e56.ギャップってすごい
「んぅ・・・っ」
眠気が覚め、目を開ける。視界に映ったのはテントの屋根と、吊されたポーチ。
「んー・・・・・・」
眠気がまだ残るまま、身体を起こそうとして――失敗。両腕が固定されていて起き上がれず、再び横になった。
確認すると、右腕にすずかが、左腕に優香がしがみついていた。
・・・ああ、そういやそうだったな。
怪談が怖すぎたとかでこの2人がテントの中に入ってきて、それで一緒に寝ることにしたんだっけ。
腕に抱きつかれて、この状態で俺が眠れるのかと思っていたんだが、案外人って眠れるんだな。
いや、でもヤバかったな・・・すずかも優香も十分美人だって言えるし、色々危ない線を渡った気がする。
とにかく、第3の手を利用してなんとか2人の腕から抜け出してようやく起き上がり、テントを出る。
登り始めた朝日を見て伸びをする。
とりあえず女子が起きるまで待ってるか・・・。そう思った俺は、暇つぶしのつもりで辺りを見回し、そして見た。
1人と1匹。恭也さんとザフィーラ。
俺・・・正確にはテントなのか?を背にじっとしている。一体何やってんだ?
気になった俺は、彼らに近づいてみた。近づくと、彼らが何かをブツブツ呟いていた。
耳を傾ける。
「我は守護獣我は守護獣我は守護獣我は守護獣我は守護獣・・・」
「煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散・・・」
なにこれ怖い。
そう言いたかったのだが、2人の原因が大体わかったためツッコまず、俺は黙って隣に並んだ。
「・・・Be cool、Be cool、Be cool、Be cool、Be cool・・・」
さて、2日目。今日から勉強合宿の本格スタートである。
勉強合宿って言っても、ただ夏休みの課題を処理するだけのもの。可能な限り自分で解いていき、わからない時に限り誰かに聞く。
俺は事前に、普通の課題の方は一通りやってきたんだが・・・追加課題がキツい。主に量が。
「うー・・・お姉ちゃん、ここ教えてー」
「はいはいって、これさっき教えたでしょ?ここをこうやるの」
「うーん・・・忍さん、これであってますか?」
「えっと・・・あ、ここ間違ってますね。ここの解き方は、こう」
「キリヲ君、これ教えてやー」
「俺を使うな」
「キリヲ君、私もー!」
「人の話聞いてた?」
アリサやすずかも自分の課題があるため、教えるのは恭也さん、美由希さん、忍さんがついている。なのになぜかはやてが俺に頼んでくるが、多分からかいの一種だろう。優香も便乗してくるからやめてほしい。
「うーん、お母さん、これどうかな?」
「これは、ここをこうすればいいのよ。あと、汀ちゃんは、これはこっちね」
「あっ、本当・・・ありがとうございます」
また、アリシア達も一緒に勉強会を開いてる。小3とは言え、3人を1人で捌くプレシアはすごいと思う。
ちなみに、他のみんなは自由時間となってはいるが、やることがないためこの勉強会を見ている。
「こんな描写、見てても詰まらんやろ!時間飛ばすで!」
誰に言ってんだアンタ。
合宿3日目。
今日も勉強会なのだが、連続的にやっていくと、人間飽きがくる動物である。
そして今、まさに飽きがきた奴がいた。
はやてである。
「なあアリサちゃーん・・・川遊びに行かへん〜?」
「アンタねぇ・・・」
はやてのその声に呆れ顔になったのは、言うまでもなくアリサである。
「そうやって、いつも最終的には遊んでばかりで課題が後回しになるんじゃないのよ。もうちょっと頑張りなさい」
「いや、それでも人間、リフレッシュが必要なんや。癒やしを必要とするんや。私だけじゃなく、なのはちゃん達もバテ始めとるで?」
はやての言うことは確かで、なのは、フェイト、優香、それに小学生組もバテていた。俺もバテ始めている他、ずっとシャーペン握りっぱなしなため握力がヤバい。
アリサが見渡すと、なのは達が希望の眼差しをアリサに収束させていった。
「あー、もう仕方ないわねっ!わかったわよ、一時休憩!」
『やったー!』
・・・なるほど、勉強合宿がただの遊びになる理由はこれか。
というか、本当はバテてないだろお前ら。
「早く着替えて行こ!今度は全員で遊ぼうよ!」
「おいなのは。その全員って、俺も含まれてたりしてんのか?」
「何言ってんのよ、当たり前でしょ?」
なぜアリサが答える。というか、アリサも結構乗り気じゃねーか。
「一昨日俺言ったよな?川を血染めにしたくねぇって。それに俺泳げないし」
「そんなに深いところはなかったよ。足に水つけるくらいなら大丈夫じゃないかな?」
そう答えたのはフェイト。
いや、実際には女子だらけの場所に入るのに抵抗が・・・って、クロノら男子を連れてきゃいいのか。ならいいかな。
その結論に達した俺は、なのは達について行くことにした。
「結構いい場所なんだな」
「ああ、適度に日陰があっていいな。過ごしやすい」
「確かに、これならフェイト達がまた訪れたいと思うのも頷ける」
「うむ」
先に到着した野郎3人と1匹で木陰でゆったりしている。
女子が来ないのは単に、着替えるのに時間がかかってるからだ。
それにしてもホントにいいところだなここ。木々が生い茂って影が多いし、滝があるし、かといって川の流れは急じゃないしあまり深くないし。川遊びには最適だ。
「ところで、キリヲ君」
木陰でまったりしていると、恭也さんが俺に声をかけてきた。
「・・・?なんすか?」
「君って、好きな人とかいるのかい?」
「ブッ!」
吹いた。
「・・・・・・なんすか、いきなり」
「いや、この合宿中に何人か君に好意を抱いてるみたいに見えたからな。君の方はどうなのか気になっただけだ」
すずかと優香のことか。
・・・好きな人、ね・・・
「・・・好きな人が、いない訳ではないです」
「ほう?」
「でも・・・その『好き』はどうも微妙で・・・それに、俺が抱えてる問題とかもあって、正直どうかって思ってまして・・・」
はっきり言って、俺はリインフォースのことが好きだった。
だがそれは、原作での彼女の立場とか、原作及び二次創作での彼女のキャラとか、あと単純に彼女のルックスとか。要するに“アニメキャラ”としての『好き』であって、それが本気の恋愛感情かと言われたら疑問が残る。
だが最近、そんな感情抜きで、リインフォースとのやりとりでドキッとすることがある。
だがそれも、恋愛感情かと聞かれたら・・・正直わからない。
本当に彼女に恋をしている可能性もある。が、俺の場合、彼女に対する『罪悪感』の可能性も存在する。
前世じゃ、死んだ年齢=彼女いない歴の俺。本物の恋愛がなんなのか、それがわからない。
それに加えて俺自身の問題なんてのもあって答えが出せず・・・こんな曖昧な答えになってしまった。
「・・・キリヲ」
黙って聞いていたクロノが、口を開いた。
「君は色々考えているみたいだが、恋愛は考えるだけというのはあまり得策ではないものだと思うぞ。確かに考えるのはいいことだが、恋愛に合理的な考えなんて存在しない。結局は体験していくしかないだろう。それと、相手を想うのはいいが、自分の幸せも考えるべきなんじゃないか?」
「確かにな。君が抱えてる問題というのは俺は知らないけど、彼女がもしその事情を知った上で好きだと言ってくれるのであれば、それは受け入れるべきなんじゃないか」
・・・。・・・なるほど、ね・・・。
それも一理はあるか。
・・・けど
「・・・なんていうか、リア充街道まっしぐらな奴の言ってることに素直に賛同したくない」
「「なんでだ!?」」
なんでって言われても、ねぇ・・・。
「キリヲくーん!」
「あ、主!待ってくださいっ・・・!」
ん、はやてとリインフォースの声。やっと来たか。というか、妙にタイミングがいいな。
「おせーぞ、お前・・・ら・・・・・・」
返事をしようと振り返って、動きを止めた。
そこには確かに、はやてとリインフォースがいた。どちらも水着姿で、上着は少し離れた木の枝にかけてあるのが見えた。2人の後方から、残りのメンバーが歩いてきてるのがわかる。
はやては白いビキニで、フリルとかがないシンプルなものだが、胸が強調されてるように見える・・・が、それはよかった。ぶっちゃけ、この際どうでもよかった。
問題はリインフォースだ。
「き、キリヲ、その・・・あまり見ないで、くれないか・・・?」
リインフォースの水着。
紺の・・・・・・スク水だった。
「・・・グフゥッ!!?」
強烈なボディーブローを入れられたような錯覚を受け、慌ててリインフォースに背を向け、口元を抑える。
り、リインフォースのスク水・・・なんだあの威力は!?いかん、思い出すだけで息が荒くなる・・・!
だ、大体なんでリインフォースがスク水着てんだ。多分、水着を選んだのははやてなんだろうが、アイツの場合、胸を強調するような水着を推し進めるはずだ。そう思って心の準備をしたってのに・・・!
ポン、と誰かの手が俺の肩に置かれた。
はやてだった。
「どや?リインフォースのスク水姿。グッと来るやろ?」
この狸娘・・・!
恨みがましくはやてを睨むと、予想通りだったのか余裕の笑みを浮かべ、さらにははやては追撃を仕掛けてきた。
「実を言うとな?リインフォースは3年前は泳げんくて、その時に使った浮き輪を今持ってきとるんよ・・・・・・どうや?」
う・・・浮き輪装備だとぉぉぉぉぉっ!!?
クールなリインフォースが浮き輪・・・いかん、想像するだけで鼻から欲望の液が溢れそうだ・・・!
お、落ち着け俺!己の欲望に身を任せるな!
でも・・・浮き輪をつけたリインフォース・・・・・・かわいいだろうな・・・。
・・・はっ!いかんいかんいかんいかん!何を考えてるんだ俺!煩悩退散、煩悩は消え去れぇぇぇ!!
「き、キリヲ、どうしたんだ?」
「―――ッ!!?」
こ、このタイミングで、りりりリインフォースの顔が目の前に!というか、顔近っ!?
それにリインフォース、前屈みになってるから胸が余計に強調されて・・・あわばばばばばっ・・・!!
「げぱぁっ!?」
「っ!?」
いつの間にか顔が異常に熱くなっていて、それに耐えきれなくなった俺はぶっ倒れた。
「キリヲ!?しっかりしてくれキリヲっ!」
薄れゆく意識の中、慌てて俺に声をかけるリインフォースの顔が見えた。
いや、もう・・・無理・・・。