人という扱いにするんだ」
「・・・はあ?」
どゆこと?
「だから、そのままの意味だ。すでに報告としては、プレシアは死んでいる扱いになっているからな。今生きているプレシアとアリシアを、“地球出身”ということにする」
「・・・マジで?」
「マジだ」
「・・・滅茶苦茶な話だとは思わない?」
「それぐらいわかってる・・・」
諦めたように、再び溜め息をつくクロノ。
隣のリンディさんはニコニコしてるし・・・アンタが主犯か。
「私も一児の母よ。家族で一緒にさせてあげたいの」
まあ、プレシアが無罪になるのはこっちとしても嬉しいけどさ、アンタらはそれでいいのか?
「それに言ってみれば、これはあなたのためでもあるのよ?」
「はい?」
なんか今日疑問符浮かべること多いな、俺。
それはそうと、俺のためってどういうことだ?
「あなたがアリシアを蘇生させたり、プレシアの病を治した経緯について聞いたけど、それをそのまま報告すればマズいことになるのよ」
治療の経緯・・・・・・ジュエルシードのコピーを使って・・・
「ジュエルシードのコピー・・・言ってみれば、ロストロギアの複製と操作を行うことができる能力は、悪用されれば非常に危険なことになりかねないわ。仮にジュエルシードだけで考えたとしても、複製できる数は管理局で保管されている18個・・・つまり18回分、願いを無条件で叶えることができる。そのことが知れたらどうなるか、あなたならわかるわね?」
「・・・・・・」
正確には、時の庭園に行くために1個使ったから17個だけどね。
だけど、これは数の問題なんかじゃない。
強力だがリスクの高いものが多いロストロギアを、ノーリスクで扱うことが可能となる俺の才能・・・それを見逃すほど世界は甘くない。管理局の暗部は、確実に俺を狙うだろう。
今まで深く考えてなかったけど、このコピーの才能は・・・危険だ。
いや、コピーだけじゃない。他の才能やドクロについても、狙われる危険は高い。
・・・なるほどね、リンディさんともなれば管理局の暗部は理解しているはず。そういう輩に悪用されないように、俺が能力を利用してやってきたことを隠蔽するってことか。
管理局入りについても似たような感じだ。暗部の手が届かない、そして自分の手の届くところに置いて守るってのもあるのか。
しかも、戦力の増強になるし、こちらはある程度ミッドと地球の行き来が合法的に、自由になる。
・・・完璧。ここまでは完璧だ。だけど・・・。
「・・・えっと、キリヲ君?」
・・・おっと、長考しすぎてたか。
「ああ、すいません。考えすぎてました・・・・・・把握しました。俺の力が狙われないように・・・ですよね」
とりあえず、先の質問の答えを述べてみる。
リンディさんは「ええ」と頷いて、肯定の意を表した。
「わかりました。ならそちらにお任せします・・・後は、今後やるべきこと、ですかね?」
「ええ。あなたの才能についてのテストとか、魔導師ランクを測定するための模擬戦とか。それでしばらくは本局にいてもらうことになるわ。その後でカニバルについての話とかもあったりするけれど、いいかしら?」
「構いませんよ。どうせ学校では不良で通ってるんですし、多少休みになっても問題ないです」
「それ、ある意味問題じゃないかしら」
「どうですかね」と言いつつ、俺は立ち上がった。話す内容が尽きたんだし、ここの長居は無用だろう。
「ああ、ちょっと待って」
「?なんですか?」
が、扉へ向かおうとしたところにリンディの呼び止めが入った。
身体を捻って、顔をリンディさんの方へ向ける。
「狙われる危険の高い、コピーの才能とドクロのことは秘匿にしておくわ。だから、あなたもあまり表に出さないようにね?」
・・・ああ、理解。
「コピーはともかく、ドクロはまずそう簡単には使いませんよ。ただでさえリスクが高い上に、ストックも2回分しかないんですから」
そう返答して、俺は部屋から出た。
廊下を歩きながら、俺は思考をしていた。
内容は途中まで考えて中断した、あのことについて。
リンディさん・・・いや、提督の方がいいか。リンディ提督の考えは確かに完璧だ。
が、それは“リンディ提督ができる範囲内では”という前提条件がつく。
提督が最高権威ではない以上、それ以上の権力から狙われたら、さすがにリンディ提督でも俺を守ることはできない。
・・・まあ、それを防止するための一部の秘匿でもあったりするのか。
それに、俺にはエニグマの権利があと2回ある。もしもの時には、緊急脱出もできなくはない。
・・・まあ、そんな非効率な使い方はしないに越したことはないけどな。
「あっ、キリ!」
休憩所へと着くと、レヴィらマテリアルズが飛んできた。俺がアースラに行く時についてきて、ここで待っていたのである。
そしてレヴィは満面の笑みで俺の髪の中に入っていく。何気に数日ぶりなんだな、これ。
ちなみに朝食の時に、俺の影(シャドー)化が治った理由をシュテルからこっそりと聞いている。説明を聞くまで、笛のことすっかり忘れてた・・・。
荒れていた時に聞いたら、間違いなく当たっていたんだろうけど、今はシュテルらに感謝している。理由は、言うまでもない。
あと背中以外の古傷を全て治してもらったのもありがたかった。おかげで動きやすい。
「キリヲ、リンディ提督と何を話したの?」
椅子に座っているプレシアが、顔をこっちに向けていた。プレシアもマテリアルズ同様についてきたのである。
「俺が限りなく無罪になるって話と、俺が管理局入りするって話」
「・・・そう。あなたはどう答えたの?」
「了承した。バレた以上避けることは無理だと思ってたし、近いうちに入ろうかと思ってたし」
「そう・・・気をつけるのよキリヲ。管理局上層部には、危ない考えの人も少なくないから」
「その話は聞いた。ドクロとコピーの才能は秘匿にするってさ」
・・・ところで1つ、余裕ができたら聞きたいと思ってたことがあるんだった。
「ところであの時も思ったんけど、なんでプレシアがアースラにいるんだ?フェイトもアースラに来たんだろ?」
「ん?・・・ああ、フェイトね」
・・・なんかまた何かありそうだ。ないのはないで不自然だけど。
「フェイトとはね・・・もう和解したの」
「・・・マジ?」
「ええ、マジよ」
いつの間に・・・ああ、俺が意識をなくしてる時か?
けど、プレシアは元々フェイトを嫌悪してなかったっけ?
「私がアリシアを連れて異世界を渡っている間に、私の心に余裕ができてね・・・それで色々気づいたのよ。フェイトがアリシアの代わりになるはずがないってことも、フェイトにとても酷いことをしてきたってことも」
「・・・・・・」
「・・・都合のいい話よね。散々酷い目にあわせて、アリシアが戻ってきたからってこんな考えを持つなんて」
・・・思い出した。地球で最初にプレシアと再開した時、フェイトの名前を出した時に見せたあの表情・・・あれはそういう意味だったのか。
「あなたが暴れ出して、アリシアがクロノ執務官に保護される時に、私もアースラに連れて行ってもらったのよ。フェイトに謝るために・・・勿論、影(シャドー)化についてとかを話したりするためでもあるのよ?・・・そしてフェイトと会って、謝ったわ。私が、都合のいい考えを持ってるってことも話した上でね・・・」
「そしたらね」と続けるプレシアの目には、うっすらと涙が溜まっていた。
「フェイトが、泣きついてきたのよ。母さん、母さんって・・・そして私を許してくれた・・・!」
当時のことが脳裏に蘇ったのか、プレシアの目から涙が溢れていた。
涙を見せないようにとプレシアは少し俯いていたが、少ししてすぐに顔を上げ、笑顔を見せた。
「改めて、ありがとう。あなたがいなければ、私はアリシアを取り戻すことも、フェイトと向き合うこともきっとできなかったわ」
「・・・俺がやったのは、アリシアの蘇生だけなんだけど」
「そのおかげで、フェイトと向き合うチャンスができた。このチャンスを作ってくれたのは、間違いなくあなたのおかげよ」
「・・・そうかよ」
結局は、みんな救われた、か・・・。
アイツは、ここまで見越していたのか・・・?
・・・どうでもいいか。
「そんじゃ、俺はレアスキルと魔導師ランクの登録とか、その他諸々で何日か本局で過ごすから、おふくろとアリシアにそう伝えてくれ」
「あら、学校は?」
「別に、俺不良で通ってるし」
「それ、問題だと思うわよ?」
アンタもかプレシア。
・・・当然か。
「・・・喉と耳使えるようにする手術で休んでたってことでどうだ?」
「まあ、それでいいのかしら?」
どうだろう。
「ま、なるようになるだろ」
「そうだといいわね・・・それじゃあ私は行くわ。暇があればアリシア連れてまた来るから」
「ああ」
プレシアは椅子から立ち上がり、そのまま去っていった。
残ったのは俺とマテリアル3人娘。
「さて、検査は明日からだし、用意された部屋でのんびりしてるかっ」
「えーっ?せっかくなんだし探索しようよー!」
「大人しくしていた後の第一声がそれか」
「しかしまだ午前ですし、本局の施設の把握は十分しておいた方がよろしいかと。道に迷いますよ?」
「大丈夫だ。いざとなれば通信するから」
「これ以上我を退屈させるでない!いいからさっさといくぞっ!」
「自分からついてくとか言ってただろ王様」
さて、明日から頑張りますか。