e5.e5.キャラてんこ盛りって、それなんてご都合主義
そうして、後は原作キャラに遭遇しないようにしていった。
闇の書事件の後、闇の欠片事件は起きたみたいだが、それから海鳴市では何も起きなかった。3ヵ月後に起きるらしかったGOD編が起きたという気配はない。どういうことだ?
で、現在。
俺は聖祥中学1年生。聖祥中は女子校だとかどっかで目にしたことはあるが俺は知らん。
まあメタ発言はいいとして。その辺は二次創作だから。
今日の日付は、中学校生活が始まってから1日後。今日から授業が始まっていく。
制服に着替え(学ランじゃないのは若干残念)朝食も取り、今日の授業で使う教材を入れたカバンを持つ。空いた片手はよくポケットに突っ込んでいる。
玄関で靴を履き、扉を開ける。
そこに、おふくろがやってくる。
笑顔でいくらか口を動かした後、紙を1枚、俺に差し出してきた。
:行ってらっしゃい
「 」
その8文字を見た後に、俺は音のない声を出す。
そして出発した。
人は、適応する動物である。
今までにない環境、問題、困難に直面した場合、それに対する答えを探し、最も効率のよかった自分の答えに納得し、それを答えとして定着させていく。
人間は適応力があり、そして頭が固いという、矛盾した生物だ。
そんなことはないと言う人はいるだろう。
逆に、それがいいと言う人もいるだろう。
俺はおそらく後者だ。その矛盾は受け入れるべきものであり、それが個性になると思ってる。
音の自由を奪われる、無音の呪いを受けた当時の俺は発狂するか、思考が止まるかと思った。
しかしそれから3年と3ヵ月。もう、無音であることが当たり前となっている。
そして適応するために、読唇術を覚えた。会話ができるようにするため、筆談という選択肢を取った。
元から静かな場所が好きだった俺にとってこの呪いは、今となっては呪いではなくなっていた。
中学校生活が始まったのは昨日からだが、実はまだクラスに誰がいるのか1人も把握していない。
忌束キリヲという名で、出席番号が最初の方で座席が端なため尚更だ。
昨日のうちに席替えがされたが、それでも全く見ていない。ちなみに席替え後の座席は真ん中より少し後ろの位置。
なので教室に入って、まだ掲示されているクラス名簿を確認する。
主に調べるのは原作キャラ。
・・・いた。
真っ先に見つけたのはアリサ・バニングス。女子の1番。なんか色々と突っかかってきそう。騒がしい奴は基本的に嫌いだ。
ん、フェイト・T・ハラオウンの文字みっけ。筆談したら、字を丁寧に書いてくれそう。俺から声ならぬ文字をかける気はないが。
・・・ん?
高町・・・なのは、だと・・・・・・?
・・・通称魔王まで居やがった・・・静寂に暮らせるか不安になる・・・。
はやてやすずかの名前はない。はやては会ったことないが、すずかは去年一昨年と連続でクラスメイトであり、よく筆談相手になってもらってた。ゆえに一緒でないのが少し残念だ。
あの転生者・・・神崎拓也の名前はなかった。あいつ、チート能力持ってるクセして俺にネチネチ、しかもせこく突っかかってきてうざったかった。
具体的には死角から声をかけるとか、聞こえないことをいいことに陰口を言いたい放題。
聞こえないからって、よくそんなみみっちいことができるな。
しかもあいつの周りにはムサい取り巻きがいるからそれもウザい。このクラスにだってその取り巻きがいるし。まあ、読唇術で言ってることは筒抜けだし、関わる気もないので適当に泳がせておいてもいいし。
とりあえず、自分の席につく。他の人の席?そんなの知ってどうなる。どうせ、近くに原作キャラなんていないさ。
ちなみに、俺は学校内でも常にコートと右手の革手袋を着けている。学校にもおふくろが事情を説明して許可をもらっている。右手は刺し傷だけ言ってエニグマのアザは言ってないが。
・・・ふう。このクラスで、静寂な日常を過ごせるだろうか?あの転生者(今回は取り巻きだけだが)やらアリサやら魔王やらで、もう不安ばかりだ。まあ、すぐ近くに来るなんて、そんなご都合主義はってぬぉおおおっ!?
揺れた!地震か!?いや違う、左肩が掴まれてる!誰だ、揺らした奴は・・・・・・
・・・・・・・・・。
「 ! !!」
・・・・・・・・・。
・・・なぜアリサが俺の前にいる。しかもなんか言ってきてる。聞こえないから、表情で苛立ってることと荒い口調で言ってることしかわからん。
えーと、ちょっと待って。さっき言ったことを読唇術で読み取るから。
『なんでアンタは!昨日も今日もそこまで無視すんのよ!!』
・・・・・・昨日も?
え、何?昨日、アリサが声をかけてきてたの?
『ちょっと!何か言いなさいよっ!!』
いや、喋れないんだが。
とにかく、会話を成立させるために、筆談用の紙とペンを出さねば。
ポケットからメモ帳とペンを出して、スラスラとって、おま、馬鹿、揺らすな!書けない!
大方無視されていると勘違いしているようだが、俺は書けないと会話ができないという事態。アリサが止まらない限り進展しないぞ・・・。
あ、なのはがアリサを止めてくれた。何だかかなり近くから視界に入ってきたように感じたが、まあ気のせいだろう。
それより、やっとこれで文字を書ける。書き始めたら、『無視すんなー!』とか言ってるようだが、俺の耳には文字通り入らない。
・・・まあ、これだけ書ければ十分か。
俺はペンを置き、メモ帳に書いた内容を目の前の2人に見せた。
:筆談
これを見た瞬間に、アリサの顔が固まった。
次に出来上がったのは申し訳なさそうに引きつる表情。チャンネル[es]なしでアリサの思考がわかった。まあ間違いではないと心の中で言っておこう。
引きつってるアリサとは違い、なのはは俺からメモ帳とペンを受け取って何かを書き、メモ帳を返した。
:耳、聞こえないの?
俺はその下に追記した。
:声も出せない
なのはもすぐに返しを書いた。
:ごめんね。アリサちゃんを無視していた訳じゃないんだね
私は高町なのは。右隣にいたんだけど、気づいてなかったかな?
まさかの隣人だった。
:忌束キリヲ
:じゃあ、キリヲ君でいいかな?私のことはなのはって呼んでね
:わかった
筆談って、やっぱ楽しい。
音のない俺にとっての、唯一無二の会話手段だ。
そこまでなのはと書きあっていたら、メモ帳をアリサにひったくられた。
ひったくったアリサがガリガリと何かを書き、勢いよく書き終えたそれを机に叩くように置く。音は聞こえないが。
:アリサ・バニングスよ。アンタの左斜め前
さっきのは、ごめん
あと、呼び方はアリサでいいから
なんてこった。神よ、俺はアンタに何をした?
・・・フェイトは?・・・・・・一番筆談しやすそうな人物が一番離れていた。今年は厄年か。
:で、なんの用だ
聞きたいことあるならまとめて書け
そう書いた後、アリサとなのはが1つずつ質問を書いた。
:生まれつきなの?あと、いつまでコート着て手袋着けてるのよ
:どこかで会った?
アリサのは、当然このサイレント化についてだな。
なのはの質問は・・・まあ、無理もないな。6歳の時に1度会ったっきり。それでも「会ったかもしれない」と思えるだけでも十分すごい。
適当に答えるか。
:耳と声については、数年前に事故に遭ってからだ。コートと手袋は怪我の古傷を隠すからずっと着ける
なのはの質問については知らん
エニグマやゲス親父のことを言うのは無理があるし、なのはについても事実を教えても特に意味はない。
質問に答えると、どちらも『ごめんね』と書いてきた。アリサのは嫌なことを思い出させたと思っての謝罪、なのはのは変なことを聞いての謝罪だろう。
『おーい、席につけー。授業始めるぞー』
先生がやってきたため、筆談はここで終わりとなった。
授業は退屈だ。俺の場合は、何も聞こえないため余計に退屈である。
授業の内容は黒板に書かれたことをノートに写せばいいので問題ない。第一先生の話は、常に先生がこちらを向き続けるなんてことが有り得ないため読唇術が役に立たない。
しかも今日の授業は全部今日が初めての授業であるがためにミーティングばかり。あまりの退屈さに寝てしまいそうになる。というか、寝た。
途中、なのはから
:音聞こえないんだよね。大丈夫?
そう書かれた紙を渡された。
:読唇術があるから余計なお世話だ
そう返しといた。
今日の授業が終わって放課後。特に残ってやることもない俺はさっさと帰る準備をし、さっさと学校を出る。
午前中はアリサが突っかかってきたが、帰りにまで突っかかってくることはないだろう。
そう思いながら靴を履き、出ようとした時、肩を叩かれた。誰だ。
:久し振りだね
そう書かれた紙を持って、笑顔を向けてくるすずかがそこにいた。
俺はポケットからメモ帳とペンを取り出し、会話を開始する。
:久し振り。何か用か?
:帰ろうとしてるところを見たから、ちょっと声をかけた方がいいかなって
特に他意はないらしい。だがだからといってそうですかで終わるのも心無い気がする。
書く内容を考えていると、すずかに誰かが声をかけていた。誰か、というかはやてだった。
『すずかちゃん、この人は誰なん?友達?』
『友達・・・と言えば友達かな。忌束キリヲって言うの』
友達と言ってくれた(多分)。ちょっと嬉しい。
『で、何書きあってるん?まさか告白?』
『ううん、筆談。キリヲ君、耳が聞こえなくって』
『そうなん?じゃあ・・・』
:八神はやてです。よろしゅうな
何も聞こえないことを知ったようで、自己紹介を紙で書いてきた。
返事を書く。
:忌束キリヲ
特技は読唇術
好きなことはタレの二度付け
『大阪人に喧嘩売っとんのか自分は!!・・・あっ』
やっぱり先に口が動くタイプだったか。さすが大阪弁少女。だから少し苦手だ。
読唇術ができるのと会話ができるのは当然違う。それに読唇術ができると言っても全部読み取ることなんてできない。
はやてもそのことに気づいて、しまったと思ったのか。わざわざさっきのツッコミを紙に書こうとしている。
:読唇術ができると書いたはずだ
あと、タレの二度付けは冗談
:そうなん?よかったぁ
もし本当だったら大阪の常識をみっちりゆっくり全部叩き込もうと思っとったわ
・・・危ないところだった。
さて、はやてとの会話もできたし、去るには頃合いか?
:あと何か俺に用事はあるのか?
:ううん。わざわざごめんね
:たまに俺のクラスに来てくれ。俺の周囲は騒がしそうなやつばかりだから、落ち着いた筆談がしたい
:うん、いいよ。それじゃあね
最後にすずかが書いた文字を見てから、メモ帳をしまって学校を出た。
―side・すずか―
メモ帳を片付けた後キリヲ君はすぐに早足で帰っていった。
5年生から見てきたけど、歩くの早いなぁ。
「話せないのが変わっとるけど、結構いい人やったなー。けど聞くことも話すこともできない生徒がいたなんて初めて知ったでー?」
「はやてちゃん、サイレンスって呼び名、聞いたことある?」
「サイレンス・・・?・・・・・・ああー、あるある。拓也君が一時期しょっちゅう言っとったぁ・・・」
拓也君のことを思い出したのか、少し顔をしかめるはやてちゃん。
そう、一時期拓也君はよくサイレンスという人のことを言っていた。それも悪口ばっかり。つまり陰口。
「え、それを今聞くっちゅうことは・・・キリヲ君がそのサイレンス?」
「うん、そうなんだよ。小学校の時は生徒の多くがそれで呼ぶし、先生も何人かそう呼んでたよ。陰口を言う生徒も結構いたし・・・」
無口(サイレンス)。わかりやすいと言えばそうかもしれないけど、訳あって言葉を発せない、言葉を聞き取れない人をそう呼ぶのは、聞こえなくっても傷つくと思う。
それだけじゃない。さらに心無い人達は、聞こえないからって本人の目の前で悪口を言ったり、キリヲ君にとっての大事な会話の手段であるメモ帳やペンを壊したり・・・キリヲ君はそんな、いわゆる“いじめ”を受けていた。
勿論、私はそれを見て注意してきた。けれどキリヲ君に対するいじめは一向に収まらなかった。
聖祥小学校と中学校の生徒は変わってないから、おそらくいじめはまだ続く。
キリヲ君はそれらを気にした様子を一度も見せたことがない。言葉を発せないからといっても、気にしているなら表情に出るはず。キリヲ君はそのいじめに表情を少しでも変えたことは一度もない。まれにそんなキリヲ君に苛立った子が殴りかかったこともあったけど、キリヲ君はそれを返り討ちにしてしまったりもする。
そんなキリヲ君を、本当にすごいって思う。
だけど・・・
「今年もキリヲ君大丈夫かな・・・少し心配だなぁ・・・・・・」
「・・・・・・ほぅ」
「?」
キリヲ君のこれからを心配してため息をついたら、はやてちゃんがこっちを見ながらにやけていた。
どうしたんだろう?という質問が頭の中でできた時に、はやてちゃんが口を開いた。
「すずかちゃん、ひょっとしてキリヲ君に気があるんか?」
「ち、違うよ!?」
はやてちゃん何言ってるのかな!?
いきなりのそれはホントにびっくりだよ!
「どうかな〜?すずかちゃんの心配のしかたからして、そう思えるんやけどなぁ〜♪」
「違うってばぁ!!」
「そうか?でもキリヲ君、目つきがちとキツいけど結構いい感じやったしなぁ・・・じゃ、うちがもらおっかな♪」
「だっ、ダメーーーッ!!」
「なんで?」
はっ!?な、なぜか、つい!?
ええっと、言い訳、言い訳・・・!
「えっと、き、今日初めて会ったのにいきなり付き合うとか早すぎると思うよ!ちゃんと人を選んでから!!」
「はははっ、なんや今日のすずかちゃん、からかうの楽しいなぁ」
「もーーーーーっ!!」
付き合っとるやろ。
付き合ってないよ!
じゃあキリヲ君の好きなものは?
甘いものとライトノベルと静かな場所!
やけに詳しいなぁ、やっぱ付き合っとるんやろ。
いい加減にしてーーー!!
このやり取りは、なのはちゃん達が来るまでの少しの間続けられました。
いくつか地雷踏みました・・・。
私、少し涙目です・・・。
―side・out―