e59.実はそんな事情もあったり
現在午後2時。今日は、はやてとリインフォース、リインが家に来ていた。
アリシアは友達の家に行き、おふくろは買い物。プレシアは・・・なんと最近翠屋で働き始めた。
リンディ提督の発案で地球出身となり、そして国籍も手に入れたプレシア。おふくろばかりに家計の負担をかけられないということで働き始めたのだ。ただし色々な事情を考慮した結果翠屋に。
完全な余談だが、プレシアが働かせてもらおうとする時に、おふくろも頭下げに行こうとしていたとか。忘れられてそうだが、おふくろと高町夫妻は遠い親戚なのである。
閑話休題。
とりあえず今ここにいるのは、俺、マテリアルズ、はやて、リインフォース、リインの7人。
なんか最近、リインフォースと関わること多いなと思ったりする俺である。
「・・・で、話ってなんだ」
俺がはやてに尋ねる。
今回はやて達が来た理由はまだ、話があるとしか聞いていない。
「いや、前から聞こうとは思っとったんよ。影(シャドー)化事件から落ち着いたらって・・・せやけど、誤解を生むのはどうかなって・・・」
「いいから、さっさと話さぬか、子鴉・・・いや鴉」
「ちょっ、せめて子鴉にしてくれへん!?鴉だけってなんか嫌なんやけど!」
「いいから、早く話してください。無駄な前振りを聞く程の時間なんてないんですよ。ハヤテとは違って」
「そーだそーだ、早く言えー!」
マテリアルズというかシュテル、何気に酷い口振りだな。
しかしそれが効いたのか、はやては無駄に語ることはやめた。
「・・・いや、実はな?4年前の、多分あの時から、リインフォースとユニゾンができなくなってな。その原因を調べてほしいんよ」
・・・ユニゾンができない、か。
あの時というのは間違いなく、俺がエニグマの権利を行使した時のことだ。あの後に何か異常はなかったか、それは俺もそのうち聞こうとは思ってたが・・・。
「実を言うと、ユニゾン機能だけではない。夜天の書も我が主の権限が使えない状態なんだ」
「夜天の書もだと?」
「少し待て鴉娘。では我らが闇を集めんとしていた時、うぬはどうやって魔導書を行使していたのだ?」
ディアーチェの質問に、俺も内心で頷く。
「鴉娘って・・・まあええわ。あの時は、リインフォースの権限で、一時的に使えるようにしておったんよ。でも限定的やし、そうホイホイやれるものやあらへんからな・・・」
「シュベルトクロイツはストレージだからそのまま使える。だから夜天の書につは我が主が権限を行使できる状態に複製し、融合騎はリインが行うようにしている」
リイン誕生には、そういう経緯があったのか・・・。
夜天の書の権限使用不能状態、ね・・・。
しかし原因を探ろうとした時、シュテルがとんでもない発言をした。
「つまりあなたは、実質的に存在意義がないということですか」
「っ・・・」
「シュテルっ!」
シュテルの発言にリインフォースは俯いてしまい、はやてとリインの表情が険しくなる。
こんの馬鹿は・・・。
―――ペシンッ!
「あうっ!?」
シュテルを第3の手で平手打ちした。
真正面から直撃したシュテルはだいぶ吹っ飛び、やがて自分で止まった。シュテルの顔は、墨汁をかけられたかのように黒くなった。
「っ〜〜〜!」
「シュテル、お前しばらく頭冷やしてろ」
「っ・・・・・・はい、申し訳ありませんでした」
痛がっているシュテルに一言、ドスを利かせた声で言う。
そしたら涙目になりながらもシュテルは謝った。
「あ、じゃあ僕氷を持ってくるね?」
誰が物理的に冷やせと言った。
俺は溜め息をついて、未だに俯くリインフォースに向き直る。
「悪い、リインフォース・・・シュテルが馬鹿なこと言って・・・」
「あ・・・いや、いいんだ。融合の機能が失ってる訳ではないから、将達とのユニゾンならできるし・・・何より、我が主と共に生きられるだけでも、私にとって幸せなんだ」
リインフォースはすぐに笑顔に戻ったが・・・その表情と声には、寂しさを感じた。
主と融合できない融合騎・・・その気持ちを全て理解することはできないだろうけど、それがつらく悲しいことだというのは、俺でも想像できた。
「・・・はやてとリインも、悪かったな」
「え?あ、いや、ええよ。シュテルも悪気があった訳やないやろうし。な、リイン?」
「そ、そうです。悪気があったなら、それはリインも怒りますけど」
はやてとリインにも謝ると、2人は慌てた様子でそう返した。急に話を振られて驚いたのか?
「話を進めようぞ。とにかくうぬらは、管制人格が鴉娘と融合できなくなった原因と、魔導書の権限使用不能の原因、この2つについて調べればよいのだな?」
「あ、うん。そんな感じや」
「ちなみに、クロハネ達はどこまで調べたの?」
レヴィの言葉に、はやては下唇に指を当てて少しだけ天井に目を向けた。
「んー、調べたところなら、夜天の書の主が別の人に変わっとるみたいなんや。でもなんでかはさっぱりわからんくて・・・」
主が別の人に・・・?だったらなんで、リインフォースはその主の元に飛ばされないんだ?確か旅をする機能だったか、そんなのがあったはず。
・・・ひょっとして。
「リインフォース、夜天の書の原本は持ってるか?」
「ああ、オリジナルの方は私が持っている」
リインフォースが手をかざすと、虚空から夜天の書が姿を現した。
「借りるぞ」
俺は夜天の書を手に取る。
夜天の書の頁を開いた。古代ベルカ語なんて俺にはわからないし、開いた頁に意味はない。
開いた頁に指をつける。
つけた指からベラベラと身体を紙状にしていき、一部が頁へと入っていく・・・よし、入ることができる。
「ディアーチェ、ついてこい」
「む?おお」
「いってらっしゃーい」
俺とディアーチェは夜天の書の中へと入っていった。
夜天の書の中は、限りない闇のような空間だった。
とにかく果てがない空間の中に、俺とディアーチェがポツリといる。
「で、入ったは良いがどうするのだ?システムを書き換えるのか?」
「いや、生きてるプログラムを書き換えてどうなるかわからんから危ないし、まずプログラムの書き換え自体やらん」
夜天の書にFLATで侵入したら普通に夜天の書の内部機構だった、まあそれはいい。だが、夜天の書は生きてるプログラムだから、変に弄ってまずいことになるのは避けるべきだろう。
・・・手を顔の目の前にかざす。
「平面操作・・・全魔導の術式を収束。半径3メートル、球体状に整列」
軽く招くようにかざした手を動かし、平面世界に命令する。
すると360度、様々な場所から滅茶苦茶な計算式のように文字が並ぶ魔法の術式が群がってきて、俺達を取り囲む。
生きたプログラムであっても、平面操作は可能のようだ。
「随分群がってきおったな・・・しかし、こんな術式を呼び寄せてどうするのだ?原因を調べるなら、システムを探った方が・・・」
「平面操作。・・・『スターライトブレイカー』の術式を前方1メートルまで移動。それ以外の術式については操作を解除、元あった場所へ帰還」
ディアーチェの言葉を聞かず追加命令を下す。
すると膨大な量の術式は次々とこの場から去っていく。
そして、俺の目の前には・・・
スターライトブレイカーの術式は、なかった。
「・・・どういうことだ?平面操作は可能であるのにも関わらず、なぜシュテルのルシフェリオンブレイカーの元になった魔導の術式が来ない?」
「・・・やはりな」
「?どういうことだキリヲ?」
ディアーチェの質問にはやはり答えず、俺は片手でディアーチェの身体を包む。
「戻るぞ。理由は外で話す」
また平面の姿となり、ここから出た。
夜天の書から出て、俺とディアーチェの身体が立体に戻る。
「あっ、キリヲ君、どうやった?」
「姉様について、何かわかったですか?」
「・・・ああ、多分わかった。これから話す」
ソファに座り、俺は話を始めた。
「リインフォース・・・俺がドクロに願った時の願いの内容、そのまま覚えてるか?」
「・・・ああ、勿論だ・・・・・・『リインフォースを呪いから解放しろ。改ざんされたプログラムを、元の夜天の魔導書の姿に戻せ』・・・これで、間違いないはずだ」
リインフォースの言葉に、俺は頷いた。
「ああ・・・そしてドクロは、その願いを忠実に叶えた」
目を閉じ、しばらく間を開ける。
そして目を開き、俺の推測を述べた。
「リインフォース・・・今のお前は、はやての元に辿り着くよりもずっとずっと昔・・・古代ベルカの、闇の書になるよりも前の夜天の書にまで戻ってる」
「え・・・?」
「えっと、キリ、もっとわかりやすく説明してくれない?」
「我もだ。さすがに意味がわからん」
「だから、言ってみりゃリインフォースは、闇の書になる前の夜天の書にまで、“巻き戻された”ってことだ」
「巻き戻された・・・」
俺の言葉に、はやてがはっとしたような表情をとった。
「それって、逆再生?」
俺は頷いた。
「俺の才能は元々、あのドクロがルーツなんだ。自分が振りまいたものと同等かそれ以上の力を使うことぐらい、アイツにとって簡単なはずだ」
「えっと・・・でもでも、どうしてそんなことが言えるのですか?」
「夜天の書に記憶された術式を調べたんだが、その中にスターライトブレイカーの術式が入っていなかった」
「なのはちゃんの魔法・・・?」
「なるほど。私のルシフェリオンブレイカーの元になった魔法が、夜天の書の中にないというのは有り得ない。そういうことですね?」
シュテルの言葉に頷く。
スターライトブレイカーはなのはが作った魔法だ。そのなのはの魔法を、闇の書だった頃の夜天の書は蒐集したため、シュテルにもそれが受け継いでいる。だから、夜天の書がスターライトブレイカーを、なのはやフェイト達の魔法を記録していないという時点で、はやてが持っていた夜天の書とは別物だってことが確定的になっている。
一体どうすれば、夜天の書に戻すのにそうする必要があるのか?それが、俺にはできなかった、夜天の書の状態への逆再生ということになる。
確かに俺は、闇の書になる前の夜天の書に戻せと願った。
俺にとっては、改ざんプログラムを元に戻してほしいというものだったが、ドクロが俺と同じように解釈することはない。極論を言ってしまえばドクロにとって、願いの内容通りにさえなれば、やり方なんて心底どうでもいいんだ。
その結果がこれだ。はやてとのユニゾンをする権利が奪われることとなった。
「あれ、でも・・・それで他の主に認証が変わったって言うんなら、なして旅をする機能が作動せえへんかったんや?」
「死んで存在しない奴の元に、どうやって行くってんだ?」
はやての言葉にそう返して、俺は腕を組んだ。
「存在しない主の元へ行けず宙ぶらりん状態、そして死者が死ぬってことは有り得ないから、もう次の主の元へ向かうことも一生ない・・・リインフォースの旅をする機能ってのは、実質殺されてる」
「・・・そうだったか」
少し寂しそうなリインフォース。
俺は腕を組むのをやめ
「・・・悪かった。俺がもっと気をつけて、ちゃんとした願い方をしてれば、こんなことにならずに・・・はやてと融合することだってできてたかもしれないのに」
謝った。
改ざんされたプログラムだけを元に戻すように言ったりとか、手段はあったはずだった。
ドクロの使用権は俺にあった・・・俺が招いた結果だ。
「謝らなくていい。仕方ないことだ・・・それにさっきも言ったが、私は今が幸せなんだ。今の幸せだけでも・・・私にとっては十分だよ」
「そやで。それに言ってみれば、リインが生まれたのはそのおかげって言えるかななぁ」
「はぅっ、そうです!今も姉様とはやてちゃんの融合が可能だったら、リインは生まれてませ〜ん!キリヲさん!このことで悔やむのはもうやめるです!」
「まあ、貴様のようなちびっこい翼など、誰が進んで求めるものか・・・キリヲに感謝することだな!」
「そうだそうだー!」
「なんですとーっ!?キリヲさんに感謝しますが、私は身体はちっちゃくても翼は立派ですぅーっ!」
「王、レヴィ、それを言っては、今の私達はそれ以下ということになりますよ」
「・・・。・・・なら、そういうことにしとくよ」
いつの間にか、俺は少し呆れたような、そんな笑みを浮かべていた。
リインとマテリアルズのやりとりを見たからか、リインフォースの微笑みを見たからかは、わからない。
はやてが立ち上がった。
「ほんなら、そろそろおいとまにしようかな」
「はい。・・・キリヲ、今日はありがとう」
「特別何かしてやったって訳じゃないと思うけど・・・ま、どういたしまして」
「リイン、帰るよー」
「あ、はいですー!」
帰って行く3人を、俺は玄関で見送ってやった。
3人を見送ってから、俺は自分の部屋でエニグマのドクロを手に取っていた。
時折真上に投げつつも、視点はドクロに固定する。
もうすでに、これだけで5分程時間を使っている。
「・・・キリヲ」
シュテルが声をかけてきた。
「ん?」
「まさかとは思いますが・・・それの権利を使って夜天の書の所有者を書き換えるというのはしませんよね?」
「当たり前だ。同情はしたけど、さすがにコイツを使うことはできない」
夜天の書の主の書き換えは、一時考えていた。
もちろん、エニグマではなくFLATを使っての話だ。しかし、考える途中でやめた。
FLATは平面世界の物体をある程度変えられるのであって、何もかも変えることはできない。仮にできたとしても、操作、入力をするのは俺だ。はやての情報を何一つミスなく組み替えろなんて言われても、無理と言わざるを得ない。変えられたとしても、その変化に夜天の書がどう反応するかわかったもんじゃない。
だから実質上、オリジナルの夜天の書の主をはやてに書き換えるとしたら、エニグマの権利を行使するしかないが、さすがにそれはできない。
ここで願う権利を1つ失うのはリスクが高いし、願いそのもののリスクが非常に大きい。
それに、それで願えば、またアイツを悲しませることにも・・・。
・・・いや、どれも彼女を救わない言い訳になるか。
だが、転生者の件とか、カニバルの件もある。手札はできるだけ多く、温存しておいた方がいい。
「じゃあさ、キリ」
今度はレヴィが話しかけてきた。
「ん?」
「キリはどんな願いを言おうとか、そういうのは考えてるの?」
俺の願いか・・・。
「最後の1つ分は、もうどうするか決めてある」
「ん?最後の1つ?」
「願いに、順番など関係ないのではないか?」
こればかりは、あったりするんだよな。
最後の1つ分は決定済みであることを考えれば、残るストックはあと1個。
だが・・・
俺はドクロを放り投げる。
ドクロは第3の手にキャッチされ、少し離れた場所にある木箱に収められた。
「まっ・・・極論を言えば、コイツが一生使われないのが一番なんだがな」
そして蓋を被せた。