小説『魔法少女リリカルなのは―ドクロを持つ転生者―』
作者:暁楓()

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e58.再戦・・・夢幻の剣





TELボタンを押し、携帯を耳に当てる。
トゥルルルル、トゥルルルルと、呼び出し音が鼓膜を揺らす。
3回目が終わり、4度目の呼び出し音に入った直後に、電話がかかった。

『もしもし、キリヲ君、どうしたんやー?』

はやての声が聞こえた。

「ああ、はやて、今近くにシグナムはいるか?いるなら代わってくれ」

『ん、いるけどなんで・・・まさかキリヲ君「お前の考えてるようなしょーもないことじゃないから。さっさと代われ」・・・ぶー、つまらへんのー』

何がつまらないだ。

しばらく音が出てこない携帯を持ち続けていると、携帯からの声がシグナムのものに変わった。

『私だ。キリヲ、何か用か?』

「ああ・・・」

シグナムに要件を伝えようとして、急に口ごもる。
いかん、別に告る訳じゃないってのに緊張してきた。
なかなか言い出せない俺にシグナムの少し苛立った声が届いてきたのは、そう長くない話だった。

『・・・どうした?』

「あ、ああ、すまん・・・・・・シグナム」

謝り、すぐに決意を固める。

そして俺は



「俺と模擬戦しないか?」



宣戦布告をした。





―side・シグナム―


本局の訓練施設の一角を借り、私と忌束が対峙する。互いに防護服を纏い、準備は整っている。
高い位置からは窓越しに、主はやてやヴィータ達がこちらを見守っている。

忌束からの突然の誘いに少し唖然としたが、聞けば新たなデバイスの試験運用に協力してほしいということだった。
新たなデバイスとは、忌束の右肩近くを浮遊する、黒いクリスタル状のあれだろう。コアだけのようだが、その状態で模擬戦ということは、あれは武器型ではなく、補助・制御を軸としたデバイスであることが伺える。

「しかし、本当に私でよかったのか?目的が試験運用なのであれば、あまり手加減できない私は適任ではないと思うが・・・」

「手ぇ抜かれてコイツの試験運用は成り立たないだろうからな。コイツが酷く破損しない程度の加減ができりゃそれでいい。・・・それに」

私の質問に忌束はそう答えた後、不適な笑みを浮かべて言葉を続けた。

「2度も負けてんだ。1回ぐらいは勝ちたいもんさ」

「・・・そうか」

その言葉に、私は笑みを零した。
なかなか骨のある奴だ。発想力や戦術展開もいい。まだ粗いが、鍛えれば十分強くなるだろう。
そんな奴が私に協力を申し出ているのなら、断る訳にもいかんな。

私は、レヴァンティンを構えた。

「では、遠慮なく行くぞ」

忌束も構えを取る。

「ああ、テストとは言え、勝つ気で行かせてもらうぜ」

『2人とも、用意はええかー?』

私と忌束の間にモニターが展開され、主はやての声がかかる。

「いいぜ」

「いつでも」

『ほんなら、シグナム対キリヲ君の模擬戦・・・



開始っ!』

「っ!」

試合開始の合図と共に、忌束に向かって駆け出した。
忌束は最初の時のような動揺の気配はなく、構えたまま動かない。
すでに何か仕掛けているのか・・・?・・・だが、例え何かしらの罠が仕掛けられていようとも・・・!

叩き斬るっ!!

「はあっ!!」

忌束に向け、レヴァンティンを振り下ろす。
振り下ろされたレヴァンティンは、動かない忌束を両断した。

「っ!?」

しかし、私は異変に気づいた。

斬った感触が一切ない・・・!

見ると、両断された忌束は霧のようになって、やがて消えてしまった。

―――幻術魔法か!

すぐに周囲を見回す。忌束の姿はどこにも見えない。


―――タンッ


「っ!!」

足音が聞こえた、真後ろを振り向きざまに斬る。
見えたのは、黒い影が霧となっていく姿。

「これも違う――」


―――キィンッ


「―――っ!?」

魔法陣の展開音が聞こえ、振り向く。
振り向いた先・・・灰色の魔法陣から現れた刃が、私の腹を貫いた。

「がっ――!?」

腹部に鋭い痛みが走る。
見ると確かに、刃は私の腹を貫き、血がしたっていた。


―――キィンッ、キィンッ


魔法陣の展開音が、両側から聞こえた。
直後私の両腕に数本の針のように細い刃が突き刺さり、鋭い痛みが入った。

「ぐうぅっ!」

これも・・・幻術なのか・・・!?
幻術であれば、動けるはず――だが、身体が動かせない。刺された部分が固定されたかのように動かなくなっている。
一体・・・どういう仕掛けになっている・・・!?

目の前に、黒い影が現れた。
忌束だ。
身体を回転させ、拳を固めた右腕を振るう――裏拳を叩き込もうとしていた。

―――やむを得ない。

「レヴァンティン、フルドライブッ!!」

魔力を解放。一瞬吹き出る膨大な魔力が、忌束や刃を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた刃や忌束は、霧となって消滅していく。
そして、

「うおっ!?―――いってぇ〜っ!」

私の後ろで、そんな声が聞こえた。
すぐに動く。
レヴァンティンの刃に炎を纏わせ、素早く後ろにいた忌束の首筋にレヴァンティンを突きつける。
刃を突きつけられた忌束はその場で硬直した。

数秒の間が開いた後、忌束はレヴァンティンが突きつけられた方とは逆の左手を上げた。

「・・・参った。降参だ」

模擬戦の終了が告げられた。


―side・out―





「くっそ、1回ぐらいはうまくいくと思ったんだけどな・・・フルドライブで強引に抜け出すとか・・・」

「ああするしか思いつかなかったんだ。戦術展開はいいものだったぞ」

「そりゃどーも」

模擬戦が終わって、シグナムと共にはやて達がいる観覧部屋へと向かう。
当然ながら武装は解除しており、ゴースト(仮)も浮遊機能を切ってポケットの中である。
・・・これでシグナムには0勝3敗かぁ・・・強くなるにはまだまだ遠いな・・・。

そう思いながら、自動ドアを通って部屋に入る。

「お疲れ様、2人とも」

「シグナム、色々刺されてたけど大丈夫?」

「キリヲ、怪我はなかったか?」

部屋に入ってすぐにはやて、シャマル、リインフォースが声をかけてきた。

「問題ない。あの剣は全て幻術だった」

「俺も、フルドライブで吹っ飛ばされたこと以外なにもされなかったからな」

俺もシグナムも、大丈夫だったと答えると、みんな安心した表情になった。
と、そこではやて達と一緒に観戦していたクロノが俺の前に立った。

「キリヲ、あの幻術は一体なんだ?精神攻撃型の幻術の多くは禁止されてるか、強く規制されている。場合によっては処罰を与えることになりかねないぞ」

仕事熱心だねアンタ。
処罰は受けたくないんで、種明かしでもするか。

「大丈夫だ、理論上ではあれは問題なく使える作りになってるから」

「どういう作りだ?」

「実際に俺が使った幻術は、映像を見せるフェイクシルエットと、痛覚の刺激範囲を錯覚させるペイントリック。この2つだ」

「ペイントリック?」

繰り返すヴィータに俺は頷く。

「仮に殴ったとして、その殴った時に感じた痛みの範囲を広く思わせたり、逆に狭く錯覚させる魔法で、別にこの魔法自体は相手に痛みを感じさせることはないから規制は入ってない。だろ?クロノ」

「まぁ、そもそもその魔法は自分にかけて、痛みを感じなくさせる目的の魔法だからな・・・で、それをどういう風に使うんだ?」

「殴った時の痛みを、それで細く鋭くするのさ。剣に刺されたような細く鋭い刺激を幻術の映像に合わせて叩き込む。そうすれば、擬似的に刺されたのと同じ錯覚を起こすことができる」

「うーん・・・そんな簡単に行くんかなぁ?殴られた痛みを刺された痛みにすり替えるのは・・・」

はやては、いや他も含め、まだ少し納得してないようだ。説明って難しい。
しょうがないので、もうちょっと説明することに。

「はやて」

「ん?なんや―――ひゃっ!?」

はやてが俺の顔を見たのを確認した後素早く、拳を突き出して寸止めする。
はやては突然突き出された拳に驚いた様子で、目をきつく閉じた。

「何すんだてめー!」

「・・・はやて、今お前は目を閉じたんだが、目を閉じたのはなんでだ?」

ヴィータの非難の声を無視して、はやてに問いかける。

「な、なんでって・・・びっくりしたからやないか・・・」

「びっくりしたら必ず目を閉じるのか?違うだろ。正確には、“殴られる痛みを想像して”目を閉じたんだ」

「えっと・・・?」

「今回の魔法はそれに近い感じだ。“剣に刺された”という映像に合わせて殴ることで、“殴られた”痛みを“刺された”痛みと勘違いさせる」

人は簡単に想像しやすい生物だ。想像して、考えが先行するから今のはやてのようなことが起きる。
今までの精神攻撃魔法は、手を加えすぎたんだと俺は思う。必要以上に効果を加え、その結果禁止や制限が施される。だが実際には、想像をしやすい人という相手に対してなら最低限必要な幻影と、それに合わせた多少の刺激を与えてやれば、後は相手が勝手にダメージを受けてくれる・・・これが俺の理論だ。
そしてその理論で出来上がったのがこの魔法――『夢剣』である。

「・・・まっ、この魔法はバレればおしまいの一発芸ものだけどな」

拳を引いて、俺は自嘲するようにそう言った。
タネがバレてしまっては、“剣に刺された”という想像すら簡単に否定されるのだから、その先の“刺された痛み”が想像されなくなる。そうなっては夢剣が成り立たなくなるのが最大の欠点だ。

「あれ、それに幻術って魔力消費が多いんじゃありませんでしたっけ?」

「・・・まあ、それもある」

リインの言う通り、剣の映像のためのフェイクシルエットとか、俺の姿を隠すためのミラージュハイドとか、ペイントリックとかの魔力消費を考えたら・・・夢剣は正直、かなり非効率なものだ。まだまだ改良すべきところがあるのが現状だろう。

「なるほど、お前の理論は大体わかった。が、1つ聞かせてくれ」

「ん?なんだシグナム?」

「あの剣が幻影なのであれば、あの時動くことはできたはず・・・なのに、私の身体は動かせなかった。あれはどういう細工をしたのだ?」

ああ、それもあったな。

「ありゃ、半分現実で半分妄想。迷彩加工された拘束魔法――ミラージュバインドを使って、後はシグナムが動くことができないって勝手に想像したからだ」

バインドのリングに迷彩をかけるっていうのは現実的ではないが、この場合にはそれなりに役に立つ。
現実で剣に刺されて固定されたら、まず人は動けない。幻術でも、その先入観が働けば抵抗力が弱まってくれる。ミラージュバインドはバインドに加工がされてる分拘束力が低めだが、激しく抵抗されなければ結構長持ちする。
刺されたという錯覚をよりリアルにするための俺の考えた結果だった。

「なるほど・・・しかしお前は、魔法を複合して考えることが多いな」

「ふむ・・・キリヲは力や技で押すより、策で相手を封じる色の方が強いようだな」

「その策はえげつなかったり、陰湿なもんが多いし」

「でもタネがバレたらそこまでのものも多い」

言いたい放題だなヴィータにクロノ・・・否定はしないけど。

「ま、称号としては、イカサマギャンブラーとでもなるだろうな」

「それ、自分で言うのもどうかと思うんですけど・・・」

「いいんじゃねーかリイン。本人が認めてんだし」

事実イカサマをした過去があるし。

「しかしキリヲ、そのような戦術を取り入れて、どうするつもりなんだ?」

「ああ、それ私も思った。キリヲならシュテル達がおるやん?」

「どうするって・・・戦術の一部に使えたらって思ってるだけだけど」

リインフォースとはやての問いかけに、俺はそう答えた。
嘘はついてない。元々ゴースト(仮)は当時原作キャラや他の転生者の対策として作り始めたのが最初だ。
神崎の時はギャンブルを持ちかけて、結果勝つことに成功したが、全部が全部ギャンブルで片を付けることなどできないだろう。
だから戦闘になった時、少しでも力の差を埋めるため、この幻術を手に入れた。

俺の予想では、転生者同士での争いが起こるとしたら、それは第3期――StrikerS編に入ってからか、その直前・・・。
それまでに、やれることはやっておかないと・・・。

「・・・キリヲ?」

「・・・ん、ああごめん・・・ありがとなシグナム。コイツの試験に手伝ってくれて」

「ああ、私も面白いものが見れた」

「ん、そや。友達の力にはなってあげな」

「ああ、キリヲ。もしまた何か必要なことがあったなら、その時は私も手伝おう」

「リインも、ユニゾン関係なら手伝うです!シュテル達は後輩ですからね!」

「ん。ありがと」

負けたくない。

今ある幸せを、そして・・・想いが叶わないとしても、彼女との関係をまだ失いたくない。

そのためには・・・俺にできること――勝つために考えることをしていく他はない。

あと、勝つために必要な手札増やしも・・・。

考えて、行動して・・・そして勝つ。勝ってみせる。



そのために・・・あの計画も早く進めないとな・・・。

-60-
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