小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e54.勉強合宿だよ!全員集合!





3日後、つまり勉強合宿初日の早朝。
俺達忌束家は翠屋にいた。ハラオウン家(リンデイ提督不在)と優香もいる。
なぜ翠屋にいるのかって、ここが集合場所なのである。ここからバスを使ってキャンプ場へと移動するんだとか。

「ごめんごめん、お待たせ〜」

今やってきたのははやてだ。八神家は全員参加のようだ。
八神家全員参加。つまり――

「あ、キリヲ・・・その、久し振りだな」

「お、おう・・・」

やや遠慮がちに声をかけてきたリインフォースに、俺もぎこちない返事で返す。
和解したとは言え、罪悪感がなくなる訳がなく、彼女が言った通り再び学校に通うようになってからの約1週間、彼女と会えずにいた。
・・・リインフォースに会いたいというだけで八神家を訪ねるというような度胸、俺にはないんです。ええ。

ともかく、この罪悪感が抜けることはないと思うから、このようなぎこちない雰囲気というか、とにかくそういうのはしばらく続きそうだ。

「アリシアちゃん!」

「アリシア!」

「優芽ちゃん、汀ちゃん!」

・・・おっと、アリシアの友達も来たらしい。
見るのは初めてになるが・・・なんか、アリサやすずかに似たような子達だな。友達3人組というのも、1期の頃のなのは達と似てるし。

あとは・・・バニングス家と月村家か。リムジンで来るだろうな、2人とも。
そう思ってコートのフードを少しだけ摘み上げて道路を見てみると、こちらに来る大型バスが見えた。あれ使って行くのか?というか、アリサとすずかはどうしたんだ?
翠屋の前でバスが止まり、ドアが開く。

「さぁ、乗った乗ったー」

「荷物は下の方に入れてねー」

・・・ああ、先に乗ってたのかお前らは。





荷物を積んで乗車。一部初対面ということで自己紹介を軽くやったあと、特にやることないし、適当な席で寝ることにする。
マテリアルズは持ち込んだポーチの中。アリシアの友達がいるから、あまり外には出れないだろうな。
さて、今バスに乗っているメンバーは、忌束家4人(+マテリアル3人)、士郎さん、桃子さんを除いた高町家3人、リンディ提督を除いたハラオウン家4人、八神家6・・・じゃなくて5人と1匹(リインは子供サイズになってる)、忍さん、すずか、アリサ、優香、優芽、汀。計23人+3・・・多いな。
大丈夫なのか、これ・・・色んな意味でさ。

まあいいや。とにかく俺は寝る。

「キリヲくーん!トランプしよー!」

「わりーけど寝るわー」

後方から優香の声が聞こえたが、振り向かずに軽く手を振ってあしらった。
実を言うと今日まで課題をやってた分、睡眠時間が少ない。今のうちに睡眠を確保しておきたい。断ったのはそういう訳だ。
言ったらすぐに有言実行。後ろの席には誰もいないことを確認してから背もたれを倒し、頭を組んだ手の上に置いてまどろみの中へと落ちた。

―――寝るという返事に対して、何か企んだ笑みを浮かべた子狸に気づかぬまま。





「・・・・・・」

・・・・・・・・・。

「・・・ヲ・・・・・・リヲ・・・」

ん・・・・・・なんか揺れるな・・・。

「キリヲ・・・起きてくれ・・・」

リインフォースの声・・・?
・・・ああ、もう着いたのか・・・?じゃあ起きないとな・・・。

「んぅ・・・ふぁっ・・・」

軽い欠伸をし、目頭を摘んで意識の覚醒をさせる。
そうしてクリアになった視界を開けると。



“超”至近距離に存在する、リインフォースの顔が目の前に。

・・・・・・・・・。





「おおぅっ!?」

「っ」

飛び跳ねそうになったのをギリギリ抑えて、しかし声は出てしまう。
あまりにも近かったためか、俺の反応に驚いたかのようにリインフォースの肩がビクッと僅かに跳ねていた。

「り、リインフォース・・・その、近すぎないか・・・?」

「あ、そ、その・・・すまない」

ホントびっくりしたぞ・・・心臓飛び出るかと思った。
真正面でここまで至近距離になったことなんてなかったからな。一瞬見惚れてた・・・。あの時は顔の横に来ちまってたから別だ。

でも・・・なんでリインフォースがこんなことをした・・・?
リインフォースが退いたのを見計らって体を起こし、視界を巡らせる。すると、笑うのをこらえるはやての姿が目についた。

「おいはやて、お前の仕業だな?」

「プククッ・・・ええリアクションやったでキリヲ君・・・」

からかいやがって・・・。
イラッときた俺は、第3の手をはやての顔へと飛ばし、額にデコピンをくらわせる。

「痛っ!?」

「人をからかってんじゃねーぞ・・・」

立ち上がり、改めて周りを確認すると、バスは停車していて、俺とリインフォースとはやて以外はバスにいなかった。

「あー、悪いなリインフォース。わざわざ起こしてくれて・・・」

「ああ、いいんだ、気にしなくて」

他のみんながすっかりいなくなっているということは、到着してからそこそこ経ってしまっているということ。爆睡していたんだし、起こすのには苦労したことだろう・・・そう思ってリインフォースに謝る。

「ほらほら、いちゃついてないで、さっさと行くよー」

はやてが割り込んできてそんなこと言ってきた。早く行くべきだというのはわかるが、いちゃついたつもりなどないし、このくらいではいちゃついてるとは言わないと思う。

まあはやての言うとおりさっさとバスから降りて、自分の荷物を持ち、キャンプ場へ。
キャンプ場ではもう、テントを張る作業が進んでいた。

「ああ、キリヲ君。やっと起きたんだね」

どうしようか迷っていたら、美由希さんがやってきて声をかけてきた。

「ええ。すんません」

「気にしなくていいよ。よかったらテントを張る作業を手伝ってあげて」

「わかりました」

仕事が与えられたので、行動に移る。
そういや、テントを張るなんて今までやったことないんだけど、大丈夫かな?





難なくテントを張り終え、時刻的にちょうど昼時となったため昼食に。
昼食はキャンプではベタなバーベキュー。あまりにもベタで特に言うこともない。
バーベキューでは定番の肉の取り合い・・・は、体型を気にする女子達によって起きず、談笑を交えながらの昼食となった。

で、今。

「じゃあ、行ってくるねー!」

「おう。気をつけるんだぞなのは。他のみんなもなー!」

『はーい!』

なのはやアリシアら小・中学生とザフィーラ以外の守護騎士がキャンプ場を後にする。現在の彼女らは大体が脚をさらけ出した格好をしている。
どうやら近くに川があるみたいで、これから川遊びに行くらしい。初日はキャンプを楽しむ方向だそうだ。今の彼女らの格好は、事前に水着に着替えた状態で上着を着た状態なのである。
俺?誘われはしたけど断った。川を血染めにしたくないし、何より男1人でその中に入る勇気なんて俺にはない。
ラノベでも持って来ればよかったかなー・・・キャンプ場から去ってゆく女子群を見てそう思ったりする俺。

「キリヲ・・・」

「ん?」

声をかけられて振り向くと、そこにはリインフォースの姿があった。
・・・あれ、お前もアイツらと一緒だと思ってたんだけど。でも服装からして川遊びじゃなさそうだな。

「どうした?」

「いや・・・美由希さんから聞いたのだが、散歩コースというのがあるらしいんだ。よかったら・・・そ、その、一緒に行かない、か・・・?」

俯いたり、顔を横に逸らしたりしながら遠慮がちに誘ってきた。
その時のリインフォースがかわいいと思ったのは内緒だ。
つり目とか顔立ちで『綺麗』とか『かっこいい』という印象だから、彼女がこういう仕草をすると余計にかわいく見えてるんだよなぁ。
話を戻そう。一緒に散歩しないかって話だったな。
さっきまで暇だったし、リインフォースと一緒にいられるっていう状況はむしろ歓迎したい。なら、答えは1つ。

「ああ、いいぞ」

「そうか。では、行くとしよう」

あ、シュテル達も連れて行こうかな?アリシアの友達がいないから、今が外に出られるチャンスだろうし。
そう思ったらアイツらも同じ考えだったのか、レヴィが念話をかけてきた。

(あ、キリ!僕達も行って――ふみゅっ!?)

(レヴィ、私達はここで大人しくしておくべきです)

(キリヲ、我らのことは気にすることはないぞ。そやつと共に歩いておれ)

あれ・・・なんか気を使われた・・・?まぁ、そういうことなら・・・。
シュテルらがコートから出て行くのを横目に見てから、俺もリインフォースの先導でキャンプ場を一時後にした。





歩く。
まあ、それはいい。適度な木漏れ日がある森林の中、砂利で舗装された道を歩く。肌に感じる気温は結構快適だし、リインフォースのような美人と二人きりで歩く。これ以上ないほどの条件だろう。
・・・だけど、さ。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

歩き始めてからはや10分・・・ここまでずっと無言ってのはどうかと思う。

最初の内はまあ、景色に見とれていたとか、そういう風に言い訳はできる。けど、それが10分も続く訳がない。
会話の内容が大して思いつかないから、リインフォースから話振ってくれないかなー、なんて思って黙ってた結果がこれだよ。
いかんな・・・このままだと黙ったまま散歩が終わる可能性がある。それは避けた方がいい。
話題・・・何か話題は・・・。

景色のことを言う?

だめだ。その話題は最初辺りで使うべきだった。今更言うのはあまりに苦しい。
どうする・・・?どうすればいい・・・?いかん、ある意味かなりのピンチだ・・・。
・・・そういや、リインフォースはどうしてるんだ・・・?右斜め後ろを歩いているはずだが、後ろを向くことのめんどくささと、それ以上に無駄に存在する罪悪感で歩いてから目を合わせようとしていない。

チラッと、リインフォースを見てみる。
すぐ戻す。
・・・俺と同じように、俺から視線を逸らすようにしてた。

・・・・・・。

もう一度、チラッと見てみる。
すぐ戻す。
問題なし・・・。

・・・・・・。

・・・チラッ。

「「あっ」」

目が合った。
一瞬、時が止まったかのような錯覚を覚えた後、慌てて視線を顔ごと逸らす。



―――ベタだよっ!

よく考えたらこの展開、初デートで緊張してるカップルの典型例だよ!あまりにも典型的すぎて、言ってる自分で否定ができないよ!
・・・ええい、落ち着け忌束キリヲ。これはただの偶然なんだ、別に俺とリインフォースはカップルとかなんじゃないんだ。付き合ってなどいないし、これから付き合うこともないんだ、多分。
そりゃあ、優香やすずかのことを考えたとしても、リインフォースが彼女になったとしたら、そりゃ嬉しいよ?でも以前言ったような理由でまず無理だろうし、俺よりいい男なんてごまんといるだろうってのは理解しているつもりだ。
大丈夫だ、落ち着け。俺達の関係は加害者と被害者。緊張感は・・・少しくらいはあった方がいいのかもしれんが、過度に緊張することはない。
よし、とりあえず声をかけよう。いい加減沈黙し続けるのはやめた方がいいだろう。話題はないままだが。

そう思い立ち、振り返ってリインフォースに声をかける。

「なあ・・・」

「あの・・・」





「「・・・あっ」」





声が被った。



どんだけベタなんだよっ!!

ベタだよ!あまりにもベタすぎてもうベッタベタだよ!自分でも何言ってんのかよくわからないよっ!

「あ、いや・・・キリヲ、先にいいぞ・・・?」

「い、いや・・・リインフォースから言えよ。どうせ話題がないまま声をかけたんだし」

「その・・・私もだ」

リインフォースに話を促すと、声をかけた動機が大体俺と同じらしいことを、遠慮がちに言ってきた。
・・・えぇー?

流れる沈黙、立ち竦む俺達。
困った表情を浮かべて俯くリインフォース。
俺は・・・多分微妙な表情をしてる。

何か、話題を・・・いや、この状況で話題振んのは至難の業だぞ・・・。

さらに沈黙が過ぎる。
まずい、もうそろそろ会話を再開しないと本当にまずい気がする。
なんか・・・立ち止まってるのもなんだし、「歩こう」とか、それでいいだろ。「並んで歩こう」って言えば、会話がしやすくなる。うん、これがいい。

でも・・・リインフォースと並んで歩く・・・?
やべぇ、想像するだけでドキドキするじゃねーかっ・・・恋仲じゃねーのに・・・!

緊張が増してきた・・・今俺がどんな表情してるのか一旦確認したい。変な顔してないだろうか?
というか、リインフォースが今何を思ってるのかも気になってきた。・・・反則技(テレパス)を使いたい・・・。

「・・・ふふっ」

思考をあれこれ巡らせていると、いつの間にかリインフォースが笑みを零していたのが見えた。

「・・・どうした?」

「いや、すまない・・・あたふたしているキリヲを見て、つい・・・な」

え、あたふたしていた?俺?
やべぇ・・・恥ずかしいじゃねーか・・・!

「無理に話そうとしても、話は出てこないものだな。だから、まずは歩かないか?できれば、今度は並んで歩きたい」

「お、おう」

・・・俺の言おうとしてたこと、全部言われた・・・。
とにかくまた歩き始め、今度は俺とリインフォースが並立して歩く。

・・・予想していた時より、ドキドキするっ・・・!
これって、このままいったら次に手を繋ぐとか、そういう風に発展するのかな・・・・・・いやいやないない。まずそこまで発展してないんだし。期待しすぎだ俺。
・・・いや、こんな風に否定すると、否定したことが起こるっていうフラグだったりするのか?どうなんだこれ?

「癒されるな。こういった景色は」

「・・・ああ」

緊張感で、癒やしが相殺されてたりするけど。
それでも、和んだ様子の彼女の顔は、とても美しかった。



・・・口に出すことは、恥ずかしいから絶対に嫌だけど。

-56-
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