小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e52.お前が嫌いだ





「なっ―――!?」

驚愕の色に豹変する神崎。
俺の左手の甲にあるのは、俺の勝利、相手の敗北を告げる一面黒のコイン。

・・・計画通り、俺は勝った。
後は、ここからだな・・・。

「い、イカサマだっ!」

しばらく硬直した後、神崎は指をこちらに突きつけてそう叫びだした。

「この卑怯者が!コインの表裏を入れ替えただろっ!」

予想通り、神崎は俺がイカサマをしたと言い、罵ってきた。
卑怯者、か・・・。

確かに、不正解ではあるがイカサマをしたという事実はあるし、イカサマが卑怯だというのが一般論だ。

だが。

「卑怯者か・・・そう言う権利が、お前にあると思うか?」

「―――っざけんじゃねぇぞてめぇっ!!」

俺の言葉にさらに激情し、胸倉をつかみかかってきた。
キレさせるつもりで言ったが、これには少し驚いた。
・・・大丈夫だ。ここからは、反論させない。

「何を根拠にイカサマだと言えたんだ?お前がついさっき言ったように、コイントスなんて運じゃないか」

「ぐっ!・・・だが、てめぇだって言ってたじゃねぇかよ!俺に勝つ権利はないって!つまり、俺が負けになる方法があったってことだろっ!」

「残念だけど、それじゃあ証拠としては不十分。だが、お前は俺がイカサマをしたと言った。つまりそれって、コインがどっちを向いてるか知ってたってことだろ?イカサマ以外のなんでもないよな?ついでに言えば、さっきの勝負は映像として記録してある。解析すれば、お前が何をしたのかわかると思うぜ?」

「ぐぐっ・・・だ、だが!」

まだだ。完膚なきまでに追い詰める。
奴が負けを自覚するまで、徹底的に・・・!

「まあ、イカサマについては否定するつもりはないさ。だが、お前は何の確認もしなかったし、俺言ったよな?『見破れたか』ってな。そしてお前は見破れなかった、いや、お前は見破らなかった」

「見破れなかった」とか、「卑怯者」という言葉を使うということは、よく考えればそれは、「その可能性は考えていなかった」ということになる。つまり、考えるのをやめ、見破ろうとしなかったということ。
前世で読んだことのある漫画で、「イカサマを見破れなかった奴が悪い」というような話がある。俺が言ってるのは、まさしくこれだ。
正直、胸糞悪い。こんなこと言ってる俺だって正攻法の方がいいっていうのはわかるし、そう思ってる。
だが、相手が相手であり、そして俺はお世辞にも強いとは言えない。
元々、この勝負は流れるままであれば魔法戦だった。明らかに不利すぎる。神崎に勝つには、勝てる種目で、神崎に不意打ちを仕掛ける他はない。

・・・全部、俺の行為を正当化させるための屁理屈だって言うのも、わかってはいるけども。

それより、今は目の前の奴に集中すべきだ。今までの話術は効いている。もう少し押して、奴を屈服させる。
胸倉を掴む神崎の手を引き剥がし、制服を軽く整える。

「論点を戻すが、はっきり言ってこれらのことを無しにしても、最初っからお前に卑怯だ云々言う権利はないと思うぜ」

「なっ・・・どういうことだ!」

「犯罪者のアジトに潜入して、罠に捕まった。そんな時お前は犯罪者に対して、これと同じく卑怯者って言えるのかよ?」

「っ!?・・・そ、それは・・・」

口ごもる神崎。
理由は言うまでもないだろう。ここで「言える」なんて答えたら、それはただの馬鹿だ。

今回のイカサマは、この例えに出した犯罪者アジトの話とよく似ている。
アジトがゲームそのもの、裏口ルートがルールの抜け穴、そして罠がイカサマ。
裏口や抜け穴が安全だなんて、一体誰が決めた?
裏口にこそ罠がある、そういう可能性だってあるんだ。どっちでも関係ないこのイカサマは、寧ろぬるいはず。

「だ、だけど!それはそれで、これは「これは魔法戦の代わりで、魔法戦と同義なんだぞ。魔法戦の場合でもお前は相手を卑怯者だって言うことができるのか?」・・・ぐっ!」

「わかったか?俺が勝ってお前が負けた。それはもう覆らないんだよ」

歯を噛み締める神崎。
反論してこないところを見ると、これでもう大丈夫か。

さて・・・。

「さて、神崎。この勝負でお前が勝ったらどうするとか、そういう報酬があったが、それは俺にも適用されるよな?その権利を使って1つ俺の話を聞いてもらうぜ」

「話・・・?」

「そう、黙って聞いてろ。俺は今までお前のことは心底どうでもよかったけど、これから改める。お前が嫌いだ」

神崎は、つい最近までは本当にどうでもいいと思ってた。
奴が俺にやってきた仕打ち、それの仕返しをしても意味ないとほうっていた。
だが数日前からその考えは変わっていき、神崎が嫌い思えてきた。
そして今日のこのやりとりで、それがはっきりと嫌いとなった。

それは―――

「理由は2つある。1つはお前を0点だと言った理由でもある、何も考えていないこと。そしてもう1つは―――」

そこで言葉を止める。
しばらく言葉を止め、神崎が注意をしっかりとこちらに向けてきたのを確認して、言葉を再開させる。

「・・・お前、今まで自分が考え行動したこと、その全部が正しいことだったって、そう言えるか?」

「は・・・?」

「どんなことでもいい。他人から指示されたりとか頼まれたりせず、自分自身で決断して、自分で行動したこと。その全てが正しいと思ってるか?」

「・・・当然、言えるに決まってるだろ。自分で選んだ道に後悔するはずがないさ」

「疑ったりは、してないんだな・・・?」

「当たり前だ!・・・それが、どうかしたのかよ?」

やっぱりな・・・。
・・・だから俺は、お前が嫌いになったんだ。
その脳天気な性格のせいで・・・!

「・・・っ!」

「うっ!?」

苛立ってきた俺は、神崎の胸倉を掴み取って引き寄せていた。

「だから、お前が嫌いなんだよ。正しいと言い切れる証拠はどこにある?お前のやってきたことは正しいと言った奴がどこにいる?お前は、なのは達はお前に惚れていると言ったが、アイツらはお前に好きだと言ったのか?好意を持った言動があったのか?」

ああ、イライラする。
疑いも無しに正しいと言えるその脳天気さが、証拠もないのに正しいと思えるその自信が、今の俺にとって苛立ちになってくる。

「疑いも証拠も無しに正しいって言い切れるってのは、お前がそういう理想を浮かべ、ただそれしか見てないだけなんじゃねーのか?」

イライラする。イライラする。

同時に、悲しくなってくる。

疑いも証拠もない自信・・・それはまさに、つい最近までの自分。
――アイツから逃げ回ってた頃の俺と同じ思考じゃんか。

コイツを見てると、その頃の自分にしか見えなくて苛立ってくる。
そもそも、あの影(シャドー)化による暴走が起きたのは、俺があんな理想だけの安い思考を持って現実から目を背けてたからだ。
俺があんな思考じゃなかったら・・・少しでも現実と向き合ってれば・・・もっと早くにアイツのことに気づけて、もっと早くに謝ることだってできてたかも知れないのに・・・!

「何一つ間違いがないなんて、そんなのありえる訳ないだろ。お前は間違いを認めず、現実を見ず、ただ理想の世界を夢見て現実とすり替えてるだけだ」

俺がキレてるのは、目の前の神崎がその同時の思考の俺に見えて腹立たしいから。
少し前の自分を殴りたい、という冗談めいた言葉が存在するが、今の俺はほぼまさにそれだった。
目の前にいる、少し前の自分に近い奴がいて、腹立たしくてぶん殴りたい。
根性を直す直さない以前に、ムカつくから殴りたい。それが心境だった。
けど、殴らない。
殴れば、俺は俺自身を否定することになる。過去にしでかしたことを捨て、罪を捨て、アイツが苦しんできたことを蔑ろにしてしまう。それを無視して殴るほど、俺は堕ちたくない。

「そんな理想(ゆめまぼろし)の世界なんか―――」

殴りたい、殴りたい、殴りたい―――っ!

湧き上がってくる、過去の自分への憎悪が、どんどん俺を蝕んでゆく。
それを抑えようと自ら力むが、それによって固められた、空いた方の拳が、相手を殴ろうと力を溜めているようにしか感じない。

落ち着け・・・これを全部、今ある自由に・・・声にしちまうんだ。そうすれは・・・そうすればいける・・・!
大きく息を吸い込み、相手を殴るかのように力を絞り出し、口を開き、叫ぶ。

「とっとと覚めちまえよっっ!!!」

ただその短い台詞に、全力を注いだ。
そしてすぐ、神崎を突き放す。神崎は今の怒号で硬直してしまったのか、尻餅をついて、そのまま座り込んだ。
途中から冷静さをなくしてたことがあってか、俺の息は荒い。

「・・・今度俺を呼んだ時、覚めたかどうか聞かせろ。・・・以上だ。もういいだろ?じゃあな」

言うだけ言った後、手早く屋上を出る。
とりあえず、優香には1人で帰ってもらって、しばらく落ち着こう。今はそうしたい・・・。





教室で待っていた優香にしばらく1人で落ち着きたいと言って帰ってもらい、俺の席に座ってしばらく。
やっとのことで落ち着いた時には、時刻は5時半を過ぎていた。

「ふぅ・・・そろそろ帰るか」

「む、やっと落ち着いたのか」

「ああ、悪いな」

頭上からの声の主ディアーチェと、他2人にも纏めて謝っとく。コイツらはいつもの場所で神崎とのやりとりを見ていたから理解しているだろうが、それでも俺個人の気分で退屈な思いをさせてしまった。

「気にしてませんよ。キリヲの言ってたことは尤もですし」

「そうそう!」

「まぁ、我の器の広さに感謝するがよいぞ」

・・・ホントに、器が広いな。感情任せになってた俺とは違う。

「ああ、それとだキリヲ。うぬが落ち着いてから聞こうと思うていたのだが、一体どのような小細工を仕掛けたのだ?特に3回目のトスについてだ」

「ああ、それは私も聞こうと思っていました。2回目はわかったのですが、3回目については手段が多いので絞り切れませんでした」

「え、キリってあの時何かやってたの?」

「「レヴィ・・・」」

2人がレヴィに呆れた視線を送る。俺もレヴィに送る。
レヴィがアホの子だというのは承知している。だがイカサマをしたということにすら気づかないのか。

「ああ、わかった。レヴィにもわかるように、最初のイカサマから教えてやる」

「うん、教えてー!」

レヴィがテンションを上げる中、種明かしが始まる。

「シュテルとディアーチェは気づいている通り、俺がイカサマをしたのは2回目と3回目のトスなんだが・・・じゃあレヴィ、コイントスのイカサマをする場合に必要なことってなんだと思う?」

「んっと・・・心眼力!」

「違ぇよ。じゃ、ディアーチェ」

「うむ。出る面を操作することであろう?」

「正解」

そう、面の操作。トスに関係なく、望んだ面に仕上げる技術がこの際必要になる。

「2回目のトスについては言うまでもないよな。消える呪いを使ってインクを消せば、答えは白一択になる」

「うむ、そこまではわかるのだ。問題なのは三度目のキリヲのトスだ。あの時、何を仕込んだのだ?」

「私の見解では、挟んだ後にコピーの才能を使用したのかと。逆向きに複製とかできるのですか?」

逆向き複製か・・・シュテルなりに考えるな・・・。
だけど・・・

「残念だけど不正解。逆向き複製なんてやったことないから。できるかどうかわからないのを試す訳にはいかないだろ?事前に複製して被せるってのは、右手を確認させたことでできなくなっていた。仮にできていたとしても、コイン同士でこすれあう音が出て、それでイカサマがバレる可能性もある」

「では、どのように面の操作をしたのですか?」

「これだよ」

実演として、俺は先程使ったコインを取り出して真上に投げた。そして先程と同様、左手を振るって、取る。

そして、左手を開けてみせる。
左手にコインは、なかった。

「ええっ!?コインがないよ!?」

「なんと!?」

「・・・なるほど。そういうことですか」

レヴィ、ディアーチェが驚く中、シュテルはタネがわかったようだ。

「シュテルはわかったのか?なら、答えてみろよ」

「はい。第3の手で取ったんですね?」

「正解だ」

実はあの時、左手で取るように見せかけて第3の手で取っていた。
第3の手に触れたものには手形がつくが、手そのものは完全な無色透明。物を取らずただ浮遊するのみではバレはしない。
それで、第3の手で取った後コインに指紋を擦り付ける。これで両面黒のコインが完成。右手の確認が行われている間に左手に戻して、準備完了。
あとは、これがバレないように、指紋を消した状態でなげる。神崎はコインを挟んで5秒10秒もしないで見破るはずだから、消していられる限界が来るまでに相手は決定する。
そしてコインについたインクと指紋を、神崎が黒と言えば消去、白と言えば消去せずに手を離せば勝ちとなる。

―――というのを、実演しながらシュテル達に説明した。

「・・・ま、こんな感じだ」

「むぅ・・・第3の手の手形はデメリットとしてとられがちであるからのぅ。気づかなかった」

「どうだ、レヴィ。これでわかったか?」

「うん、よくわからなかった!」

威張って言うことじゃねーよ。

「でも要するに、キリは絶対に勝ってたってことだよね!」

「いや、違うな」

「えー、なんでー?」

「バレる可能性はあったさ。使うコインを別のものにされたり、左手も確認されたりしたらイカサマが使えないか、バレて俺の負けになってたかも知れない」

まあ、コインを替えられるぐらいならまだマシなのかも知れないが、このイカサマでは左手を見られれば一巻の終わりだ。確認されたら、左手にコインが存在しないか第3の手の指紋がついているのがバレる危険が高い。
神崎にとって、この俺用に作ったルールの抜け穴を見破ることが最大の突破口だったと言える。考える奴だったら、多分見抜けてた。

即席ものだったとはいえ、かなり穴があったものだ。

「ふぅ・・・まっ、過ぎた話は長々とするもんじゃないか。帰るぞ」

「あ、りょーかーい」

帰って飯食ったら、もうさっさと寝よう・・・。

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